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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

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054 【英雄天国】その6 ~作戦名、親友殴り~

「ほらソフィー、そっち側持って」


「分かってますって。……ちょっと雷狐(ライコ)、マリアの足を引っ叩かないで下さい。気絶してますから」


 水晶()は、病院までの道を先導するようにスイスイと宙を進む。そのすぐ後ろでは、ティオとソフィーさんがマリアさんの両腕を肩に掛け、左右から支えながら歩いていた。

 さらにその後ろからは、マリアさんの装備品扱いである雷狐(ライコ)が、主の足をペシペシと叩きながらついてきている。

 さっきまで唸り続けていたが、彼女の意識がないせいか幾分落ち着いたように見えた。ただ、それでも時々思い出したかのように攻撃を加えている。


 どれだけ嫌われてるんだよ。マリアさんの歓喜っぷりとの温度差で風邪をひきそうだ。


「……それにしてもお前ら、本当にやってくれたな。マリアさんがストッパーにならないと、とんでもないことになるってことがよく分かったよ」


 溜息交じりに苦言をこぼすと、二人が悪びれもなく反応する。


「まあまあ章介さん、悪かったって。でも、やっちゃったものはしょうがないよ。これからどうするか考えよう」


「そうですよ。私たちの今までの経験から言いますと、反省するよりも、軌道修正する方がマシな結果になりますから」


「素直にすごいよお前たち。どんだけ説教され慣れてたら、そこまで堂々としていられるんだ」


 俺の言葉に込められた嫌味を、二人は何でもないような笑顔でスルーしやがった。

 ここまでくると、一周まわって感心してしまう。――二人の図太さが、ではなく。マリアさんの凄さが、だ。


 だが非常に残念なことに、今回はそのマリアさんもこいつら側である。

 俺が何とかしなくてはならない。――非常に、残念だが。


 同時にいくつもの問題を起こされ、どこから手を付けたものやらと頭を悩ませる。

 ……まあ、借金に関しては当てがないわけでもない。

 多分、ティオも同じ考えに至っているから、こんなアホなことを言ってるんだろう。……是非とも、そうであってほしい。


 ただ、そうなると一番の問題はやっぱり『通行証』だよなぁ。

 それをどうにかしないと、最大の目的であるツバメさんとの合流ができない。


 三日前に病院に運ばれたツバメさんが、昨日から町を出たというのは、俺たちがこのゲームに入ったタイミングでPT(パーティ)メンバー四人が揃ったと、システムが判定をしたためだろう。

 ということは、バグで別行動扱いになっているとはいえ、一応はツバメさんも俺たちと同じPTのはずだ。


(……あー。一つ方法を思いついたけど……。ちょっと、これはなあ……)


 さすがにこれを実行するかどうかと考え込んでいると、俺の雰囲気にティオが何か感づいたようだった。


「……ちょっとソフィーごめん。マリア姉を任せるよ」


「え、どうかしましたか? さすがに一人じゃ重いのですけど?」


 マリアさんをソフィーさんに預けると、ティオは水晶()に近づき、そのまま彼女たちから距離を取るように俺を引っ張っていった。

 そして十分に離れると、小声で話しかけてくる。


「ねえ章介さん、もしかしてなんだけど――何か方法を思いついたでしょ? 多分、私たちに言いにくいやつ」


 その言葉に目を見開き、思わずティオの顔を凝視する。

 そんな俺の反応に、ティオはニヤリと笑い『ビンゴ』と呟いた。


「……何で分かった?」


「知り合ってからまだ一年程度だけど、章介さんとはそれなりの付き合いをしてきたつもりだからね。結構分かるもんだよ。私もソフィーに、割とやられるし」


 『俺ってそんなにわかりやすいかな?』と少し肩を落としながらも、やるかどうかは別として言うだけ言ってみるか、と俺はティオに思いついた作戦を打ち明けた。

 話を聞いていたティオは、『ふんふん』と頷きながら腕を組み、少しの間考えこむ。そして――。


「よし。その案でいってみようか」


「本気か? 正直、俺はやりたくはないんだけど……」


 難色を示すが、そんな俺の態度などどこ吹く風で、彼女はニコリと笑う。


「いや、良い手だと思うよ? 運も絡むけど、成功すれば『関所も越えて』、さらに『一気にツバメさんと合流』できる。まさに一石二鳥だよ。それに、マリア姉が気絶してる今がチャンスだ。さすがに私もマリア姉にはやりたくないし、その点ソフィー相手なら、何の躊躇もおきないからね」


