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8 生計の立て方


『ユキ。今買ったF1手榴弾だが、まずは簡単に暴発しないように※ピンの部分を布テープで留めろ。その後は防弾ジャケットのポケットに外から見えるようにしまうんだ』


※ピンを広げなかったのは、そうするとブービートラップに使えなくなるためです。


「ちょっと待ってね。やってみるよ」


 手榴弾の頭の部分へ、慎重に布テープをカットして巻いた。力を入れればテープごとピンを抜けるが、簡単にはピンが抜けないようにナインティーンの指示を聞きながら処置した。


『なぜ、アタイが手榴弾をジャケットのポッケに入れるように指示したのか解るか?』


「直ぐに使えるようにする為じゃないの?」


『勿論、そのためもあるが、こうする事でお前の持つ武器が最低でも二つだと相手に知らせる事が出来るだろう?』


 ナインティーンはナイフを武器と勘定していないのだろうか?


「それで?」


『…………、全くこれだからバブルヘッドは困る。ちっとは考えろ!お前の頭の中には脳味噌じゃなくて空気が詰まってるんじゃないだろうな?』


「ううう~~酷いよ。ちょっと言っただけじゃないか。僕だって解るさ、武器が二つあれば、一つを無効化してもまだ手がある事を相手に示す事が出来る。そうだろ?」


『そうだ。誰だって、手榴弾を抱えた男に舐めた口は利きたくないだろうからな。そいつの有効殺傷半径は三十メートルある。もし敵がお前の近くに居て、且つ一撃でお前を仕留めそこなった時、相手を道ずれに出来る』


「自爆ですか?」


『それが出来る事を、予め示しておくんだよ』


 厳しい世の中だ。

だけど確かに大人から見れば、ひ弱そうに見える僕でも、胸に手榴弾を抱えている限り、チンピラに囲まれてもそれらを一網打尽に出来る。僕も死んじゃうけどね。


「どう?これで良いかな。手榴弾が良く見えるだろ」


『うん、良いな。戦闘力が三割増しに見えるぞ。ついでに貰ったロングマガジンも装弾して、ポーチの中に入れておけ』


 何処の世界に、学ランの上に防弾仕様のジャケットを着て、胸に手榴弾。腰にピストルを下げた中学生がいるだろうか?


「はっ!……此処に居たよ!」


『何を一人でボケているんだ。準備が出来たなら、さっさと酒場に行くぞ』


「もう、待ってよー!」


 町の中心よりも南側の通りにその酒場はあった。


「ああ、なんだか緊張するなぁ。酒場なんて子供が行く場所じゃないし……」


『この世界に子供も大人もあるかよ。もう精通終わってんだろ、お前?だったらその金玉は紛れもなく男の金玉だ!びびって無いで胸張って店の中に入れ!』


「また下品な事を……」


 黒髪ツインテール少女の可愛らしい唇から、汚い言葉が吐き出されるたびに、彼女にはそのゴシックで美しいドレスよりも、オリーブ色を基調とした迷彩服の方が似合うんじゃないかと思ってしまう。


 酒場は通りの一角にあるレンガ作り風の小さな窓がいくつかついた大きな建物だった。まだ外は明るいというのに営業している。まあ、お酒だけじゃなく食事もする所と考えれば別に不思議じゃない。


 木製のドアを開けると右側には、仕切りが有り、その向こうには椅子とテーブルが並べてある。左側は会計とカウンターが一体になった長テーブルと固定された丸椅子が並んでいるのが見える。そしてカウンターの近くの柱と壁に、銃砲店の修三さんが言っていた通り貼り紙が貼ってあった。


 近くで貼り紙を見ようと思うとカウンターに座るのが好都合だ。きっと注文をさせるためにそういう位置に貼っているんだろう。


「おう、此処はガキが来る様な…………場所じゃねえぞ」


 カウンターの中に居る男の人が僕に話しかけて来た。途中、僕の姿を見てから言葉が詰まって声のトーンが下がったのが解る。


 手榴弾の効果があったようだ。


「ちょっと貼り紙を見せてもらいます」


 そう言って、緊張しつつもお店の奥に進む。


「おいおい、注文もしない気かよ?」


 カウンターの中の男の人が愚痴ってきたので、仕事にありつけてお金が入ったら食事に来るよと言っておいた。


『そうそう、あんまり畏まって喋んない方が良いぜ。ユキ』


(うん。精神的に疲れるけどね)


 相手は大人の人で、年上なのだから丁寧な言葉遣いを心掛けるべきだ。それなのに無理して、喋るので頭と体が違和感と悲鳴を上げている。


『さてと……何かよさげな依頼はあるかな?』


 依頼内容は手書きの物もあれば、プリンターで打ち出したものと思われる物もあった。


「ええっと、何々……「東十二地区までの護衛。要内燃式移動手段」「六地区への物資輸送。輸送物資重量二百kg」「本十区門衛及び夜警。必要条件、アサルトライフル持参」……」


『ちっ……条件に合う仕事が無いな』


(此処にに書いてある内燃式移動手段って?)


