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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第一章 モニター越しの異世界交流記

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006 目は口ほどに、顔文字まで語りすぎる( ´∀`)

 ティオと初めて出会った日から、すでに九ヵ月が過ぎた。

 季節は八月、夏真っ盛り。テレビでは連日、海や花火、夏祭りといった夏の風物詩を特集している。


 そして――心霊特集。


 はっきり言って、俺はホラーが苦手だ。

 ティオとの初対面でも絶叫しかけた俺にとって、それは最も関わりたくないジャンルである。だが残念ながら、神様は俺に安眠を与える気はないらしい。


 なぜなら今、モニターの中では、無表情な黒髪の女性が感情のない瞳で、こちらを無言で見つめているからだ。


 肩甲骨まで届く艶やかな黒髪。日本人形のような整いすぎた容姿。それがかえって不気味さを際立たせ、夜の静寂を恐怖で塗りつぶしていく。いつ画面から這い出してくるかと、俺は戦々恐々としていた。


 どれくらい時間が過ぎたのだろう。一分かもしれないし、一時間だったかもしれない。

 時間の感覚が狂いかけ、死を覚悟したその時。


『あれ、ツバメさん? 通信機の前で何やってるの?』


 この声は、ティオ。今の俺には救済の女神にも等しい。さすが我が友ティオ、愛してる!」


『え、急に何? 頭大丈夫?』


 返ってきたのは辛辣な言葉だった。

 どうやら、あまりの安心感に心の声が漏れていたらしい。

 自分でもテンションがおかしくなっている自覚はあるが、そんなことはどうでもいい。

 今の俺にはティオが光り輝いて見える。


 俺は、黒髪の幽霊(仮)の背後から呆れ顔で覗き込む見慣れた姿に向かって、必死に懇願した。


「頼むティオ! 目の前の幽霊をどうにかしてくれ! お前だけが頼りなんだ!」


『……はい?』


 ティオは気の抜けた声を出し、俺と幽霊(仮)を交互に見やった。

 数秒後、状況を把握した彼女から冷ややかな視線が飛ぶ。


『章介さん、アホでしょ。この人、幽霊じゃないよ。何言ってんの』


「いや、見てみろよ! 綺麗な黒髪、感情のない瞳、引き込まれそうな美貌に、一切生気の感じられない表情筋! どこからどう見てもジャパニーズホラーの主役だろ!?」


『それは褒めてるの? 貶してるの? 口説いてるの? それとも怖がってるの? 章介さんは馬鹿なの? そもそもここ、日本じゃなくて異世界なんだけど。仮に出るとすれば私達の世界の幽霊でしょうが。……馬鹿なの? っていうか馬鹿でしょ』


 テンパって口走る俺に、ティオの容赦ない『馬鹿』の三連打。俺たちの間にオブラートなど存在しないが、少々直球が過ぎる。

 だが、聞いてほしい。俺が味わった恐怖を。


「だってティオ! モニターの電源を入れたらいきなりこの人のドアップだぞ!!? 悲鳴を上げても無反応、一言も喋らずにジーッと見つめてくるんだ! 日は暮れてるし、いつもの面子もいないし……俺の恐怖がどれだけか分かるか! ジャパニーズホラーを舐めるなよ!」


『いや、少し落ち着きなよ。そんなに怖かったら電源切ればよかったじゃん。仮に本物だとしても、幽霊ごときで驚きすぎでしょ』


「ふざけんな。お前の馬鹿げたメンタルと一緒にすんな。人間には恐怖を感じる心が備わってるんだ」


『ちょっと待って。今、言外に私のこと『人外』って言った?』


 別に悪く言ったつもりはない。

 事実を述べただけなのだが、言い合いになったおかげで多少の余裕が生まれた。

 俺は改めて、ティオの隣に立つ女性に目を向ける。


 先ほどは顔しか見えなかったが、引きの画面で見れば、彼女はティオより10センチほど背が高い。おそらく170センチはあるだろう。

 そして何より目を引くのは、純白の甲冑を纏い、腰に剣を帯びている点だ。見た目は、日本幽霊の女騎士といったところか。


『そもそもこの人はツバメさんといって、会話と表情が存在しないけどソフィー付の護衛騎士だよ』


「……護衛? でも、一度も見かけたことないぞ」


『普段は研究室の扉の前で待機してるからね』


 事情を聞き、俺は深く項垂れた。和風の顔立ちと沈黙のせいで、テレビの心霊特集と脳内で結びついてしまったらしい。初対面の女性を幽霊扱いして騒ぎ立てるなんて、失礼にも程がある。

