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神聖祓魔師 二つの世界の二人のエクソシスト  作者: ウィンフリート
平行世界へ
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挿話 契約の対価

契約の対価は金銭であることが殆どですが、悪魔との契約では、悪魔が最も欲しがるものが要求されます。

 コンラート子爵は、今、発作に苦しんでいた。締め付けられるような胸の痛みに耐えていた。痛みを抑える薬草も効かず、発作が過ぎ去るのを唯耐え忍ぶだけであった。


ここ数か月の間、連続して不定期に毎日のように襲ってくる発作になすすべはなく、額に油のような汗を浮かべることだけだった。


「エリザベート!エリザベートはおらんか?」胸が苦しいので大きな声は出せない。自分の屋敷の薄暗い寝室に、彼の声は空しく響くだけだった。誰も応えてくれる人は居なかった。


(そうだ。エリザベートは死んだんだった。あれは何年前のことだろう?)


 彼は、かつて隣にいた筈の妻エリザベートを想った。天国に行けただろうか。それとも煉獄にいるのか、いや、まさか・・・地獄にいることはあるまい。私は地獄確定だがな。永遠に分かたれてしまったのだ。しかし苦しい。もう時間は残されていないのだろう。この苦しみから逃れられるのなら死んでもいいかもしれないとさえ思った。


「誰か、誰か、おらんか?」しわがれた、かすれた声だけが出た。誰も聞き届けてくれず、誰も来てくれなかった。


(まてよ・・・誰かが残っているはずだ。そうだ、家令はどこにいったのだろう)


 コンラート・フォン・ベルヒテス子爵は、代々公爵家の家臣であり、城塞都市の貴族だった。城塞都市は北側に高台があり、その頂上に公爵の城がある。その城から司教聖座であるカテドラルまで下りていく道は、通称『栄光の道』と呼ばれ、その通りに面した屋敷を持つことが、貴族の間でもステイタスであり、誇らしいことであった。

ベルヒテス家はその通りに面しており、それなりの広さを誇っていたが、しかし、家門自体は急速に衰退の一途をたどっていた。それは城塞都市の城壁に設置された結界装置に不具合があり、飛竜の侵入を許してしまった事件がキッカケだった。その装置は子爵の責任部分だったからだ。

 ベルヒテス子爵の担当した装置は故意に壊れるように仕組まれた形跡があり、計画的だったとされたのだった。子爵本人は気づいていなかったが、子爵の家臣の誰かによる犯行だとされた。飛竜は壊れた部分をピンポイントで狙って侵入したのだから、悪魔の手先による巧妙な犯行だと思われた。家臣の誰かが罠に掛けられたのだとされた。しかし、犯人に辿り着くことはできなかった。


 城塞都市は、魔物が跋扈する悪魔の支配地の中に立地しており、結界装置の不備は、都市そのものの滅亡に通じてしまう。しかも、公爵の数代前の先祖が地獄での戦闘から帰還し、その戦勝記念パレードの日に飛竜に侵入を許してしまったのだ。


 ベルヒテス子爵は数々の役職を解かれ、自宅での謹慎処分となった。そして、家人は一人二人と去っていった。追い打ちをかけるかのように、妻も亡くなり、最後の頼りにしていた家令も塩砦からの帰りに魔物に襲われ帰らぬ人となった。同行していた四人の騎馬兵も行方不明となった。そして、この数か月の間に、追い打ちをかけるように体調は悪化してきたのだ。



彼の身体はあまりに弱っており、声を張り上げることなどできなかった。しかし、せめて水は、どうしても飲みたかったのだ。


(そうだ。呼び鈴があった筈だ)


 大きな声が出せなくなった子爵のために、使用人のハンナが市場で買ってきてくれたのだ。コンラートは、なんとか半身を起こし、身を乗り出し、手を伸ばし、ベッドの脇に置いてある小さなテーブルの上をまさぐった。震える手だが、なんとかベルを上からたたいて、鳴らすことが出来た。


