第71節 街道の探索と戦闘 その5
お久しぶりです。
体調を壊してました。お盆休みで復調しようとしています。
今回は、宗教色強いので、苦手な方は飛ばしてくださいね。
僕は、職人さん達に呼ばれて資材置き場まで歩いていった。資材置き場は、新しく拡幅した北側の城壁の中にある。しかし、短期間でのこの変わりようはすごいな。城塞都市の職人さん達の仕事の速さには驚いた。まぁ、比較する対象がいないのだけど・・・
資材置き場に着くと、職人さん達は、マイスターの指示で、僕が壊した道路を直すための資材を、まとめて荷車にのせようとした。
さて、使徒様お願いしますと言われたけど、大きな石に浮遊をかけるのは簡単だよ。でも、砕石っていうのは、大きな石を小さく砕いていって、色んな大きさの石を沢山つくっているから、結構な量だし、大きさもバラバラだ。
一つ一つの石にかけないと浮かないので、嫌になってきた。
職人さん達もこれじゃ仕事にならないって感じで、工夫をはじめてくれた。
沢山の石を板の上に載せて、板を浮かすというやり方を試してみたが、石を板に載せるのに手で持つか、スコップで少量をすくわないといけないので、結構、時間がかかるし職人さん達も疲れてくるし・・・困っていたら、マイスターが、スコップで砂をすくう感じで浮遊をやってみたらどうだっていうので、やってみることにした。
手の動きも足して、スコップよりは小さな、しかし大きなスプーンですくうイメージで動かしてみたら、うまくできた。なんか自分的には腑に落ちないのだけどね。
さっきから一群の石にまとめて浮遊をかけるようとしていたのだけど、今回のやり方は、スプーンでいえば、スプーンの上部分にあたる石のみに浮遊をかけるイメージだ。つまり、いくつかのバラバラの石でスプーンを作って、その上に乗っている石を持ち上げる感じ。
なんだか、インチキをしているのか、機転を利かしているのか分らないよ。
そういえば、土の時はまとめて持ち上げたんだった。粒子が均一で小さいとうまくまとめて浮遊がかけられるようだね。
魔法もなんらかの原理があって、その原理だとか原則をなるべく理解しておかないと、応用が利かないね・・・砕石って、粒が大きくて不均一だから、土とか砂のようにはいかない。とりあえずできたので、理解したつもりでいようかな・・・
ふと気になったんだけど、もしかしたら、水も入れ物なしで、運ぶことができるかもしれない・・・今度やってみよう。何事もチャレンジだ。
それから、すぐに荷車をロープでつないでいって、馬車で現場まで引っ張っていくことになった。現場って言葉生まれて初めてつかったかもしれない。なんか男っぽいワードだよね。
いわゆる現場についたけど、あちこち大穴があいていて、ぼこぼこだ。見るだけで落ち込んでくる。僕のせいだからね。
職人さん達は、大きくあいている穴から手をつけ始めた。
「すげえな、この穴。使徒様の魔法であいちゃたんだろう?」職人さんが相棒と話しながらしきりに感心している。
ああ、そういう発言を耳にすると心が痛む・・・僕は職人さん達に近づいた。
「すみません・・・お手数かけます・・・」
「あ、わりぃわりぃ・・・別に使徒様のこと責めているわけではないぜ・・・ガンガン壊してもらえれば、俺らの仕事も増えるし、何しろ特別料金だっていうから、嬉しいんでさぁ。たださ、こんな何百年も持った強固な石畳も、使徒様の魔力には勝てないんだなぁって、でも、それで、魔物の大軍をやっつけたっていうことだから、いいことをしたんでさぁ。ね?落ち込まない、落ち込まない」職人さんが僕の肩をバシバシ叩いてくれた。
僕は、目を伏せた。あの魔法はもう封印したんだ。一緒にいたクリスタも殺してしまいそうだったんだもの。あと、どうせ迷宮だとか室内だと使えないものね。
