第63節 スタンピード その5
今回も、グロテスクな描写があります。苦手な方は、飛ばしてください。
いよいよ鉱山口から、お片付け開始です。正直なところグロイです。自分が兵士なら仮病で休んじゃいます
次の日は、また朝から呼び出された。最近は、奴隷だった森の修道院の人たちと一緒に寝ているので、なんか寝不足気味だ。鉱山街の増築が実現すれば、エール醸造所ができ、元奴隷の人たちもそっちにできる宿舎に移るらしい。でも、それって、相当先だよね。
あ、そうそう、鉱山口の2階は、歩く死体で入れなくなっているから、今僕は、傭兵さんたちの独身寮に奴隷さん達と一緒に泊まっているんだ。三段ベッドで、しかも二人で寝ているから、狭くてしかたない。大人も二人で一つだから大変だよね。
階段を下りていくと、既に、ブルーノ神父様と、アポロニア修道女が並んで立っていた。
なんだかヤル気満々なんだけど・・・僕は挨拶をしてから、二人と一緒に、鉱山口に歩いていった。既にオットー様が鉱山口の吊鉄格子門の前に立っている。
「やぁ、おはよう。諸君。これ、昨日と同じ要領で地道にやるしかないだろうな」
「うむ、どんどん燃やすだけだ。とにかく、死霊術師に隙を与えないようにしないといかんな。とにかくワシは火をつけまくるぞ」ブルーノ神父様、目がやばいです。放火魔みたいです。
カールさん達がやってきたところで、オットー様が作戦というか、今日の作業計画を話し始めた。
「全員揃ったな。アポロニアは、カール達に同行してくれ。あと、聖水を常に携帯し、随所に撒いてほしい。
まずは、ハインリヒの大広間までの最短ルートを開く。既に、第2門の外に、燃やす穴を作ってあるので、片っ端から浮かしてそちらに移動させる。ブルーノ神父様が燃やしてくださる。アポロニア修道女は、参加メンバー全員に精神回復魔法を定期的に頼む。
かなり、見るに堪えない状況なので、精神に変調をきたすものが出てくると思われる。とにかく死体を見ないことだな。しかし、まだ動く死体もあるかもしれないので、カール達は、フックつきのパイクを持って備えてほしい。では、健闘を祈る」
「応!」
まずは、吊り鉄格子門の隣、右側の小さな鉄格子扉から開けた。この扉しか、外に開かない仕組みだ。左側はうち開きなので、死体が邪魔で開かない。扉は壊れておらず、すんなり開いた。ということは、歩く死体達の人間としての知性は、殆ど残ってないということだよね。鉄格子の扉には、みたまんま閂です!っていうのがあるだけだもの。酷い魔法だよね。
さて、オットー様の作戦では、まず僕が死体を浮遊させる。次にフック付パイクで、兵士さん達が臨時火葬場に引っ張っていく。最後は、第2門の外でブルーノ神父様が火をつけるといった手順だ。神父様の火力が想像以上に進化したので、今日は着火マンは一人になった。本人もやる気だ。枯渇するまで使って、限界を突破したいらしい。
ブルーノ神父様がよく話してくださる聖書の話に、タラントの話がある。今日はそれらしい。授かった能力をどんどん磨いて、神様のために使うんだって。真面目だよね。じゃ、僕も一つ磨くとして、浮かしますよ~意気込んで鉄格子ドアの前にたったけど・・・
浮かすためには、まず、見ないとダメなんだよね・・・ゴブリンは小柄だし、緑色だから、気持ち悪いけど、そんなに辛くはなかった。でも、流石に人の死体だから、無理があるよ。目を閉じて死んでほしいよね。あ、すでに死んでいるのだから、どう言えばいいのだろう。
とりあえず、見ないようにしつつ、見て、浮遊を掛けて、あとは運び出されるまで待機して、の繰り返しだ。狭いところに殺到したから、なんか絡みあっていて、浮かない死体もあるし、そうすると、浮かないのだけ、浮かさなければならないし、昨日より作業が大変だった。
最初の時だけ、オットー様が付いていてくれたけど、あとは、一人だ。カールさんが、援護で後ろについていてくれる。この作業は辛いよ。
