第25節 ブルグンド王の娘 その高貴な姿
ドイツ語で、アーデルハイドは、最後の発音は、ドでなくてトだそうです。
日本だと、アルプスの少女ハイジでアーデルハイドとして紹介されている関係からでしょうか、ドが主流ですね。今回はハイジのモノローグ風に書きました。
先に解放されたていたアーデルハイドは、ベルタと一緒に第2門の前で、焼き菓子を食べながら待っていた。お菓子なんて、久し振りだった。ていうか、以前に食べた記憶が思い出せないぐらい久し振りだった。とりあえず死ななかったし、まだ犯罪の可能性は残っていると言われてるけど、なんとかなるでしょうと彼女は感じていた。とにかく、第一歩は成功だったわ・・・よかった・・・お母さん。
アーデルハイドのお母さんは、マリアというありふれた名前だった。街で、マリアーって叫ぶと何人も振り返るのよね・・・
アーデルハイドは、お菓子を食べながら、幸せな気持ちに浸っていた。こういう心理状態だと、母のことを思い出すときも、いいことを思い出せる。辛いときに思い出すのは、朝、母が倒れてそのまま帰らぬ人となった日のことだ。その時のことは、彼女のトラウマとなっている。自分は、母に何もしてあげられなかった。アーデルハイドは一枚しかない服の隠しに縫い付けられていた綿でくるまれた袋を触って、自らを慰めていた。それは母の形見だ。決して開けないように、言われていたが、開けてみたことがある。直ぐに糸を縫い付けたが母にばれてしまった。怒らなかったが、人に見られたが取り上げられるか盗まれると言われた。本当に困った時には売ってお金にしなさいといった。
それは宝石の嵌め込まれた豪華な指輪だった。母は、祖母から譲られ、祖母は曾祖母からというように、一族の女系に綿々と受け継がれたものらしい。兎も角、今回はこれを守ることができてよかった・・・
アーデルハイドは、ほっとして、心の奥に沈み込んでいった。今度は、悲しい思い出に至ることはなく、母が私を見つめ、名前を呼んでくれているシーンだ。
「アーダルハイジス、私のアーダルハイジス。あなたはどんな男性と恋をするのかしら。幸せになるのよ」
アーダルハイジスとは、私の名前の古い読み方だそうだ。アーデル自体は高貴なというような意味らしい。むふぅ~私らしい名前よね・・・
「アーデルハイド?・・・アーデルハイド?」
ベルタさんが私を呼んでいる・・・目の前で手をひらひらさせている。
「あ、ごめんなさい」
「いいのよ、いま妄想してたでしょ・・・夢見る遠い目の少女になってたわよ」
どうやら、例の少年の取り調べが終わったらしい。ゴルトムントさんが先に出てきて教えてくれた。
少年が騎士様と一緒に建物から出てきた。なんとなく、少年落ち込んでない?まぁ、いいわ。能天気な少年より、すこしは落ち込んで現実をちゃんと見れるようになってほしいものだわ・・・アーデルハイドは、能天気という言葉は知っていたが、その言葉の意味がよくわかってはいなかった。しかし、魔物が沢山出るというのに、大丈夫だといってどんどん進む彼を見て、あ、これが能天気だと思い知った。得てして、少年というのは、己を知らず、向こう見ずで、何も考えずに突き進むものだ・・・宿屋や鍛冶屋の息子を見ているとそう思う。2階から空を飛ぶのだといって飛び降りて足をくじいたりとか・・・男ってバカよねって思う。
アーデルハイドは、数少ない友達の一人、粉ひき小屋の娘ジュリアと、おばさんのように、他の女の子も集まって井戸端でよく話をしていたが、話題は、いつもそんな男の子達の馬鹿な話ばかりだ。
ただ、みんな、人の少ない街で、よそ者がまず来ないところで、いつかは相手を選び。結婚しなければならない。それは皆、薄々わかっているし、もう親たちが、相手を決めようと勝手に親だけで話しているのも知っている。経済的に釣り合うとか、商売的に互恵関係であることは、スタートラインで、あとは当人たちの相性だ。選べるわけではないが、拒むことはできる。うまくやっていくために、小さい頃から、そういう雰囲気づくりを皆している。大抵は悪口をいって貶す男の子のことが好きな場合が多い。こんなころから結婚相手を確保しようという感じというか、このままいくと消去法で、こいつと結婚かななんて感じだ。
アーデルハイドの場合は、もともと流れ者の娘だし、親は最下層の貧民だ。はなから結婚なんて難しいだろう。このまま、母と同じ食堂で、給仕兼売春婦になれるのがやっとだろう。それは嫌だった・・・
私はこの指輪の正当な持ち主だわ・・・こんな指輪を持つ高貴な女性なんだから、そんな未来は受け入れられない。新しい世界というか未来を掴める街に行きたい・・・そんな矢先に馬車隊とともに少年が現れたのだ。でも、少年は新しい街に導いてくれたものの、ちんけな盗人のように取り調べをうけているではないか。ベルタさんには、言わなかったが、そもそも、少年が下の街に来た時も、無賃乗車だったのだ。
遅かった少年に、アーデルハイドは文句をいった。
「遅いよ。悪者君。悪事が色々ばれて、追求されておそくなったんでしょう?」
「ち、違うよ。騎士様に聖剣を見せてもらったんだから、僕は悪者じゃないよ!ね、騎士様?」
「ふーん、どうだか」私はじと目つきで少年を見ると
「あははは、仲がいいんだな。坊主と」と騎士様は私に笑う
「ち、違います」
やり取りを楽しそうに見ていたベルタは、笑いながら、私たちに二人にいった。
「さあ砦に行きましょう。今日は騎士様が、ご馳走してくれるって」
やったあー
それから4人で砦まで真っ直ぐ歩いた。左右には食堂や宿屋が何件も立ち並んでいて、夕食のいい香りが外まで溢れている。さっきの焼き菓子は半分残してポケットにいれたのだが、こんなに色々食堂があるなら、残り物もらえそうだから、全部食べちゃえばよかったかな・・・とりあえず、今日の夕食はゲットした!
