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デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第六章 【ロールプレイングゲーム】

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049 【英雄天国】その1 ~全員能力使用不可~

 掴み合いながら地面を転げ回る二人を引き離し、俺たちは町の外へとやってきた。

 何はともあれ、まずは実際に衣装の効果を試さなければならない。

 それに正直なところ、初期資金の100Gでは、最低品質の衣装を一着買うか、いくつかの消耗品を揃えれば底を突く。まずは当面の金策が必要だった。


 まずはチュートリアル代わりにと、町のすぐそばに広がる草原を見渡す。

 すると少し離れた場所に、ウニョウニョと蠢く影が見えた。


「お、いたいた。皆、まずはアイツで自身の能力を確認しよう」


 俺の声に、三人が水晶()の先へ視線を送る。

 そこには、青い半透明で五十センチほどの不定形の塊が、ナメクジのように地面を這っていた。


「……あれは……もしかしてスライム?」


「そうだ。このゲームで最初に戦うことになるモンスターだな。強さはそれほどでもない。この世界の戦闘に慣れるには丁度いい相手だ」


「なるほど。では、一つ試してみたいことがあるのですが、よろしいですか?」


 俺が頷くと、ソフィーさんは『では失礼して』と一歩前へ歩み出た。人差し指をスライムへ向け、凛とした声で一言。


「【初級雷撃(サンダーショット)】!」


 しかし、その指先からは静電気一つ走らず、完全な無反応。

 その後も何度か初級魔法を繰り返したが、一度として発動する気配はない。しばらくして納得したのか、ソフィーさんは一つ頷き、こちらを振り返った。


「やはり章介さんの仰った通り、魔法は全く発動しませんね。まるでティオになったような気分でした」


「ねえ、最後の一言必要だった?」


 ティオの半眼を華麗にスルーしながら、ソフィーが情報を共有する。

 マリアの魔眼で分かってはいたつもりだが、やはり衣装の効果がなければ、本来使えていた魔法すら封じられるようだ。


「ではぁ、私も一つだけぇ」


 次にマリアが小石を拾い上げた。『ふっ!』と鋭く息を吐くと同時に、スライム目掛けて投擲する。

『筋力S』の剛腕から放たれた石は、時速百八十キロ近い速度で空気を切り裂くが、標的に当たった瞬間、石は木端微塵に砕け散る。対するスライムは傷一つ負った様子がない。


「……まさかの無傷、ですかぁ。あのスライムが余程頑丈という訳でないのならぁ、衣装の能力に記載のない道具での攻撃はぁ、武器判定で全て無効化されるようですねぇ」


 冷静に結果を分析するマリアさん。

 だが、残る俺たち三人の目は、恐ろしい怪物を見るかのように見開かれていた。


 いや、今の投擲速度……何? メジャーリーグの中継でも見たことないんだけど?


 そんな視線に感じたのか、マリアさんが不思議そうに俺たちに振り返った。


「? どうかいたしましたかぁ?」


「……どうしたって……マリア姉、今の投擲、何?」


 ティオが声を震わせて問いかける。


「何、と言われましてもぉ、確認のために軽く投げただけですがぁ?」


「軽く!? 軽くって言いました!? あれで!?」


「ええ。当てることだけを意識したのでぇ、その分、力は抑えましたぁ」



「「「…………」」」



 沈黙。

爆釣王(ばくちょうおう)】での海竜釣り上げの怪力で理解していたつもりだったが、彼女への認識がまだ甘かったようだ。

 というか、これが普通のRPGならマリアさん一人でクリアできるんじゃないだろうか?

