表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスクトップ・ファンタジー ~画面の中の彼女たちと挑むゲーム攻略記~  作者: 約谷信太
第四章 ゲーム攻略・合流編【ホラーゲーム】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/44

034 拠点での幕間その2

「わあ、これが海ですか。私、見るの初めてなんですよね」


「私もだね。王国には海がないから、章介さんに観せてもらった映像でしか知らないよ」


「俺も実物を最後に見たのは数年前だな。ここしばらく遠出をしてなかったし」


 頬を撫でる風が吹き抜ける、丘の上。

 視界一面に広がる蒼を、ティオとソフィーさんは眩しそうに眺めていた。

 エメラルドグリーンに輝く水面は、陽光を反射させながら優しく波を立てている。


 昨日この無人島へ来たときは、すでに日が落ちていた。

 拠点となる小屋から【恐怖が彷徨う館】へ向かう際も、小屋の前から直に移動したため、ソフィーさんだけでなくティオもこの島の景色をじっくり見るのは初めてとなる。


 俺はティオが寝た後、島の開拓で小屋の外に出ているときに見ているが、現実の海水浴場とは比較にならないほど透明度が高い。

 ……とはいえ、いつまでもここで見惚れているわけにもいかない。


「そろそろ小屋へ行かないか? 休むにしても次のゲームの相談にしても、一旦落ち着いて話をしよう」


「そうだね。のんびり海を眺めるのは、皆が揃ってからだね」


「そうですね。まずはそれが最優先ですからね」


 水晶()は空中をスイスイと移動しながら、二人を先導するように進んでいく。

 その後を追うソフィーさんの片手には、ずっしりと重そうな工具箱。

 一方のティオは、10cmほどの銀色に輝くリング状の物を大事そうに抱えつつ、もう片方の手でしきりに頭をさすっていた。


 俺はティオをチラリと見る。


「ティオ、お前……頭は大丈夫か?」


 言葉だけ聞くと煽っているようだが、純粋な心配だ。

 さっきは、それなりにいい音がしたからな。


「……何とかね。血は出てないけど、立派なコブが育ってるよ」


「鈍い音が響いたからな……」


「でも、ぶつかったのがこのリングで良かったよ。もしソフィーの持ってる方だったら、完全にアウトだった」


「私も危ないところでした。本当に間一髪です」





 ――話は少し前、ゲーム攻略後のリザルト画面に遡る。


 二人が感動の再会を果たし、抱き合っていた時のことだ。

 最初のゲーム同様、エンディングのスタッフロールとともに、彼女たちの頭上から二つの物体が降ってきた。


 一つは、ティオの持つ銀色のリングで、魔導通信機の魔力波を増幅させるためのパーツ。通信機の土台の一つ。

 そしてもう一つは、ソフィーさんの持つ重厚な工具箱で、ティオが魔道具製作で使用している私物らしい。

 どうやら攻略対象のゲームには、彼女たちがこちら側に転移した際に巻き込まれた『遺失物』が紛れ込んでいるようだ。

 今回ゲームを二本同時にクリアしたため、二つのアイテムがエンディングとともに現れたらしい。


 二人の身長はほぼ同じ。本来なら二人とも直撃コースだった。

 だが、一人で百体もの怪物を切り抜けてきたソフィーさんの集中力は、まだ研ぎ澄まされたままだった。

 彼女は落下物に瞬時に反応し、間一髪、見事にキャッチしてみせた。


 一方のティオは、感動の余韻に浸りきっていたため、無防備な頭頂部でリングをレシーブ。

 その場に悶絶することになった。

 

