第71節 街道の探索と戦闘 その6
いよいよ、エーデルヴァイスの丘の先を探索することになりそうです。
本当に実働一週間で、道路は直ってしまった。オットー様も感心しているみたい。
今は、工事現場に全員で来ているんだ。所謂、完成検査とかいうやつらしい。
オットー様はさっきからずっと職人さん達を褒めちぎっている。マイスターも、少し照れ臭いようだ。
「オットー様、これはもう何百年も同じ造り方をしていますし、そんなに誇れるような技術ではないんですよ。古代ローマ人の造り方を復元した技術なんです。城壁だってそうなんです。だから、私達は、誇れる訳ではなく、お言葉は古代ローマ人達に捧げたいと思います」
オットー様は、まぁそんなに謙遜するなって言って、僕を見てニヤっと笑った。
「古代ローマから続く伝統も、一瞬で壊してしまう力というのは恐ろしいものだよな」
まただ。ずっとネタにされているんだよ。たしかに壊しました。ごめんなさい。お金も相当かかりました。すみません。もう、落ち込むよ。
フィリップさんが、後ろから歩いてきて、オットー様をたしなめてくれた。
「オットー卿、もうそれくらいにしてあげて下さい。王子が落ち込んでますから」
あれ、王子とか、やめてほしいんだけど。最近の僕は、王子と呼ばれているんだ。でも、単に王子じゃなくて、その前になんか付くんだよね。
ここのところ破壊王子とか、隕石王子って呼ばれている。
少し前は、穴ボコ王子だったしね。フィリップさんは、道路の外の、修復されていない穴だらけの路肩をみて、マイスターに質問した。
「この穴ボコは、道路に影響はないのか?」
マイスターは、少し困った顔を一瞬したが、すぐに答えた。
「影響の出そうな穴は、埋めましたが、完璧ではありません。もうすこし、期間とお金を頂ければ、なんとかしたいところではあります」
フィリップさんは、残念な顔で、
「もう予算が無いのだよ。砦の拡張の方が重要だし、あと新しく造る塔も急ぎたいしなぁ。穴があることの、悪い影響はなんだ?」
「フィリップ様、一番道を壊すものは、なんだと思いますか?」
「お、面白いな。謎かけか?そうだな、やはり重い馬車が沢山通る事ではないか?」
「おぉ、流石でございますな。まぁ、塩街道は、特にそうでしょうね。でも、この道は通行量は、少ないですから、一番の脅威にはなりません」
フィリップさんは考えているが、他には思いつかないようだ。マイスターは、そんな様子を見て、話を続けた。
「実は、水でございます」
「ほぅ、水とな?それはどうして?」
「この石畳の下には、三つの層が作られています。私どもは路盤と呼んでいますが、これは強固なんです。上からの重さや力を受け止めるために作っていますからね。でも路盤があるのは石畳の下だけです」
マイスターは、路肩の穴のところに歩いて行った。
「この穴の下には路盤がありません。大量の雨が降り、この穴に溜まり、それが浸透していくと、稀に水の通り道が、できてしまうのです。それが道の下を通ると、路盤の下の土を流してしまうのです」
「なるほど、路盤が強固でも、その下の土が流されてはというわけか」
フィリップさんは納得したようだ。
「その通りでございます」
「わかった。砦の兵士で穴埋めしておこう。水溜まりができない程度で良いか?」
「はい。短期的にはそれで宜しいかと。あと、この辺りは冬場雪に閉ざされます。雪解けの水が、どう悪さをするか、見ておく必要があるでしょう。まぁ街道自体が崩れないで、持ってきたのですから、そんなに心配しなくても宜しいかと存じます」
マイスターさん達は、そのまま結界馬車で砦に帰っていった。いよいよ、砦の拡張工事に着手するらしい。鉱山街がひと段落したので、次は砦の方だ。
フィリップさんと、オットー様は、この先の山城というか、砦というか、大攻勢の時に魔物に攻め滅ぼされたらしいのだが、それからもうずっと放置されているところにこれから行ってみるらしい。もともとは、別の貴族の所領だったので、どういう城高はわからないらしい。