 つくづく、このゲームが『コスプレRPG』なのが悔やまれる。


 俺たちが呆然としている間に、今の投擲でスライムがこちらの存在に気付いたらしい。じりじりと距離を詰めてくる。

 即座に戦闘態勢を整える。


「こっちに気付いたね。どうする章介さん? 普通に攻撃しちゃっていいの?」


「ああ、そうしてくれ。今ので大体分かっただろうけど、衣装の能力以外では【たたかう】コマンド……つまり、素手での直接攻撃以外は無効化されると思ってくれ」


「了解。それじゃ、一度私たちだけでやってみるから、マリア姉は待機してて。行くよ、ソフィー!」


「ええ、やりましょうか!」


 二人は一気に駆け出すと、合図もなく阿吽の呼吸でスライムの手前で左右へ分かれた。

 俊足のソフィーさんが先に間合いへ入ると、スライムが体を伸ばして鞭のように体当たりを繰り出す。

 それを半歩ずらして回避すると、カウンターの拳を叩き込みながらソフィーさんが叫ぶ。


「ティオッ!」


「はいよっ!」


 反対側から駆け寄ったティオが、すくい上げるような蹴りでスライムを宙へ浮かせる。同時に、ソフィーさんが跳躍した。


「食らいなさいっっ!!!」


 空中で体を捻り、遠心力を乗せた後ろ回し蹴りがスライムの核を貫く。

 文句の付け所のない、完璧なコンビネーションだ。


 吹き飛ばされたスライムは、地面を何度かバウンドしたのち、空気に溶けるように消滅した。後に残されたのは、討伐の証である10G。

 二人はハイタッチを交わしながら戻ってくる。


「どう? 結構やるもんでしょ」


「ああ、見事だった。【ブロート3】や【恐怖の彷徨う館】でも見てはいたけど、二人共動けるもんだな」


「この程度ならどうってことありませんよ」


 素直に褒めると、二人揃ってドヤ顔が返ってきた。少しだけイラッとする顔だった。


 まあしかし、言うだけあって完璧な連携だ。

 ただ、問題もあった。ティオもおそらく分かっているはず。

 やはりゲームの攻略には、それが必須になってくるのは間違いない。


「で、ティオ。今ので分かったと思うが……」


 俺の言葉に、ティオが真面目な顔で引き継ぐ。


「……まあ、そうだよね。素手でもダメージは通るけど、初期モンスターのスライムを一匹倒すのに三発。威力が足りなすぎる。やっぱりゲーム攻略には、衣装の能力が絶対に必要だね」


 スライムのHPは確か『10』。ということは、彼女らの通常攻撃は数値にすると、おそらく『3~4』程度。これでは先へ進むには火力が低すぎる。

 ただ、さらにもう一つ問題が出てくる。それは――。


「なら次は、衣装の能力を使ってみよう。ティオとマリアさんの能力は【魔法】だ。……駄目元で、あそこにいる二体目に使ってみてくれ」


「気持ちは分かるけど、駄目元って言わないでくれる?」


 ティオが口を尖らせながら、ターゲットに向けて指を伸ばした。




「【初級雷撃(サンダーショット)】!」


【しかし まほう を おぼえていない 】




 辺りを静寂が支配した。

 聞こえてくるのは草原を吹き抜ける風の音と、どこからともなく聞こえてきたシステムの音声だけだ。いや、ソフィーさんの噴き出す声も混じっていた。

 ティオはゆっくりと手を下ろし、ジトッとした目で水晶()を見つめる。


「……魔法が発動しないのはいつものことだけど、システムに音声で言われるとイラッとくるね」


「……まあ、ステータスの説明文といい、何となく悪意は感じるよな。じゃあ、次はマリアさん」


「分かりましたぁ」


 マリアさんがティオと入れ替わるように前へ出、両手を翳す。

 そして一呼吸置いて、魔法を唱えた。




「【特級雷撃トールハンマー】」


【 しかし MP が たりない 】




 再び訪れる静寂。やはり、魔法は発動しなかった。


「……マジかよ。衣装の能力が攻略の鍵なのに、二人揃って使用不可ってどんなバグだよ……」


 頭を抱える。

 元々ゲームに存在しない衣装だったとしても、こんなことあるのか?


 唸っていると、視界の隅に何かがちらちらと映った。

 そちらへ視線を向けると、ソフィーさんが笑顔で元気よく手を上げていた。


「どうかした、ソフィーさん?」


「何を言っているんですか。まだ私の衣装の能力を見ていませんよ?」


「……あ」


 そう言えばそうだった。

 正直、ステータスの『メス猿(笑)』というパワーワードに脳を占領され、彼女の衣装の能力を意識から除外していた。

 確かに説明文はアレだったけども、能力自体はまだ試していなかった。


(何々? 衣装の能力は【王女の号令】? 『臣下を呼び出し、一斉攻撃をさせる』?)


 どうやら、召喚系の能力の一つらしい。ゲームには存在しない、ソフィーさんの衣装オリジナルの能力のようだ。

 もしこれが使い物になるのなら、当面の金策は劇的に楽になる。


「でもさぁ、ソフィーでしょ? 嫌な予感しかしないんだよねぇ」


「何言ってるんですか。【王女の号令】ですよ? まさに王女たる私に相応しい能力ではありませんか。まあ見ていなさいティオ。私の華麗なる能力を」


「なぜソフィーリア様はぁ、毎度毎度フラグをお立てになるのでぇ?」


 生温かい目で見守る二人をスルーし、ソフィーさんが威風堂々と足を踏み出した。

 そして片手を突き出し、胸を張って叫ぶ。


「さあ、来なさい臣下たちよ! そして我が敵を打ち倒すのです!」


 その瞬間、ソフィーさんの背後を囲うように、五十以上の召喚魔法陣が浮かび上がった。

 想像以上の数だ。これなら一体一体の攻撃力が低くても、数で押し切れる!