 もしティオの上に落ちたのが工具箱だったら、今頃彼女は『ゲームクリア直後に物理ダメージでゲームオーバー』という、笑えない冗談のような結末を迎えていただろう。


 ソフィーさんも最後そのままクリアしていたら、受け止められず危なかったかもしれなかった。

 そう考えるとあの絶体絶命のアクシデントのおかげで、最後の最後に助かったとも言えなくはない。


 次のゲームクリア時には、頭上も注意しておいた方がよさそうだ。




 拠点へと戻った俺たちは、今後の攻略方針を話し合うためにテーブルを囲んだ。

 水晶()は定位置になりつつある卓上へ。

 ティオとソフィーさんは隣り合い、俺と向かい合う形で腰を下ろす。


「「「…………はぁあああああ…………」」」


 三人の口から、肺の空気をすべて出し切るような溜息が漏れた。


 俺もそうだが、二人とも完全に電池が切れたようにダラリとしている。

 ティオは背もたれに身を預けて天井を仰ぎ、ソフィーさんはテーブルに突っ伏して動かない。


 安全圏に戻ったことで、張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと切れたのだろう。

 今回の攻略は、俺にとっても二つの意味で心臓に悪かった。

 早く次の話をすべきなのは分かっているが――少しだけ、このまま静寂に浸らせてくれ。


 三分ほどして、ソフィーさんがモゾリと顔を上げた。

 心なしか、その瞳からは生気が失われている。


「……章介さん。ゲームの攻略って、こんなに精神を削られるものなのですか?」


「……いや、本来ゲームってのは楽しむものなんだけどな」


「最初のゲームはまだ楽しいと思える場面もあったけど、今回のはただただ、しんどかったな。……私、これほどメンタルを追い込まれたのは過去に数えるほどしかないよ」


「……私は一人で攻略している時、一瞬だけ楽しいと思える場面もありましたが……最後の最後で、すべて持っていかれましたね」


「え、あのゲームで楽しいなんて感情が湧いたの?ソフィー、あなた正気?」


「普通の化け物百体を相手にしている時は、楽しかったんですよ。……途中まで、マリアの姿もありませんでしたし」


「……あー。それなら、少しだけ分かるかも」


「分からねえよ」


 なんで化け物百体相手が楽しいんだよ。おかしいだろ。

 疲れている俺にツッコミを強要しないでほしい。


 ただ、今の会話で少し回復したのか、二人はようやく椅子に座り直した。

 短い休息は終わりだ。

 俺も思考を切り替える。


「それじゃあ、次のゲームの説明をしよう。ティオには軽く伝えたが、今度は【爆釣王(ばくちょうおう)~伝説を釣り上げろ~】。名前通りの釣りゲーだ」


「えっ、釣りですか?それは楽しそうですね!」


 釣りと聞いた瞬間、ソフィーさんの瞳に光が戻った。

 ティオが言っていた通りソフィーさんはアウトドア系(そういうの)が得意らしい。

 これまでの彼女のイメージとは少しズレがあるが、さっきのゲームの攻略時の動きを見るに、アウトドア全般に高い適性がありそうというのは分かった。

 彼女をメインに据えれば、案外すんなりクリアできるかもしれない。


「このゲームは【フリーモード】と【大会モード】の二つに分かれている。フリーモードっていうのは、好きな場所で自由に釣りを楽しむモード。釣った魚の種類や大きさでポイントが貰えて、そのポイントを使い、新しい釣り場に行けたり釣り竿のカスタマイズが出来る」


「最高じゃないですか!私が迷い込んでいたあの館とは大違いです!章介さん、全員合流したあとでいいので、私だけでもそのゲームに入ることは出来ませんか!?」


 ソフィーさんがテーブルに身を乗り出し、食い気味に迫ってくる。

 キラキラと輝く瞳が、水晶のレンズ越しにどアップで映し出された。

 俺は思わず、少し体を引いた。


 何と言うか…元々元気な人だったけど、ゲーム開始前のあの一件から、さらに元気になっている気がする。

 例えるなら、まるで型に嵌めていた枠を外したみたいに。


「ソフィー、落ち着きなって。まずは攻略が先でしょ。あと、あなた……()()()()()()()()よ」


 横からティオに肩を抑えられ、ソフィーさんは『あ……』と漏らして、浮き上がっていた腰をゆっくりと下ろした。

 そして『コホン』と可愛らしく咳払いをする。


「失礼しました。お話を遮ってしまって……続きをお願いできますか?」


「いや、構わないよ。もし釣りがしたいなら、この島でも色々な魚が釣れるから皆と合流した後にでもしてみたら?釣り竿も裏の物置にあるし」


「本当ですか?それは是非にでも」


 ニコリと笑い、俺の知る普段通りの笑顔が返ってくる。


「……で、続きだが、おそらくクリア条件になるのはもう一つの【大会モード】だ。海釣り大会【爆釣杯(ばくちょうはい)】に参加して優勝を目指す。支給されたノーマル仕様の道具を使い条件は平等に、制限時間内のポイントで競う腕一本勝負になるはずだ」


 説明を終え、二人の反応をうかがう。

 二人は少しの間考え込んでいたが、やがてティオがソフィーさんに視線を投げた。


「やっぱり、このゲームはソフィーがメインだよね」


「そうですね。私が最も勝算が高いでしょう。もし私で無理だった場合、あとはビギナーズラックに賭けるしかないですね。その場合、私たちの中で運が一番いいティオに任せます」


「私の運でソフィーの腕に敵うとは思えないけど……。ただ、ソフィー。あなたも分かってるよね? 次のゲームの、最大の懸念点」


「……ええ。次に囚われているのが、マリアかツバメか。……ツバメなら問題ありません。むしろ優勝は確実でしょう。……でも、もしマリアだった場合、最悪……」



「ゲームの攻略自体が不可能になる」

「ゲームの攻略自体が不可能になります」



 二人の声が綺麗に重なった。

 しかも、聞き捨てならない内容だ。

 ゲームの攻略が『難しい』なら分かるが『不可能』というのはどういうことだ。


「ちょっと待ってくれ。少し前にもティオが『マリア姉が』、って言ってたけどどういうことだよ?釣りなんて腕と運の世界だろ。マリアさんは、そんなに運が悪いのか?」


 思わず聞き返したが、二人は揃って首を振る。


「いや、マリア姉の運は別に悪くないよ。ただ致命的な原因があって…」


「そうなんです。説明をしたいところなのですが、マリア本人が物凄くそのことを気にしていまして。…一種のトラウマのようになっているので、私達の口から勝手に説明するわけにもいかなくて…」


 二人の顔に、申し訳なさそうな色が浮かぶ。

 そこまで言われると追及しづらいが、攻略の可否に関わる以上、作戦を考える上で聞かなくてはとの思いもある。


「…章介さんが何を考えてるかは何となく分かるけど、一旦聞かないでもらえると助かるよ。次のゲームにいるのがマリア姉とは限らないしね。あくまで条件が揃ってたら、って話だから」


「それに、もしその『条件』が揃ってしまったら、章介さんがどんなに策を練っても、物理的に攻略が不可能になりますし……」


「……物理的に?」


 俺は眉を顰めた。

 釣りゲーで物理的に不可能?


 わけがわからない、という視線を送ると――。


「もし全てが最悪に転んだら……その時は、マリア姉から昔話がてら話を聞いてみてよ」


 ティオとソフィーさんは、どこか遠い目をして苦笑いを浮かべた。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク・評価をしていただけるとモチベーションの維持になります。


次回投稿は2月21日(土)20時50分になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