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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物が校舎を建てるには
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・パンドラに聞こう

・パンドラに聞こう


「ていうことがあってさ。他の人たちもなんで最初に会ったとき気付かなかったんだろ」

「まさか生きてるとは思わなかったんじゃないか。あいつも周りとの関係を絶ってたし」


 それは何故かとは聞かない。理由はウィルトの人生が一般とはあまりにかけ離れているからだろう。隣のディーも頷いている。


 俺は積もる話もありそうだったウィルトにタニヤ校長たちを任せて役所に帰ってきた。そしてちゃんと仕事をしているディーと、それを手伝っていた宝箱姿のパンドラにことの経緯を話したのだった。


「なんか校長が実は王族の血筋で親父さんを先生って呼んでたんだけど、妖精の社会ってどうなってんの? ついでに親父さんってどういう人なの?」


 俺が尋ねるとディーも『それが』と言い淀んで首を傾げてしまった。


「あたしも父さんの過去って全然知らないの。あの人はそれを聞くといつも決まって答えてくれなくて、悲しそうな顔をするから、知っているのは魔王軍に来る少し前までくらい」


 うーむ。ということはやはり掘り下げるとあまり明るくない話題になるということだな。王族にも関係があるし、あいつの人生を本にするだけで長編冒険物語になるんじゃなかろうか。


「なんだ、ウィルトの過去が知りたいのか。それならオレ知ってるけど」

『え!?』


 予想だにしていなかった所からのあっさりとした答えに俺とディーは驚愕する。癖とか灰汁の強い四天王だけどやっぱりこいつは別格だ。バスキーを得体が知れないとウィルトは言ったけどこいつのほうがよっぽど正体不明だ。


「娘に隠し立てすることもあるまい。ただ、オレがお前たちにせがまれたってことにしてくれよ。あいつに怒られるのはオレも辛いからな」


 俺たちは頷くと、パンドラは場所をいつもの会議室に移して長い説明を始めた。何気に四天王たちも説明好きだよな。


「先ず、妖精の社会こと妖精の国についてだが。これはざっくり言うと『この世界の中にある異世界』とでも言うべき世界が妖精たちの本拠地なんだ。ここを妖精の王様が統治していて、あいつらはそこから来る。ここまではいいか」


 要するにお化けの世界とか天国と地獄とか不思議の国とか鏡の国とか、もっと言うと一本の巨大な木の上と下みたいなことだろう。


「どういうことです?」

「俺が来たのが普通の異世界、この世界の外の世界。で、妖精の国は行き方が特殊なだけであくまでもこの世界の一地方とでも考えたらいいよ」


 俺の説明にディーが納得してくれる。異世界に行けない世界の出身者のほうがイメージを掴みやすいっていうのもなんだか変な話だな。


「続きいいか。じゃあここからは映像も一緒に見て行こう。明かりを消してドアを閉めろ」


 そう言ってパンドラが自分の蓋を開けると、中には牙と舌、そして舌の上にここ数日良く見た水晶球が乗っていた。その水晶からはプロジェクターよろしく映像が部屋の壁に映し出される。


「これが、父さんの過去……」

「正確にはオレのウィルトに関する記憶だな」


 映像には鬱蒼とした森が広がり、今よりも少し背が低く素直そうな少年が映っていた。


「オレとウィルトの出会いは、オレが魔王軍の領地を抜け出して森を散歩していたときのことだった。森には野盗や山賊がいることが多かったからそれが目当てだったんだけど、この日、妖精の国から初めてこっちに来たウィルトと出会ってな」


 目当てを見つけていったい何をするつもりだったのか。今はいいかそんなこと。映像の中ではパンドラに驚いたり談笑して笑顔を向けるウィルトが見られた。うん、屈託のない美少年だ。眼の健康に良さそうだ。


「この世界に住んでいる親戚の家に行こうとしたらしい。ここで知り合ったオレたちは友だちになったんだな。最初の頃はオレが教材出したり魔法を教えたり鍛えたりしてやったんだ。今じゃ鍛えられる側だけど……」


