表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴリラ先輩ラーメン子  作者: 彩女好き
いつもの三人編
PR
32/213

32日目 出会いは突然に



「あ、先輩だ」


廊下を歩いていた僕は、前方に先輩の後姿(うしろすがた)を見つけた。

先輩の後姿を見ていた僕は、ふと思った。

1流の武道家は殺気を感じ取れるという。

果たして先輩にそれは可能だろうか? と。


先日僕は、己の直感を信じた事がある。

直感で気配を感じ取れる……と信じていたのだが、やはり不可能だった。

だがしかし、先輩であれば?

先輩であれば、謎の力を持っているのでは無いか?


そろりそろり、と後ろから先輩に近付く僕。

目標まであと3メートル。

振り返るなよ、振り返るなよ……!

あと1メートル。これは……やれる!


「えい!」


「痛っ!」


僕の振り下ろしたチョップが、何の抵抗も無く先輩の頭に当たる。

むむむ。あるいは、と期待してみたが、やはり先輩にもシックスセンスは無かったか。

やや残念な気持ちになる僕。

僕に打たれた頭をさすりながら、先輩が振り返ってくる。


…………。

あれ? 誰だこの人?


僕の背筋にぶわっと冷や汗が流れる。

振り返ったその人の顔は、先輩とは全然違っていた。

後姿(うしろすがた)だけ見て先輩だと思い込んでいたけど、全くの別人だったのだ。

つまり僕は、知らない人に後ろからチョップを()びせてしまった――。


「えっ? えっ? 何?」


見知らぬ人が困惑している。

そりゃそうだ。誰だって困惑するし僕だって困惑してる。

……マジでどうしよう!?

諦めるか? いや頑張れ僕、何とか挽回(ばんかい)は出来るはずだ!


周囲の人が僕らに注目している気がする。

その事に気付いた僕は、一瞬で覚悟を決めた。


「久しぶりですね!」


見知らぬ人にチョップしたのが問題なら、知り合いになればいいじゃない。

かのフランス王妃も言ったような気がする名言。僕はそれを全力で実行する。

名付けて『あれ? 僕の事忘れちゃいました?』作戦。


「えっ? えっ?」


「あ、あれ? 僕の事忘れちゃいましたか?」


僕は心底悲しそうに見える表情を作った。

忘れたも何も、この人と僕が出会ったのは今この瞬間である。

だがしかし、僕が全力で知り合いのフリをしたらどうだろうか?

相手はきっとこう思うはずだ。「あれ? 知り合いだったけ?」と。


「えーっと……?」


目の前の女性が、必死に僕の事を思い出そうとしている。

だがしかしそんな事は不可能だ。

だからこそ相手が困惑している内に、会話の主導権を握る――!


「すみません。あんまり親しく無いのに、馴れ馴れしかったですね……」


そっと傷付いた表情を作る。

見知らぬ人の顔に、罪悪感が走るのが見えた。


すみません、本当に悪いのは完全に僕です!

だけど僕は止めない。止められない。全力で知り合いのフリを続ける。

相手が何も言えないのを察すると、僕はそこで一気に逃げ出す事を決める。


「それじゃ、失礼します」


傷付いた顔を隠すように――僕は、ダッと駆け抜けようとした。

ここを抜け切れば僕の勝ちだ!

やった! やったよ先輩! 僕はこの危機的な状況から生還出来るんだ――!

感動に打ち震えそうになる心を抑えながら、僕は躍動する。


まさに駆け抜けようとするその一瞬だった。

逃げ出すのを阻止するかのように、僕の手がガシッと握り締められる。

ギギギ、と後ろを振り返る僕。

そこには、僕が振り切ろうとした見知らぬ女性が居た。


「ご、ごめんなさい。ちょっと待ってね。絶対に思い出すから」


なん……だと……?

まさかここまで信じ込んでしまうとは。

重ねて言うけど、彼女が僕の事を思い出すのは物理的に不可能なのだ。

だって出会ったのは今この瞬間なんだもの!


予期せぬ展開。終わらないピンチ。

僕の背筋にダクダクと冷や汗が流れる。

くっ、やってやろうじゃないか。

僕はどんな展開も乗り切ってみせる――!


新たな覚悟を決めた僕の目に、思い悩む女性の姿が映る。

さあ、どんな事になるんだ?

僕が知り合いで無いと気付くのか? それとも――。

様々な展開を予想しつつ、僕は彼女の言葉を待った。


「あなたは確か――」


薄い桃色の唇が開く。

ゆっくりと噛み締めるように、その人は言った。


「プラネタリウムの中で、『大人に騙されるな!』って叫んでた人?」


…………。


違う意味で、僕の背筋に冷や汗が流れる。

何故だ!? 何故この人がそれを知っているんだ!?

それは、封印したはずの僕の黒歴史じゃないか!


逃れえぬ過去の出来事に、僕は身震いを覚えるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