パーティの夕べに
ざわざわと、喧騒が戻ってくる。
俺とスリエルの試合が終了し、会場を包んでいた熱気も収まってきたようだ。
「やったね、オドマ、かっこよかったよ!」
「オドマならあれくらいやってくれなくちゃね。もちろん、オドマを倒すのは私なんだから」
「先輩すごかったです! 兄さんも負けちゃだめですよ」
「マリアは、俺とオドマくんのどっちを応援しているんだ……?」
俺は周囲を見回す。
「オドマー! お前ってやつは、本当にすげえな! こりゃ、本格的に七大天使になっちまうんじゃねえか?」
「そのときには俺にも美味しいところを!」
「ご相伴に」
ボブにサムにマイク。
バスタードクラスの連中も集まってきた。
「いやあ……本当に凄いねえ。お、オドマくん、あれって一体なんなんだい」
「僕も計算外だった。あれだけの力を使いこなせるなんて、普通の候補者レベルじゃない」
グスタフに支えられて、スリエルことミランダ。
彼女はメガネをクイクイ直しながら、何やら熱弁する。
「真の偉大なる分体は、巨大な本体を召喚するものだと聞いたことがあるよ。主の御身は巨人だったと伝えられているからね。だけど、それができるのは現役の七大天使である、ミカエル、ラファエル、ウリエルの三柱しか存在しないはず……それができる、君は一体……!」
「まあまあ。難しいこと言ってないで、せっかくのパーティだから踊ろうよ」
俺としてもよく分からん話だったので、とりあえず俺は、先程までの対戦相手に手を差し出した。
「えっ、ぼ、僕と……!?」
「だめかい?」
「いや、ダメじゃ、ないけど……」
グスタフをチラチラ見ている。
安心せよ。他意は無いぞ。
マンサとジブリールから素晴らしいブーイングがあがる。
知った事か。
君らはいつでもダンスできるだろうが。待ってなさい。
インドア派だけあって、ミランダの足取りはおぼつかない。
俺は事前に予習していたダンスのテクニックを使い、彼女をエスコートする。
うむ、マンサとジブリールに散々付き合わされたんだ。
これが終わったら当分ダンスなんてしないぞ。
「君は……変わった人だな」
「そう?」
「変わっているさ。ただのバスタードやアビス人なら、こうも僕たち天使にニュートラルな接し方はしないさ。ねえ、オドマ。それとも、サンダルフォンの方が本当の君なのかい?」
「どうだろうなあ……僕でも分かってない」
くるくると踊る。
やがて音楽は変わり、ムーディな曲調になった。
これはなんとなく気恥ずかしいので、俺とミランダは慌てて戻ってきた。
「次は私!!」
じゃんけんでジブリールに勝ったらしいマンサが登場だ!
俺にむぎゅうっと抱きついてくる。
ぐわーっ、べ、ベアハッグ!!
「ほらオドマ、私をエスコートして!」
「はいはい」
幼馴染だからか、マンサの背中を抱き寄せて踊っても、そう気恥ずかしさはない。
というか、まあこいつはまだお子ちゃまだからな。
どんどん育っていって、お子ちゃまと舐めていられなくなってから、俺がこいつをどういう風に見られるのか、ちょっと分からないが。
「むふふ」
「どうしたの」
「このままお持ち帰りしちゃっていいんだよ」
「マンサは僕と家が一緒じゃない」
「そうだった」
そうだった、ではない。
年若い娘さんがふしだらなことを言ってはいけない。
俺との約束だ。
こうしていると、まだ俺としては保護者な気分だな。当分こいつを女としては見ることが出来まい。
「あー、たっぷりとオドマ分を補給しちゃった」
「ええいマンサおどき! 次は私よ!」
「おほほ、チークタイムはもう終わりですことよ、ジブリールさん」
「構わないわ! 洗練されたダンスと言うものを見せてあげようじゃない!」
休めないらしい。
次に俺が手を取ったのがジブリール。
流れるダンスの曲はローテーションらしく、ちょっとアップテンポな曲が流れ、めいめい好きに踊れるようだ。
そこでジブリール、くるくる回ったり飛び跳ねたり、そして俺に、この躍動的ダンスに合わせるように要求してくる。
おいおい。
俺は仕方なしに、先日彼女から受けた猛特訓の成果を発揮してみせる。
この肉体はポテンシャルが高いようで、一度経験した動きはすぐに再現できるようだった。
俺としては悪くないダンスで追随したつもりだったんだが、
「おそーい! オドマ、発表会じゃないんだから教科書通りじゃだめよ! もっとこう! アレンジを入れて!」
専門外です。
だがまあ、俺たちのダンスはそれなりに周りの目を惹きつけたらしい。
「おいオドマとやら! お前らに好きにはやらせないからな!!」
声を張り上げて、ビシっと俺たちを指差してきたのは、おお、懐かしい顔だ。
ジョナサンじゃないか。
天使組のジョックで、スクールカーストの頂点に立っている男だ。
だが、俺が七大天使候補者という別のステージに行ってしまったため、彼の天下は終わりを告げた。
というか、俺が真っ向から下してるんだけどな。
だが、ダンスとなれば別だ。
クインビーであるシャルロットが、艶めかしい生足を披露しながらジョナサンを後ろから抱きしめる。
「私たちのダンスについてこれるかしら?」
「上等よ。その挑戦受けようじゃない」
あのー、ジブリールさん?
このやり取りに、演奏をしていた天使やバスタード達も乗ってきた。
奴ら、種族間の諍いなんて忘れてしまったかのように目配せし合うと、
「それじゃあ、最高のナンバーをお届けするぜ!!」
バスタードのボーカルが登場し、バックミュージックがご機嫌なビートを刻み始める。
うーむ、音楽への造詣がない俺でも、ちょっと体を揺すりたくなってくる音楽じゃないか。
「ほら、行きましょオドマ! 目にもの見せてやるんだから!」
「目的が変わってしまってるよね?」
俺は一々突っ込みながらも、ジブリールのリードに乗ってダンスを始める。
日差しはゆっくりと落ちていき、夕刻から夜へ。
賑やかな時間はまだまだ続く。
喧騒の中で踊りながら、冬までここで勉強したら、また一回アビスに戻らないとな、なんて俺は考える。
ルーサーやモーシェに任せきりにしてしまっているが、時折クロノスが連絡係を買って出てくれている。
近況は順調なようだ。
だが、実際には俺が知らない問題がいくつも発生しているかもしれない。
顔出ししてチェックするなり、新しい施策を打ち出すなりしないとな。
「オドマ、行くわよ!」
「おっけー」
決めのジャンプをしたジブリールを、下からアクロバティックな姿勢で支える。
今はこうやって共闘してはいるが……まあ、こいつとも間違いなく本気でやり合うことになるだろう。
その時、ジブリールは手心を加えてくれるようなキャラじゃない。
絶対に全力を使ってこちらを叩き潰しに来る。
「ま、いいか」
それはその時だ。
ジブリールとシャルロットが睨み合っているのをよそに、俺は頭を空っぽにする。
予想もつかないことを、アレコレ考えるのは無駄だ。
とりあえず今を楽しもうじゃないか。
「先輩、次は、私が!」
マリアが元気に手を挙げて飛び跳ねる。
当分休む暇はなさそうだ。
そろそろ料理を食べたりしたいんだが。
そして、俺の南アビスでの二年目の生活が始まる。




