表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】~ステータス(笑)の勇者たち~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/75

066 【英雄天国】その18 ~第五のゲーム攻略完了~

 激しい光の奔流と共に、ティオの放った一撃が一条の軌跡を描いて邪神を貫いた。

 光は邪神の巨体を突き抜け、後方の壁へと激突して神殿全体を大きく震わせる。


 やがて光の収束と共に振動が治まると、ティオは二度にわたる特級魔法の反動で、糸が切れたように膝から崩れ落ちた。


「ティオ様っ!」


 背後でサポートをしていたマリアさんが咄嗟に支える。

 俺も焦りを覚えたが、極度の疲労により脱力しているだけで、意識ははっきりとしているようだ。


「……私は大丈夫。それより邪神は!?」


 ティオの叫びに、俺たちの視線が一斉に邪神へと向けられる。

 二度の特級魔法の衝撃で崩れ落ちた瓦礫と、舞い上がる埃によって、その姿は霞んでいた。


 会心の一撃だった。いくら裏ボスとはいえ、致命傷であることは間違いない。

 張り詰めた静寂の中、思わず飲み込んだ自身の唾の音がやけに大きく感じた。

 だが、そんな極限の緊張感を、ある意味でさらに跳ね上げる声が響いた。


「やりましたか!?」


 お馴染み、良くも悪くも一級フラグ建築士のソフィーさんだった。

 討伐の成否が気になるのは痛いほど分かる。だがこの場面で、それは最も言ってはいけない言葉だ。


「ソフィーさんのアホォオオオオオオオオ!!!!!?」

「ソフィーのアホォオオオオオオオオ!!!!!?」


「え!? 何がです!?」


 俺とティオの絶叫が部屋を揺らした。

 ソフィーさんと、邪神の様子を鋭く見つめていたマリアさんが驚きでこちらを向く。


 舞い上がっていた埃が晴れていく。

 そこにいたのは、案の定、胴体に巨大な風穴を開けながらも未だ両の足で立つ邪神の姿だった。

 間違いなく致命傷であるはずの風穴の奥には、ひび割れ、今にも崩れそうな『邪神の像』が覗いている。

 あと一押し。僅か一桁のHPを、削り切ることが出来なかったのだ。


「――マズいっ! 倒しきれてない!? また回復するぞ!!」


 あと一押し、僅か一手で勝負が決まる。

 しかし、その一手が遥かに遠い。


 ティオの特級魔法はすぐには撃てず、神狐(ミコ)は戦闘不能。ソフィーさんとマリアさんは光属性の攻撃手段を持たない。

 走馬灯のように思考が加速する中、邪神が自動回復(リジェネ)(大)を発動させるまでの僅かな時間が間延びして感じられ、思い浮かぶ策が片端から消え失せていく。


 ――駄目だ、間に合わない。


 邪神の口元が、自身の勝利を確信したように邪悪な笑みへと歪む。

 そして、致命傷の胴体に自動回復(リジェネ)(大)が発動し、光り輝いたその一瞬。


 純白のドレスが舞った。


 度重なる猛攻でボロボロに破れた衣装。その合間から覗く肌に血を滲ませながらも、握り込んだ拳は力強く。

 ソフィーさんを庇って吹き飛ばされた、ツバメさんだった。

 黒雷が直撃し、床を砕くほどの一撃を食らって尚、彼女は桁外れの耐久値で戦闘不能の一歩手前で踏みとどまっていたのだ。


 その白い背中に、俺は全てを託して叫んだ。


「胴体の中心――邪神の像を狙えぇえええ!!!」


 声と共にツバメさんが宙に舞う。

 右手を限界まで引き絞り、その拳にありったけの光を込め。


「「「「行けぇええええええ!!!!!」」」」


 ――そして皆の想いを込めて。


「…………………」【ドラゴン戦の二の舞は決してしない。護衛騎士として――友人として最後まで守り切って見せる!!  (`・ω・´)】


 裂帛の気合を受け、この戦いで初めて邪神の表情に驚愕と恐れが混じった。