職人さん達は、すぐに作業を開始した。まずは、バラバラに飛び散っている石や土などをどけて、まだ使える地盤というか、路盤というらしいけど、それを露出させた。
路盤というのは、大きめのとがった石を土にさしていって、一番下で、道路全体が沈まないようにする全体を支える部分だそうだ。なんだか重そうな、ハンドルのないトンカチの頭部分みたいな道具を、上に上げて落とすようにしている。なるほどね・・・締め固めているわけか。
次は、砂と小石を混ぜたものを撒いて、これもどんどんと締め固めている。
マイスターがやってきて、工事の出来をチェックしているようだ。厳しい顔をしているけど、僕と目があったら、ニコって笑ってくれた。
「使徒様、本当にありがとうございます。濡れ手に粟とよく申しますが、いいお金がでました。城塞都市から出稼ぎにきた甲斐がありましたよ」
「そうなんですか。城壁のほうは、あまり儲けがないのですか?」
「まぁ、宮宰様も城壁の値段には厳しいですからね。でも、ここはフィリップ様が、戦略上の重要性を説いていらしたので、突貫費用が認められたんです」
その日のうちに、大きな穴は無くなってしまった。余った土や砂利は、路肩の酷い穴を埋めるのに使っていた。
明日からは、セメントというのも砂や砂利と混ぜて敷いていくらしい。帰りの馬車の中で、マイスターが面積を計算して、使うセメント量を出していた。マイスターは、計算が終わると、僕を見てまたニコリとした。
「明日の朝も、浮遊をお願いします。朝、お部屋までお迎えにいきますね」
「いや、時間と場所を決めていただけたら、参ります」
「そうですか。ありがとうございます。そうそう、使徒様は、石屋のヨハネというものは、ご存じでないですか」
「・・・えっと、わからないですけど・・・」
「なにか思いあたることとかないですか」
「う~ん、なんとなくですけど、左右の目の色が違う人じゃないですか?それ以外はわからないです・・・ご親戚なんですか?僕とどこかでお会いしたのでしょうか」
「いや、なんでもないですよ。恐らく、私の親戚のヨハネとどこかでお会いしたようですね・・・」マイスターもヨハネさんだけど、まぁ一番多い名前でもあるからね。
砦についたら、職人さん達は、明日の準備を始めるそうだ。僕は気になって見に行った。
マイスターは指示を出している。砂、砂利、石灰、火山灰、火山岩がそれぞれ量が発表された。セメントというやつだろう。このセメントの配合は、古代ローマ時代から変わってないようだ。城壁を積み上げるときにモルタルを使っていたけど、どう違うのかな・・・
僕はマイスターに訊いてみた。
「あの、セメントとモルタルってどう違うのですか?」
マイスターは、ふふふと笑って答えてくれた。
「使徒様、これは職業上の秘密なので、教えられないのですが、ほかならぬ、使徒様のご質問ですから、お答えしましょう」
「え、秘密なら内緒でいいです」
「あはは、配合の仕方までは教えませんよ。簡単な知識として、お答えしますね。配合は親方から弟子へ秘密のうちに伝えられるものです。こればかりは、数字だけではうまく伝えられないのですよ。レシピだけでは、本当の美味しい料理が作れないのと同じです。
硬くて強いセメントというのは、やはり、私でも難しいです。まぁ、段々と上手くなれればいいなって思っていますけどね・・・
