幕間
聖女さんの過去とお名前解禁です
聖女リリシーラは、孤児であった。とある村に生まれ、ごく平凡な少女として、平和を享受していた。が、それも長くは続かない。
「魔族が出たぞ!」
そう、魔族の強襲に遭ったのだ。それに対し、彼女はあまりに無力で、あまりに非力だった。
村の人々はなす術なく殺され、家屋は薙ぎ倒され、畑は焼かれる。地獄のような様相。それを前に彼女は蹲ることしかできなかった。
「やめろっ!この子だけは助けっ…」
「あなたっ!いやあああっ!」
無情に響く両親の断末魔。それはリリシーラの恐怖を限界のその先へと押し進めるのに十分なものだった。
失禁、号泣。もう誰も頼れない、自分は一人なんだ、そういう絶望が、彼女を押しつぶしていく。
「そこのガキが最後か、まあ、せめてもの情けだ。一思いにやってやろう」
魔族の振るった凶刃が、リリシーラの命を刈り取る一歩手前。乾いた金属音と共に、その刃が弾かれた。
「待ちな!その子をやりたきゃ、オレのタマ取ってからにするんだね!」
「…聖女か」
彼女の前に現れたのは、当時の聖女、メイヴェラその人だった。聖女は、基本支援が主になるが、彼女は違う。大人の男ほどもあるメイスを軽々振り回し、全線を飛び回る専ら戦闘職。
引き締まった肉体は、見るもの全てを魅了する圧倒的な美を醸し出していた。
「あんた、立てるかい?」
「は、はい!」
「よし!じゃあ、離れてな。オレが今から、あのクソ野郎をぶち殺してやるから!」
メイヴァラは、ニカッという効果音が聞こえてきそうな笑顔を、リリシーラに向けた。その笑顔は、リリシーラの心を軽くすると同時に、内に巣食っていた恐怖を根っからとまではいかずとも取り除いた。
「さぁて、魔族サン?名前を聞こうか?」
「ふん、今から死に絶える貴様に、名前を名乗る必要があるのか?」
「はっはっはっ!なにを勘違いしている?今から死ぬのはオレじゃなくて、お前だっ!」
直後、メイヴェラの姿が掻き消え、魔族の背後に現れる。そして、もはや追うことのできない高速でメイスが振り下ろされた。だがそれを、魔族はいとも簡単に短剣で受け止める。
「おいおいマジか!今の受け止めんのかよ!」
「人の身にしてはなかなかの攻撃だ。だが…ふんっ!」
「があっ!」
メイヴェラの肩から鮮血が吹き上がった。
「聖女といえどこの程度。非力だな」
「うっせー…そういうのはきちんと息の根を止めてから言うもんだろ」
刹那、魔族の姿がぼやけた。そして…メイヴェラの頭を鷲掴みにしていた。
「操呪法」
唱えた直後、黒い靄がメイヴェラの頭へと吸い込まれていく。
「うぁっ…やめっ…抵抗…が……できない………」
暫くして、メイヴェラは微動だにしなくなった。
「うそ…メイ…ヴェラ……様………?」
唯一の希望であった聖女が目の前で破れ去り、彼女の心は再び恐怖と絶望が支配した。
「聖女だからか、かなり時間を食ったな…ふむ、よく見るといい体だ。貴様は私の嫁にしてやる」
「はい…ありがとう…ございます……」
「む…騎士どもか。まあ、本来の目的は果たした。おい、帰るぞ」
そう言ってメイヴェラの腰を抱く魔族。黒い霧のようなものを出現させたかと思うと、そのままその中へと歩を進めようとした、その時だった。
メイヴェラの手がかすかに動き、光の球がリリシーラに向かって飛び出した。それがリリシーラに入ると、確かに何かの枷を外してくれたように思えた。
その後、魔族とメイヴェラの姿が完全になくなると、糸が切れたようにリリシーラは気を失った。
戦場に向けて落下しながら、彼女は昔を見た。魔族は彼女にとって不倶戴天の敵である。
ミシェンナの隣で暴れ回っている魔族も、おかしくはあるが例外ではない…そう思っていたし、そう思っている。魔族は魔族なのだ。あのおかしな魔族も、いずれは我々に牙を向くだろう。
「悪い癖ですね、考えすぎは。今は魔物に集中…滅魔祝福の慈雨!!!」
こうして聖女側の戦いは幕を開けた。




