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チャット相手は異世界の女の子、転移失敗で俺のPCの中に?  作者: 約谷信太
第一章 出会い編

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007 異世界の女騎士は目で語る

 ティオと初めて出会った日から、すでに九ヵ月が過ぎた。


 季節は八月、夏真っ盛り。テレビでは連日、海や花火、夏祭りといった夏の風物詩を特集している。



 そして――心霊特集。



 はっきり言って、俺はホラー系が苦手だ。

  ティオとの初対面時も絶叫しかけたし、出来れば一生関わりたくないジャンルである。

 だが残念ながら、俺の祈りは届かなかったらしい。


 なぜなら今、モニターの中では、無表情な黒髪の女性が感情のない黒い瞳で、こちらを無言で見つめているからだ。


 肩甲骨まで届く艶やかな黒髪と相まって、その姿はさながら日本人形のようだった。

  夜という時間帯が恐怖を煽り、女性の容姿が整いすぎていることが、かえって不気味さを際立たせている。

 正直、画面からいつ這い出てくるかと戦々恐々としていた。


 どれくらい時間が過ぎたのだろう。一分かもしれないし、一時間だったかもしれない。

 唐突に映し出された幽霊のごとき姿に肝を冷やし、時間の感覚が狂いかけていたその時、救いの声が聞こえた。


『あれ、ツバメさん? 通信機の前で何やってるの?』


 この声は、ティオ。今の俺には神の啓示にも等しい救い。さすが我が友ティオ、愛してる!」


『え、急に何? 頭大丈夫?』


 返ってきたのは辛辣な言葉だった。

 どうやら、あまりの安心感に心の声が漏れていたらしい。

 自分でもテンションがおかしくなっている自覚はあるが、そんなことはどうでもいい。

 今の俺にはティオが女神に見える。


 俺は、黒髪の幽霊(仮)の背後から呆れ顔で覗き込む見慣れた姿に向かって、必死に懇願した。


「頼むティオ! 目の前の幽霊をどうにか除霊してくれ! お前だけが頼りなんだ!」


『……はい?』


 ティオは気の抜けた返事をしながら、俺と幽霊(仮)を交互に見やる。

 数秒ほどで状況を把握した彼女は、軽く頷きながらこちらに冷ややかな視線を向けた。


『章介さん、アホでしょ。この人、幽霊じゃないよ。何言ってんの』


「いや、そんなこと言わずに見てみろよ! 綺麗な黒髪、感情のない瞳、引き込まれそうな美貌に、一切生気の感じられない表情筋! どこからどう見ても日本の幽霊だろ!?」


『それは褒めてるの? 貶してるの? 口説いてるの? それとも怖がってるの? 章介さんは馬鹿なの?そもそもここ、日本じゃなくて異世界なんだけど。仮に出るとすれば私達の世界の幽霊でしょうが。……馬鹿なの? っていうか馬鹿でしょ』


 テンパって口走る俺に、ティオの容赦ないツッコミが飛ぶ。『馬鹿』を三回も言いやがった。

  俺たちの間にオブラートなど存在しないが、少々直球が過ぎる。

 だが、聞いてほしい。俺が味わった恐怖を。


「だってティオ! モニターの電源を入れたらいきなりこの人のドアップだぞ!!?悲鳴を上げても無反応、一言も喋らずにジーッと見つめてくるんだ! 日は暮れてるし、いつもの面子もいないし……俺の恐怖がどれだけか分かるか! ジャパニーズホラーを舐めるなよ!」


