・魔法の水力発電所
・魔法の水力発電所
昼休みを取ることも忘れて、探索をし続けたおかげで今はまだ昼過ぎだ。
日の光が差し込まない地下は、役所の電灯とはまた異なった灯りで以て、照らされていた。
壁や天井にはクリスタルをミニチュア化したような結晶が埋め込まれ、淡い光を放っている。
「そういえばエルフの科学力ってどんなもんなの? この世界の技術水準が良く分からないけど、短筒くらいならあるの?」
「ありますが、用途と言えばもっぱら対人用ですね。魔物相手には何発も必要ですが弾は高いし、剣や斧とでは継戦能力が違いすぎます。ああでも、これからの時代は逆に増えそうですね。あとそういうのはドワーフと人間の領分です。エルフはもっと平和な方面に、偏っていますよ」
発電所も平和かというと現状を鑑みて明言することは差し控えさせて頂きたい。
「俺たちと戦う理由がなくなっちまったからな。これからは人間同士の争いが、もっと増えるぜきっと」
面白そうにパンドラが言う。予想がついているというよりも、子どもの悪癖がまた始まったぞと茶化す、大人のような言い方だった。
そうこう話しながら先へ進むと、通路はやがて開けた空間に出る。ここが水力発電所なのだろう。
クリスタルのあった部屋の真下に位置し、そこよりも倍は大きい。中央の柱は天井まで伸びている。地上のクリスタルと繋がっているようだ。
そして柱の下には。
「でけえ歯車だな。いや、水車か?」
「どうやらここに各地へ流されるはずだった水を結集して、この水車を回す手筈だったのでしょう。初めは魔法ではなく、手近な場所から水を引いて。発電そのものは成功したらしいですが」
「水が出ないんだっけ? 思うにこの水だけ別管理ってことだよね」
全体で百の力を持っていたが管理者不足で、稼働数を減らさないといけない。ならばと先ずは全体の力を集められる施設を、もう一ヶ所造り、そこに百の力で発電できる施設をこさえた。それがこの水力発電所。
一度全体の力で稼働させた後は、クリスタルと連動させて、他の発電所を順次停止させていく予定だったのだろう。
この場所一つの管理で、総力を維持しようと努めたらしいけど、肝心の水回りが機能しなくなったのが、本件のあらすじか。
「はい。風車が力をクリスタルに送り、クリスタルが増幅した力を風車に返す。ここに自然から受け取った分などで余剰なエネルギーが一定値を超えると、水を出すようになっています。無暗に出し続けると容易に氾濫しますからね」
うん。分かる。
そういうセーフティがあるのは良い。
じゃあこの後どうするかだよな。
すごい地味な作業が待っているだけな気が、しないでもないけど。
「で、これってどうすりゃいいんだ?」
「……水がないだけで、これはまだ起動しているようです。これを止めてから、他の発電所を止めて、最後にクリスタルを一度止めます。その後魔法の設定を、元に戻して、私達の仕事はそこまでですね」
指を立てて数えていたウィルトは、三つ目でその作業を終えた。確かにそれでこの風は止むだろう。だがそれだけだ。この街を戻すことはできない。
なんとなく腑に落ちない。
「それだけ? 街を元に戻したりとか、緑化させたりとしないの?」
「人がいないから施設を停止させる。それは正しい。そして今、この屠殺には誰もいません。一人もいない以上、一つも動かさないのがよろしい。発電所の再稼働は、この街に人や魔物が、戻って来てからにしなければなりません」
「でもそんなの、いつになるか分からないんじゃ」
「自分の言ったこと、お忘れですよ。それを解決するために、住民はどこへ行ったのか、帰ったら調べるんじゃないですか」
元の住民でここの管理ができそうな人間。
そう考えてあることに思い至る。屠殺が前神無側時代に、人権を剥奪されてしまった人種がいたことに。
「あ、エルフを呼び戻す!?」
「正解」
「群魔区内じゃ魔物扱いされてる奴も、一応人間扱いだかんな。領土が増えて最初にやるのはエルフの帰還事業って寸法よ」
今の屠殺には人がいない。現状を改善するには先ずは住人を招致しなければならないが、こんな状態の町に来たがる奴なんて、人間はおろか魔物さえいない。
だがここに元々住んでいたエルフを呼び戻せれば、そこから復興を狙えるし、復興すれば余所のエルフも呼べるだろう。
群魔では魔物の人権が保障されているのだ。
ここまで考え付いて、ようやく今回のパーティー編成に納得がいった。
実の所、誰を連れていけば良いのか、皆目分からなかったので、各人の自主性を尊重したのだ。丸投げしたと言ってもいい。
真っ先にバスキーは辞退しやがったが、残りの四人は快諾してくれた。その中でもミトラスとウィルト、ディーとパンドラのそれぞれ後衛と前衛の二択になった際に、ウィルトが自分を行かせて欲しいと言った。恐らく必要になると言い、パンドラを指名したのだ。
このように彼が急にリーダーシップを執ったので、今回のメンバーが決まったのである。
たぶん俺が知らないだけで、彼は彼で、ここで起きた問題を、人種として共有していたのだ。実際に目の当たりにしないと、こういうのってピンと来ない。
「だから積極的だったんだ。あ、じゃあ発電所のことにも詳しかったのは、この時のために勉強してたからとか?」
「……元々、この施設の原型は私が考案したんです。孤児院の貧しさを、少しでも緩和しようと思いつき、周りに売り込んだ。もっとも、得られたお金で小型化や高性能化した発展型を、近く造ろうと思った矢先、襲撃を受けましたが」
待て。今なんて言った。脳内で突っ込みが追い付かない。処理能力が足りない。
古代エルフの一派って、お前のことだったんかい。そしてお前は何歳なんだ。魔法の要素あるけど、お前発明家っていうか科学者だったのか。
そして小型化ってもっといい案があるのか。お前本当は口減らしじゃなくて、技術の接収的な意味で襲われたんじゃないのか。
「あなたがここの視察に行くと聞きまして、内心居ても立ってもいられなかったのです。黙っていて申し訳ありませんでした」
「水臭い奴だな。そんなこと言われて嫌な顔する奴はオレたちの中にはいないぜ。な?サチウス」
「うん。そうだね。おかげで助かったしね」
いかん、喉元まで気持ちが出かかってる。言ったら駄目だ。仕事に集中しろ。絶対に言うな。余計なことを言わず呑み込め俺。心の中で完結させろ。しかし。
清貧な発明家で聖職者で孤児院の先生……
――お前はどれだけ悪墜ち要素を詰め込んでんだ。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