 映像が途中途切れて、再び映し出されると今度は少し背が伸びたウィルトの姿があった。今の彼に近いが全体的にはつらつとしていて表情も明るい。


「このときのあいつはめっきり強くなって頭も良くなってなんだか前途も開けてたんだよ。大人になったことで疎遠になってなあ。久しぶりに会ったら教師になってたんだよ」


 人生が上手く行ってた頃のウィルトは裾が白く縁取りされた原色の青い儀礼服に身を包んでいた。上下も揃いで格好いいような可愛らしいような。さっきから隣のディーが一言も喋らず見入っているのが気になる。と、そこで映像が途切れた。


「で、オレが次に再会するのはあいつが帰ってきて孤児院、児童養護施設だっけか。アレを始めるとこからだな。それまでは向こうで先生をやってたらしいから、その校長とやらはその時の教え子だったんだろうな」


 他の職員も昔の同僚だったりするのかも知れない。それがこっちの世界に来たばかりに現在に至るのか。転落劇が酷過ぎるけどよく命があったものだなあ。


「あの、次の映像は……」

「これから先は施設が襲撃されて皆が死ぬとこだから絶対に映さないぞ」


 おお、空気の読めるミミックだ。その配慮はありがたい。俺も子どもが襲われて死んでいくシーンなんて見たくないし、ディーにも見て欲しくない。


「そういえば、ウィルトの両親って今どうしてるんだろう」

「それはオレも知らん。戦前までは連絡もしてたようだがな」


 ということはウィルトの経歴は、こっちの世界でパンドラと出会い、良く育った後に妖精の国で先生になる。恐らく次に脱サラして孤児院を初めて、戦禍に巻き込まれて魔王軍へ所属、終戦後に今に至るってところか。相変わらずリアクションに困るなあ。


「こうして見ると、お父さんって途中までは幸せな人生を送ってたのね」

「オレからすれば最善の人生なんて偽財宝と同じだ。それにまだお前もいるだろうが」


 パンドラはそう言って蓋を閉めた。俺もそれを見て部屋の明かりを点ける。室内には少し疲れたような空気が広がっていた。


「お父さん、大丈夫かしら……」


 ディーは父親を心配して溜息を洩らした。娘からすれば父親が昔の同僚や教え子に会って辛い思いをしていないか気が気でないんだろう。もしかしたらウィルトも彼女が気を病むから教えなかったのだろうか。


「平気だろ。きっと元気な顔して戻ってくるぜ」

「その根拠は」


 なんだろう。パンドラがウィルトに言及するときは、ミトラスたちが問題に取り組むときの『大丈夫』と同じものがある。聞いていて、とても安心できる。


「そんなに気になるなら、丁度昼時だ。差し入れでも持って様子を見て来るがいい」


 答えを示さないままパンドラは甲冑姿に変身すると、どこへともなく去っていった。そこはせめて最後まで言って安心させてくれよ。俺とディーは焦りとも不安ともつかない、何とも言えない『ばつのわるさ』を覚えると、声も無く二人揃って役所を出て、教会へと向かった。


 そしてもう一度扉を開ければ、そこには職員に混じって会議に参加するウィルトがいた。彼はさっきの映像の面影を残す笑顔を見せていた。


「な。言った通りだろ」


いつの間にいたのか、後ろからパンドラに声をかけられた。なんていうか、パンドラとウィルトの信頼の深さを見せつけられたような形だ。俺は釈然としなかったが、ディーは安堵したようだった。良かったな。お前の父ちゃん嫌われてなくて。


「このまま突っ立ってるのもなんだ。オレたちも話に混ぜてもらおうぜ」


 そう言ってパンドラは手を振りながらずかずかと教会内へと入っていく。俺とディーも慌ててその後を追いかけた。そういえば、こいつって魔王軍の中でも古参のすごい年長者だったっけ。


 とりあえず今回のことで分かったのは、仕事のことはパンドラとバスキー以外に聞いて、ミトラスや四天王のことについてはパンドラに聞けば良さそうだってことかな。

誤字脱字等修正しました。

一部文章を修正しました。

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