048 第五のゲーム攻略開始 ~ステータス・ハラスメント~
「お前ら、アホかぁあああああ!!!?」
「……やらかした自覚はあるよ」
「……不可抗力って言葉ご存じですか?」
「……本当にぃ、本当に申し開きのしようもございません」
俺の視線の先には、水晶から目を逸らした三人の姿があった。
ティオとソフィーさんの二人は視線を逸らし、一見気まずそうな雰囲気を出しているが、反省の色は薄い。明らかに『説教慣れ』している人間のソレだ。やはり俺でなく、マリアさんでなけりゃ、彼女達を締めるのは難しいだろう。
しかし、その肝心のマリアさんはといえば、顔を赤くして小刻みに震えながら、二人の横で小さくなっている。普段は説教する側の彼女がこうして断罪されているのは、あまりに珍しい光景だった。
俺はしっかり説明したはずだ。
このゲームの攻略方法から、選ぶべき衣装の組み合わせまで。
なのに、俺が会社へ出勤している間に、一体何がどうしてこうなった……。
* * * * *
「それじゃ行くぞ、準備はいいな?」
小屋の前に並ぶ三人に声をかけると、『大丈夫』という力強い返事が返ってきた。
水晶を通してモニターに映る彼女たちの姿は、前作【爆釣王】の時とは違い、こちらへ転移してきた際と同じ『異世界の装束』を纏っている。
今回挑むのはRPGの世界。戦闘が避けられない場所柄、少しでも荒事に対応できる服装を選んでもらったのだ。
ティオは魔導士の服にローブを羽織り、ソフィーは魔法学院の戦闘服に軽装鎧。マリアさんはいつものメイド服姿だ。
損傷していた箇所はマリアさんが自ら縫い合わせたらしく、パッと見では破れていたことすら分からない。相変わらず、彼女の技術には驚かされる。
俺は最後に、食料と傷薬の入ったカバンをティオに手渡し、三人をついに【英雄天国】のゲーム世界へと移動させた。
「うわあ、すご……」
「これは……見事ですね」
「これほどのものはぁ、聖国へ行かないとお目にかかれませんねぇ」
三人が目の前の光景に息を呑む。
俺たちが最初に目にしたのは、【英雄天国】のスタート地点――女神の神殿だ。
白い大理石で造られた神殿内部は汚れ一つなく磨き上げられ、壁一面の彫刻が荘厳な雰囲気を醸し出している。その最奥に鎮座する女神像は、圧倒的な清廉さを放っていた。
興味深そうに辺りを見回す三人。水晶は女神像の前まで彼女たちを誘導した。
すると、どこからともなく鈴を転がしたような声が響き、像が白く輝き出す。
『よくぞ私の声に応えてくれました、女神の使徒たちよ。今、この世界は復活した邪神によって危機に瀕しています。武器や魔法という対抗手段が封印され、私自身も捕らえられてしまいました。ですが、最後の力で世界中の『衣装』に私の力を分け与えました。……使徒たちよ、どうかその力で邪神を倒してください。お願いします――』
女神像は告げるだけ告げると、急激に輝きを失っていく。
それと同時に、ティオの手元に何かがすとんと落ちてきた。
「え? 何これ?」
左右からティオの手元を覗き込む。
布袋の中には、握りこぶし大の何かがジャラジャラと音を立てて収まっていた。
「ああ、それはRPGお約束の『初期装備費用』だよ。それで準備を整えろ的なやつ」
ゲームにある程度詳しいティオとソフィーさんは納得したようだが、マリアさんだけは不思議そうに首を傾げた。
「……それにしても唐突ですねぇ。いきなり呼び出されて邪神を倒せだなんてぇ。その割に軍資金は最低限ですしぃ」
「まあ、プレイヤーの誰もが一度は思うことだけどな。いきなり大金だったり、最強装備を渡したらゲームにならないんだよ」
「そういうものですかぁ?」
「深く考えても仕方ないよ。とりあえず外に出よう。ツバメさんの情報を集めながら装備を整えるぞ」
俺たちは女神からもらった100Gを手に、神殿の外へと踏み出した。
街へ出たところで、まずは現状把握のためにステータスを確認することにする。
「章介様ぁ。因みにどうすれば、自分たちの能力を見ることができるのですかぁ?」
「……うーん。俺の視点からならゲームコマンドで見れるんだけど、みんなが見るには……」
悩んでいると、ティオが勢いよく手を挙げた。
「それならアレでしょ、ラノベのお約束」
「ああ、アレですね」
「……なるほど、アレか」
俺たち三人にはそれで通じる。だが、一人だけ取り残されている人物がいた。
「アレ……とはぁ?」
マリアさんだ。ラノベやアニメに疎い彼女に、通じるはずもなかった。頭にハテナマークを乗せている。
「あ、ええと、こっちの世界のお約束だよ。実際にできるかは別として、『ステータス・オープン』って唱えるのが作法というか」
「……『ステータス、オープン』……ですかぁ?」
マリアさんが復唱した瞬間、彼女の目の前の宙に青白いウィンドウが出現した。
驚愕に目を見開くマリアさん。それを見た俺たちは一斉に『ヤバっ』と口に出た。驚きで彼女の『魔眼』が開いてしまったからだ。
慌てて周囲を見回すが、通行人たちは何事もなかったかのように通り過ぎていく。
「……マリア姉の魔眼に、誰も反応しない?」
「どういうことでしょうか?」
不思議がる二人を余所に、マリアさん本人が一番困惑していた。無理もない。その魔眼のせいで、彼女の人生は無茶苦茶にされてきたのだから。
だが俺には、ゲームに移動する前から一つ、可能性に心当たりがあった。
「……取り敢えず、マリアさんのステータスを確認してみてくれるか?」
「え?……ええ」
