第69節 ベルンハルトの大胆な仮説
これで、ほぼ、具足は完成のようです。
最近、岡崎体育さんの曲、『なにをやってもあかんわ』聴いてます。いいですよ。
なにか、自分を含めて周りの人々の感覚に近いんじゃないでしょうか。この閉塞感ってどこから来てるでしょうか。
「悪者く~ん、あ、いや、使徒さまぁ~、ここで会うとは、ラッキーよね・・・」
クラウディアさんが、ニコニコしながら近づいてきた。獲物を見つけた猛獣感がすごくあるんですけど・・・僕はひるまず、返事した。どうせ、鋼鉄剣を探せってわかってるしね。
「え?ラッキーって、どうしてですか?」
「うふふふ、私がラッキーなのよ。ねねねね、お願い、私のために、鋼鉄の剣を拾ってきてちょうだい」
「え?なんのことだか、全然わからないのですが・・・」すこし、しらばっくれようっと。
クラウディアさんは、じれったい感じで応えた。
「困っているの。ほら、この間、使徒様をお守りするために、沢山矢を放ったでしょう?でね、使った矢を、兵士さん達に、回収してもらったんだけど、傷みがひどくて使えないのよ。それに、キモいでしょ・・・ふつうの死体じゃないから・・・変な病気もらったら嫌じゃない。
今ね、ヘルマンさんに頼んで、古い矢じりを溶かして作ってもらうことにしたんだけど、鍛冶屋さんが造れるのは、矢じりだけなのよ。それでね。シャフトとかヴェーンは、昔からため込んであるから、あるの。でもね、矢じり用の鋼鉄がないのよ。
あ、言うの忘れてたけど、今度、弓を新調して、長いのにするのよ。だから、すこし、矢のバランスが変わるから、新しくするの・・・ほら、迷宮とか鉱山だけじゃなくて、外での戦いがあるわけだから、生き残るためにも、進化するのよ」
「へ~、凄いですね・・・ていうか、ヴェーンってなんですか?」
「ああ、ここよ」
クラウディアさんは矢の根元の鳥の羽のところを指差した。
「ほらほら、見て・・・折れちゃったりとか、羽がしなしなになってしまってたりとか、もう可哀想でしょう?でね、前から長い弓に変えようと思ってたから、変えるのよ・・・
矢じりも細くするのよ。射抜くのは致命傷のところだから、抜けなくて苦しむとか、傷を深くする必要はないのよ・・・私の場合はね・・・矢はバランスが大切だから、早めに作って置かないとなの。なんかあったら、私が使徒様を弓で守るんだから、それぐらい協力してくれるでしょう?」
正直なところ、そこまで計画しているとは思ってなかったよ。確かに、変わらないと生き残れないよね・・・僕もそうだ。変化し、進化しないと、敵の手段だって変化し、進化しているんだもん。
僕は、クラウディアさんを見上げて、ニコって笑って、やりますと答えた。
「ねねねね、今夜さ、ヘルマンさんちで、私がご飯つくるのよ。よかったら食べていかない?」
「え?いいんですか?いきます。いきます!」
・・・僕は食べ物には弱いんだ・・・食べられなくて死ぬよりは、食べて苦労したほうがいいよ。
クラウディアさんは、夕方までに、色々とやることがあるらしいので、僕は解放された。なんかメニューをこれから考えるらしい。心配になってきた。期待しないことにしよう。まぁ、食べないよりはマシだと思うけどね。そう、僕の目的は生き延びることだ。栄養さえあればいいのよね。
ヘルマンさんに、まずはどんなのを集めればいいのか訊いてみるかな。僕は、すすすすっとヘルマンさに近寄っていった。ヘルマンさんはすぐに僕に気づいた。
「おー、坊主、あ、その、なんだっけ。そうだ、使徒様だ。何か用か?」
「クラウディアさんから、鋼鉄剣をドロップしてって言われたのですが、正直言って、なんだかわからないんです。だから教えてください」
「そんなこと言ってたよな。済まんな、えっと、そのアポステル、そう使徒様」
「あと、今夜クラウディアさんが、ヘルマンさんちで、僕に何か食べさせてくれるらしいので、厄介になります。お願いします」
こういう時には、笑顔が大事だよね。僕らニコニコして、気持ちの悪い笑顔を振りまいておいた。
「え?そうなのか・・・まぁいいけど、あいつの料理はすごいぞ。済まねえな・・・巻き込んで・・・ところで、その鋼鉄のことだけど、最近、こういうのが持ち込まれるから、似たようなのがあったら持ってきてくれ」そう言って、折れた両手剣を見せてくれた。
あれ、これ、ツヴァイヘンダーだけど、見たことがあるぞ。僕が変な顔をしていたら、ヘルマンさんが、教えてくれた。
「この前、カールが持ってきたんだよ。直せるかって訊かれてな・・・こういう鋼鉄の剣も、使いこむと、地金自体が弱くなっちまうところがあって、そうなると、溶かして刀身をつけ直すんだが、他にも弱っているところがあると、また折れるんだよ。でも全部溶かしたら、他の剣の原料になるからな。貰ったんだよ。まぁ、こんなの集めてくれ」
