42.騎士の召し上げ(3)
俺とアルフレッド様の婚約の契約が昼過ぎに終わり、その流れでラースとラインハルト様が転移呪文でノースユグレスシアへ移動し、一時間弱で新たな管理者を選出。管理者として選出されたガルドを引き連れて再び王宮へ転移し、その足で北の管理者の拝命式を執り行った。
つまりだ。今は夕刻。食事を摂る時間もなく今の今まで過ごしていた。そう。俺は、お腹が超!空いているのだ。
「ラース!国王陛下が!食事用意してくれたって!早くっ、早くいこっ!俺、もうお腹空いちゃって!」
「落ち着け、ディルク。そのために、わざわざ呼びに来てくれたのか?」
俺の目の前まで庭園のベンチから歩いてきてくれたラースの腕を掴んだ流れでグイグイ、と引っ張って見せると、ラースが俺に質問をした。
その質問に、ぴたっと動きを止めた俺は、その通りだと返答をする。
「え?えと、そう、だね?」
「そうか。呼びに来てくれて、ありがとう。——しかし、そんなに空腹だったのなら、先に食べていてよかったのだぞ?」
「え?えーと……先に食べる、っていうのは、思いつかなかったな……ホラ、ご飯ってみんなで食べる方が美味しいし……」
前世の母さんの口癖は「食事は全員が食卓に座ってから、そしてみんなで両手を合わせて『いただきます』してから楽しく食べる、だからね!」だった。実際、ひとりで食事するのは何だか味気ないし、家族四人、くだらない会話を交わしながら摂る食事はどんな内容であっても美味しく感じたのだ。
その食事スタイルは今世、ディルクになっても変わらなかった。食事の時間は必ず、どんなに忙しくあろうとも絶対に、三人で一緒に食べようと父上であるロウエン伯爵がその時間は確保をしてくれている。俺の中で、全員が揃って食事する、というのが当たり前なのだ。
それに、ラースと知り合って、友達になってから一緒に食事をしたことがない。気心の知れた友達と食べる食事ほど、楽しいものはないのだ。
それも追加で伝えたくて、ラースに向かって、俺は口を開いた。
「あと、それにさ。ラースと一緒にご飯食べた事なかっただろ?俺、ラースと一緒に食べたかったんだ。だから呼びに」
「ゔっ!」
「え、ラ、ラース?!どうした?!」
「——な、なんでも、ない……っ!気にするな、ディルク……!」
「え、で、でも」
突然、胸を抑えたラースに心配の声をあげると「がはは!」と大きい笑い声が響く。
その声の主は先程、拝命式で新たに北の領地の管理者になったガルドだった。
「無自覚か!コレは質が悪い!——なあ、ラース?」
「ガルド……ッ!っ、余計な事を……っ!」
ガルドと面と向かって会うのは初めてだったため、深の礼をしながら挨拶をすると「そんなに畏まらなくてもいいし、俺の事はガルドでいいし、おれも気安く接するが構わないか?」と、ニィッと微笑んで俺の頭にその大きな手をポン、と置いた彼に、暖かい気持ちになった。自然と頬が緩むのを感じながら「勿論です」と返答した俺に大きく目を見開いた彼は「こりゃあ、なるほど……納得だ!」と、がはは!と豪傑に笑いながらガルドは俺の頭部に置いたその大きな手で優しくわしゃわしゃっと撫でた。
ざま婚本編で、ラースがノースユグレスシアを去った後。ラースの事を常に心配していたのはガルドだった。
ガルドはラースよりも五歳ほど年上。番外編で描かれたラースの過去編では、獣人騎士団に入団してからノースユグレスシアを離れるまで——いや、離れてからも兄貴分のような立ち位置で常にラースの事をその優しさで見守っていた。
そのガルドに、俺のせいで責務を負わせてしまったことに申し訳なさを感じて謝罪を述べると「気にすんな」と言いながら俺の前にその大きな巨体を折り曲げて、恭しく跪いた。
「ディルク・ヴァーミリオン伯爵令息。此度は……ご婚約、おめでとうございます。——数日前のラット騒動の際は戦場経験のない中、我が愛しの地、ノースユグレスシアのために動いてくださり北の民全員、貴方様に心魂を傾けております。貴方様の知略縦横ぶり、見事なものでした。誠に有難うございました。そして今後は、ラースが貴方様を守り続ける。どうか、その事に関しては、遠慮はしないでいただきたい。全てをラースに預けて欲しい。——それだけが、私の願いです」
「わかり、ました。ガルド、ありがとう。——ラース、よろしく、ね?」
「——ああ。全力で。全身全霊をかけて、君を守ると誓う」
そうして、顔を上げたガルドはニカッ、と眩しく微笑んで「さ!メシも冷めちまう!行くか!」と言って先に歩き出した。
「ディルク、手を」と差し出されたラースの手に俺の手を乗せると、微笑んだラースは優しい表情をしていて。
俺は、この先何があっても、きっと大丈夫だと、安心したのだった。




