078 神竜
破壊された砲台の場所から降り立った先は広間だった。
正面に幾人かの姿が見える。
周囲にもローブを着てフードを被った、魔術師だか神官だかが集まっていた。
私は素早くカールの位置を確認する。
部屋の隅に金髪の少年の姿が見える。
だがその前にいるのは、仮面の男だった。
周囲を暗黒教団の戦士や魔術師達がとり囲んでいる。
どうやら仲間割れらしい。
「なんだお前は?一体何をした?なぜ魔導砲や巨人たちが……お前たちなにぼっとしておる。こいつを叩きのめせ!」
暗黒司祭らしき、フードを被った男は叫んだ。
幾人かの戦士や魔術師が私に立ち向かってきたが、槍斧の一振りで全員吹き飛ぶ。
魔法や剣なら私は恐れない。
と思った私は嫌な事を思い出す。
もし相手があのレーザー銃のような古代遺物を使って来たらどうするか。
今更ながら、自分の無鉄砲さと無計画さを後悔するしかない。
だが要塞に乗り込んでカールを助けない、という選択肢は私にとれるはずもない。
私は一気にカールの所へと向かう。
仮面の男は、カールを守るように戦っていた。
私もカールの前に立ち、振り返る。
だが案の定というべきか、敵の一人が、バズーカ砲のようなものを持ち出していた。
(やば……ひょっとして古代遺物?)
その時私の頭の中にあの声が響く。
『神力無効発動中。銀の体は第一文明期のβランクまでの武器を無効化します』
「セシル先生!」
カールに当たる可能性がある以上、今更よけるわけにはいかない。
私は頭の中の声を信じ、カールの前に仁王立ちになる。
複数の銃口から発射されたビームは私の体にあたると、跳ね返って壁を焼いた。
続いて暗黒の炎の魔法攻撃が襲い掛かってきたが、当然神力無効で無効化される。
デギル教徒たちの目は信じられぬようなものを見たように、見開かれる。
もちろん私は、そのまま大人しく突っ立ってはいなかった。
槍斧で数人まとめ吹っ飛ばし、腰の剣を鞘ごと抜いて殴りつける。
外部の魔物や要塞自体の攻撃を止めたリュウジの聖なる咆哮は、要塞の中には効果を発揮していないらしい。
時間や空間の制限があるのかもしれない。
その時、外の砲台を全て破壊したのか、リュウジが室内に躍り込んでくる。
「リュウジ、気をつけろ!」
私の心配は無用だった。
リュウジの身体が光ると、魔法攻撃はリュウジの鱗一枚すら傷つけることはできなかった。
古代遺物での攻撃すら同じだった。
「キュルルルルルルル」
炎や氷の塊を浴びながらリュウジはむしろ嬉しそうに鳴く。
魔法もビーム攻撃すら吸収していた。
「ば、化物だ!」
とうとうデギル教徒たちは、ボスらしき暗黒司祭含めて逃げ出した。
「よくやったぞ、リュウジ。帰ったらリンゴをたらふく食わせてやるからな」
「クー、クー、グルルルル」
私が撫でてやると、リュウジは喉を鳴らした。
「カール、大丈夫?」
「ありがとうございます、セシル先生」
「早く追った方がいい。あいつはあそこの祭壇の隠し扉から逃げた。その先にこの要塞の核がある。それを壊せば、この要塞も外の巨人も崩壊するはずだ」
私は仮面の男を見る。
「あんたはデギル教徒でしょ?何が狙い?」
「デギル教徒同士だからといって、仲が良いとは限らんさ。あの暗黒司祭はやりすぎた」
私は一瞬考え込む。
「この男は僕を助けてくれたんだ、セシル先生」
カールが私に言う。
「リュウジ、カールを頼む」
「クー」
リュウジはひとつうなづいた。
仮面の男が信頼できるとは限らないが、迷っている暇はない。
この要塞を無力化する機会を逃すわけにはいかなかった。
カールは、リュウジがいれば大丈夫だろう。
「この先にある核を破壊すればいいんだな?」
「ああ。君の力ならたやすいはずだ」
「わかった」
祭壇の奥の壁には、地下へと続く通路が空いていた。
私は一気に駆け降りる。
しばらく走り抜けた後、目の前に現れた扉に体当たりする。
異音をたてて扉は吹き飛んだ。
私の視線は広間の正面に吸い寄せられる。
それは巨大な肖像画だった。
黒髪に短髪、釣りあがった目に、口元に牙がのぞいている。
どことなく見覚えのあるその顔は――
(え?私?)
一瞬自分かと見間違えるほど私に似ている。
あれは一体なんだろう?
祭壇に掲げられているということは、あれはまさか魔神ザイターン……
それがなぜ私に?
「お前は何者だ!なぜ一部のものしか知らぬ、ザイターン様のお姿をしている?なぜわれらの邪魔をする?」
暗黒司祭は叫ぶ。
「お前たちの陰謀は全て潰えた。大人しく降伏しろ」
だが暗黒司祭は私の言葉を聞いていなかった。
「ザイターン様。あなたの忠実なる信徒に、今一度お力をお与えください」
その言葉に暗黒の核は暗い血の色に光る。
そして見る間にその周囲にいた人間を吸い寄せ始めた。
「な、なぜ……なぜ……ぎゃぁあああああ」
デギル教徒たちの断末魔の悲鳴が響く。
私は一瞬何がおこったかわからず、硬直してしまう。
おそるおそる核に近づいてみる。
吸い込まれた男たちの姿はもう見えない。
「仮面の男が言っていたのはこれか」
こんな不吉なものは、さっさと壊してしまうべきだろう。
私は核目掛けて拳を叩きつける。
鈍い音とともに、核にひびが入り、それはやがて部屋中に広がっていった。
私は急いで元の広間に戻る。
「核は破壊した。これでいいんだな?」
「ああ、もうすぐこの城も崩れ去るだろう」
「じゃ、ぐずぐずしてる暇はないな、脱出するよカール」
「待ってくださいセシル先生。彼らを連れて行ってやってください」
カールはガストンとディアーヌの遺体を指し示す。
執事たちの遺体をリュウジに担いでもらい、私とカールもリュウジにまたがる。
「あんたは?」
「俺は平気さ。また会おう」
「今回ばかりは礼を言うよ。ではな」
「ああ、ひとつ教えよう。高等学院へちょっかいかけていた集団は壊滅した。あの跳ね返りどもにはこちらも困っていたのさ。君たちへ手を出すデギル教の派閥はもういない。……当面の間は、だけどね」
私はその男をじっと見る。
「わかった」
今後の事を考えれば、この男を野放しにするのは良くないのかもしれない。
だがこの男は確かにカールを助けてくれたのだ。
捕らえたり殺したりすることは、私にはできなかった。
仮面の男は広間の外に出ると、何やら念じている。
しばらくすると、黒い大鳥がやってきて男を乗せて去っていった。
その時地鳴りのような響きが強くなる。
「さぁ、行くよ、リュウジ!」
リュウジは広間の中央の空間から高く飛び上がる。
しばらくして眼下をながめると、周囲の巨人たちとともに、鋼鉄の城は跡形もなく崩れ出した。
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