今日は、空飛ぶザクセン人傭兵団員も同行しているからね。僕たちは、オットー様が単騎で先頭に、他は戦闘馬車に乗って、街道を進んでいった。
やはり馬車は速いよね。すぐにエーデルヴァイスの丘に着いた。もう花の時期は終わってしまったようで、残念だった。所々にゴブリンの骸骨があるかと思ったけど、跡形も無いようだ。屍肉漁りの魔物の餌になったのだろうって、カールさんが言ってた。骨まで食べてしまうらしい。噛まれたら嫌だね。すごい顎なんだろうな・・・
エーデルヴァイスの丘は結構広いので、ここに塔を建設してもいいかもしれないなとフィリップさんは馬車の中で言った。まぁ、この先の山城が使えるなら必要ないだろうとも言ってたけど。
丘の真ん中を抜ける道は、そのまま山と山のあいだに吸い込まれるように進んでいった。ここからは比較的急な坂になるので、丘に馬車を置いて歩いて行くことになった。もちろん、方向転換をして、御者のオットー様の従者と、傭兵団の半分が残った。
僕は、できれば残りたかったのだけど、オットー様が、さぁ行くぞ、破壊王子って言うので、仕方なく馬車を降りた。もう気分で呼び名を変えるからやめてほしい。統一してくれないとわからなくなるよ・・・あ、でも穴ぼこ王子以外ならなんでもいいや。
左右に山肌を眺めながら、僕らは道を登っていった。景色がいいというか本当に綺麗なところだ。なんかヨーデルでも歌って踊りたい感じの景色だ。道は、石畳が敷かれており、あまり痛んでない。右側の山の上に、城のような建物が見える。左右に枝道がないので、一体どこから城に入るんだろうと、気になった。この山城が目的地だ。
オットー様も、同じことが気になったようで、フィリップさんに話しかけた。
「フィリップ殿、城への道はどこにあるのでしょう?」
「それがわからないんですよ。巧妙に隠されているのかもしれない。何しろ、元々公爵様の領地ではなかったし、また所有していた貴族も滅んでいるのでね。あと、死霊術師とゴブリンが何故すぐ下の丘で戦っていたかというのも、気になるんですよ。あの城と関係があるのかもしれないし」
「確かに解せないですなぁ。魔物同志がどうして仲間割れするのか?理由は何なのかということですね」
「まぁ、悪魔軍が一枚岩でないということでしょうな。あと、ゴブリンは地獄から来たのではなくて、もともと地上に近いところに棲んでいましたから、そんなに悪魔に対する忠誠心とかは高くないというか・・・推測ですが」
そんな会話をしているうちに、関所のような、かつては門があったところに着いた。前回も、ここまではたどり着き、番所のような建物の中までは見たのだった。
ここに門があったというのは、当時の領主が通行税を取るためだったらしい。だから、城というか砦があったわけだ。
山と山が左右に聳え、すこし広くなった谷の間の道を塞きとめるように、門はあった。
扉はすでに外れて、バラバラになって落ちたようだ。その扉の門型の右側に、番小屋は造られていた。石で造られていたので、小屋としては形が残っているが、屋根は無くなっていて、壁だけだ。入口の扉も無くなっている。ただ、蝶番が残っているので、ドアがあったことはわかる。
僕は、カールさんの後について一番最後に小屋に入った。小屋の入り口では、コンラートさんが盾を構えて警戒にあたっていて、アポロニアさんは、入口の側で待機している。アポロニアさんは、扉を通る人皆に、加護の聖霊魔法をかけてくれた。守備力も上がるけど、回避能力もあがるみたいだよ。
番所の中に入ると、外から見た小屋の大きさと、中の広さが一致しない。違和感を感じたので、よく見てみると、小屋は、岩をくり抜いて作ってあるようだ。半分ほど屋根が残っているのかと思ったら、それは山の中に入っていたから屋根が無かったのだった。
床には古い羊皮紙が何枚か落ちていた。羊皮紙は水に濡れて、激しく傷んでおり、読むことができなかった。木製の机や椅子などは、倒されて、壊れている。一番奥の真ん中に目をやると、暖炉が設置してあった。
カールさんが呟いた。