「そこは躊躇しろよ」


「大丈夫。お互い、いつものことだし。だから章介さんは最後に私をお願いね。成功・失敗に関わらず、気にしないでいいから。私が許す」


「……本当にやるんだな?」


「もち!」


 ティオは力強く頷くと、ソフィーさんのもとへと戻っていった。

 『やりたくないな……』とぼやきながら、水晶()もその後を追う。


「よし、ソフィー。悪いけど行き先を病院から変更するよ。マリア姉を連れて、一旦町の外に出よう」


「はい? マリアを病院へ連れて行かないのですか? どこへ行くつもりです?」


「町を出てすぐのところ。上手くいけば、関所を越えられるかもしれない案を思いついたから」


「どういうことです?」


 ソフィーさんは頭に疑問符を浮かべながらも、ティオと二人でマリアさんを運び、町の入口へと進んでいく。

 俺はティオだけに聞こえる声量でそっと尋ねた。


「……なあ、この作戦内容、ソフィーさんに教えなくていいのか?」


「……私とソフィーが話しあうと、大抵ろくなことにならないからね。それに章介さんも、ソフィーより私の方がやりやすいでしょ?」


「……正直どっちもどっちなんだが。強いて言うなら……まあ」


「ね?」


「? お二人共。何をコソコソと話しているのですか?」


 さすがにこの距離で内緒話をしていれば、どんなに鈍い人間でも気になるだろう。

 眉を寄せるソフィーさんに、ティオはニヤリと悪い笑みを浮かべながら答えた。


「大丈夫、すぐに分かるから。気にしないで」


「……ティオの『気にしないで』ほど、気になる言葉はそうそうないのですけど。嫌な予感がビンビンします」


 長い付き合いゆえか、その言葉に明らかな警戒を示して顔を歪めるソフィーさん。

 良い勘をしている。まさにその通りだ。

 しかし、そんな話をしている間に、すぐに入口へとたどり着く。


 町から一歩出たところでティオはマリアさんを地面に下ろし、軽く肩を回した。


「さて、と。じゃあ、早速やろうか」


 そう言いながらティオはソフィーさんへと向き直る。ソフィーさんは、王女がしていいとは思えないほどの凄まじいしかめっ面をしていた。


「……で? 何をするのです? 私の第六感が貴方を警戒しろと、最大音量で警報を鳴らしているのですけど」


「まあ、そう言わないでよ。これを見てほしいだけだから。――変っ身っ! 狼ォォォ牙ッ!!」


 ティオが叫びながら完璧なポーズを決める。腰のベルト部分に狼の紋章が浮かんで輝き、全身が虹色の光に包まれた。

 光が収まると、そこには狼をモチーフとしたヒーロー。『仮面サイダー狼牙』に変身したティオが、ニチアサそのものの姿でポーズを決めていた。


 いきなり変身を決めた親友(ティオ)を、目を見開いて見つめるソフィーさん。口から出たセリフは――。


「……急にどうしました? もしかしてついにですか? 薄々感づいていましたが、ついに頭がおかしくなりました?」


「あなた、本当に失礼だね!? 違うよ、ちょっとした理由があるんだって。ほら、あそこ見てみて」


「は? 一体何なのですか?」


 ティオはソフィーさんの背後を指さす。

 その指の先を視線でたどり、ソフィーさんは背後を振り返った。


 ――その瞬間、仮面越しにもティオが『ニヤリ』と笑ったのが分かった。

 ヒーローではなく、完全に怪人側の邪悪な笑みだ。

 ゆっくりと拳を引くと、ソフィーさんの無防備な後頭部めがけて技名を叫ぶ。


「サイダァアアアッ、パァァァンチッィイイイ!!!!!」


「……え? 何かあります? 特に何も見えませんけど……はおッッ!!!?」


 『ゴズンッ』という鈍い音と共に、ソフィーさんが前のめりに吹っ飛び、地面を転がっていく。

 僅かな躊躇すら存在しない、完璧な『痛恨の一撃』だった。一発でHPが『0』になったのがよくわかる。

 普通、もう少し躊躇するものじゃないんだろうか?