『車、自動車の事だな。馬やそれ以外の騎獣、徒歩じゃ駄目って事さ』   


(騎獣?)


『騎獣ってのは、馬以外の獣を使った移動手段だ』 


(んん?馬以外の獣?)


『牛やロバ。大型の走鳥の他には地竜や飛竜を手なずけたモノ。アタイが見た事のあるモノの中じゃオオサソリなんてのもあったな……』  


(…………もう、色々と突っ込むのは諦めたよ)


『何だ?……おっ、一つあったぞ。内容は債権回収、条件も特に無い』


(債権回収?)


『要は借金の取立てだ。なになに?斡旋者はここの店主で一旦は、店主に話を通すように書いてあるな。この紙を取り合えず剥がして店員の所に持っていこうぜ』


「そうだね」


 背を伸ばして柱から貼り紙を剥がし、それをカンターの内側に居る男の人の所に持って行った。


「すいません。この仕事を受けたいですけど」


「お前がか?」


 そう言って彼は訝しがりながら貼り紙の内容を見た。


「ああ~~駄目だ。駄目だ。お前にこの仕事は任せられん」


「どうしてですか?其処には特に条件も書いていなかった筈です!」


「おうよ。だがな、俺は斡旋する責任として依頼主に対して、仕事をこなせるに足る人物を紹介する必要がある。俺はお前を信用できん。それが理由だ」


「そんな!?」


「俺は此処で中途半端な仕事は紹介して無ぇつもりだ。支払いが確実に行われそうな仕事だけを貼り出している。仲介料だって取っているしな。だからこそお前みたいな奴には仕事をまかせられん」


「アタ……俺が信用できないってのか!!45(フォーティーファイブ)一つで今日までやってきた俺を!!」


 ナインティーンは僕の口を使って店主に怒鳴った。

そのせいで店の客の注目を一瞬引く。


「おおよ。おそらく、お前さんはこの町に来たばかりだろう?これまでお前の顔を見かけた事が無いからな。そんなお前を信用しろって方が無理だな」


「くっ!!」


 確かに彼の言う通りだ。そもそもナインティーン自身が、信頼関係は時間をかけて築く物だと言っていたじゃないか……


「だがよ。一つチャンスをやっても良いぜ」


「チャンス?」


 なんだろう?


「この町には人族以外の種族が比較的多い。だからそこそこマナグッズの需要が高いんだ」  


「それで?」


「この町のマナグッズ屋……レイラって奴がやってる店が魔石を集めてる。この店にも時々客としてくる顔馴染みだ。そこに幾らか魔石もしくはマナアイテムを納品しな。そうだな……自前でライフルを調達出来る程度、三百ドルいや……五百ドル分だ。もし、それが出来れば俺はお前を信用してやるし、仕事も斡旋してやる」


「…………」


『こいつ!』


「ふんっ。出来ねぇか?まあそうだろうな。五百ドル分といえばかなりのモンスターを狩らなきゃならねえだろうし」


「解りました。その話忘れないで下さいね。それと魔石の納品は一括じゃなくても良いでしょう」


「ほう。やる気か?そうだな。納品は少しずつで構わねえさ。レイラの奴には今の話をしておいてやる。お前、名前は?」


「ユキと言います」


「ユキか……まあせいぜい頑張りな。それと用が済んだのなら出て行くんだな。ここは酒と食事を楽しむ所だからな」


   ・

   ・

   ・


 僕とナインティーンは酒場を出た後、とぼとぼと通りを歩いていた。


「はぁ……世知辛い世の中だね」


 自分で呑んだとはいえ、五百ドルといえばグール換算でひのふのみの……六十匹以上のグールを狩らなきゃいけない。しかもこの前のグールはナインティーンがやっつけたのに。


『だが、方針は立ったじゃないか?あの糞オヤジめ、アタイの事を馬鹿にしやがって目に物見せてやる!』


「でも、あの人。ただ僕を追い払うんじゃ無くて、道を残してくれたよね」


『あほか!相手には全くリスクが無い上で、あいつの知り合いの助けをさせられる羽目になってんだ』


「まあ、そうかもしれないけど……」


『全く、ユキは考え方がお人よし過ぎる!!この世界は持ちつ持たれつでも、その中身は決して甘くないってことを直ぐに忘れやがる。お前が、モンスターに食われたって、あの店主には痛くも痒くもないんだからな!』

   

 プンプンと目の前の少女は怒って、その長い尻尾のような髪を揺らし、地団駄を踏んだ。

   



五百ドルに設定したのはそれ以下の価格だと、現実の世界で購入できるのが.22LR(豆鉄砲)程度のライフルだからだと思ったからです。.22LRは銃弾の中でも沢山の人の命を奪っている弾丸ですがモンスター相手には役に立たないでしょう。


でもサビサビのG3のコピーやAK47のコピーなら手に入るかもしれません。

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