「冬場はどうしたのでしょうね。結構雪が降りますよね。ここに詰めていて、城に戻るの大変でしょうね」
「恐らく冬は閉鎖していたのだろう。城自体も冬場は皆別の場所に避難していたのではないか?食料の補給が難しいだろうし」とオットー様がカールに答えた。
「オットー様、その割にはこの小屋、暖炉が二つもありますよ。越冬したのか、冬でなくても凄く寒かったのか」
オットー様は、目を見開いた。本当だ。フィリップさんも反応した。フィリップさんは、オットー様を一瞥して、カールに話しかけた。
「カール、君は素晴らしい観察眼を持っているな。オットー卿、調べましょう」
確かに、小屋にしては広いが、暖炉が二つある必要はない。入口近くの暖炉は、煙突があるが、奥の暖炉にはない。どちらも使っていた形跡はある。燃えた灰がある。また燃えさしの薪も残されている。しかし、不自然だ。
オットー様は外側の暖炉を点検しながら、奥の暖炉と見比べている。
「何故二つあるのだろうか?元々は、岩肌を削って作っただけの小屋だったら、煙突が作れないし、街道側に壁がなかったのかもしれない。
そうすれば煙突は不要だ。後で外壁を道路側に増築したら部屋が密閉されるので、元の暖炉はやめてしまい、煙突のある新しい暖炉を使うようになったとも考えられるが、見てみると、同じデザインだ。同時期に作った感じだよな・・・」考えながら、思考の過程を話すようにオットー様は喋った。
フィリップさんは、オットー様の言葉にいちいち頷きつつ奥の暖炉に近づいていきながら、オットー様の言葉に自分の考えを繋げた。
「ということは、どちらかの暖炉は、なにかを隠すためのダミーである可能性が高いというわけですな」
カールさんは、意味がわかったようで、二人の間に立ち、言った。
「もしかして、隠し扉ですか?」
オットー様は、カールさんを指差して言った。
「まさしくその通りかもな。まぁ、上の城とやり取りできないと、意味がないからな。まぁ、隠し扉で城とつながっているというのもあるだろうなぁ・・・城塞都市でも実際にあるからな。まぁそこまでは無いとしても、紐でもあって、引っ張ると上の城で鐘が鳴るとか、そんなものが隠してあるぐらいだろうな・・・」
「いや、もっと凄いものかもしれんぞ」
フィリップさんは、暖炉の中の上の方をガサゴソ探っている。オットー様もやってきて、暖炉周りのレンガを一枚ずつ叩きはじめた。
「おや、このレンガをだけ音が違う。というか、グラグラしている」
フィリップさんが暖炉の中の調査をやめ、オットー様の見つけた怪しいレンガに注目した。フィリップさんの手は炭で黒くなっている。
「押すか引くか、または端だけ押すとか?」フィリップさんが提案している。
「フィリップ殿、トラップの可能性は大丈夫でしょうか?」
「日常的に使う施設ですからね。そこまでしないとは、思いますよ」
「なるほど」
「むしろ、私ならダミーを作って誤魔化すでしょうから、それが囮かもしれませんね」
色めきだった皆だったが、結局、そのレンガは単にモルタルが取れていただけだった。
それから暫く暖炉周りを二人が探したが、それらしい仕掛けはなかった。
僕は役に立てそうもないので、入口付近でボーッと立っていた。およそ170年前には、普通に使われていた小屋だったのだけど、今は廃墟だ。なんか寂しくなるね。
入口の左側の壁には武器のラックみたいのがあった。武器は無くなっているので、ラックだけだけど。同じようなラックは、今の砦でも使っているから、すぐにわかった。
入口の右側には、鉄で造られたエル字型のフックが何本もあって、何かをかけるようになっている。何も掛かってないけど、マントとか掛けるのに向いているね。
それは、大人が使うフックのようで、僕には高い位置だった。手持ち無沙汰なので、ちょっと掴まってぶら下がってみた。すると、フックが僕の重みで下に下がったのでびっくりして手を放してしまった。同時に、カチっという音がして、何か鎖が流れるような音がどこかから聴こえてきたので、更におどろいたけど、ほかの皆驚いている。