さて、本題ですが、セメントというのは、石灰から作ります。水を加えると固まる性質があるのです。接着材なのです。そうそう、明日作りますけど、使徒様は素手で触らないでくださいね。手の皮がむけますからね。セメントに砂を混ぜたのが、モルタルです。それに砂利を加えるとコンクリートといいます。この砂利に何を使うかで、硬さが変わるし、長持ちする長さも変わるのです。古代ローマ人のコンクリートには、海水も混ぜられていたそうです。入れると長持ちするらしいのですが、ここいらでは、海水は手に入らないですからね」
「古代ローマ人は、すごいですね」
「そうなのですよ。でもね、私らも彼らを超えようとしているのですよ。このコンクリート調合法は、我が家に伝わる秘伝でして、ヨハネのコンクリっていうんです。うちは代々子孫にヨハネって名づけているんで・・・でね。古代ローマ人のコンクリートより硬くて長持ちするのを目指しているんです」
僕は、なんか感動していた。マイスターって恰好いいよね。マイスターや職人さん達とわかれて、僕は自分の部屋に向かった。
部屋の前には、クリスタが待っていた。あ、そうかご飯だよね。僕は気になっていたことがあったので、クリスタに訊いてみた。
「クリスタ、お父さん、もう元気になった?」
クリスタは、嬉しそうに眼を輝かせて答えた。
「うん、もう働きだしたんだよ。また鉱山に入るようになったんだ。3日に一回ぐらいだけどね。寝たきりだったから、体力がなくなっちゃったんだって。足も腕も細くなったからね・・・」
「そうか、それは良かったね。で、お母さんの目のこと聴いてみた?」
「お母さんが邪眼の一族っていうのはわかっていたけど、触れないようにしていたらしいわ。結婚する前に打ち明けられたんだって。まぁ、生活で使うわけでもないし、お母さんが、力を見せたことはなかったらしいよ。
しかも、邪眼の力が女の子にしか伝わらないっていうのも知らなかったみたい。うちでは私しか生まれなかったからね」
確かにお母さんが使う機会がなくてよかったね。邪眼自体は、憎む力というか、怒りとか、負のエネルギーから生まれるようだものね。クリスタのお母さんは幸せだったのだろう。
「それは、よかったのかもね。でも、クリスタは何故自分が邪眼の一族だって知ったの?」
「お母さんが死ぬ前に色々と教えてくれたのよ。一つ間違えたら、人を殺す力があるので注意しなさいって・・・一度開眼してしまうと・・・あれ変だな。目はずっと明いているのにね。でもママは開眼って言っていたから・・・
そうか、邪眼の力に目覚めることよね・・・開眼すると、どんどん能力が伸びるので、注意してねって・・・確かにそうなのよ。最近は、かまどの火は目で着けているのよ。ぼってね。便利だから。最初は人を殺す力なんて聴いていたから、お母さんも私が殺したのかと思っていたの。でも、邪眼の本当の力って、呪いじゃないのね」
そういってクリスタは笑った。出会った頃の悲壮感がなくなって、明るい娘になったのはいいことだね。最初の頃はがりがりだったけど。でも、目力で火をつけるって面白いな。今度見せてもらおうっと。
「お母さんのもともとの出身地はわかった?」
「お父さんが、ニュルンベルクだと聴いていたようね」
「ふーん、どのあたりなの?」
「・・・バイエルン人の土地だそうよ。だから、ここから北の方よね。行ったことないけどね。塩の街道の途中にある村だって。お母さんの先祖は、ニュルンベルクの近くの山の中に住んでいたらしいけど。なんかトラブルに巻き込まれて、逃げて南のほうへ来たらしいの。そしたら、悪魔の大攻勢で、帰れなくなったとか・・・」
「大変だったね」
「今も大変だけどね」
「本当だ」
僕らは笑った。確かに今だって大変だ。もっと平安な時代だったらよかったのにね。
