やめろ!? プレゼン会場で始まる決戦
……と言うような事があったと言うのを、俺は事後報告でジブリールから聞いたわけだが。
後々、もっと早く聞いておけばよかったと後悔したものである。
というのも、俺が自分の仕事にかかりきりになっていたお陰で、彼女たちがそういった勝負の遺恨を後々に持ち越していたことに気付かなかったからだ。
ざわざわと、会場にざわめきが広がっている。
近隣十三部族の長たちが、取り巻きと共に集まってきているのである。
会場はメクト部族の集落。
この集落は、近年マロ芋の栽培方法を確立し、地域でも最高の食糧自給力を誇る期待の星。乳幼児死亡率も栄養状態が改善したことから低下しており、これからの人口増加が期待されている。
周囲の部族の連中も、メクトが快進撃をしている理由を知りたがっていたことだろう。
だが、部族のプライドとか、ンマドがメクトに戦争を吹っかけて滅ぼされた事件などがあって、なかなか接触してくる踏ん切りがつかなかったらしい。
今回は彼らにとってもいい機会だった。
「ガッコウとはなんだ……?」
ジャメナ部族の長が尋ねてきた。
「いい質問だよ。学校っていうのは、南アビスの天使たちが使ってる、文字とか文明を学ぶ為のものなんだ」
「羽ありどもと同じものを使うのか? 必要ない! わしらジャメナは今まで上手くやってきたのだ!」
髭も真っ白になっているジャメナ族長が鼻息を荒くする。
ちなみにジャメナは、近年の狩猟不調や周辺食用植物の枯死などで、飢饉状態に陥っていた。周辺部族に頭を下げて食料を分けてもらい、なんとか危機を脱したらしい。だが、それでも今年の乳幼児は半分が死んでしまったとか。
「噂は聞いてるけど、将来は自分たちで食料を調達したり、今回みたいな飢饉を避けられるようになるかも」
「な、なに、本当か」
ジャメナ族長が鼻息を荒くした。
「メクトが繁栄してる秘密、知りたいでしょ」
「し、知りたい!」
「よろしい」
俺は外見こそお子様だが、神の子オドマとして周辺集落に知られた存在だ。
しかも、南アビスへ留学している立場と来ている。
背後にはルーサーが控えているが、俺自身のネームバリューも抜群。
「オドマって何気に多芸よね」
「そお? 昔からあんな感じだったけど」
マンサは集落の女たちとともに、一同に飲み物を配って回っていた。
井戸水から塩を取り除く濾過設備を使用したから、この辺りでは珍しい純度の高い真水だ。
これはファミリオンに積まれていた防災セットを活用した形である。分体化して、防災セットもパワーアップしたらしい。時間は掛かったが、水を濾す真水作成キットが何度使っても劣化しない。これは素晴らしい!
部族の連中、まずは土の容器に注がれた真水を飲んで、驚きに呻いた。
「な、なんと混ざり気の無い味の水だ」
「これが神の子オドマが率いるメクトの水……! オニャンコポン様の祝福を感じる……!」
オニャンコポン信仰はそっちまで広がってるのね。
「これも全て、学校による教育の賜物だよ!」
「おおーっ」
とりあえず俺は説明を盛った。
勉強したから水を濾過できるわけじゃないが、少なくともこいつのシステムを理解できるきっかけにはなる。
頭の中で物を考えている段階が、文字化するプロセスで、語彙というものを増やしていけるようになるのだ。
知らない言語で物を考える事はできないし、知らない物を表現する事はできない。
だが、語彙、つまり言葉を多く知っていれば、未知の事柄を表現する言葉を探す事もできるし、ものを考える時ももっと複雑に考えられるようになる。
とっても婉曲な意味で水の濾過にも役立つはずだ。
役立つったら役立つのである。
「それじゃあ、ここに資料を用意したよ。ママン、みんな、粘土板を配って」
「はーい」
ママンが、えっさほいさと粘土板の束をもってやってくる。
後に続くのは、メクト部族の奥様方。
現れたたくさんの女性たちに、各部族の連中がちょっと顔を緩ませる。すけべめ。
あとママンに色目を使うなよ。ころすぞ!!
「おお、なんだ、これは……!」
「おいジャメナの! お前の板とこっちの板で、同じ絵が描いてあるぞ!!」
「なんだこれは……!」
「学校というのを説明する時、絵があったほうがわかりやすいでしょ」
「おお、確かに……!」
アビス初のプレゼン資料である。
俺は、教育と言うものの有用性を彼ら族長連中に語る。
族長と言うのは、権力を持っているばかりでなく、口伝を司る家柄の者たちについで部族の歴史に詳し勝ったり、近隣部族の情報を持っていたりと、集落でも指折りの識者でもあるのだ。
「最初は大人が勉強してもいいと思う。でも、子供のうちの方が身につくので……」
「それは女も学ぶと言う事か?」
「女は集落の中で過ごしているから、危険は少ない。学ぶ必要は無いのではないか?」
「男も女も例外なく勉強です!」
「おおー」
彼らが持っている従来の感覚や概念から大きく離れた論らしく、族長たちは驚愕に目を見開いている。
彼らが別に、女性を蔑視しているわけではない。
役割分担的に、外で仕事をするのが男であり、内で仕事をするのが女と言う感覚を持っている。
学校で学ぶ内容は、彼らにとって男の方が活かしやすい内容だと理解したのだろう。
アビスは男尊女卑というのが無いので、この辺りは分かりやすい。
むしろ南アビスのほうが、西洋的な男女の権利の差があるのではないだろうか。
さあ、あと一押しだ。
「ジブリール、来るよっ! やっぱりあいつ、この機会を狙っていたみたい!」
「うっわ、最低! 今ここで始めたら、すごい犠牲が出るじゃない! 本当に周りのことなんか何も考えてない奴なのね!!」
なんだなんだ。外野がうるさいぞ。
俺の助手をしていた女の子二人が騒がしくなっている。
「ちょっと、静かに……」
「死ねえええええええ!!」
「うおわーっ!?」
たしなめようとした瞬間、集落の囲いをぶっ飛ばして、剣を握った大男が飛び込んできた。
いやあ、弾丸のような勢いである。
俺は反射的に、召喚プロセスを省略してファミリオンの拳を呼び出していた。
硬い金属がぶつかり合う音がする。
「ぬうっ!! 俺の剣で斬れぬとは!? これは偉大なる分体か!!」
「ごめんルーサー、ママン! みんな、おじいちゃんたちを避難させて!」
突然の出来事にパニック状態になる、各部族長と取り巻き達。
特に、血気盛んな取り巻きは部族長を守るために剣を持った男に飛び掛るが、
「ええい、邪魔だ蛮族ども!!」
無造作に剣が振り回され、飛び掛った連中は大変に大変な有様になって飛び散った。
おうおう、人間が触れてはいかん次元の奴だこれー。
「ならば俺も、分体を召喚せねばならんな! ははは! 俺が本気になる事態が来るとは、これは面白い!!」
「ちょっと待ちなさいよ! あんたの相手は私よ!!」
あああああもう! 何がなんだか!!
「ガブリエル、オートローテーション!!」
「バラキエル、抜刀!!」
決闘装置が戦場を形作る。
俺を巻き込んで。
お前らなあああああ!?