 そして、その感情ごと打ち砕くように。


「キュアァアア・ナァアアアアアッッックルゥウウウウウウ!!!!!」


 彼女の肉声の叫びと共に、光を纏った一撃が邪神の像を粉々に砕いた。


 その瞬間、邪神は断末魔の叫びをあげ、風化した石像が崩れ去るように塵となって消えていった。

 俺たちはその光景を、呆然と食い入るように見つめる。


「……や、やった……?」


 思わず口から洩れた言葉は、誰のものだったか。

 しかし、間を置かずに鳴り響いたシステムのファンファーレが、これが現実だと教えてくれた。



 【たいこのじゃしん を たおした】


 【200000G を てにいれた】



 システム音声と共に、邪神のいた空間から辺り一面に金貨が降り注ぐ。

 それらは地面へと落ちて甲高い音を響かせると、同時に姿を消した。


 一瞬何事かと考えたが、すぐに思い当たる。

 残りの二人、ソフィーさんとマリアさんの借金をシステムが回収したのだろう。

 これで邪神の討伐、そして借金の返済、全てをクリアしたことになる。


 徐々にその実感が湧いてきた。そして――。



「よっしゃあああ!!!」

「勝ったぁあああ!!!」

「見ましたか!!!」

「やりましたぁ!」

「…………………」【正義は勝ぁつ!!! (∩´∀`)∩】



 皆が皆、死力を振り絞った末の勝利に、歓声が神殿に木霊する。

 ティオは床へとへたり込み、ツバメさんはソフィーさんに肩を貸している。マリアさんは気絶している雷狐(ライコ)に駆け寄り、愛おしそうに抱きかかえていた。

 皆ボロボロだ。あの絶望的な状況から、よく逆転まで持ってこられたものだ。

 本当に、彼女達の底力はゲームシステムすら覆す。

 そのことを改めて思い知らされた。


 勝利に沸く皆の視界の端で、『ピシリ』と何かがひび割れる音がした。

 音の方向へ視線を向けると、女神が囚われていた『神秘封じの水晶』に亀裂が走っていくのが見える。

 そう言えば、そもそも邪神を倒して囚われの女神を助けるのが目的だった。


 邪神を倒した喜びに浸っているのか、それともケチ臭い女神のことなど綺麗さっぱり忘れているのか。彼女達の誰一人としてその様子に気付いていない。

 このままでは、放り出された女神が石畳へ叩きつけられる。そう直感した俺は、急いで水晶を操作して女神の真下へと移動した。


 ひび割れて砕けた水晶から女神が解放され、床へと激突する直前。間一髪で俺は女神を受け止めた。


 ――固い水晶の体で。


「ぐふっ!?」


 落下する勢いのまま、みぞおちに強烈な水晶の一撃を食らった女神から、潰れた蛙のような声が漏れた。

 やべえ。これなら床に落ちた方がマシだったかもしれない。


 その妙な声に、彼女達の視線がようやくこちらへと向く。


「……あ、そういえば女神様を助けるんだっけ」


 ティオから漏れた言葉が、彼女達の記憶の彼方から完全に女神が消え去っていたことを証明していた。

 哀れだ。


 俺は水晶の上でぐったりとしている女神を乗せたまま、彼女達の元へと移動する。

 女神を床へと下ろすと、バッグの中から薬草を取り出して皆に配った。


 薬草自体の回復量はそれほどでもないが、今の彼女達にはそれでも十分すぎるほどありがたかった。

 やがて最低限動けるほどに回復した面々が、わらわらと女神の周りに集まってくる。


 その気配を感じたのか、床で唸っていた女神の意識が戻り、ゆっくりと目が開いた。


「……うう、みぞおちが……みぞおち辺りが痛い。――はっ!?」


 意識が覚醒し、自身の状況を把握した女神は、すぐさま取り繕うように立ち上がると、神々しい光を纏いつつふわりと宙へ浮かび上がった。

 そして慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、俺たちに告げる。――片手でみぞおちを押さえながら。