 しかも相手はあの無表情だ。喜怒哀楽が見えず、どれほど怒っているのか判別がつかないのが恐ろしい。


「あの……初対面で失礼なことを言ってしまい、本当にすみませんでした」


『…………………』


「普段、知り合いしか映らない場所に突然知らない人がいたので、つい動転して……」


『…………………』


 沈黙。やはり怒っているんだろうか。 相槌すら打ってもらえない気まずさに冷や汗を流していると、ティオが信じられないことを言い出した。


『章介さん。ツバメさんも【謝罪は受け取ったし、気にしてないから大丈夫】って言ってるし、顔上げなよ』


「……は? 何言ってるんだ? 一言も喋ってないだろ?」


『ツバメさんは無口な分、『目で語る』タイプだから。ほら、『目は口ほどに物を言う』って言うでしょ? 目を合わせれば、結構感情豊かだよ?』


 ティオがまた妙なことを言い出した。目を見て意思疎通ができるのは熟年夫婦か超能力者くらいだ。

 俺たちは初対面だし、そもそも彼女の瞳にはハイライトもなく、生気すら感じられない。


 言われるがままに顔を上げ、ツバメさんの漆黒の瞳を見つめる。

 相変わらずの無表情。この虚無から何を読み取れというのか。……そう思った、次の瞬間だった。


『…………………』【大丈夫だよ気にしないで。人生そういうこともあるって( ´∀`)】


「………………めっちゃ目で語ってるぅ!!?」


 なんだ今の現象!? 視線だけで一言一句、果ては顔文字まで脳内に直接流れ込んできたぞ!?

 ティオが『ほらね?』と言わんばかりの顔をしているが、想定外にもほどがある。

 異世界に来てからの出来事でも、五本の指に入る衝撃だ。


「……ツバメさん、もしかして魔法か何かをお使いで……?」


『…………………』【あ、自己紹介がまだだったね。私はツバメ=クロディアス。第一騎士団兼・王家直属親衛隊所属でソフィーリア様付き護衛だよ( ´∀`) ちなみに魔法じゃないよ、才能ないから( ノД`)】


「あ、そうですか……。俺は武田章介です……ソフィーリアさんとは、その……仲良くさせていただいてます……」


 怒涛の勢いで語りかけてくる視線の情報量に、俺は圧倒される。魔法じゃないなら、もはや超能力の類だろこれ。

 これほど不思議な現象、いっそ魔法だと言われた方が納得できる。


『ほらね、賑やかでしょ?』


『…………………』【私も周りから、もう少し落ち着きなって言われてるんだけどねー(〃▽〃)】


 二人が和気藹々と話し(?)始める。そして俺は悟った。

 ティオの砕けた口調からして、二人は極めて仲が良いようだ。


  ――つまり、この人も高確率で変人である。


 ふと、彼女がソフィーさんの護衛であることを思い出した。肝心の王女様はどこにいるのだろうか?

 ティオも同じ疑問を抱いたようだ。


『そういえばソフィーはどうしたの? 姿が見えないけど』


『…………………』【Σ(゜□゜;)】


 ティオの質問に、ツバメさんがハッとした表情(?)を浮かべた。もしや、今まで護衛対象を忘れていたのだろうか?

 彼女は少し焦ったように、ここへ来た理由を(目で)語り始めた。


 聞けば、王女様はまた教育をサボって逃走したらしい。

 捜索に当たっていた彼女は、一番心当たりのあるティオの研究室を訪れた。

 ノックをしてもティオが席を外していたため返事がなく、悪いと思いながら失礼して中を見回っていたところ、ぼんやり光る通信用の水晶を発見。

 気になって覗き込んだ瞬間、俺がモニターをつけた……というのが事の真相らしい。


 ツバメさんの方も、突然水晶に映った俺に驚いて思考停止していたとのことだ。

  意識が止まっていたから、あの時は会話も成立しなかったらしい。

 ただただ、無口無表情な美人に怯え続けた俺の独り相撲である。


 というか、今更だが王女様を探しに行った方がいいのではないだろうか?



 その時、研究室の外から『ひゅぃっ!?』という聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。

 どうやら逃走中の王女様は、入り口付近で何かあったらしい。

 マリアさんも捜索に加わっているという話なので、おそらく『そういうこと』だろう。

  あの鋼のメンタルの持ち主相手に、壁の厚い研究室の中まで響く悲鳴を上げさせられる人物など、他にいるとは思えない。


 二人も同じ結論に達したようだ。

 ツバメさんは軽く目配せすると、退出の準備を始めた。


『…………………』【じゃあ章介くん、またねー(^_^)/~】


 最後まで一言も発さず、それでいて最高に騒がしく、彼女は去っていった。


 これが、俺と物語を紡いでいく最後の一人、ツバメ=クロディアスとの出会いであった。


 そして、この平和な日常は、ある日、意外な展開を迎えることになる。

読んでいただきありがとうございます。

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