一番つらかったのは、首がとれちゃった死体さんがいて、浮遊をかけると、首だけがプカプカ浮いたやつだよ。かなり見てるの辛い。この人、目が開いているものだから、さらに怖いんですけど・・・
倒しては少し下がるというカールさんの戦法だったので、鉱山口を過ぎれば、作業は捗ってくるようになった。午前中にハインリヒの大広間まであと少しというところまで来たところで、休憩の指示がでた。
「これからお昼だ。鉱山口の2階に食事を用意した。交替で食事してくれ。見張りは気を抜かないように」オットー様がそういったが、だれも食べようとしないで、先に見張りをするという。
まぁ、食欲なくなるよね。アポロニアさんに精神回復魔法をかけてもらって、何人かが2階に上がっていった。アポロニアさんだけは、自分にかけないで、ニコニコしながら喜んで自ら上がっていった。さすが死体には慣れているのね。それだけでなく、悪魔に蹂躙された体を取り戻し、再び悪用されないようにするって聖なる仕事なんだよね。だから使命感に満ち溢れているのね・・・僕は、後番で、最後にスープをすこしだけ食べた。
作業開始まで、横になって、目を閉じて休んだ。魔力を回復させないとね。
「午後の作業を開始する」オットー様の声が響き渡った。僕は起き上がって、下に降りて、ハインリヒの大広間まで歩いていった。オットー様も一緒にきている。大広間でスタンピードが始まったと言われているので、もしかすると、まだ、死霊術師が潜んでいるかもしれないそうだ。だから、居ないことを確認するそうだ。
大広間まで、片付けはあっと言う間だったが、坑道への入り口部分の混み合いようが酷かった。積み重なった、すごい死体の量だった。臭いも酷く、呼吸するのが辛い。クラウディアさんが近づいてきて、布を渡してくれた。これで口回りを覆うとまだ多少楽だよって。
後ろから縛ってくれた。優しいな。なんか、布からいい香りがしてくる。
しかし、すごい状況だ。浮かすのも難しくて、困っていたら、盾の二人がやってきて、盾で死体を押し始めた。クレメンスとコンラートが同時に僕に言った。今、そこ浮遊。頼む。
僕は、クレメンスとコンラートの盾の隙間から言われたとおり浮遊を何回か掛けた。急に力が抜けたように、二人は前方に投げ出されたようだ。ぐいぐい押していたからね。とにかく、ハインリヒの大広間への道が開けた。僕らは警戒した。兵士さん達が、フック付のパイクで、手前に引っ張りだしていく。クレメンスとコンラートは、汚れた盾を気にしているようで、あとでどう汚れを落とすか相談しているようだ。
それからも、大変だった。火矢で付けた火がまだくすぶっているところもあり、運ぼうとするとボロボロと崩れてしまう死体もあった。とりあえず、大広間を片付けることができたのは、もう一日の終わりだった。オットー様は、死霊術師を警戒していたが、いなかったようだ。
綺麗に片付いた大広間だが、最後に振り返って帰ろうとすると、なにか違和感があった。気付いたのは、僕だ。空気が揺らいでいるように感じた。地面に地図が書いてあるところだ。周りに鎖が張り巡らされているところだ。はじめてここに来た日のことを思い出したよ。
「カールさん、なんかおかしくないですか? あそこです」
カールさんは、僕のさす指の方向を見てくれたが、特になにも感じないようだ。
「なんか変かい? 俺は感じないなぁ・・・アポロニアはどうだい?」
「こういう時は、少年の勘を重視したほうがいいわよ・・・心がピュアでない大人には見えないかもしれないし・・・どこあたり? 悪者君」
僕はゆっくりと歩いて、大広間の中心に近寄っていった。
「この辺がなんか違和感を感じるんです。空間が歪んでいるというか・・・あ・・・」
地図の中に、魔法陣のようなものが描かれていた。
アポロニアさんがやってきて、僕の見つめっているものを見ていった。