その頃、マイスターは、砦に向かっていた。オットー様に報告するためだった。毎日仕事終わりに報告しているのだが。鉱山街の入り口第2門をくぐって、左に曲がって、砦の正門をくぐった。いつも気になるのが、鉱山街と砦を結ぶ橋だ。よく出来ている橋だ。橋の下には、塩街道が通っている。下から見上げた時に美しいアーチでできている。この橋も、実は彼の一族の職人集団が造ったものだった。
この下に、建物を造ろうというのが、宮宰様のお考えだ。すこし残念だが、うまく、橋とは構造を切り離しつつ、兵士の宿舎が納まるように図面を書いている。夜にだ。昨日は徹夜してしまった。面白くて仕方ない。これは、先祖への挑戦状のようなものだから。
しかし、使徒様、まさかうちの先祖のヨハネを知っていたとは。やはり、噂は本物だったな・・・ヨハネは、オッドアイだったのだが、それは一族のものしか知らない筈だ。いつも気にして片方の目をかくしていたらしいから。
オッドアイのヨハネは、200年ほど前に、マイスターになった先祖だった。
神聖騎士団に加わり、地獄に砦を造るために死の旅に出かけたのだ。しかし、使徒様は、戻ってきた。しかも当時の若さでだ。地獄では、永遠に同じ時間を繰り返す場所があるらしい。気が狂いそうになる話だ。そこで、地獄に堕ちた人々が炎に焼かれ、次の日もまた焼かれとかしているわけだ。毎日生き返り、毎日苦しめられる。その苦しみが悪魔の力になるらしい。先祖のヨハネは悪魔に捕まらないで、騎士団とずっと一緒にいるのならいいのだが・・・ま、考えてもどうにもできないが、もしもそうならば、いつかは帰ってこれるのかもしれない。墓もなく、うち捨てられていなければいいのだが・・・
もしも先祖のヨハネが帰ってくることがあるのなら、俺の仕事を見てなんていうだろう。どやされないように、素晴らしいものを造らないとな・・・そんなことを考えながら、マイスターはオットー様の執務室をノックした。
次の日は、結構早起きできたので、すこし朝の散歩を楽しんだ。もともと朝は弱いので、あまり朝の砦とか鉱山街に詳しくなかったから、新鮮だった。みんな朝活しているのね。アグネスさんは、シャルロッテ様とお馬の稽古していた。白雪と白鬣の親子の走る姿は美しい。夜勤の衛兵さんが交代するのは、朝ごはんの前なのね。さて、僕も朝ごはんにしようっと、あとお昼のお弁当ももらって出かけないとね。
資材置き場で材料を荷車に載せて馬車で出発だ。石灰は、樽に入っていたので、浮遊は簡単だった。でも凄い数の樽だった。マイスターは、砦部分の材料が足りなくなるから、追加発注するっていっていた。あと、水を使うらしく、これもたくさんの樽だった。
今日の作業は、昨日の続きで、昨日作って締め固めた層の上に、コンクリートを敷均していく。これが固まったら表層の石を敷くらしい。表層の石はまだできていないので、これから作るって。これが表層で、いわゆる石畳なわけだ。勉強になったよ。
今は夏だったので、結構コンクリートが固まるのが早いらしい。それでも2日以上はあけるとのことで、1日だけ作業がお休みになった。あれだけ滅茶苦茶になったのに、本当に約1週間で直してしまうんだから、職人さん達の凄さを思い知ったよ。
石畳もモルタルが固まらないとダメだとかで、また養生期間があって、丁度日曜日にかかって、名実ともに安息日になった。
あ、しまった。安息日で工事がないとなると、ご飯も出ないのだ・・・よほどのことが無い限り、日曜日は鉱山もお休みだ。でも城塞都市から教区の神父様が来て、野外ミサをするらしい。マイスターさん達出張組が呼んだらしい。すごい人が集まっている。砦と鉱山街の殆ど人がいるんじゃないかな。ブルーノ神父様も共同司式で、祭服を着ている。
マイスターさん達は、前のほうにいるけど、椅子がないから、皆立ったままだから、なんか、僕、背が低いから、仮設の祭壇が見えないよ。皆が跪くときだけ、ちょっと見えるけど、僕も跪くから見えないんだな・・・あ、聖体拝領が始まったぞ。