「――女神の使徒たちよ、よくぞ邪神を倒し……あれ? 太古の邪神? 誰それ? 私知らないんだけど。……あ、コホン。――よくぞこの世界を救ってくれました。貴方たちのおかげで世界に平和が訪れました。この世界の管理者として感謝を述べさせてください。そして貴方たちの功績を称えさせていただきます」


 そう言いながら、天に向かって両手を掲げる女神。

 その大仰な姿を見て、俺たちは小声でヒソヒソと話し始めた。


「ねえ、称えるって何かクリアアイテムくれるのかな?」


「いや、アイテムはくれなかったはず。……確か、邪神を倒した英雄を称える像を建てるとか何とかだった気が……」


「何ですかそれ。100Gといい、世界の危機のわりにケチ臭いですよね」


「…………………」【女神様って実は貧乏なのかな? (;´・ω・)】


「本当に価値観と倫理観がおかしな世界ですよねぇ。管理者があの方だからですかぁ?」


「……シャーッ!」


「痛っ!」


 雷狐(ライコ)を抱きかかえて撫でまわしていたマリアさんが引っかかれた。

 可愛くて心配なのは分かるが、あまりの撫でまわしっぷりに雷狐(ライコ)が無意識に爪を立てたらしい。

 きっとマリアさんは、現実世界でも猫に嫌われるタイプだろう。


 そんな俺たちのやり取りは、地獄耳なのかすっかり女神様に聞こえていたらしく、彼女は顔を赤くしてプルプルと震えていた。

 しかし、その羞恥心を無理やり振り払うように『コホン』と一つ咳ばらいをする。

 掲げた手の先、天から光が降り注ぎ、目の前に一つの像が現れた。

 台座にはこう刻まれている。


『邪神を倒し世界を救った英雄たち』


 そして、そこに立つ四人の英雄像。


 ――着膨れてモコモコなティオの像。


 ――ミニスカートでポーズを決めるソフィーリアの像。


 ――手を引っ掻かれて痛がるマリアメアと、爪を立て牙を剥く雷狐(ライコ)の像。


 そして最後に。


 ――フリフリの魔法少女姿で拳を掲げるツバメの像。


 到底世界を救ったとは見えない、色物たちの姿がそこにはあった。


「…………………」【うおぉおおいっ!!? ちょっと待てぇえええい!!? ∑(゜Д゜;)】


 真っ先に叫んだ(?)のはツバメさんだった。

 そんな彼女の様子に、女神様はキョトンとした顔で首を傾げる。


「……どうかしましたか? いい出来の像だと思うのですが。すでに世界中の町にこの像を建てましたけど?」


「…………………」【称える!? 辱めるの間違いじゃなくて!? (゜Д゜;)】


「……?」


 驚愕するツバメさんを見て、心底訳が分からないという表情を浮かべる女神様。

 そこへ、残りの三人からも一斉に苦情が飛ぶ。


「そうだよ! 何で私の衣装が着膨れモコモコ状態なわけ!? 狼牙の衣装にしてよ、狼牙の衣装に! ポーズをしっかり決めてさ!」


「そうです! 私の像だってそのようなありきたりなポーズではなく、もっとパンチラを攻めた際どいポーズの方が衣装の魅力を引き出せます!」


「私もこのような不仲な姿ではなくぅ、神狐(ミコ)ちゃんと仲良しな場面があったはず――いえ、決して雷狐(ライコ)ちゃんがイヤなわけではありませんよぉ!?」


「マリアさんは、何で彼氏に浮気がバレたみたいな言い訳をしてるんだよ……」


 さすが問題児たち、愛すべきアホどもだ。文句を言うポイントが微妙にズレている。

 女神様はそんな彼女達に、満面の笑みを浮かべながら答えた。


「そう言わないで下さい。良い出来の像ではないですか。特に、中央に立つツバメの体形のフラットなラインが見事に表現されていて――」


「…………………」【表に出ろぉおおお!!! ブッ飛ばしてやらぁあああ!!! (ʘ言ʘ╬)】


 とうとうツバメさんがブチ切れた。

 凄いぞこの女神様。ツバメさんの逆鱗を的確に突いてくる。

 最早、さっきまでの邪神戦よりも殺意が高い。

