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ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
33/213

33日目 決戦! その一瞬に火花を散らし



「さあ少年! 準備は出来たかな?」


「うぃ~っす。ばっちこーい!」


長閑(のどか)な公園の一角。

そこに僕と先輩は居た。ジャージ姿で。


「しかし今日はスポーツチャンバラですか。先輩にしてはまともですね」


「たまたまエアーソードが手に入ってね。せっかくだから試してみようかな~って」


僕と先輩は、先輩考案のへんてこスポーツや、一風変わったスポーツを定期的に遊んでいる。

先輩が考案したスポーツは、1回で封印された物や3回目辺りで石像を破壊した物とか、中々危険な物が多い。


今回はスポーツチャンバラ。

それはチャンバラごっこを公式化した珍スポーツである。

空気を入れた柔らかい剣で打ち合うという、子供でも安心して楽しめる物だ。

ウニが突き刺さるバトミントンを考案した先輩とは思えないほど、今日のスポーツはまともだ。


スッと、先輩がエアーソードを構える。

正眼の構え。剣先が重力に負けてわずかに垂れ下がる。

……うん、安心だ! これなら当たっても痛くないでしょ。




ツンとした空気が辺りに満ちる。

静寂と殺気。相反する2つの気配が、空間を支配していく。




先輩は正眼に構えた剣を、少し斜めに傾けた。

まるで1本の柱になったかのように背筋を伸ばしながら、悠然と構えている。

それに対し、僕は少し猫背気味になりながら腰を落とした構えだ。

ジリジリと靴底の位置を変える。


相手に打ち込む為の的確な位置は刻々と変わり、僕はそれを無言で探り続けた。

先輩は動かない。泰然自若(たいぜんじじゃく)とした先輩の立ち姿が、何故かいつもより大きく見える。

一筋の汗が、僕のこめかみを流れた。


目の前に先輩が迫っていた。


「――――――――!!」


一体いつ動いたのか。

先輩の接近に全く気付けなかった僕は、愕然とした。

もはや先輩の射程に(とら)えられているだろう僕は、避けることだけを考える。

先輩の剣はどこだ――見えない! 先輩の剣が見えないよ!? ナニコレどんな奥義!?


一切――受ける事も何も考えず、僕は大きく飛び退いた。

見えない位置から振り下ろされた先輩の剣が、僕の腕を(かす)っていく。

ぶわっと全身の気が総毛立(そうけだ)つような恐怖を感じながら、僕は後ずさった。

追撃する気は無いのだろう。先輩は再び正眼の構えに戻っている。


「今の一撃を避けるとは……やるわね!」


「ちょ、何ですか今の! 剣が見えなかったんですけど!」


「ふふ。剣の極意とは――剣の(かげ)となり、剣と1つになることよ!」


エアーソードと融合を果たそうとする先輩。

何て恐ろしい人なんだ、僕は改めて先輩に恐怖を感じる。


ふと違和感に気付いた僕は、先輩の剣が(かす)った所を見た。

薄皮が切れ、血が流れていた。


「お……おおおおおおお!?」


安全じゃない!

全然安全じゃないよこれ!


「た、タイム!」


大慌てでタイムを叫ぶ僕。

このまま試合を続けると、僕の体がどうなるか分らない!

ほえ? と言った表情で構えを崩す先輩に、僕は切れた腕を見せた。


「ヤバイっすよ、僕の腕切れてるじゃないですか」


「あれぇ? どっかで転んだの? 間抜けだな~」


「先輩に斬られたんですよ! さっきの一撃で!」


「うぷぷ。こんな剣で切れるわけないじゃんバカだなあ」


エアーソードの先端をぷにぷに押しながら先輩が言う。


ぐぬぬ。

その言い方だと、まるで僕の肌がデリケートなだけみたいじゃないか!

全く僕の話を信じない先輩に、僕は悔しさをこめて拳を握り締めた。


「いいですよ! なら尋常(じんじょう)に勝負です!」


悔しさからヤケクソになった僕は声高に叫んだ。

やってやろうじゃないか! 僕の肌は弱くない!


エアソードで人体を斬る天外魔境ガールが、僕の前で静かに剣を構える。

……隙が無い! 僕が勝つ未来が全く想像できない!

ちくしょう、何で僕はこんな化物(ばけもの)相手に戦っているんだ!?

後悔先に立たず、か。僕は緊張に高鳴る心臓を誤魔化すように剣を構えた。




凛とした空気が静かに広がっていく。

後悔と絶望。連続する感情が、僕を支配していく。




――負ける。

負けるというか、折れる。僕の骨が。

確信にも似た思いが脳裏に広がる。


ジリジリと後ずさる僕の足。

くっ、知らず知らずの内に体が逃げようとする!

僕は知っている。逃げようとして体が泳ぐ瞬間こそ、もっとも危険なのだと。

だから必死に自制心を掻き集め、僕はその場に踏み(とど)まった。


先輩はじっと構えている。

何の恐れも無い瞳。

その場の静寂を破るように、先輩が淡い色の唇を開いた。


「いくよ」


その短い一言から始まった瞬間は、僕にはとてつもなく長い物となった。

コマ落としのような速さで先輩が僕に迫る。

その剣は――やはり、見えない。

だが僕は確信している。先輩は必ず致命打を放ってくるだろう。


直感だ。直感を信じろ――!

見えない剣を避ける為、僕は五感を研ぎ澄ませる。

……あれ? そう言えばこの前、直感を信じたけど外れたなあ。

この土壇場になって僕はそれを思い出してしまった。


「うおりゃあぁぁ!!」


僕は咄嗟(とっさ)に剣を手放し、先輩の足元にタックルを仕掛けた。

幸いな事に、先輩は打ち下ろしでは無く剣を()いで来たようだ。

身を屈めた僕の上を、先輩の放った鋭い剣閃が通り抜けた。


「うわぁ! 反則! 反則だよ!」


「折られたくないんだ! 僕はあああ!!」


足を取られ転倒する先輩と、泣きながら先輩の足にしがみ付く僕。

決死の攻防が始まった瞬間だった。





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