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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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第63節 スタンピードその6

やっとアーデルハイトは、地下牢から出ることができるようです。


ベルタさんは、予定を過ぎても帰ってこなかった。まぁ、一人ではないので、皆安心しているが、城塞都市で何かがあったのかもしれないと心配する人たちもいた。僕も心配で、第2門のあたりをウロウロしていた。寮に帰っても、三段ベッドは結構つらい。自分の部屋が欲しいな。


しかし、夜が完全に訪れたころ、結界馬車が却ってきた。6月は、一年で一番日の入りが遅い時期だから、結構無理したのだろう。砦では、結構、大騒ぎになっている。こんな遅い時間に門をあけることなど前代未聞だったからだ。


正門前で馬車がとまり、御者が馬車の扉をあけると同時に、ベルタが飛び出していった。地下牢に向かったのだろう。そのあとから、のっそりとレオン卿が下りてきた。


「レオン卿、お疲れ様でした」オットー様が労った。

「ベルタが強引でな・・・下の街で泊まろうといったのだが、娘も楽しみにしているのではないかとまで言ったのだが、一気に峠を上ったのだよ」


「娘もだが、馬も可哀想だったな。よく塩を舐めさせてやろう」オットー卿が言った。

「わしが舐めるものは無いのか?」レオン様がなぞかけしている。

「わかった、わかった。卿には、エールを・・・でよいな?」オットー様も苦笑している。



「さて、役者がそろったようだな」暗がりから影のようにブルーノ神父様が現れたので、二人の騎士は驚いた。僕は、暗がりからその様子をうかがっていた。


「神父様は、魔法の使い過ぎで、朝まで起きれないと思っていましたよ」オットー様が笑いながら言った。

「なにがあったのだ?」レオン様が不思議な表情だ。


「いや、炎の使い過ぎで、燃料切れらしい」オットー様が謎めかしていう。

「訳がわからん」レオン様は困惑しているようだ。

「まぁ、後で説明してやる。とりあえず、アーデルハイトのことで会議を開きたい」神父様が言った。

「え、今からですか?」レオン様がすこし不満気味だ。

「エール飲みながらでいいぞ」神父様がニヤリと笑いながら言った。

「うおっほん、いや、いつからでも、いつまででもいいですぞ」レオン様が手のひらを返した。


「とりあえず、食堂兼会議室にいくか」オットー様が言った。


「そこの金色頭のネズミも来るか?」オットー様が暗がりの僕に声を掛けた。おっと、僕は気付かれているのか。

「いや、いいです。もう寝ます」


三人は、会議室に向かった。


地下牢からアーデルハイトを解放したベルタが、遅れて会議室に入ってきて、早速質問した。

「ブルーノ神父様、鑑定結果はどうでしたか?」


ブルーノ神父は、深く疲れた顔をしているが、だんだん元気になってきた。今から話すことを考えて興奮していきているようだ。


「ベルタ、オットー卿、レオン卿も、聴いて驚け。いや~驚いたぞ。まさかこんなことがあるとはな・・・砦に来た時もなんかこう風格があってな。牢屋でもどっしりと構えておって、まるで玉座にいるかのようだったぞ・・・」


「神父様、じらさないで早く教えてください」オットー様が急かす。

「そうだ、そうだ」レオンも追従する。でも手にはエールのジョッキがあるので、ご機嫌だ。


 神父様も、ニヤニヤして嬉しそうだ。目の下の隈はすごいけど。


「ここ数日、忙しかったのだが、昨日、アーデルハイトのところに行って、確かめてきたのだ。

まず、あの指輪はアグネス様のいうとおり、聖性を発露するための道具であった。

それも200年は昔のものだ。あの娘の親指にはめると、不思議なことに、あの赤い石が光るのだ。

 あの石はルビーではなく、伝説の赤スピネルだと思う・・・魔法の力を秘めるといわれる王家の石だ。恐らくあの娘の血に流れる特定のエーデルスブルートに反応して光るように作られているのだろう。


 しかもあの石は加工されておらん。あの八角形のままの形で自然に形成されたもののようだ。削ったあとがないのだよ。おそらく神の意志によるものではないだろうか。誠に不思議なのだ。もしかすると指輪の金の部分に聖性発露装置が組み込まれているかもしれない。とにかく、光るのは、あの娘だけなのだ。