「うは、これは骸骨が持っていた剣でしょ。そう頻繁には手に入らないと思うけど、頑張ります」
困ったぞ。鋼鉄かぁ。軟鉄じゃなく鋼鉄だよね。見てもわからないよ。鋳鉄というのもあるんだよね・・・
「無理しなくていいぞ、足りない分の材料は、帝国から買うから」
え? なんだ、そうなのか。お金の問題でもあるのか。でも、それが一番大変だよね。
僕はヘルマンさんに挨拶して、今度はレオナルドさんのところに近寄ってみた。
レオナルドさんは、僕に気付くと、ニコニコして挨拶してくれた。
「これは、これは。使徒様。オヤツありますよ」
そう言って、オヤツパンをくれた。僕はお礼を言って、顔を輝かせて、両手で頂いた。なんだか餌付けされているみたいな気もしたけど、まあ、いいや。
「使徒様、いい笑顔ですね。なんだか生活大変らしいですけど、明るいのが一番ですよ」
僕は、パンにかじりつきながら、うんうんって頷いた。すぐにレオナルドさんは、作業に戻って、ちまちま鎖帷子を補修している。あれ、僕、お昼たべたっけ?
カールさん達や砦の兵士さんが普段着ているのと比べると、神聖騎士団のメイルは厚いというか、複雑な組み合わせになっているみたい。ようは、輪っか同士を結びつけているのだけど、その通している数が多いのね。あ、作業が終わったのかな?
「クレメンスさん、コンラートさん、出来ましたよ。着ますか?」
さっきまで、工房の前で、何か磨いていた二人が立ち上がって、近づいてきた。二人は幸せそうだ。鎧下の綿入れを着て、鎖帷子を着せてもらっている。
「どうですか?うーん、いいみたいですよ。じゃ、フル装備着てみますか」
それから、胸当て、肩当て、肘、籠手、腿、膝、脛、足と、どんどんつけていった。うわ、カッコいいな。最後に剣を下げて、盾を持って完成だ。そこに丁度、枢機卿様がやってきた。二人はヘルムを取って、片膝で跪いた。枢機卿様は祝福を与えて言った。
「あー、直ってください。気に入ってもらえただろうか?其方らは、我ら人間の希望の星であるから、堕ちることなく、勝ち続けて欲しい。武運を祈ります」
「ありがとうございます。神聖騎士団員達の遺志を継ぎ、彼等の無念を晴らし、勝ち続け、必ずや人間の大地を取り戻します」
うわ、双子が、こんなに長い、しかもカッコいい格調高い言葉を言うなんて、意外だね。
ぼーっと、その様子を見ていたら、枢機卿様がこっちに気づいてやってきた。僕は跪いて祝福してもらった。枢機卿様は、僕に質問してきた。
「どうだい?記憶の方は?少しは戻ったかい?」
「いえ、全く思い出せないままです。何か強烈な刺激がないと無理じゃないかとか、ブルーノ神父様達に言われていますけど、強烈な刺激だなんて怖いし」
「・・・うむ。そうだな」
枢機卿様は少し考えて、話し出した。
「じゃ、ソフトな刺激をやってみようじゃないか?
教皇庁に残る記録では、君のお父さんは、ハインリヒらしいぞ」
「え?そうなのですか?よくある名前だからか、ピンとこないです・・・」
「うーん、そうか。じゃ、少ない名前でやってみよう。記録によると、君のお母さんは、クニグンデらしい。比較的珍しい名前だろう?
君のお父さんと、お母さんは、大攻勢の直後に神聖騎士団を設立して、地獄に飛び込んでいったのだ。
その時に、二人には、既に3人の子がいてね。一番上のミヒャエルだけが、連れていかれた。クニグンデ様は、すぐにお戻りになるおつもりだったらしい。二人をハインリヒさまのお母様に預けていったが、その時そういっていたらしい。
それに、本来なら、ハインリヒ様は、ローマ皇帝になるお方だったからね。凄く敬虔な方で、だからこそ、騎士団を立ち上げたのだろう。
残念ながらそのまま行方知れずになったがね・・・
そうそう、君がもしもハインリヒ様の息子だとすると180歳ぐらいだろう。おかしい話だね。しかし、地獄では時間の観念が変わるというか、流れ方が遅くなって、しかも何度も繰り返すとも言われている。
あと、ハインリヒ様の残された2人のお子様の子孫が宮宰様の一族だし、公爵様もそうだ」
僕は何だかよくわからないというか、把握できなくて、困惑していた。すると、
「おっと、脱線したな。すまん。思い出せないようだな。忘れてくれ」
「・・・あの、何となくなんですけど、クニグンデ様って何か聞き覚えがあります」
「えっ?・・・そうか、どんな事でもいいから、何か思い出すこととかあるかい?」
「はい、ルクセンブルクという言葉が急に浮かんできました」
「・・・なに?」枢機卿様の顔色が変わったので、まずいことを言ってしまったのだろうか?