「旦那さまー、今参ります。また発作ですよね?」ハンナの声が遠くから聴こえた。コンラートの寝室も大広間に面しているが、使用人の控室も大広間に面していた。直ぐに人の足音が近づいてくるのが聴こえた。ハンナが寝室の入り口に現れた。


「はい。旦那様」

「おお、ハンナか?すまん。水を一杯頼む」震える声で依頼した。実際には声になっていなかったのだが、いつものことなので通じたようだ。


(家令はどこへいったのだ・・・そうだ。こういう時はいつもアイツが最初に顔を出したはずなのに)

 ともすると失いそうになる、朦朧とする意識の中で、家令の顔を思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。ただ、爛々と怪しく光る、狡猾な眼だけは覚えていた。


「旦那様、お水です」

 お盆の上に載せられたコップが、ベッドのわきにあるテーブルの上に置かれた。


「すまん。飲ませてくれ」

「はい。畏まりました」


 ハンナは子爵の半身を起こし、背中にクッションをあてがった。そしてコップを口に近づけ、ほんの少量を少しずつ口に含ませた。子爵は少し飲んだところで、首を小さく振ってもう要らないと口を堅く閉じた。少量であっても水が身体にしみていくと喉の状態がよくなってくるようだ。


「コンラート様、朝ごはんをお食べになりませんか?麦粥を作っているのですが」

「いや、要らない。少し寝たいので、そっとしておくれ」

「わかりました。買い物に行きますので、すぐに戻りますね」


 ハンナは子爵の寝室を出て、広間を斜めに横切り、厨房の直前にある、召使の控室に入った。

(旦那様は、もう長くないわね。残念だけど、最近の弱り方は尋常じゃないもの。身の振り方を考えておかないといけないわ)


 人間は食べられなくなったら終わりだと彼女は思っていた。エリザベート様もそうだった。食べられなくなり、衰弱し、話すこともできなくなり、弱って死んでしまったのだ。

 不思議なことに、亡くなる前日に急に元気になり、話すこともでき、簡単な食事も摂れて、子爵もハンナも喜んだが、そのまま眠りについて目覚めることは無かった。



ハンナは、屋敷の裏口から出て、買い物に出かけた。買い物といっても、城塞都市では基本的に配給制を採用しているため、各家での取り分が決まっている。それを皆が市場と呼んでいる場所で受け取る仕組みだ。貴族には枠を超えた物品を買い取る権利があるが、その際に使われたお金がプールされ、帝国からの配給以上の物品の買い付けや、貧しい家庭への喜捨に回されるシステムになっている。


城塞都市は、つい数日前に謎の塔が出現したことで静まり返ったままだった。もともと常に戦時体制である街なので、所謂、都市の賑わいとは無念ではあるのだが、今は張り詰めた重い空気が都市全体を覆っていた。その塔が攻城兵器ではないかと噂されたからであった。


ハンナも出かけたくはないが、使用人が一人二人と去り、自分だけになってしまった以上、補給物資を取りにいかねばどうにもできない状況だった。


市場はカテドラル広場に面しており、街の中心に位置している。ハンナは市場に入っていき、顔見知りの配給係の所に行った。何十年もやり取りしているので、ほぼ自動的に処理されるようなものだった。

「いらっしゃい。今日の分ね。最近は量が減ったから楽になったわね」

「そうなのよ。家令様が塩砦の帰りに魔物に襲われて行方不明になってから急にね」

「ああ、残念だったね。でも、もう一月近くは経っているから、難しいだろうね。そう言えば、下男の人も来なくなったけど、辞めたのかい?」

「うん。お給料ももらえなくなったからね。辞めたのか逃げ出したのか分かんないのよ。城塞都市出身だから実家に逃げ帰ったのかもね。それに家令様だけでなく、騎士様達もいなくなっただろう?馬も帰ってこなかったから、馬の世話係も必要なくなって、他の貴族に拾ってもらったんだ」

