・いざ屠殺
・いざ屠殺
ブウウゥゥゥ―――――ン!
ブウウゥゥゥ―――――ン!
風の荒れ狂う旧屠殺区は、正に砂漠といった有様だ。
天気は良いし気温も穏やかなのに、さっきから吹き付けてくる風と砂のせいで、まともに視界も確保できない。そして何より。
ブウウゥゥゥ―――――ン!
ボウウゥゥゥ―――――ン!
「うるっせえ! なんだこりゃあ!」
「これが屠殺区から人がいなくなった原因です」
「サチウス、これ被ってろ!」
パンドラが頭部である兜を、俺に被らせてくれる。いくらか状況が楽になる。現在俺たちは現状把握するために、屠殺区の視察に来ていた。
メンバーは俺、パンドラ、ウィルトだ。
なお転移魔法を使えるのは、ミトラス、ウィルト、バスキーなので、帰り道が徒歩になりたくなければ、この中から誰か一人は、必ず加えなければならない。
「この先にある屠殺区役所に避難しましょう。そこで説明をします」
「よし、ちょっと待ってろ。今移動用の乗り物に変身してやるから」
ウィルトがそう言うとパンドラが姿を変え始める。ミミックたる彼は、変身の一つや二つお手の物だ。
しかしながら果たしてどんな姿になるのか、スペースファンタジーな乗り物か、あるいはこの世界特有の乗り物になるのか、期待して見ていると、どこか歴史を感じさせる二輪車へと変化した。
――これ戦車だ。タンクじゃないほう。箱の足元に車輪が付いていて、馬がけん引するタイプの奴。でも馬はいないから、座席が取り残されてるようにしか、見えない。
「さあ、乗れ!」
乗れと言われても。
本当に乗っても大丈夫か、判断が付かなかったが、ウィルトが平然と乗り込むので、俺も意を決して反対側に座る。座席が付属の辺りちょっと高級だ。屋根はないけど。
「よし、じゃ出発するぞ! しっかり掴まってろよ!ハァッ!」
パンドラが掛け声と共に勢いよく走り出す。初動こそ揺れたが、その後は非常にスムーズな行程だった。
ウィルトが何かバリア的な魔法を使ってくれたこともあり、周囲の景色も確認できるようになる。
そして屠殺は、俺たちの前に段々と、その異常さを露わにしていく。
「これが、屠殺……」
広がっていたのは晴天の下、道と人とが失われて、廃墟と化した古い街の姿だった。
*
ブウウゥゥゥ―――――ン!
ブウウゥゥゥ―――――ン!
旧屠殺区役所。
俺たちは最初の目的地へ辿り着くと、体中にかかっていた砂を払う。あまり意味のある行為ではなかったが気持ちの問題だ。
「ここも砂っだらけだな」
建物の内部まで砂が入り込んでいた。窓は閉め切っているが、隙間や屋根から少しずつ、入り込んで着ているようだった。ここまで現地人との接触はない。
そして先ほどの騒音はさらに近くなっていた。
「ミトラスが言ってた通り、水なんかどこにもない。砂丘じゃなくて砂漠だってのは、こういうことだったのか」
「明らかにこの風のせいだろ。なんだ、風の精霊に呪われでもしたのか? だとしたらオレよりもミトラスかあの糞竜がいるぞ」
パンドラが悪態をつく。やめてやれ。本当にトイレ関係で難儀してるんだから。
「どうやらこの風、呪いではなく人災のようですよ」
『人災?』
俺たちは声を合わせてウィルトを見た。彼は木窓の一つを開け放つと、そこから見える物を指差した。
目で追った先、遠くにそびえ立っていたのは、軸に対して接続された、数枚の羽根が風を受けて回る奇妙な複数の塔だった。
「変わった風車小屋だな……アレか」
「いえ、あれは風車小屋などではありません」
そう、俺もそう思った。
風車というよりもプロペラっぽいあの形。
建物というより柱に近い形状。
脳裏に過った名前を、ウィルトが口にした。
「アレは、古代エルフの風力発電所です」
「え?」
予想していなかった枕詞を聞かされて、俺の思考は沈黙した。ウィルトがそっと窓を閉じる。薄暗い部屋の中で、美形のパパエルフが滔々と語りだす。
「古の時代、エルフの賢者たちは魔力を持たない者の存在から、いつか世界から魔力が失われる日が訪れるのではないかと危惧し、魔力の代替エネルギーとなるものを探していました。その一つが電力です。どこにでも微弱に流れるこの力に着目した一派が、研究を進めた結果があの発電所です。本来ならば風を起こし、風を集めることで、自然から魔力と電力の収集と相互発生を、担うはずだったのですが」
「結果はご覧のありさま、と」
パンドラの言葉にウィルトが頷く。
魔力はゲーム的に言えば、マナとかチャクラとか霊力とかオーラとか気合いとか根性とかに分類される、マジカルな力らしい。
生物は勿論のこと、世界中に存在しているらしい。このことを聞いた当初は、ファンタジーだなあと感動したものだが、それがこんな結びを得るとは思っても見なかった。
「サチウス、何か気付いたことはあるか?」
「あ、ええと、そう、そうね……」
いかん、動揺して気持ちがまとまらない。
落ち着け、こういうときは仕事に逃げろ。
思考を棚上げするんだ。
仕事が辛ければ趣味に、私生活が辛ければ、仕事に逃げるのが、デジタル時代の生き方だ。とりあえず兜をパンドラに返してと。
「まず、順序を整理しよう。何故ここに発電所があるのか、発電所に何があったのか、そして町はいつからこうなってしまったのか。俺たちはどうするべきか。住民はどこへ行ったのか。話のまとめに必要なのはこの辺だと思う」
「分かりました。しばらくは情報収集ですね。この建物と発電所が、主な活動拠点になると思います。役所に戻ったらミトラスを通して、市長にもここの住民のことを聞くのが良いでしょう」
「必要な道具があれば声をかけろよ。すぐに用意してやるぜ」
二人が相槌を打ってくれたことに便乗して、気持ちを切り替える。朝一でやって来たから、時間にはまだまだ余裕がある。
「分かった、早速始めよう」
かくして俺たちは、半ば遺跡と化した屠殺区役所内の探索へと、乗り出したのであった。
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