 俺は期待を込めてソフィーさんを見つめた。

 彼女も皆の驚愕の視線を受け、『ほら見なさい』と言わんばかりのドヤ顔を浮かべる。


 やがて光が収まり、ソフィーさんの臣下たる五十もの精鋭の姿が――。




「……は?」




 ソフィーさんが呆けた声を漏らす。

 そこにいたのは、五十匹の――『猿』。



「ぶっふぉっ!!!」


 ティオが盛大に噴き出した。マリアさんも唇を噛み締めて小刻みに震えている。俺の腹筋も限界に近い。

 これはあれか。説明文にあった『メス猿(笑)』の伏線回収か。


「あっはっはっ! 王女は王女でも『猿の惑星』の方!? これってあれでしょ、説明文にあったやつ! メス猿(笑)! ぶわっはっはっはっ!!」


「黙りなさいティオォッッ!!!」


 笑いすぎて膝をつくティオ。呼吸困難一歩手前だ。

 ソフィーさんは般若のような顔で睨みつけながら、ターゲットをティオへと変更しているが、背負っているのは猿の軍団だ。絵面のシュールさが限界突破している。

 だが、どれだけ笑いの神に愛されていようと、攻撃手段であることに変わりはない。

 俺は必死に平静を装い、腹筋に力を込めソフィーさんに語りかけた。


「ソフィーさん、ティオは一旦放っておいて、その能力を試そう。スライムに攻撃指示を出してみてくれるか?」


 震える声を抑えた自分を褒めたい。ソフィーさんは、しぶしぶターゲットを敵へと戻した。


「……章介さんに感謝することですね、ティオ。笑っていられるのも今の内だけです。要は、猿だろうと強ければ正義! では改めて。――行きなさい、我が臣下たちよ!」


 号令と共に、猿たちが一斉にスライムへ飛びかかろうとして――猛ブレーキをかけた。

 そして一目散に、俺たちを避けるように四方八方へ逃げ出すと、勝手に召喚解除されて消えていった。


 その様子に全員が――腹をかかえて笑っていたティオさえ、呆然と固まっていた。

 一体何が、と考えたところで一つのイヤな仮説に辿り着いてしまった。


「……え? 何が起こりました? 何かから逃げるように猿が散っていきましたけど?」


 ソフィーさんが頭にハテナマークを浮かべながら、腕を突き出したポーズで固まっている。

 そんな彼女に、俺は残酷なことを告げる。


「……ソフィーさん。多分、原因はマリアさんだ。ほら、彼女の潜在能力『動物に嫌われる』ってやつ。この面子でパーティーを組んでいる以上、その能力は使用不可だ」



「…………は?」



 信じられないものを見るような視線で水晶を見つめるソフィーさん。

 笑いを堪えて逸らしていた視線を一転、罪悪感から逸らすマリアさん。


 全員の衣装能力が実質封印されるという、前代未聞の状況。どうすんだこれ。

 しばし微動だにせず、全員が立ち尽くす。

 しかしその時、視界の端で何か動くものを捉え、そちらへと意識を向けた。


「――っ!? マリアさん、後ろ!!」


 いつの間にか、先程のスライムが至近距離まで迫っていた。

 スライムはすでに攻撃態勢に入っており、マリアの背中に襲いかかる――。

 だが、マリアさんはノールックで体を捻って紙一重でそれを回避。流れるような動作で裏拳を叩き込んだ。



 ――バチィィンッッ!!



 水面を鉄板で叩いたような衝撃音が響き、スライムは文字通り『爆発四散』した。



「「「…………」」」



 おかしいな? 今、俺の目の錯覚じゃなけりゃ、モニターに三桁近いダメージ数値が浮かんだ気がするんだが?


 ティオとソフィーさんは、再び恐ろしいものを見るような目でマリアさんを見ていた。

 気持ちはわかる。何というか、能力を使っていないのに、能力以上のダメージを叩き出している。


 ……一先ず、方針は決まった。

 システム的には本末転倒だが、しばらくはマリアさんに殴ってもらおう。それが一番効率的な金策だ。

 取り敢えずは、全員の衣装が買えるようになるまで。


 俺たちは、衣装の能力には嫌われ、そして衣装の能力に喧嘩を売るように、【英雄天国(パラダイス)】の旅路へと踏み出したのだった。

読んでいただきありがとうございます。


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