「これは、悪魔の使う魔法陣かしら。すぐに一か所でもいいから壊さないと・・・」
「どうやって壊すのですか?」
「触っちゃだめよ。聖水をかけてみましょう?」
そういって、アポロニアさんは聖水を縁のところにかけた。シュウシュウと煙が上がり、線の一部が溶けていく。
「煙を吸わないでね。毒かもしれないから」
空間の揺らぎのようなものは、消えた。
「カール、すぐにオットー様、ブルーノ神父様を呼びにいってください」
「応」カールさんは走っていった。
アポロニアさんがボソッと言った。
「自分でなくて、誰かを行かせないとね・・・リーダーなんだから・・・」
アポロニアさん、厳しいね・・・
ブルーノ神父様がやってきた。かなり疲れているようで、目の下に隈ができている。
「どれだ?アポロニア?」
「これです。ここですよ」
「なるほど・・・この様式は見たことがあるな・・・物質の転移に使う魔法陣だな・・・ここに書いてあるルーン文字が読めるか?だれか、手引きした奴が鉱山に潜んでいるということか・・・」
「ルーン文字って、千年ぐらい前に使われていた文字ですよね?」アポロニアさんが聴いた。
「うむ。ここには、闇の王が命ずるとか書かれているな・・・この場所に生きるものがある限り、指定した場所から、指定したものを運ぶとあるぞ」
「神父様、すごいです」アポロニアさんが驚いている。
「いや、知っていても役に立たないがな。これは古ゲルマン語のアルファベットのようなものだから。それでいて、表意文字の様でもあるから、読むのがやっかいだ。
ところで、この魔法陣は、物しか運べない。どこかで、大量に歩く死体を造り、それをこの魔法陣で転移させたのだろう。死体は魔法上では、物だからな。 で、先程まで、魔法陣は、アクティブだったのだな?」神父様が僕を見たので答えた。
「はい、空間の揺らぎのようなものをずっと感じていたので、おかしいと思ったのです」
ブルーノ神父様は考えている。
「アクティブだが、歩く死体は送り込めないということは、もう送り込むものが無くなったのだろう。これはいい話だな。これを、ここにきて、書いたものがいるということは、かなり悪い話だ。聖水で溶けたということは、人間の使う材料ではないだろう。
遺体を焼きながら思ったのだが、服装や容貌を見ると、恐らくラテン人だろう。イタリア半島から集めた死体のようだ。しかし、周到に身分や出身を示すものは除去されている。これは相当準備に時間が掛かっているはずだ。ゴブリンの攻撃はお粗末だったがな。二つの攻撃がシンクロしていたのは間違いないだろう。
どっちがメインの攻撃だったのだろう?アンデッドのレベルは低いので、大量に送り込む作戦だったのだろうが、私なら、この後の攻撃を鉱山側から仕掛けただろう。高レベルのアンデッドが最適だろうな・・・いずれにせよ、相手が我々を侮っていたから救われたのか・・・これで勝ったと喜んでいると足をすくわれるかもしれん・・・ま、一つ言えるのは、カール達の作戦が功をなしたということだ。空飛ぶザクセン人たちよ、感謝する」
頭を下げたブルーノ神父様は、倒れそうになった。ふらふらだ。限界まで魔法を使ったようだ。
「すまぬ。もう失礼する。魔法陣は聖水で徹底的に消しておいてくれ。たのむ。あと、資料としてメモすることも厳禁だ。メモから悪魔が毒でも送り込んでくるかもしれんぞ」
僕らは解散した。鉱山口まで、空飛ぶザクセン人のみんなと歩いていった。カールさんは、なんか誇らしげでかわいかった。
その日の夜は、オットー様の指示で、鉱山に不寝番が置かれた。幸い何も起こらなかったが、当番たちにとっては、結構怖い夜だったそうだ。
お読みいただきましてありがとうございました。
お蔭様で、私の体調がすこしよくなってきました。
この後で、プロットが変わります。汚物の桶の横で、がおーと吠えていた、アーデルハイトの素性が、まあ、皆さんご存知でしょうが、ばれます。ご期待ください。