「騎士様達ってあの黒い鎧の4人衆だろう?強そうだったよね。そんあ彼らもやられちまったんだ?」

「あと、御者もやられたみたいだしね。あの馬車が塩砦から降りてくる道の途中で滅茶苦茶になって壊れているのが見つかったらしいのよ。それでね、お屋敷は、今、子爵様と私だけになっちまったよ」

「そうなんだ」

 市場の配給係は急に小さな声でハンナに耳打ちをした。

「子爵様の体調が悪いって噂になっているよ。あんた、子爵様が万が一だけど、その・・・万が一の事があったら、どうするんだい?」

 ハンナは答えに困った。配給係は、子爵様がお亡くなりになった時はどうするのかと訊いているわけだからだ。

「そうだね。もう、実家なんかないし、親戚もみんな死んじまったからね。いくところがないよ。働けるうちは、修道院の下働きでもさせてもらえると助かるわ。動けなくなったら、救貧院に厄介になるしかないだろうね」

 配給係は悲しそうな顔をした。


ハンナはあまり見たくない自分の未来を考えることになってしまった。しかし、それは現実になりつつあった。身の振り方を考えねばならなかった。でも、何も思いつかなかった。


「まぁ、なんとかなるさ。できれば、ここの救貧院よりは、人間の支配地の救貧院に行きたいけどね。馬車代なんて出せないからね。もっと早くお暇して、すこしでもお金を貯めておくべきだったと今は思っているけどね。蓄えなんてないし、子爵様を見捨てることなんて出来ないし」

 配給係は咳払いをした。ハンナが周りを見ると、配給係の上役、城塞都市の役人が近づいてきていた。


「じゃ、そこの荷車に載せるよ。荷車の返却はいつでもいいよ。また来てくださいね」

「はい。ありがとう。またね」


 ハンナは、老骨に鞭を打って、市場から貸し出される小さな手引きの荷車を引いて歩きだした。子爵様のお屋敷は山の上にある公爵様の城から降りてくる道の途中にある。行きは下り道で楽だったが、帰りは上りでしかも荷車を引くのできつい。少し前までは下男がいて、彼の仕事だったが、今は自分で引いていかなければならない。荷車には車輪が二つあるが、石畳の小さな段差を越えるガタツキもハンナの体には辛いものだった。


「本当にキツイね。天国に私の場所はあるのかな。主よ。どうか、この老人を憐れんでください」ハンナは痛む身体に鞭を打って帰路についた。


丁度その頃、ベルヒテス子爵は夢でうなされていた。


 夢というものは荒唐無稽というか、概して突拍子もない設定であることが多い。子爵の見ている夢もそのようだった。そして夢であると分からないまま話は進んでいくのである。


 子爵は見たことがない、城塞都市ではない街の郊外に居た。高台から城を眺めていたが、気付けば馬車の中にいた。これは家令が独自に改造した結界馬車だ。

 家令は進行方向を背にしたシートに座っている。そして、馬車の外には騎士たちの乗る馬の蹄の音が聴こえる。


「子爵様、まもなく到着いたします」

「すまん。忘れていたのだが、一体、どこに向かっているのだ?」

 家令は狡猾そうな目を細めて笑った。

「お忘れになったのですか?新しい領主様のところですよ。これから子爵様がお仕えする領主様にお会いするんです」

「そうだったのか。すまん。すっかり忘れていたようだ。なんという御方だったか?」

「決して口にしてはならない、お名前の御方でございます」

 子爵は首を傾げた。

「はて?記憶にないのだが。すまないが経緯を教えてくれないか?」

「子爵様、困ります。お忘れになられたのですか?すでにその御方と契約まで済まされておりますので、今となっては後戻りできませぬぞ」

「そ、そうなのか・・・」


 子爵は必死に記憶の中をまさぐるように、思いを巡らせたが、その御方の痕跡すら見つけることはできなかった。しかし、信頼している家令にそう言われたら、そうだと思う以外には無かった。しかし、土地が、つまり領地がいただけるのなら、いい話だ。軍務については、騎馬兵も4人いるし、土地が得られるのなら、そこから得られる資源で、弓兵や盾持ちも雇えばいいだろう。失態のせいで城塞都市の中ではこれ以上は望めないのだ。だから公爵様ではない別の御方の庇護のもとに行くのが正解なのだろう。そう思いなおして、顔をあげると、知らない城壁の前に独りで立っていた。


