044 秘密
「はい。一体何の御用でしょうか」
私は思わず身構える。
「そんなにかしこまらなくていいよ。ちょっと頼みたい事があってね」
クローヴィスは笑顔を浮かべる。
今は寮を出て、皇宮から学校へと通っているはずだ。
「申し訳ありませんが、今年は聖女科への進学が決まる大事な年ですし、あまりお役に立てないかと……」
私は予防線を張る。
去年の学校占拠事件の後、宮殿に招かれ皇帝陛下から直々にお礼を言われた事があった。
私としては恐縮する他ない。
前世の庶民根性が抜けていないのか、私としてはあまり偉い人とはかかわりたくはない。
世間の片隅で、自分の好きな事をしている方が性に合っている。
単純に損得を考えれば、権力を持っている人とは、仲良くしておいた方がいいのかもしれないけれど。
こういう世界ではあるし。
「君の聖女科への進学にもかかわることだ。君にとっても悪い話にはならないと思う」
「……わかりました」
そう言われれば、これ以上は断りようもない。
結局私は、今週の土曜日に宮殿へと向かうことになった。
そして訪問当日。
私の寮へ馬車が迎えに来る。
先方の都合もあり、夕方の出発になった。
「なんか緊張するねぇ」
エマがにこやかに言う。
私だけでなく、エマ、マルス、リーリアも来るらしい。
気をつかわないように、服装は制服でいいということだった。
「とりあえずよかったかな。あんまりちゃんとした服持ってないし」
「一応泊まれる用意はしてきてって事だけど、ちゃんと持ったセシル?」
「もちろん」
一体どんな話があるのだろうか。
エマ、マルス、リーリアといえば、去年のあの事件のメンバーだ。
あれから何かわかったことがあるのだろうか。
宮殿は帝都アッシュールの中心部にあった。
近づくにつれ、その施設の全貌が見えてくる。
広大な敷地には、豪華な庭園や四季折々の花が咲く温室、噴水もあって水道橋から水が引かれている。
劇場や美術館まであり、皇帝一家の住居、兵士や使用人の宿舎から、数えきれないほどの客室もある。
「この前来た時は、あんまり見れなかったよね。年に何回か私たちも入れるんだよ」
エマによると、十月祭のような時は、庶民も招かれて、舞踊や演劇や演奏会なども行われるという。
馬車は正門を通り、やがて巨大な扉の前に到着する。
「ようこそ、我が家へ」
クローヴィスが出迎えてくれた。
後ろには大勢の使用人たちが控えている。
私とエマは馬車を降りると礼をする。
「あはは。そんなのは今日はいいから」
クローヴィスは気さくな笑顔を見せる。
私たちは豪華な客間へと案内された。
中にはすでに、マルスとリーリアがいる。
豪華な内装とテーブル、壁には詩人レグルスの冥界下りをモチーフにした絵画が掲げられていた。
しばらく待つように言われて、落ち着かない時間を過ごしていると、客間係が一人の来訪を告げる。
「ルシアヌス三世陛下がおいでになりました」
私たちはあわてて席を立つ。
入ってきたのは年のころは四十半ば、銀髪に白いものが混じりかけた偉丈夫だ。
「よいよい。今日はそういうのはよそう」
礼をする私たちにルシアヌスは鷹揚に声をかけた。
「父上、その台詞は先ほど私が言いましたよ」
「おおそうだったか。すまんすまん」
クローヴィスと皇帝ルシアヌスは笑いあう。
だがその笑顔には、どことなくぎこちない物があるような気がした。
私の考えすぎかもしれないが。
お茶とお菓子が運ばれ、しばらくはよもやま話に花が咲く。
私たちは以前に一度、皇帝と会っている。
リーリアはもしかしたら何度か謁見しているのかもしれないが。
「ところで、学校はどうかな?」
「はい、楽しいです!陛下」
エマがにこにこ顔で元気よくこたえる。
確かにそうかもしれない。
エマは知り合いも多くて、魔導具の授業も楽しそうだ。
例の孤児院の件に関しても、エマの力は大きいし、感謝している。
「ところで、今日集まってもらった件だが」
皇帝の言葉に、一座に緊張が走る。
単なる世間話のために呼んだのではないことは、皆気づいている。
「それについては、私から説明します、父上」
クローヴィスが口を開く。
「先日の学校襲撃事件に関してだ。あの時の一味はデギル教の信徒。俗にいう暗黒教団だというのはもう知っていると思う」
そしてクローヴィスは語り出した。
内容については、既に聞いていたり予想している事も多かった。
だが、念のための確認の意味も大きかったのだろう。
「デギル教の目的は明確だ。デギル教の信仰を広める事。そして魔神ザイターンを復活させる事だ」
そこでリーリアが手を上げて発言を求める。
「デギル教の目的が魔神ザイターンの復活であるのは自明です。彼らの具体的な目標なり、ザイターン復活の実現可能性はあるのでしょうか?」
それは私も知りたい。
聖女アニエス、伝説の十二の神器、魔神ザイターンの封印。
この世界の伝説や歴史は知っている。
私にとってそれはお伽話に近いものだった。
だが去年の事件が起こって以降は、多少なりとも考えは変わった。
少なくともザイターンの復活を本気で目指している勢力がいることは、信じざるを得ない。
「それに関しては、まだ詳しくは話せない。だが北の地におけるザイターンの封印が弱まっているのは確かだ」
去年の十月祭で、王都の魔術師や各地のリヤウス教の重鎮たちが教団本部に集まったのはその件だったらしい。
その後の様々な調べにより、暗黒教団がどうやら古代の魔術を復活させ、古代遺物によって、ザイターンの復活をもくろんでいるという。
「なるほど。でもなぜそんな重要な事を、一介の学生にしかすぎない僕たちに?」
マルスの疑問は当然だったろう。
「いや、君たちについては調べさせてもらった。いずれ劣らぬ優秀な若者だと聞いている。まだ学生とはいえ、帝国高等学院を優秀な成績で卒業したものは、遅かれ早かれ各分野の指導者的立場となるのは確実だ」
そこで口をはさんだのは皇帝ルシアヌスだった。
最高権力者にかかれば、私たちが隠しておける個人情報など、無いも同じなのだろう。
「君たちは昨年、暗黒教団の事件を経験している。君たちなら荒唐無稽に思える事でも信じてくれるだろう。それにその経験はこちらにとって大きな利点だ。いずれは避けられない、ザイターンや八大魔将との戦いのためにもね」
クローヴィスは言う。
「八大魔将……ですか」
エマがぽつりと呟いた。
「もちろん、そなた達だけに頼っているわけではない。さまざまな手を打っている。これもその一つだ」
皇帝が重々しく言う。
どうやら前途有望な学生たちを集めて、皇帝家の主催で特別授業を行うのだという。
将来的には、対魔族用の特殊部隊の設立も考えているとの事だった。
途中で休憩を挟みながらも話は続く。
暗黒教団の人間が狙っているであろう古代遺跡や古代遺物から、帝国の歴史や、魔神ザイターンの伝説。
(何かとんでもない事になってきたなぁ)
私はこっそりとため息をついた。
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