ベルタさんが私の手と悪者君の手をとって一緒に歩いてくれた。知らない人が見たら、家族に見えるかな?私のお父さん、記憶に無いけど、こんな格好いい人だったらなぁ。アーデルハイドは、妄想に耽るのであった。
・・・思えば、辛い毎日だったわ。今でもあまり状況は変わらないかもだけどね。奇跡的に死なずに済んだってベルタさんに言われた。もう無茶したらだめよってね。確かにね。神様が今回だけ憐れに思って助けてくれたのだから、感謝しなさいって。
ふふふ、ベルタさん、お母さんみたい。私のお母さん、忙しくてあまり面倒見てくれなかったけど、今はきっと天国でゆっくりしてるんだよ。きっと。お父さんに会えたかな・・・
今日、待ってる間にベルタさんが面白い話をしてくれたの。200年ぐらい前のお姫様の話。ブルグンド王の娘、アーデルハイドの話。アーデルハイドのお母様はベルタっていって、やはり、公爵様の娘なんだって。いいなぁ、貴族の娘はずっと貴族で、お腹空くとか1日何も食べるものが無いなんて無いんだろうね。そのお姫様のように、ベルタさんがお母さんになってくれたらなんて想像してしまった。私の指輪も、もしかしたら、お姫様の身分を示すものだったりして・・・なわけないよね。騎士様に見せたら、大泥棒なんて言われて斬首とか・・・嫌だ・・・
うわー砦だ。お城みたいね。門のところにいる兵士さんが敬礼してくれた。勿論騎士様に対してだろうけど、なんか、私お姫様みたいね。そう、ブルグンド王でイタリア王の娘、アーデルハイド姫なの。隣はベルタ女王様ね。その隣は下僕の悪者君。
へ〜、正門って2階なんだ、壁は石だけど、床は木なのね。あ、いい匂いがしてきた。食堂は地下?あ、階段がある、2階に上がるみたい。そうか3階で食べるのね。
「ベルタ、君も一緒に食べよう」
「え?いいんですか・・・」
騎士様が誘ってるって、ベルタさん、喜んでる。
階段を上がった先にある扉を開けて騎士様が入っていくと、長いテーブルに先客が二人に座っていた。
「オットー、遅いぞ。腹減った」
すごいでかい人だ。巨人族?
「済まぬ。今夜は、レディ、監獄の女王様と、小さなレディと悪者君、特別なお客様だ」
「誰でも良いぞ、早くメシにしよう」
誰でもいいって、巨人族は食べ物しか頭にないのか・・・もう、男の子とおんなじ・・・
「ははは、卿はお祈りはせぬのか?」
ブルーノ神父様がレオンに、ニヤッとわらった。
「さ、祈りましょう」
それから食事は始まった。騎士様や司祭様は、兵士達とは別に食事なの、デザートがつくのよ。と言ってベルタさんが嬉しそうに食べ始めた。やはり身分の違いがあるので普段は男3人だけで食べているらしい。
オットー様が、デザートはわしが費用を出しておるからな、自腹なんだぞと言う。ベルタさんが、ありがとうございますと感謝していた。
「いや、デザート以外は、公爵様からなんで、勘違いしないように」
デザートは、リンゴのパイだった。美味しかった・・・貴族様になれたら、これが毎日なのね・・・巨人さんのお腹凄い出てる・・・美食は太るのね・・・
「さて、水分補給といこうか。ゴルトムント、すまぬが、この子達を、わしの執務室で遊ばせておいてくれ。わしらは4人で会議をおこなう」
オットー様の従者、ゴルトムントさんが、私たちを、オットー様の執務室とやらに案内してくれた。
いかがでしたか。
現代ドイツ語でもアーデルというのは貴族を意味します。
ゲルマン民族だったころから、ある、ドイツ人の女性の名前なんですね。
文中のブルグンド王の王女アーデルハイトは実在の人物で、10世紀の人です。夫を毒殺されてます。
カトリック教会では聖人に認定されてますから、聖女アーデルハイトですね。
話中では、西暦千年ごろに悪魔軍の大攻勢があり、世界がコピペされて、二つの世界になった設定ですから、大攻勢少し前の人です。
次の話は、夜にでも投稿できればと思っています。なかなか迷宮にいけなくてすみません。
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