ご聖体をいただけるのは、洗礼を受けて、初聖体をした人だけだ。あと、罪の状態にあるとダメなんだよね。僕は、洗礼を受けたかどうかも分からないから、ご聖体の列には並ばなかった。洗礼証明書なんて持ってないし、まず、自分がだれかもわからないからね。
ご聖体を頂く時は前日の夜から断食というか、水以外は飲んじゃだめなんだ。僕は、昨日の夕食のあと、何も食べてないから、ご聖体をいただくのにちょうどいいのだけどね。無駄に空腹だから辛い。
自分は信徒であるという意識はあるけど、証明できないというのも困ったものだ。洗礼を受けていれば、受洗教会にその記録があるのだけど、自分が誰なのかわからないからね。なんだか強烈に寂しくなってきたよ。
うは、ご聖体を頂く列に並ばなかったのは、僕だけだった・・・なんか最悪の気分だ。
ブルーノ神父様が、司式している神父様に耳打ちして、僕を呼んだ。全員に注目されていて恥ずかしいよ。
僕は神父様の前に立った。すると、神父様は、ニコニコして、囁いた。
「あなたの受洗と堅信の記録はありますから、ご心配されなくても大丈夫ですよ。司教様からもお許しを頂いております。しかし、アグネス様やロッテ様によく似てらっしゃること。さぁ、王子様・・・キリストの御身体・・・」
侍者が大きな木のへらみたいな道具を僕の顎の下に出そうとしている。ご聖体落下防止用ビッグスプーンみたいなやつだ。僕はひざまずいて、口をあけてアーメンといった。神父様がご聖体を口にいれてくれる。
「キリストの御血」ブルーノ神父様が神妙な顔で、カリスを差しだしてくれる。僕はカリスに口をつけ、御血を頂いた。
ずっと切望していたものを、とうとう手に入れたように感じた。僕の体の奥から、命というか、喜びが湧きだしてきているようだ。僕は、もとの後ろのほうに戻った。
信徒にとって一番辛いのは、破門になることだと聞いたことがある。破門になるということは、信徒の交わりに参加できなくなるということだ。実際のところ、破門になると命の保証もない。なにしろ異教徒と同じなのだから。言い方は悪いけど、人間ですらないような扱いだ。でも一番きついのは、ごミサに参加できないとか、聖体拝領などの秘跡に預かれないとか、コミュニティでの居場所がなくなるということだ。
閉祭の歌が終わって、解散となった。僕は大きな平和の中にまどろむように跪いたままだった。
ごミサのあと、神父様達にお礼を言おうと近づいたが、人垣で近寄れなかった。特に、告解を受けたい人が多数いて、城塞都市の神父様は、帰りの馬車の時刻まで、ずっと告解を受けていた。砦にはブルーノ神父様しかいないからね。やはり、普段いない神父様のほうが、罪を告白しやすいのだろう。告解室がないので、馬車を告解室として使っている。
ブルーノ神父様は、砦の礼拝堂に行ったようだ。教区の神父様は人気なのであきらめ、ブルーノ神父様のところに挨拶にいった。礼拝堂の中は、誰もいない。ブルーノ神父様は祭壇に向かって一人静かに祈りを捧げていたが、僕が近づいたら、気づいたように振り返った。すこし寂しそうだ。僕はお礼を言おうと口を開いた。
「神父様、先程はありがとうございました。僕、拝領しても、よかったのですか?」
「・・・司教様から話が通っておってな・・・ベルンハルト枢機卿様から書簡が行ったらしいぞ。城塞都市では、もっぱらお主のことが話のタネになっておるそうだ」
「え?どういうことですか?そういえば、王子様とか言われて驚いたのですが・・・」
「ふふふ、そりゃ、170年も前に派遣した騎士団の一人が帰還したら驚くだろ?しかも、リウドルフィング家の王子だぞ。さらに、ローマ皇帝の正統な継承権も持っておる。