 ドン引きしている俺をよそに、ティオは残心のポーズを決め、『変身解除!』と叫んだ。

 再び虹色の光に包まれ、元の『大神志狼(おおがみしろう)』のコスチュームに戻っていく。


「よし! 章介さん、作戦通り!」


「……いや、確かに作戦通りだけどさ。本当に一切の躊躇がなかったな、お前」


「そんなもの、私とソフィーの間にあるわけないでしょ。仮に立場が逆だったとしても、この子も同じだよ。――さて、じゃあ次は私の番だね。じゃあ章介さん、思いっきりやっちゃって!」


 ティオは水晶()に背中を向ける。

 覚悟はできてる、いつでもどうぞ、と言わんばかりの潔さだ。


「……本当に良いんだな?」


「当たり前でしょ。冗談でこんなこと言わないよ。いい加減、覚悟決めなって」


「そうは言っても、好き好んで知り合いの女の子を殴りたいと思えるわけないだろ……。でも、こうなった以上腹をくくるか。……じゃあ、いくぞ?」


「いつでも」


 腕を組みながら堂々と立つティオの背中は、これから殴られる女性のものとは思えない。相変わらず、度胸が人並み外れている。

 最後まで迷いはあったが、その姿を見て俺も覚悟を決めた。


 俺は彼女の後頭部に水晶の狙いを定めると、思いっきり突進する。


「ふぎゃっ!!!」


 さっきの『サイダーパンチ』よりも重い音が辺りに響き、ティオはソフィーさんと同じように地面を一回転、二回転と転がる。起き上がる様子はない。完全に失神していた。


 これでPTメンバー三人とも気絶。すなわち、全滅したことになる。


 直後、辺りに無機質なシステム音声が流れた。



【PTが全滅しました。最後に立ち寄った町の病院に転送します】



(来たっ!)


 俺はすぐさまモニターの電源を落とし、水晶との接続を切って地面に転がる。

 これで水晶は、完全に彼女達の所持アイテム扱いとなるはずだ。


 そのまま一分ほど待ち、再び電源を付けた。

 想像通り、最後に見た町の外の景色から一変し、白で統一された清潔感溢れる一室へと転送されていた。

 三人ともベッドの上で寝かされている。

 ここまでは想定通り。あとは、ここが『どの町か』ということだが……。


 そこまで考えた時、ベッドの上でモゾモゾと動く音がし、ティオとソフィーさんがほぼ同時に目を覚ました。


「……うう……ここは?」


「……あれ? 宿屋の内装、こんなでしたっけ?」


 上半身を起こし、寝ぼけたように辺りを見回す二人。

 そんな二人に俺は声をかける。


「起きたか、二人共。体はどこもおかしくないか? 頭は大丈夫か?」


「……今、サラッと馬鹿にしなかった? ――って、そうだ! どうなった!? 成功した!?」


 ティオが勢いよく飛び起き、水晶()へと詰め寄ってくる。


「いや、まだだ。外の様子を確認する間もなく、お前たちが目を覚ましたからな」


「……起き掛けにどうしました? そんな急に大声上げて――って、思い出しました! ティオ貴方、どういうつもりですか!? 親友をいきなり後ろから襲うなんて、何考えているのですか!?」


