プロローグ
しばらく起承転結の「起」が続きます。
『──さて、今月の八月十五日、魔王陛下がこの国を統治し百年という節目を迎えようとしています』
朝七時過ぎ。トーストした一枚の食パンの上にバターを溶かし、それをひとくち頬張りつつ、まだ眠気の残る頭で、テレビのニュースを聞き流す。
『百年というおめでたい節目にあたり、今年の魔王祭は規模を大幅に拡大させ盛大に催されるとのこと』
完全には覚めきっていない意識の中、蛙頭のニュースキャスターが読み上げる原稿は半分ほどしか頭に入っていないが、少々感情を昂らせつつ読まれる、魔王君臨百周年という中々大きなニュースには自然と画面に見入るだけの興味はあった。
「結構経つんだな、この国」
映し出されるニュース画面には、昨年行われた魔王祭の様子とともに当日まで明かされることのない、本年の祭りスケジュールの考察が各コメンテイター達によりなされている。
『うーむ、まず前提として皆さんの共通認識にあるのは、毎年恒例とされている"騎竜パレード"が確実であるということでしょうな』
蜥蜴頭の男が顎に生えた筆のような髭を撫でつつコメントする。
『それは言わずもがなでしょう、注目されるのはやはり"近衛騎士団"がこの祭りに姿を表すかどうか』
『いやぁまずないでしょうねぇ、彼等は文字通り魔王陛下の親衛……他国に狙われ続ける陛下を常にお護りするのが何よりも優先されるわけですから』
異形の頭を持つ人物たちがそれぞれの持論を述べ、正直なところ益のない時間潰しが流れる。
年に一度行われる魔王祭。それは魔族の王が人間の国であったそれを捻り潰し、魔族の国として上書きした栄光を祝した催し。支配者である魔族にとって待ち望まれるものであり、支配下に置かれた人間にとってはまあ言うまでもないことだろう。
この国での人間の扱いは、魔族に支配された他国と比べ比較的マシであり、故に人間はそんな境遇に感謝こそすれ反感の感情は抱かざるべきなのだ。
というのが多くの魔族の考えであり、それを受け入れられない人間の価値観との乖離が百年経った今でも、両者が手を取り合えていない要因のひとつとなっている。
ちなみに人間である俺は、負け犬として腹を見せ、尻尾を振って媚びへつらっている。長い物には巻かれろの精神で生きた方がこの国では楽なのである。
「そもそも魔王が顔出すって考えはハナから無いわけね」
もぐもぐとトーストを咀嚼しながら、俺も画面越しにコメントを適当に呟き参加する。
と、同じくそんな感想を持ったか否か、同じ疑問をキャスターが口にした。
そんな問いに他一同がいやいやと首を横に振る様子は、如何にそれが愚問であるかを言外に示していた。
『それ程までに否定される理由をお伺いしても?』
希望を捨てきれないキャスターが食い下がるように問う。
『そもそも陛下が一度たりとも魔王祭にご参加賜われたことはありましたかね』
つまりは無い。と鶏頭の男が否定の言を述べる。
『百周年ですし、もしかしたらと……』
『いやいや、たとえ陛下がお越しくださったとして万が一のことがあればそれどころではないでしょうに』
尚も言い募るキャスターに、呆れた様子で蜥蜴頭の男が言うまでもないことをあえて説明するように口にする。
そこで『そもそもの話』と、さらに別のコメンテイターが話を繋ぐ。
『陛下は城内での活動が常。おもてに赴くことは特殊な例外を含め皆無であり、魔王祭が幾ら陛下の冠を呈する催し事とはいえ例外には含まれないように、節目の年であってもそれが覆ることはないでしょう』
少し考えればわかるというか、もはや常識であることを今更のように丁寧に解説する猫頭の女は少し面白がるように目を細める。
『承知の通り、陛下のご安全が何よりも優先されなければならないのですから』
『いやはや、失礼しました……えー、では次のニュースです』
遺憾の念を隠しきれないようなキャスターと共に、俺の呟きは思ったよりボコボコに凹まされた。直接否定の言葉を浴びせられた彼には同情する。
心痛の身代わりとなってくれたキャスターに感謝することは無く、定刻が近づいてきたことを確認した俺は片付けを済ませつつ、効果控えめの眠気覚ましをクイっと煽る。
「うし、行くか」
粗方眠気も覚め、いい具合のコンディションに持ち込めば今日という一日の始まりだ。
玄関の扉を開け、誰も残らない部屋に「いってきます」を言うことはなく、鍵を閉め、今日も仕事へと向かう。
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人間と魔族が存在する世界。過去から現在に至るまで両種族の争いは続き、俺が住むこの国では魔族が頂点に立ち、人間という種族は敗北者として魔族様の靴をべろべろと舐めり散らかしている。
先程テレビに映っていたのが異形の頭を持つ彼等のみだったように、この国の主役はとうの昔に人間と入れ替わっている。
そんな国でほどほどの生活を保証された、人間、否、ヒト畜生としての俺は、 魔族様の繁栄のため誠心誠意、御種族様に微力ながら貢献させていただいている。それに加えなんと物資を購入するための資金も頂いていると言うのであれば、感謝の言葉だけで済ませるなど不敬ですらある。行動で還元せねばなるまい。
決して余るほどとは言えないが必要に足るお金を頂くため、俺は今日も今日とて働くのである。
そろそろ途絶えてる別作品の更新もやらないとな、むむむ、、、