 あの貴石こそ、王冠にふさわしいものだと言えよう」


「では、そのような貴い石を、あの子が持っていたということは?」


「ふふふふ、そうだよな・・・ふつうはそう思う。これは大攻勢のせいなのだと思う。あの指輪には、裏面に刻印があるのだ。後で刻まれたものではなく、表側に刻まれているものと同じ金具で刻印されており、小さな刻印の傷まで一致しておる。また、職人の技がすごくてな、あの有名な鉄の王冠を作った職人を遥かに凌ぐ。そう、数千年前のドワーフの名工のようじゃ」


オットーは、また脱線して話が長くなると思い、口を挟もうと思ったが、意外とそこで話は止まった。


「オットー卿?ブルグンド王国は存じておるよな?」


「はい、神父様、今は悪魔の領地に入ってしまい、荒野になっています。ライン河の西にあったかつてのフランク族の東王国です」


「正解だ。で、ブルグンドの王女で、聖女と呼ばれるアーデルハイトは知っておろう?」


オットーは、思いを巡らしてから答えた。

「もちろん有名ですからね・・・憐れみと慈悲の聖王女とよばれていました。確か、悪い貴族に、塔に幽閉されたが、魔法で逃げ出したとか・・・おとぎ話で聴かされたことがあります」


「正確に言うと魔法ではないのだが・・・聖性を解き放つ聖道具による転移なのだ。そもそも魔法と、聖性の発露は異なる・・・あ、すまん、また長いと言われるな・・・」


「神父様、指輪の内側にはなんと?」レオンがしびれを切らしている。


ブルーノは、その指輪を皆の前に示した。一同驚いている。それほど石は大きく、金の量も多い。滅多に見られないものだ。正に、王家の石であり、王家の指輪のようであった。


「ブルグンド王ルドルフは、女王ベルタとの娘、アーデルハイトに送る。王女は世の終わりまで、この指輪を代々受け継ぐ・・・とな・・・」


「なに・・・」レオンが大きな声を出した。いつの間にか、新しいエールのジョッキを従者から

受け取っており、白い髭をつけている。


「つまり、あのアーデルハイトは、聖王女アーデルハイトの女系子孫なのだよ。アーデルハイトは、ずっとおばあさんのおばあさんから受け継いできたと申しておった。

だれがはめても光らぬあの指輪は・・・あの子がはめる時だけ光るのだ。表の刻印は読んだであろう?赤き石は正統なものにのみ光を与える・・・」


「ということは・・・ブルグンド王女は・・・確か未だにイタリア王の正当な継承権利を持つはずです。勿論、ブルグンド王国も然り」オットーも驚きを隠せない。


「なんか神の意志を感じるのだよ。あの大攻勢に飲まれて滅んだ王国の王女が、ライン河以西のあの地獄から生き残り、しかもこの砦に200年かけて辿り着いたのだ。


そして、悪魔の支配地になり、現在どうなっているのか全く分からぬイタリア王国の正当な継承者でもあるのだ。何故、彼女は、この地にいるのだろう。神のご意志なのか?」


「しかし、ブルグンド王国の土地といってもすでに地獄に飲み込まれ、かたや悪魔に蹂躙されているイタリア王国ですよ。パパ様はイタリアを取り返したくて仕方ないようですが・・・」


「だからなのだよ・・・神の御計画では、我らが人の手にイタリアを取り戻す日が近いのかもしれん。今日ワシは、天の助けを受け、自身の能力を高めることができた。あの少年のお陰だ。アーデルハイトをここに連れてきたのも、あの少年だ。神のご意志を強く感じるのだ。だからこそ・・・」


「だからこそ?」レオンが興味津々だ。


「レオン、お主の目の輝きはいいな。酒を飲んでいるときの卿は、まるで少年のようだぞ。レオン、卿はイタリア王になりたくないか?」


「神父様」オットーが釘を刺した。これ以上の脱線と長い話はやめてほしい。


「いかんな、すぐ脱線する。何が申したいかというと・・・アーデルハイトは今6歳だったよな?」ベルタが頷いた。


「まぁ、15で嫁ぐとして・・・」


「あ、そうか・・・彼女を娶ったものは、王位を・・・」オットーが気づいた。


「そうなのだよ。政治的に利用されてしまう恐れがある。

もともと聖女アーデルハイト様が塔に幽閉されたのも、王位欲しさに自分の息子の嫁にしようとした、イブレーア辺境拍の仕業だったよな。


 あの子には、身分にあった暮らしをさせてやりたいが、本当のことが知られてしまうと、神の御意志である聖なる結婚を悪用する輩に狙われてしまうだろう・・・ゲルマン人の王国は聖なるものであり、正統なゲルマン人の継承者によって統治されるべきだ。


