第7回:帰っていいよ
……つっても、ヒマだな。
何もすることがねー。
だったら仕事しろよって感じだけどな。
仕事をしようっていう気になれる冬花はすごい。
雪が好きだからか?
だからか多少の寒さはどうってことないのか?
……んなわけねーか。
それから、数人がカウンターを利用。
何人かの出入りもあった。
月夏はただそれを眺めているだけ。
なんだか罪悪感がつのってきた。
……そろそろやるか。
カウンターにたまっている返却本を取りに行く。
月夏が近づくのに気づいた冬花が振り向いた。
「何?」
「これ、返してくるわ。悪いな、任せちまって」
「あ、うん」
十冊以上積み重なっている本。
その半分を、手に持つ。
ハードカバーばかり。
と、いざ実行という時、横の資料室の扉が開いた。
司書の山村先生が入ってきたのだ。
「雪原さん、岩下くん、当番ありがとね」
「どうも」
頭を下げる二人。
「雪すごいね。二人ともI町から通ってるんじゃなかったっけ?」
「は、はい」
I町は、この高校のあるN市の、隣の隣の隣にある、雪が多いところ。
ここでこんなに降っているなら、向こうはどうなっているやら。
除雪しても、しきれないくらいなんだろうなと月夏は思う。
「その本返却し終わったら帰ってもいいからね」
なんともうれしい話。
「じゃあ当番は?」
「先生がやっとくから。早く帰らないと電車なくなっちゃうよ」
とにっこり笑う。
たしかに、大雪の中じゃ、電車の保障はできない。
除雪が間に合わないからってストップの可能性だってある。
なんていい先生なんだ。
雪国のことわかっているよ。
「ありがとうございます」
立ち上がって礼をいう。
「雪原さん、傘ある? よかったら先生の貸そうか?」
ふいに、山村先生はいう。
冬花が雪でも傘をささないでいるのは、先生も承知だ。
人と違う行動をする生徒の存在は、すぐ目に止まるから。
しかし、冬花はそれを断った。
「じゃあどうするの? 外大雪だよ。バスや電車使うとしても、何分か歩くんでしょ?」
ま、それでも30分は外を歩くことになるな。
冬花もそれはわかっているはずだ。
まったく無茶なやつ。
心配そうな目で冬花を見る山村先生。
しかし、冬花はいう。
「大丈夫ですよ、先生。友だちに入れてもらいますから」
そのとき、月夏の頭に「?」の文字が浮かんだ。 冬花の友だち?
学校に残ってるやつなんかいたっけ?
部活やってるとこでもあんのかな。
「あてがあるなら安心ね。じゃ、岩下くんと本の返却お願いね」
先生はそれだけいうと、冬花と席を交代した。