 全身のオーラを拳に集め、ツバメさんが一歩前へと踏み出した。


「…………………」【章介君、アイツ絶対に邪神だ! ここで討伐してくれる!! ヽ(`Д´#)ノ】


「落ち着けツバメさん! 気持ちは分かるがあれでも女神だ、邪神じゃない!」


 気炎を上げるツバメさんを宥めていると、さらに女神様から追撃が入った。


「どうしたのですか、そんなに頭に血をのぼらせて? 私は褒めているのですよ。『ソロキュア!』の衣装は少女の憧れ。フラットなスタイルの方が衣装が映えますから。あと、私は光の女神ですので、闇属性以外は無効だから無駄ですよ?」


「…………………」【――よろしい、ならば戦争だ。闇属性の衣装で葬ってくれる! (ʘ言ʘ╬)】


 ついに自らの衣装に手をかけ、脱ぎ出そうとし始めた。

 さっきの邪神戦では緊急事態として俺の目の前で着替えたが、あの時はまだ羞恥心があった。しかし今は完全に頭に血が上っているのか、微塵も恥ずかしがる様子がない。

 

……あれ? そういえばさっき水晶の一撃で苦悶の声をあげてたよな? もしかして水晶()って闇属性だったのか? ってことは、床に落ちていればノーダメージだった……?


 そんな下らないことを考えていると、さすがにマズいと思ったのか、皆が慌ててツバメさんを止める。


「ツバメさん落ち着きなって! あれ完全に悪意がないよ、素で言ってる!」


「そうですツバメ! 私個人としては、ブッ飛ばすのを特に止めるつもりもありませんけど!」


「それに女神様を攻撃してぇ、システムがバグったら今までの苦労がパーですよぉ」


「そもそも邪神戦でステッキが破壊されたせいで、セット効果が切れて闇属性(笑)になってるからどの道無理だって!」


「…………………」【クソがぁあああああ!!!? (#°Д°)】


 皆で物理的に抑え込みながら説得するが、ツバメさんから怨嗟の叫びが響き渡った。


 そんなドタバタの中、ふと辺りが暗くなり、上空からスタッフロールが降りてきた。

 エンディングが始まったのだ。


 そして恒例のごとく、転移の際に喪失したアイテムが降ってくる。

 長さが3メートル近い、紐状のものだ。


 怒り狂うツバメさんの頭上に落ちてきたソレを、ティオがキャッチした。


「あ、今度は魔導ケーブルか。転移の際、水晶と魔法陣を繋げてたやつだね」


 手元を見つめながらティオが呟く。

 これでアイテムは5つ目。少しずつだが、帰還のためのアイテムが揃っていく。


 やがて【英雄天国(パラダイス)】がエンディングを迎え、彼女達のゲーム間の移動が可能になった。

 俺は彼女達をドラッグして、拠点となる無人島へと移動させる。


「よし、じゃあ皆。無人島へと帰るぞ」


「了解、よろしく」


「お願いします」


「分かりましたぁ」


「…………………」【……覚えてろよ! (#°Д°)】


 皆の返事を聞きながら、一人ずつ移動させようとマウスを握る。

 ツバメさんだけは、最後まで女神様に捨て台詞を吐いていたが。


 ――と、その前に。俺はあることを思い出し、()()()()()()()をそっとバッグの中へと仕舞い込んだ。


「どうしたの、章介さん?」


 そんな俺の行動に、ティオが声をかけてくる。


「いや、ちょっとな。もう終わったから問題ない。――じゃあ、行くぞ!」


 かくして、長かった4日間にわたる【英雄天国(パラダイス)】攻略が幕を下ろした。



 ――第五のゲーム【英雄天国(パラダイス)】攻略完了。

読んでいただきありがとうございます。


よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。


次回投稿は来週、8月8日(土)夕方以降になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