「警戒しろ。何が起こるかわからんが」オットー様が振り返って叫んだ。
鎖がジャラジャラ流れる音は、数秒続いた後、ガチャンという音が響いて、今度は、床下からギリギリという音が聴こえてきた。
「おい、暖炉が動いているぞ」フィリップさんが驚いた声で言った。
奥の壁にあった暖炉が壁の中に向かって、奥へと動き出していた。暖炉は、1メートルぐらい奥に進むと止まった。暖炉が引っ込んでできた左右の壁の右側に四角いドアぐらいの大きさの穴があった。
フィリップさんは、灯の魔法を唱えて、剣を構えて、僕らに行った。
「さて、罠かもしれないが、これは行くしかないよな?」
ニヤニヤしながら、オットー様が、「勿論」と答えて、手斧をかまえ、背中に回してた盾を前に構えた。そして、カールさんに、「カールも行きたいのだろう?」
カールさんは、ニヤリと笑って答えた。
「それは行きたいですね。しかし、この小屋を確保しておかないとオットー様達の退路がなくなりますし、ここに戦士が居なければと思います」
「すまんな、カール.。さて、破壊の使徒であるところの謎解き王子、参りますぞ」
あれ、僕も行くのか。なんだか二つ名が酷くなってきてない?
「オットー様、仕掛けの開け方がわからないといけないので、僕も残った方がいいのではないですか?」僕は怖かったので、ここに居たかったんだ。でもアポロニアさんが言った。
「開け方なら、私見てましたので大丈夫です。それに開け放しにできるなら、もう開けなくていいんですよね?」アポロニアさん、酷いよ。
結局、オットー様、フィリップさん、僕の三人が突入することになった。クラウディアさんなら、行きたがるだろうけど、馬車残留組だ。槍使いのアレクシスさんと盾職の双子の片割れの三人で馬車をまもっている。
フィリップさんを先頭に、隠し扉の向こう側を探検することになった。既に灯の呪文は唱えていたので、中は明るい。中には踊り場があって、下に行く階段と上に行く階段がある。
フィリップさんが、上を警戒しているうちに、下を先にオットー様が調べることになった。下は10数段で行き止まりで、部屋になっていた。どうやら、上の階の仕掛けが設置されているようで、大きな歯車や天井からぶら下がっている鎖だとかがあった。
「これは後で調べないとな。恐らく復旧する仕掛けがあるはずだ。今は閉じ込められたくないから、放置しておこう」そう言って僕に戻ろうと言って、元来た階段を上っていった。
踊り場に戻ると、下の部屋のことをフィリップさんに説明し、手を触れず、そのままにしておいたことを伝えた。フィリップさんは、頷き、上に向かって上っていこうといった。階段の幅は二人が並んで通れるぐらいだったが、一列で上っていくことにした。勿論、真ん中がぼくだ。
「オットー卿、これはもしかすると、城まで上がる階段かもしれませんな?」
「恐らくはそうでしょう。しかし、謎解き王子は、凄いですな」
「あちこち弄り回して発見できなかった我等はまるで愚か者でしたな」
二人は笑ったが、笑い声は階段の石の壁に響いて大きな音になった。
「おっと、この上に何がいるかわかりませんから、静かにしないとです」
「いかにも、ちょっと楽しくて大人気なかったですな」
で、また笑ってる。
階段を50段ぐらい上ると、踊り場があった。今度は逆方向に向かって上っていくことになった。更に上っていくと、上の方から明かりが射しているようだ。僕らは警戒しながら上がっていくと、また踊り場があった。そこには、大人の胸ぐらいの高さに穴が一つ開いており、そこから明かりが射している。穴は空気口のようだった。
僕らは、そのまま折り返すように上に向かって階段を上っていった。それから一度踊り場があって、また折り返すとあとは真っ直ぐだった。やがて階段の壁がくり抜いた岩から、石積みの壁に変わると、正面にドアがあった。木製で、鉄板で補強された頑丈そうなドアだ。
「おいおい、ここまで来て開かないというのは、酷いよな。開いてくれ」