『いや、少し落ち着きなよ。そんなに怖かったら電源切ればよかったじゃん。仮に本物だとしても、幽霊ごときで驚きすぎでしょ』


「ふざけんな。お前の馬鹿げたメンタルと一緒にすんな。人間には恐怖を感じる心が備わってるんだ」


『ちょっと待って。今、言外に私のこと『人間のメンタルじゃない』って言った?』


 別に悪く言ったつもりはない。

 事実を述べただけなのだが、言い合いになったおかげで多少の余裕が生まれた。

 俺は改めて、ティオの隣に立つ女性に目を向ける。


 先ほどは顔しか見えなかったが、引きの画面で見れば、彼女はティオより十センチほど背が高い。おそらく170センチはあるだろう。

 そして何より目を引くのは、純白の甲冑を纏い、腰に剣を帯びている点だ。見た目は、日本幽霊の女騎士といったところか。


『そもそもこの人はツバメさんといって、会話と表情が存在しないけどソフィー付の護衛騎士だよ』


「……そうなの? でも、ソフィーさんは頻繁にここに来るけど、彼女の姿は一度も見たことないぞ」


『普段は研究室の扉の前で待機してるからね』


 事情を聞いて、ようやく完全に落ち着きを取り戻した。 和風の顔立ちと沈黙のせいで、テレビの心霊特集と脳内で結びついてしまったらしい。

 だが、動転していたとはいえ初対面の女性を幽霊扱いしたのは失礼極まりない。


 しかも相手はあの無表情だ。喜怒哀楽が見えず、どれほど怒っているのか判別がつかないのが恐ろしい。


「あの……初対面で失礼なことを言ってしまい、本当にすみませんでした」


『…………………』


「普段、知り合いしか映らない場所に突然知らない人がいたので、つい動転してしまい……」


『…………………』


 やべえ、めちゃくちゃ怒っている気がする。

 相槌すら打ってもらえない沈黙に、冷や汗が止まらない。

  どうしようかと必死に考えていると、再びティオの声がした。


『章介さん。ツバメさんも【謝罪は受け取ったし、気にしてないから大丈夫】って言ってるし、いい加減顔を上げなよ』


「……は? 何言ってるんだ? 一言も喋ってなかっただろ?」


『ツバメさんは無口な分、目で語るから。ほら、『目は口ほどに物を言う』って言うでしょ? 目を合わせれば、結構感情豊かだよ?』


 ティオがまた妙なことを言い出した。

  目を見て意思疎通ができるのは熟年夫婦か超能力者くらいだ。

 俺たちは初対面だし、そもそも彼女の瞳にはハイライトもなく、生気すら感じられない。


 とりあえず言われるがままに顔を上げると、ツバメさんが一歩、画面に近づいた。


 しかし、相変わらずの無表情だ。この虚無の瞳から何を読み取れというのか。

  そう毒づきながら、彼女の黒い瞳を見つめ返した、その時――。


『…………………』【大丈夫だよ気にしないで。人生そういうこともあるって( ´∀`)】


「………………めっちゃ目で語ってるぅ!!?」


 え、何その現象!?視線だけで一言一句どころか、顔文字まで幻視したぞ! ?

 ティオが『ほらね?』と言わんばかりの顔をしているが、想定外にもほどがある。

 異世界に来てからの出来事でも、五本の指に入る衝撃だ。


「……えーと、ツバメさん……? もしかして、魔法か何かをお使いで……?」


『…………………』 【あ、自己紹介がまだだったね。私はツバメ=クロディアス。王家直属親衛隊所属でソフィーリア様付護衛だよ( ´∀`)ちなみに魔法じゃないよ。そこまで才能がないから( ノД`)】


「あ、そうですか……。俺は武田章介です……ソフィーリアさんとは、その……仲良くさせていただいてます……」


 怒涛の勢いで語りかけてくる視線に、俺は圧倒されて引き下がる。

  魔法ではないと言い切られたが、これほど不思議な現象なら、いっそ魔法だと言われた方が納得できた。


『ほらね、言った通り賑やかでしょ?』


「……うん、そうだね。信じられないことに」


『…………………』 【私も周りからもう少し落ち着きなって言われてるんだけどねー(〃▽〃)】


『ホント、ツバメさんは賑やかだからね』


 二人は和気藹々と話し(?)始める、俺は少々心の整理が追い付かない。

 ティオの砕けた口調からして、二人は極めて仲が良いようだ。


  つまり、この人も高確率で変人である。


 ふと、彼女がソフィーさんの護衛であることを思い出した。肝心の王女様はどこにいるのだろうか?

 ティオも同じ疑問を抱いたようだ。


『そういえばソフィーはどうしたの? 姿が見えないけど』


『…………………』 【Σ(゜□゜;)】


 ティオの質問に、ツバメさんがハッとした表情(?)を浮かべた。

  もしや、今まで護衛対象を忘れていたのか?

  彼女は少し焦ったように、ここへ来た理由を(目で)語り始めた。


 聞けば、王女様はまた教育をサボって逃走したらしい。

  捜索に当たっていた彼女は、一番心当たりのあるティオの研究室を訪れた。

 ノックをしてもティオが席を外していたため返事がなく、悪いと思いながら失礼して中を見回っていたところ、ぼんやり光る通信用の水晶を発見。

 気になって覗き込んだ瞬間、俺がモニターをつけた……というのが事の真相らしい。


 ツバメさんの方も、突然水晶に映った俺に驚いて思考停止していたとのことだ。

  意識が止まっていたから、あの時は会話も成立しなかったらしい。

 ただただ、無口無表情な美人に怯え続けた俺の独り相撲である。


 というか、今更だが王女様を探しに行った方がいいのではないだろうか?


 そう考えていると、研究室の外から『ひゅぃっ!?』という聞き覚えのある悲鳴が微かに聞こえてきた。

 どうやら逃走中の王女様は、入り口付近で何かあったらしい。

 マリアさんも捜索に加わっているという話なので、おそらく『そういうこと』だろう。

  あの鋼のメンタルの持ち主相手に、壁の厚い研究室の中まで響く悲鳴を上げさせられる人物など、他にいるとは思えない。


 目の前の二人も同じ結論に達したようで、軽く目配せするとツバメさんが退出の準備を始めた。


『…………………』 【じゃあ章介くん、またねー(^_^)/~】


 最後まで一言も発さず、それでいて最高に騒がしく、彼女は去っていった。



 これが、俺と物語を紡いでいく最後の一人、ツバメ=クロディアスとの出会いであった。

読んでいただきありがとうございます。

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