「すみません。気のせいかもしれません」
参ったな。枢機卿様がすごい顔で、考え込んでいるみたい。なんかいけないこと言っちゃったのかも・・・枢機卿様は、確信したような、凄い目力で僕を見て言った。
「クニグンデ様は、ルクセンブルク伯の娘なのだ」
え、いま、聞き取れなかった・・・
すると、枢機卿様がもとのポーカーフェイスに戻ってこう言った。
「いや、済まなかった。ありがとう。ちょっと用事があるので失礼するよ」
ベルンハルトは、確信していた。やはり、想像通りだ。普通の常識では考えられないことだが、辻褄があうのだ。まぁ荒唐無稽な話だから、人に話すと笑われるだろう。
ベルンハルトは、そのまま歩いて礼拝堂に向かった。1人になって考えたかったからだ。そして、扉を開け、祭壇前に跪いて、考えはじめた。
まず、あの少年が現れた場所は、城塞都市の西にある、カルワリオの丘だ・・・
あのすぐ前には、断崖絶壁があり、谷底に元のライン川が流れている。ライン川の西は、元々人間の土地だったが、今は荒涼とした荒地だ。草も木も生えていない。まぁ、こちらと同じく断崖絶壁なので、奥の方まではよくわからないが、何しろ向こう岸に渡ったものはいないのだから。
そう、向こう岸は、地獄だ。厳密に言うと、向こう岸の大地の地下が地獄らしい。
ちょうど紀元1,000年に、悪魔軍の大攻勢があり、地上に大量の魔物や悪魔の眷属が出現した。地上を席捲した奴らは、イタリアを落とし、そのまま北上しようとした時に、一夜にしてあの大地溝帯が出現した。
教会博士や学者達は、色んな意見を言ったが、共通していたのは、ライン川の向こう側は地獄に直結しているだろうということと、これから本格的に、地獄の軍団が地上に現れるのではないかということだった。
イタリアから避難したパパ様は、ローマ皇帝を頼った。皇帝は大軍勢を用意しようとしたが、その時に次期皇帝候補のハインリヒが名乗りを上げ、騎士団を率いて地獄に潜入したのだ。正面からの戦いは圧倒的に不利だったから、後方攪乱を狙ったものだったのだろう・・・これが功を奏したと言われているのは、大攻勢が止まったからだ。
そして、かなり深い地獄の階層まで、到達し、結界で囲まれた砦を築いた。その砦が陥落したとしたら・・・まず子供を転移門で逃がすだろう・・・そして、直接地上に短距離で転移させるとすると、土地勘もある、カルワリオが一番あり得る。
そして彼は、悪魔や、野心を持つ者達に万が一捕まった時のために、記憶を一時的に、消されたのだろう・・・まてよ、なにかのキーワードで、記憶が戻る可能性があるな・・・
長男、ミヒャエルさまには、青い痣があったと記録に残っていた。秘術が漏れるのを恐れた可能性もあるな・・・
帰ったら、城塞都市の司教の書いた調書をもう一度読んでみよう。そういえば、城塞都市のドミニクという司祭の話があったようだが・・・該当するものがいなかった。まだまだ沢山の謎が隠されているようだ。
迂闊にはリウドルフィング家の王子が生きていたなどとは言えないからな・・・ハインリヒ様が失踪したことが原因で、ザクセン王は皇帝から下されたのだ。
今の皇帝陛下にも少なからず影響があるだろう。下手をすれば、ザクセン王家の皇帝への返り咲きもありうる。
リウドルフィング家にもあまり言わないほうがいいな。皇帝に返り咲こうなどという野心が生まれても困るぞ・・・なにしろ武力では帝国一のザクセン貴族が控えているからな・・・今、内輪もめしているどころではない。ここの前線は、ザクセン貴族でないと持ちこたえられないほど、熾烈だからな。
ベルンハルトは立ち上がり、礼拝堂を出て行った。
また、寝落ちしました。
最近、というか、ずっと不眠症なんですよ。
宜しくお願いします。