 政争の具になってしまうのは、あの子にとってだけでなく、我らの国にとっても不幸だ・・・


 まだ城塞都市ならあの子を守れるが、帝国の支配地に連れていけば、どうなることやら・・・それこそ悪魔の付け入る隙になろう。まだ戦いは終わっていないのに、人同士が争うことになればかもしれん。それよりも悪いのは、あの子が攫われたり、殺されたりする可能性だってある」


 オットーは、考えていた・・・聖女アーデルハイトは、庇護者となってくれたローマ皇帝のオットー1世と最終的に結婚したのだ・・・同じように、神の後ろ盾を得た相応しい王族のだれかが、イタリア王国を悪魔より取り戻し、そして、アーデルハイトと結ばれ、イタリア国王となるべきだろう。イタリアを取り戻せるような、人望があり、騎士を動かせ、そしてパパ様の信任厚い人物といえば・・・


「アーデルハイトは、ローマ帝国の正統な皇帝と結婚しなければならないでしょう。それが一番神のみ旨に近いのではないでしょうか」


「オットー、皇帝陛下は既に結婚されている。まぁ、息子と結婚させるのが一番いいかもな。

しかし、彼女は孤児だ。財産も持参金もない。後見人が必要だ。そして皇帝と結婚すれとなれば、後見人の力は絶大なものになるだろう。いずれにせよ、彼女の周囲はきな臭くなりやすい」


「これは公爵様のお耳にいれないとまずいですな・・・」オットーが力強く言った。


 ベルタは、ずっと黙って聞いていた。アーデルハイトは幸せになれるのだろうか。彼女の気持ちはどうなのだろう。女はいつも翻弄されると感じていた。しかし、下の街で、女給仕をするよりはいいだろう。でも、好きな人と結ばれないかもしれない。貴族の女はそういうものだと、アグネスが諦めながら呟いたのを聴いたことがある。自分も好きな男と結ばれたが、今は不幸だ。自分の娘だったら、私はどう思い、どの道を勧めるだろうか・・・


「さて、では、この指輪は、アーデルハイトに返そう。そして、担保としているアグネス様の指輪もアグネス様に返してもらう。そして、城塞都市に報告するかどうかは、アーデルハイトの意思も確認したい。悪者君にも意見を聞きたい」神父様が皆に話した。


「少年の意見は必要なのですか?」レオンが訊いた。


「詳しくは言えないが、今日、私とアポロニアは、天の恩恵を受けたのだ・・・少年が天と私を結びつける鍵となってくれた。レオン卿が、エール醸造職人を森の中から得たのも、あの少年がいたからだろう? わしは、天が、あの少年を派遣したのではないかと思っておる・・・すべてが好ましい結果になっているように思えないか?

 オットー卿が、その剣を聖ミカエル様から頂いた時のように、天は我らに働きかけてくださっている。あの聖剣が、あの子の聖波動とすごく共鳴することからも、あの少年は、大天使とも、何らかの関連があるではないだろうか・・・

 飛躍していると言われるのはわかっておるが、すべてを鑑みると、この砦を拠点として、人間の土地を取り戻す新たな戦いが始まるのかもしれぬ。私は、今夜は祈り明かしたい気持ちで一杯なのだ」


 全員が、ブルーノ神父の言葉に頷いた。


お読み頂きましてありがとうございます。

設定では紀元後12世紀のヨーロッパです。そして、1000年ごろに、悪魔の大攻勢ははじまりました。


今も、悪魔の仕業と思われるような事件がよく起りますね。特に、人を誘導し、悪を行わさせるケースが多いです。今日のアメリカのニュースでも、これは絶対関与されているなっていうのがありました。皆さんも気を付けましょうね。

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