 布団を跳ね飛ばすように飛び起きたソフィーさんが、意識を失う直前のことを思い出したようでティオに掴みかかった。


「ソフィー、落ち着きなって。これにはちゃんとした理由があるから」


「何ですか、その理由ってのは! 下らない理由だったら、私の左が貴方のこめかみを打ち抜きますよ!?」


 バイオレンスなことを叫びながら、ティオの襟首をつかんでガックンガックンと揺さぶる。

 出会った当初のお淑やかさは、もはや見る影すら存在していなかった。

 まあ、これが彼女の生来の素なんだろうけど。

 しかし、このままではティオもまともに喋れないし、一向に話が進まないので仲裁に入ることにする。


「落ち着いてくれソフィーさん! 俺が思いついた策をティオが実行しただけなんだ。こいつも悪気があったわけじゃ――ないとも言い切れないけど、一旦話を聞いてくれ!」


 軽い興奮状態だったソフィーさんだが、何とか俺の言葉が届いたようで、ティオから手を離してこちらを向いてくれた。


「……章介さんの策、ですか? 一体、何の話で……?」


「あくまで上手くいっていれば、の話だけど……。取り敢えず、外の様子を見てみれば分かるはずだ」


 疑問符を浮かべるソフィーさんを促し、ティオと三人で病室の窓へと近付き、外の景色を眺めた。

 すると、そこから見えたのは――。


「え!? ここ、どこですか!? あそこに見えるの、海ですよね?」


「っ! 章介さん、これって!」


「ああ、間違いない。ここは第八の町だ。作戦成功だ!」


 目を白黒させ、窓の外の景色にくぎ付けになっているソフィーさんをよそに、俺とティオは作戦が大成功したことを喜び合っていた。

 しかし、俺たちと違って事情を知らないソフィーさんが、すぐにこちらへと視線を向けてくる。


「……これは一体どういうことですか? どうやって一気に第八の町まで飛んできたのですか? それに関所の問題だって」


 いきなり町を三つも飛び越えてきた事実に、ソフィーさんが不思議そうな顔をする。

 まあ元々説明する気だったが、俺の立てた作戦は至極簡単なことだ。


「別に難しい事じゃないよ。やったことは単純、『全滅ワープ』だ」


「全滅ワープ? それってPTが全滅すると病院に転送されるシステムのことですか? ……でもあれって確か、最後に立ち寄った町の病院に転送されるのではありませんでしたか? この町には一度も来たことがないではないですか」


 ソフィーさんが当然の疑問を口にする。

 言っていることはその通り。俺たちはこの町に来たことがない。だから本来であれば、俺たちが最後に立ち寄った町、『第五の町』の病院に転送されるはずだった。

 だが、俺たちは一つだけ、通常の状態から外れていることがある。

 それは――。


「そう、俺たちはこの町に来たことがない。――でも、バグで別行動をとっているとはいえ、俺たちとツバメさんはシステム的には()()()()()()だ。そして『全滅ワープ』は、PTが最後に立ち寄った病院に転送される。つまり、俺たちが町の外で全滅した時、ツバメさんはこの町の中にいたことになる。そこに関しては一か八かの賭けだったけど、どうやら上手くいったみたいだ」


「つまりだよ。私たちは『通行証』の必要な関所を飛び越して、ツバメさんのいる町まで一気に飛んだってわけだ。まさに一石二鳥の裏技、ってことだね」


 その説明に、ソフィーさんは元々大きかった目をさらに見開く。

 そして俺とティオへ交互に視線を動かすと、深々と溜息を吐き、ティオにジト目を向けた。


「……だったら、最初から説明していただけませんか? そうすれば、私だって別に反対しませんでしたのに」


 もっともな話だ。俺だってそう思っていたが、ティオに止められたからな。


「でもその場合、ソフィーは私を殴って気絶させていたでしょ?」


「当たり前ではないですか。ティオを昏倒させた後、章介さんに気絶させてもらいます。作戦とはいえ、ティオに殴られるのは気分的にイヤです」


「だから黙ってたんだよ。私だってソフィーに殴られるのは普通にムカつくから」


「貴方っ、本っ当に、そういうところですよっ!?」


 このゲームに入ってから何度目になるか分からない、ティオとソフィーさんの取っ組み合いが始まり、病室の床の上をゴロゴロと転がってゆく。もはや止めるまい。


 ……しかし、ソフィーさん。そのスカートで取っ組み合いはやめた方がいい。かなり際どいことになっているぞ?


 だが、これだけ転がっているのに、不思議なことにスカートの中身は全く見えなかった。

 案外、あの時ソフィーさんが言った『王族の嗜み』というのも、全くの見当外れという訳ではなかったようだ。


 ……いや、やっぱりソフィーさんだけの特殊能力だな。

読んでいただきありがとうございます。


よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。


次回投稿は来週、5月16日(土)20時50分になります。

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