 どういうことだ?おかしい。いつの間にか夜になっている。城の前に立っているのだが、しかも堀の外に立っている。後ろを振り返ったが、乗ってきたはずの馬車がいない。背後は暗闇だった。途方に暮れていると、ガチャンという音とともに、堀の向こう側にある、木の壁がこちらに倒れだしてきた。

 堀の前なのだから、これは、恐らく吊り下げ橋だろうと思ったが、案の定そうだった。


 鎖の音がしている。橋はすぐに音を立てて目の前に降りてきた。


 橋を渡りはじめた子爵は、異臭がしたので、ふと堀の中を見た。堀の中は夥しい数の死体らしきものが動いていた。堀の水が流れているからなのだろうか。

ふと気付くと。吊り下げ橋は馬車が通れる幅だったのだが、何故か狭いものに変わっていた。気をつけないと堀に落ちてしまう。


(まさか、戦争中なのか?だから採用されたのか・・・この死体は、当然敵のものだろうな)


 子爵は、後悔を感じ始めていた。戦争中なら、自分の領地に赴任することなく、この城に詰めなければなるまい。しかし、家令や騎馬兵達はどこにいったのか。俺が独りで戦うのか?気付くと自分は既に武装していた。腰にかかる重さで剣を腰に吊るしているのを感じた。剣が動くので柄を左手で握って前に歩いた。この感覚は久しぶりだ。


 何故、ヘルメットを被っていないのだろう。それに、鎖帷子を着つけた記憶がない。大体、鎖帷子などの武装は一人では着付けない。従者が手伝って・・・あ、従者は誰だったのだろう。おかしい。


 橋を渡たりきった。目の前には鉄格子の扉がある。格子の向こうには一対の篝火が燃えている。


 子爵は、鉄格子の前で止まった。これでは中に入れない。


 ガチャンという大きな音がした。直ぐに鎖が巻き取られる音が始まり、鉄格子の扉が上にあがり始めた。子爵は動かず、鉄格子が上がるのをじっと眺めていた。鉄格子は門の左右の鉄枠との間で、悲鳴のような、金属がこすれる音を上げている。


 また大きな音がして、扉は高い位置で止まった。


 今の音は、扉がフックに引っかけられた音だと何故か分かった。このフックが外れると、扉はものすごい勢いで落下するようになっている。ゆっくり下ろすこともできるのだが、緊急時に敵の侵入を防ぐための仕掛けだ。だから鉄格子の最下部には、鉄の牙が仕込まれている。これに刺されたら。盾も鎧もひとたまりもない。


 そんなことを念頭に置きながら、子爵はゆっくりと扉の下を通った。フックが外れることはなかった。子爵が通り過ぎると、またギリギリと音を立てて、鉄格子は下り始めた。


「しかし、変だ。篝火の近くには衛兵がいる筈なのだが」


(ここは誰の城なんだろう。あ、でも、子爵である俺が仕官するのだから、それなりの身分の御方だろう。しかし、なんで独りで放置されたのだろう?)


子爵は無性に腹が立ってきた。家令に対してだ。先程の受け答えは主人に対するものとしては余り芳しくはない。しかも主人を放置してどこかに行ってしまった。悪い冗談みたいだ。


しかし子爵は、あまりに変な展開に、これは夢じゃないかと思うようになり、苛立ちが収まってきた。そして目の前を見て驚いた。いつの間にか真っ暗な空間に自分が立っていることに気付いたからだ。石畳の上に立ってはいるのだが、左右一対の松明以外は何もなく、周囲は漆黒の闇と化していた。


思わず家令の名を呼ぼうと思ったが、どうしても思い出せなかった。途方に暮れていると、前方5メートルほどの空間に一対の篝火が現れた。そして、左右におかれた明かりで照らされた石畳が、すすむべき道のように見えた。子爵は前に進むことにした。


