24層 終局?
ショウゴとミシェンナが暴れ回っているその背後、命からがら逃げ延びたアスラが、熱のこもった視線でミシェンナを見つめていた。
「殿下…苛烈だが可憐だ…美しい……!」
彼のつぶやきは、爆炎と粉塵にかき消され、誰にも届くことはなかった。
どうも、後ろでへたり込んでいる男は、動きそうもない。恍惚とした表情で、ミシェンナが戦っているのを見ているようだった。まあ正直邪魔だ。ちょっとでも攻撃の余波が行こうものなら、彼も眼前の魔物同様弾け飛ぶことになるだろう。
「それは避けないと…聖女に………あぁ、サブイボ立ってきた」
「何をゴニョゴニョ言っている!集中しろ!」
言ってる間にも、うなりの質量はみるみる減っていく。先ほどまで大型の魔物がうねりの中核を作っていたのが、今やゴブリンやコボルトといった小型の魔物が主体で、ちらほら中型がいるというふうに移っていた。
あとは消化試合。そう思っていた矢先だった。
「なっ!ぐあっ!」
ミシェンナが、大きく吹き飛ばされた。しかも、その飛んでいった方がまずかった。魔物の群れの、ちょうど真ん中である。
「くっ、やめ…ぐほっ…ぎっあっ…」
「ミシェンナっ!」
ゴブリンやコボルト、それ単体はそこまで強くないとしても、数が揃えばかなりの脅威である。
「ちっ!まにあえっ!」
すぐさま、ミシェンナを群れから救い上げる。が、その肢体は血まみれで、およそ無事などではないことは明白だ。
「意識はあるか、ミシェンナ!」
「ああ…すまない………ぐっ……油断した」
「俺たちに気取られずに背後取れるとか、どんなバケモンだよ」
「…ありがとう」
「礼は後!今はこれ飲んで安静に!」
ミシェンナに、スキルで作った回復薬を飲ませる。出血と、大きな打撲はなんとか治した。
「あら、殺せませんでしたか…残念です」
すぐ横から、心底愉快そうな声が届いた。俺はミシェンナを抱えながら横っ飛びする。
「気色悪い見た目しやがって…魔族か?」
「いかにも。というか、貴方も魔族でしょうに、なぜ人間の肩入れをなさるので?」
「俺の勝手だろ」
「解せませんねぇ…まあいいです。死んでください」
鋭い爪が、コンマ1秒で眼前に迫った。半身を翻し、なんとか躱す。すれ違いざまに、拳を腹に叩き込んだ。
「ごあっ…!なかなかやりますねぇ」
「お前も容赦ない攻撃してきやがって」
その後、数秒、お互いに距離をとって様子を見る。先に動いたのは、相手だった。両手の爪を思い切り振り上げ、俺に向かってくる。その速度は、先ほどよりも数段速く思えた。
だが、動きが直線的すぎる。俺の拳がちょうど、やつの真ん中を捉えた。体が、文字通り裏返る。
「なにっ…気配の遮断は…動きの起こりの遮断は完璧だったはず……!」
「甘い。俺の動体視力舐めんな!」
鋭い断末魔をあげ、魔族は斃れた。危ない、ことはなかったが、素早さはピカイチだった。会費もかなりギリギリになってしまった。
ふと周りを見ると、溢れかえっていた魔物たちがぞろぞろと散っていき、やがて一匹もいなくなった。
「ミシェンナ…大丈夫か」
周りの安全を確認したのち、草原に寝かせていたミシェンナの様子を見る。流石に疲れとダメージが出たらしく、意識を失っていた。
「…おつかれ。一回連れ帰るか、流石に」
「待ちなさい!ミシェンナ殿下を、どこに連れていくおつもりですか!」
自身の洞にミシェンナを連れ帰ろうとした時、背後から声がかかる。聖女だった。
面倒臭いというのが正直な意見だが、答えないのも違う。俺は先ほどと同じように、ブリキの人形のように振り返った。
「聖女サマ…ども」
「どこに連れていくのですか?はっ…!まさか、無理やり…!!そんなこと絶対に許しません!滅びなさい!」
「やばいやばいやばいいいいああああっ!」
弁明くらいさせて欲しいものである。が、あの状態の聖女に何をいっても無駄なのはもう分かっている。なのでおれは、逃げるが勝ちと、家にいそいだ。ミシェンナを連れて。
聖女は根性で撒きました。