少々挙動不審になったマリアさんだが、全員でその画面を覗き込む。
そこにはこう書かれていた。
* * * * *
【マリアメア=シルヴァランス】
体力:A
筋力:S
知力:A
敏捷性:A
耐久力:B
メンタル:A+
魔力量:F
魔法技術:S+
潜在能力:
筋力に補正のかかる衣装を装備したとき、能力が『+10』される。
動物に嫌われる。動物との親和性が『-50』される。
装備:
【マリアメアのヘッドドレス】
【マリアメアのメイド服(上着)】
【マリアメアのメイド服(スカート)】
【ロングブーツ】
※【マリアメアシリーズ】三種を同時に装備することにより、『特級魔法全般』を覚えるが魔力が足りないため発動することが出来ない。
* * * * *
それを見て、俺は確信した。
「やっぱりな。この世界の設定は教えただろ? 『魔法』が使えないってことは『魔眼』も使えないかもって思ってはいたんだよ。ほら、魔眼て幻覚魔法の一種って話だったし。その代わり、デバフ能力として『動物に嫌われる』っていう能力に置き換わってるんだな」
「……もしかしてぇ、この中では、私の目は普通の人と同じってことですかぁ?」
マリアさんの声が震えている。そこには微かな、けれど確かな希望が滲んでいた。
それに対し、俺精一杯の笑顔を向けた。
今は水晶に表情も写るため、十二分に気持ちが伝わるはずだ。
「ああ。少なくともこの世界では、マリアさんは『普通の人』だ。……まあ、動物には嫌われるみたいだけど」
それを聞いたマリアさんは感極まったように俯いた。その背を、ティオとソフィーさんが嬉しそうに撫でている。
しばらくの間そうしていたが、やがてマリアさんは笑顔で顔を上げた。
その目は薄っすらと赤みを帯びていたが、俺は気付かないふりをすることにした。
「よしっ、次は私。一度やってみたかったんだよね。『ステータス・オープン』!」
湿っぽい空気を吹き飛ばすように、ティオが叫んだ。
* * * * *
【ティオ=ブルーベルベット】
体力:D-
筋力:C
知力:S
敏捷性:C
耐久力:C
メンタル:S
魔力量:S+
魔法技術:G
潜在能力:
知力に補正のかかる衣装を装備したとき、能力が『+10』される。
体力に補正のかかる衣装を装備したとき、能力が『-5』される。
装備:
【ティオのローブ】
【ティオの魔導服(上着)】
【ティオの魔導服(スカート)】
【ティオのブーツ】
※【ティオシリーズ】四種を同時に装備することにより、『魔力値』が最大になるが魔法自体を覚えることが出来ないため、発動することが出来ない。魔力(笑)
* * * * *
「……って、魔力(笑)って何さ!!?」
ティオがウィンドウを連打している。
ヤバい、ちょっとツボに入った。腹が痛い。
水晶越しに俺の顔が見えている以上、必死に笑いを堪えるが、隣ではマリアさんが笑いを堪えようとして頬が痙攣し、ソフィーさんに至っては隠しもしない大爆笑だ。
「ちょっと章介さん! これ絶対おかしいよ! マリア姉の時と扱いが違いすぎるでしょ!?」
「いや、俺に言われても……」
そこへ、一通り笑い終えたソフィーさんが割り込んできた。
「落ち着いてください、ティオ。章介さんを責めても仕方がないでしょう? あくまでゲーム側の記述なんですから、そんなに目くじらを立てなくとも……ぷっ」
途中まで穏やかな表情のソフィーさんだったが、最後の最後で我慢ができなかったらしく、噴き出していた。
その姿にティオが眉を上げる。
「ソフィー、あなた笑ってんじゃないよ! ならあなたもやってみなさいよ! その無様なステータスを拝んでやるから!」
「構いませんよ? でも、貴方みたいに『ネタ提供』するような真似は出来ませんけれど。……ふふっ」
笑いを堪えながら、『ステータス・オープン』と唱えるソフィーさん。
しかしなぜ彼女は、こうも綺麗なフラグを毎回立ててしまうのだろうか。
* * * * *
【ソフィーリア=シルク=ブラウンロード】
体力:B
筋力:C
知力:C
敏捷性:S
耐久力:C
メンタル:S
魔力量:S
魔法技術:C
潜在能力:
敏捷性に補正のかかる衣装を装備したとき、能力が『+10』される。
破廉恥に補正のかかる衣装を装備したとき、能力が『+20』される。
装備:
【ソフィーリアの軽装鎧】
【ソフィーリアの学院戦闘服(上着)】
【ソフィーリアの学院戦闘服(スカート)】
【ロングブーツ】
※【ソフィーリアシリーズ】メス猿(笑)
* * * * *
「はああああああああああ!!!?」
ソフィーさんの絶叫が街に響き、通行人(NPC)たちが一斉にこちらを振り返る。
俺はもう限界だった。画面から顔を背け、音を殺して震える。
マリアさんは太ももを抓って耐えているが、ティオはもはや呼吸困難になる勢いで地面を叩いて笑い転げていた。
「異議あり! 断固として異議を申し立てます! これは悪意の塊ですよ!?」
ソフィーさんが水晶をガクガクと揺さぶるが、俺にはどうしようもない。ちなみに腹は痛い。
そんな親友の姿に、ティオはひーひーと涙を流しながら、彼女の肩に手を置いた。
「……的確だね、メス猿(笑)」
ソフィーさんがティオに掴みかかった。
初っ端から先が思いやられる展開だが、ついに最後の仲間、ツバメさんと合流するためのゲームが幕を開けた。
――第五のゲーム、攻略開始。
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