8日目 不思議な1日
「あら?」
部屋に入るなり、彼女は冷たい表情に驚きを浮かべた。
イスに座ってペラペラ雑誌を読んでいた僕は、挨拶代わりに顔を向ける。
「今日はあなただけ?」
「うん」
「ふーん……」
さほど気にした風も無く、彼女は僕の向かいのイスに座った。
僕は読みかけの雑誌に目を戻すと、ペラペラとページをめくった。
「あの人はどうしたの?」
「先輩なら、久々に学食だーって言ってたよ」
「ふうん」
再び会話が止まる。
先輩が居る時と違って、室内にはどこか冷んやりとした空気が流れる。
ペラペアと雑誌をめくる。
う~ん……。やっぱり、シトロエンは昔のデザインの方が好きだな~。
でもレストアしてまで車に乗る根性無いしな~。
レストアと言えば、先月見たあの車は何て名前だろう?
日本の旧車だったけど、やっぱり愛があるんだろうな。真似できないや。
「ねえ」
呼びかけられ、僕は彼女の方を見た。
彼女の手元にも本がある。
少し興味を引かれたが、皮製のカバーに覆われて
本のタイトルは読み取れなかった。
「何?」
「なんでここに居るの?」
「…………」
……割とヒドイ事を聞いてくる奴だな。愛が無いよ愛が。
いきなり僕の存在意義を問いかけられるとは思わなかった。
なんでここに居るのか? ここに居てはいけないのか。
思えば、古い車もそうだ。車なんて走ってなんぼである。
壊れた旧車は捨てられ、新車が買われる。
ああそうだ、僕も思った。あの日、街角であの旧車を見た時。
なんでこんなに古い車があるの? って。
きっとエンジンは何度も修理されているんだろう。
下手をすれば、別の新しいエンジンに入れ替えされているのかもしれない。
そこまで手をかけて、何故古い車にこだわるのか。
それは、愛。愛が無ければ、その車は存在し得ない……。
「ねえ、何で?」
僕の思考をぶつ切りにするかのように、再び彼女は問いかけてきた。
金髪ツインテール。白い肌。青い目。
まるで冷蔵庫のような外見だ。心もきっと冷蔵庫だ。この冷蔵子め。
「愛が欲しい……」
僕は天を仰ぎながら、ぽつりと呟いた。