公爵様からすれば、先祖だからな。しかもすごい聖性の持ち主で、地獄からの生還者だ。ザクセン貴族は盛り上がるだろう。生きている聖人のようだからな・・・そうでなくても士気があがりすぎるぞ。フィリップ殿が、彗星とか隕石を魔物の大軍に落とし、やつらを全滅させたとか、ザクセンの歴史上最も高貴な血がどうのこうのと、吹聴して回っているらしいぞ・・・おや、困った顔をしているな?」
「・・・想定外すぎます。想像できる範囲をはるかに超えているので・・・どういっていいのか・・・」
神父様はすこし同情したような感じで続けた。
「まぁ、無理もない。許してやってくれ。城塞都市の閉そく感はすごいものがあったからな・・・打つ手がなく、ただ、散発的な悪魔軍の攻撃をしのぐだけ。帝国からの援軍なんてないしな。捨て駒として打ち捨てられていると感じているんだよ。
ザクセン騎士は、勇猛果敢なのだが、活躍することもできず、悪魔の支配地で帝国の防波堤となって朽ち果てる運命だと薄々感じていたのだよ。
でもどうだ?お主が現れてから・・・神は我らを見捨てたどころか、極力な使徒を遣わしてくださった。我らは、聖ミカエル様が率いる天使軍の末端として参戦し、悪魔軍を打ち破り、支配地を再び取り戻し、神の栄光を知らしめる栄誉に与れそうではないか・・・
オットー卿も言っていたが、お主は我らの世の光なんだよ。お主がもしもザクセン騎士を率いるのなら、我らはお主のもとに馳せ参じ、忠誠を誓いたいとまで思っているのだ。
おいおい、そんな顔をせんでくれ・・・記憶が戻るといいな・・・ま、そのうち戻るだろう・・・」
僕はなにも言えなかった・・・使徒ってそういう意味だったのか・・・しかし記憶がないからなぁ・・・もしも、僕がそのなんとか王子でなくて、真っ赤な偽物だったら、どうなるのかな・・・まずいよね。それこそ、火刑になりそうだよ・・・怖い怖い。
とりあえず、神父様にはお礼を言って、自分の部屋に戻ることにした。
その日は、部屋で魔法の本を読んで過ごした。あまり人に会いたくなかったんだ。
夕方、誰かがノックした。ドアを開けるとアーデルハイトだった。肩に猫を載せている。
「やっほー。ねねね、ご飯食べにいかない?女将さんが一緒に食べようってよ」
「・・・アーデルハイト?僕、街でなんて噂されているのか、聴いたりしてる?」
「ああ、今日も城塞都市の神父様が、王子さまって呼んでたって噂で持ちきりだったわよ。あんたも大変よね。記憶ないんだものね・・・
本当、あんたって不思議ちゃんよね・・・悪者君だったり、変態君だったりしたかと思ったら使徒様になって、挙句の果ては王子様ときたんだよ・・・
まぁでも気持ちはわかるわ。私も知らないうちにブルグンド王女とかイタリア王国の継承者とかさ、そんなのどうでもよくない?私は私。孤児で一人ぼっちなのは変わらないんだから・・・あんただってそうじゃない。少し前は孤児院にいたっていってたでしょ?
周囲の扱いが変わっても、あんたはあんたなのよ。堂々としておけばいいわ。あなたの主人は神様とあなたなのよって、今のはベルタさんの受け売りだけどね」
「ありがとう、アーデルハイト」なんか僕、泣きそうだよ。
「さぁさぁさぁ、ご飯を頂きにいくわよ。我が高貴な孤児の友、悪者君」
二人で思わず笑ってしまった。そうだよ。僕は僕でしかないんだ。僕から誰も僕であることは奪えない。僕は家族もいないし、一人だけど、僕には神様がいて、僕が進む道を整えてくださっているんだ。
いかがでしたか?
次回は、また、街道の探索に戻ります。いよいよ山城に行きます。
宜しくお願いします。