篝火の間に立つと、また前方に別の篝火が出現した。それが何度も繰り返され、いつの間にか石畳みの道は下り坂となっていた。そのうち、少し遠くにぼんやりと明るく照らされた門が見えてきた。大きな門だった。門の左右は暗闇に溶け込んでいるかのようだが、何らかの城壁と思われた。


(これは、これは凄い門だ。かなり身分の高い方の城の一部なのだろう)


 コンラート・フォン・ベルヒテス子爵の機嫌は回復してきた。また嬉しいことに、先程まで死の床にあったかのようだったのだが、身体も軽く調子がよかった。まるで若返ったような気分だ。


 子爵が門に近づくと音もなく両開きの門が向こう側に開いた。門の扉高さは10メートル程あるだろう。今までみたことがないような大きさだ。扉はよくあるような木を組み立て、金属板で補強しているようなものではなかった。素材は不明だが1枚もののようだ。扉は音もなく直角に開き、止まった。


 門の向こう側は、来し方と同様に真っ暗だった。しかし、遠くにぼんやりと建物のシルエットが見える。子爵はそこに向けて、うっすらと光る床を真っすぐ歩いていった。


 どれぐらい歩いたのだろう。感覚がおかしくなっていた。子爵は振り返ってみたが、既に門は見えなかった。前に視線を戻すと建物が大きくなってきた。まるで建物自身が近づいたかのようだ。


 気付くと、少し先に階段が見えた。いや階段ではなかった。祭壇のようなものだった。


 祭壇の前に、誰かが立っていた。家令だ。子爵は驚いたが、嬉しかった。


「ようこそ、ベルヒテス子爵様。こちらへどうぞ。子爵が仕える御方がお待ちです」


 子爵はずっと不安だったので、家令をみてほっとした。足を速めて近づいたが何かがおかしい。家令が見上げるほどの大男になっているのだ。


(あいつは、俺より背が低かった筈なのだが、一体どうしたのだろう)


 家令は身長が3メートルはあるだろうか。


(そんな馬鹿な。しかし、家令などどうでもよい。新しくお仕えする方はどうなのだ?)


 子爵は気になって祭壇のような階段の上を見た。その瞬間、ものすごい圧力がかかり、子爵は膝を落とし、そのまま平伏してしまった。まるで重力が何倍かになったような感覚だった。


 動くことができないどころか呼吸もできなかった。薄れゆく意識の中で、家令の声が聴こえた。


「コンラート・フォン・ベルヒテス、契約により、お前の魂は貰い受けるぞ。

 ようこそ地獄へ」


 子爵は全てを理解した。走馬灯のように人生の色々なシーンが脳裏をよぎった。


(そうだった。家令は使い魔だったんだ。俺は、現世での目先の欲に溺れ、悪魔と契約したんだった。取り返しがつかないことをしてしまった)


「ふふふふふ。新しいご主人様は、貴方の魂に、とても満足していらっしゃいますよ。


 コンラートよ。地獄の業火を味わい尽くすがよい。そしてすべての責め苦の後に、魂は消滅し無に帰すことになる。まぁ、いい思いをしたのだから、当然の報いだろ?」


 家令の高笑いを聴きながら、コンラートは死んだ。


ハンナが屋敷に着き、子爵の様子を伺ったときには、彼は、既にこと切れ、冷たくなっていた。子爵の死に顔は苦しみに歪み、両手は虚空を掴もうとし、広げられたままだった。そして、彼の血走った眼は大きく見開き、天井の一点を見つめたままだった。


いかがでしたか?


マタイによる福音には、16章に「たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったならば、なんの益になろうか」というキリストの言葉があります。自分の命を失うとは、生物学的な命ではなく、永遠の命であり、天国に入ることです。コンラートは悪魔に魂を売ってしまったわけですね。

今の世は、悪魔が跋扈している時代です。地獄は、ウハウハですよ。

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