第16節 逃避行の始まり
主人公は、あちらの世界とは気づいていません。
でもおかしいとは思っているようです。
僕は馬車に揺られていた。途中で眠くなって何度か落ちそうになったが、なんとかこらえていた。今、どのあたりなんだろう。そういえば、車輪刑の男とは、森の中であったような・・・なんかまだ記憶が戻らないな・・・確か街道を西に進むと確か、ヨハネとパウロの村に着くとおもったけど、森もないし、村もないぞ・・・二人は元気かな。兄弟がいるというのはいいなぁ・・・することがないと色んな事を考えちゃう。
かなり遠くまできたようだ。さっきまで、城塞都市の一部が見えていたけど、今は街道と、ところどころの藪が見えているだけだ。すこし上ってきているのかな。
馬車は編隊を組んでいるようで、街道をぞろぞろとまとまって進んでいる。もう日が暮れてきて、肌寒くなってきたころ、十字路に差し掛かり、右に曲がると、低い石壁で囲まれている街に到着した。低いというのは城塞都市と比べての話だ。曲がる前に少し見ただけだったので、よくわからないが、どうやら、門の前で車列が止まったようだ。門があくような音がして、誰か出てきたようだ。何人かの足音が聞こえる。このままだと見つかる。
僕はベンチのようなところを下りて、きょろきょろ見回した。隠れるところがない。そうだ、車体の下だ。
僕は馬車の下に潜り込んで、車軸の上に背中を載せて、車体の下にしがみついた。車軸がむき出しじゃなくてよかったよ。神父様使ってたような小さな馬車じゃ無理だったなぁ・・・今まで気づかなかったけど、車輪もスポークがむき出しじゃなくて、カバーがついてる。装甲馬車なのか?・・・誰かが歩いてきて下を少し覗いたが、気づかれなかったようだ。そのままその人はベンチに足を掛け、幌を開け中身を確認したようだ。僕は息を長く吐いた。
「よーし。いいぞ中にはいれー」
足しか見えないが兵士のような人が大きな声で合図した。
鞭を振るう音がいくつかし、車列が動き出した。
「ふぅ。今日は到着が遅かったな・・・」足だけ見えるひとが側の同僚に話している。
「なんでも、出発前にガーゴイルに襲われたらしいな」
「そうなのか。どうりで遅い筈だ。でもあれって単に結界が破れてないかの悪魔側の確認なんだって話らしいぜ?」
「そうにしか見えないらしい。結界が破れてないなら、怒ってすぐ帰るらしい」
「あいつらも上に言われて毎日来てるんだろうな・・・」
「あはは、手当つかないのにこんな無駄な事させるなよとか言ってるんじゃないか」
二人とも上機嫌で笑いながら馬車の跡についてきている。僕の手足はプルプルしてそろそろ限界だ。あああ落ちる。車列は止まった。その反動でどさっと、僕は落ちてしまった。
やばい・・・火あぶりはやだ・・・
でも気づかれていないようだ。暗くなってきたことが幸いだった。警備の二人はその瞬間に振り返り、門を閉め、太い閂棒を持ち、金具に通していた。
馬車はまだ動かない。ほっとしながらどうしようか悩んだ。
「書類は問題ない。行っていいぞって」
門番の番小屋のような所から御者のような人がでてきて、馬車の横で世間話をしているな御者仲間に声を掛けた。
「やれやれ、今日は散々だったな。早く飯食って寝たいぜ」
「さぁ宿まで一乗りといこうか。明日は鉱山都市だからな・・・もうひと踏ん張りだ」
僕は馬車の車体下の中央で今度は膝を伸ばしてハイハイすることにした。これも辛い。かなり変な感じだが、誰も見てないからいいや。それより早くとまってほしい。そのうち人が多く歩く街中になってきた。そうかこのまま止まって、またベンチに座ろう。今度は後ろ向きにハイハイして、チャンスを伺った。
人気が無くなってきた。いまだ。僕は逆向きハイハイを前向きハイハイに切り替えてから止まった。そのまま車体をやり過ごして、車体を出た瞬間にすくっと立上り、ベンチにつかまり、くるっと回って座った。
よかった誰にも見られてないようだ。足も腕も痛い。手は真っ赤だ。白い服も汚くなっている。一番つらいのは空腹だ。これからどうすればいいのだろう。と考えているうちに、車列が止まった。
僕はさっとベンチから逃れて路地に逃げ込んだ。宿屋から馬丁らしき人が出てきて、馬車から馬を外していく。馬を連れていった。御者たちは、ぞろぞろと入っていった。
宿屋の入り口は食堂になっているらしく、いい匂いがしてくる。うは~拷問だよ。火あぶりよりきつい。僕は路地の暗がりで地面に座って静かにしていたが、お腹から大きな音がした。 ぐうー 今まで聴いたことがないような大きな音だ。
「うふふふ・・・あははは・・・お腹すいたんでしょ?」
暗がりから小さい子の声がしたので、すごく驚いてしまった。
「だ、だ、だれ?」
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