フィリップさんは、ぶつぶつ言いながら、ドアをそぉっと蹴った。ドアは簡単に、しかし緩慢に開いた。
そこは、石造りの建物の中だった。長方形の建物で、天井は高くない。あちこちに、小さな長方形の窓があるので部屋の中が比較的明るい。窓というより狭間のようだ。フィリップさんは、素早く狭間と狭間の間に背中をつけて、ジリジリと狭間の一つから外を覗いた。
「敵はいないようだな」
見回すと建物は回廊のようになっており、片方はこのドアのある壁だけで行き止まり。反対側は少し進むと右に折れ曲がっているようだ。狭間のような窓は右側の壁だけにある。
「床に注意して進みましょう」
狭間が沢山ある場合、床に仕掛けがある可能性が高いということか。僕は学んだつもりになっている。実践ができるかはわからないけどね。ジリジリと回廊のような建物を進み、角を曲がった。数メートル先が行き止まりの壁で、またさっきと同じようなドアが行く手を阻んでいた。
「さて、またさっきと同じようなドアだから、同じ魔法で開くかもしれませんな」
フィリップさんは、なんかぶつぶつ言いながら足でそっとドアを蹴った。
ドアは簡単にしかし緩慢に開いた。そうか、呪文だったのか。気付くのが、遅かったか。よく聴けば真似できたかもしれないのに。失敗した。
外の光が眩しい。どうやら、山城の中のようだ。さっきの細長い建物は城壁の壁を利用して増築した部屋のようだ。城壁の中庭は、170年ほど前の戦闘が、終わったままになっているようだ。あちこちに死体だったものがのこっている。錆びてボロボロの鎖帷子をつけた骸骨や、明らかに魔物と思われる、槍で刺された死体だとかがあちこちに散らばっている。魔物も死んだら骨になるのか。不思議な気がした。
僕はドアを出て、ぼーっと立っていたが、オットー様達は気を抜かずあちこちしらべている。
「使徒殿、気を抜かないように。そこの足元の骸骨、アンデッドかもしれないぞ」
「ひっ」僕は、後ろにバックステップで下がってしまった。
「そうか、そうですよね。迂闊でした」
オットー様もフィリップさんも、僕を見て笑っている。
「さて、まずは正門を探してみよう」すぐ側に城壁に上る階段があったので、オットー様が調べるために城壁の階段を上がった。ここの城壁も、鉱山街とかと同じような造りだ。
内側には壁が立ち上がっていないので、気を付けないと中庭に落ちてしまう。フィリップさんは、中庭の下から警戒している。城や、塔から矢や槍が飛んでこないか見ているみたいだ。
オットー様は城壁の外側を一瞥して言った。
「やはり、先ほどの番所の上方のようだ」
それから、オットー様は城壁の通路を進んでいく。
この城は四隅に塔があるが、そのうちの二つは城の館の一部になっており、残りの二つが単独の塔になっている。オットー様が上った階段のある壁は前後に塔を備えている。つまり、城館がない側の壁だ。通路の先の塔には、扉のない入口があった。オットー様はそのまま入っていった。
僕らはオットー様の動きに合わせて中庭を城壁沿いに進み、塔の根元をぐるりと回り次の城壁の下に進んだ。
塔の反対側にも同じように城壁の通路から入れる口があり、オットー様が姿を現した。フィリップさんは城壁の下からオットー様に声をかけた。
「塔の中はどうでした?」
「・・・立て篭もった兵士の死体ばかりですよ。塔の上に上ってもおなじでしょうね」
「そうですか。当時は魔物と戦ったことがなかったから、うまく戦えなかったでしょうね。無念だったでしょう」
二人は、城壁の上と下で話すものだから、声が大きいこと。更に塔の壁に反射して増幅されている。僕は少しヒヤヒヤしてしまった。
まぁ、でもね。ここは静かだ。生きているものの気配がないのは、皆も感じているようだ。
死の絶望と、静寂が城を支配している・・・これから城館を調べることになるのだけど、悲惨な光景を見ることになるかと思うと、気が重くなった。
いかがでしたか。3千字ぐらいのつもりで、三倍ぐらいになってしまいました。
短くしたほうがいいのかもしれません。
次回は、城館の中に入ります。