第55話 パーティー料理でおもてなし!
今日はいよいよ、『そよ風の導き』の解散パーティー当日。
お昼の営業を少し早めに切り上げて、入り口に『本日貸切』の立て看板を置いておく。こうすれば、間違って食堂に来る冒険者はいないだろうからね。
お昼の洗い物をちゃっちゃと終わらせて、パーティー料理の下ごしらえを始めるとしますか!
ピザ生地はビリスに任せてあるし、まずはスパニッシュオムレツの具材から始めようかな。野菜もたっぷりで、食べ応えのあるオムレツにしよう。
お肉はコカトリスを卸してもらったから、料理はローストチキンならぬローストコカトリスに決めた。
パエリアに使う魚介類はパティさんとボナくんにお願いしてあるし、大丈夫。
料理の数は多いけど、みんなも頑張ってくれてるから思ったより焦る必要もなくて、順調に作業が進んでるな。せっかくの解散パーティー、思い出に残るような料理に仕上げよう!
そのまま各々の作業を進めて、やがて約束の時間になった。厨房にはすでに、完成してる料理の匂いが充満してる。タイミングはバッチリだね。
「時間になったし、『その風の導き』の人たちも来るだろうから、出迎えに行ってくるね」
「わかりました。お願いします」
厨房から一旦離れて食堂の入り口に向かうと、ちょうど『その風の導き』の人たちが来るところだったみたい。
「『その風の導き』のみなさんですね。おかえりなさい。お待ちしていました」
「ただいま戻りました。今日は自分たちのわがままを聞いていただき、ありがとうございます。紹介しますね、こちらパーティメンバーです」
「こんにちは、サブリーダーのリーフです」
「槍術士のヴァンだ、よろしくな」
「魔術師のスタースです。今日はありがとう!」
「神官のゲイルと申します」
「斥候で獣人のアウラーです。パーティーのために、食堂を貸してくれてありがとうございます!」
個性的なメンバーだなぁ。みんな優しそうだし、パーティの仲が良いってのがすごく伝わってくる。
今日で解散しちゃうなんて惜しいな。でもそれは多分、この人たちが一番分かってるだろうし。
私はあくまでも、この人たちの思い出がいいものになるような仕事をするだけ。
「改めまして、食堂の料理長のカエデです。それでは、お席まで案内しますね」
飲食スペースに『そよ風の導き』のみんなを案内する。席はちょっとした飾り付けを施して、いつもとはちょっと違う雰囲気を演出してみた。
「飾り付けまでしてくれるなんて、嬉しいです」
「私が料理長になって初めてのパーティーなので、こっちもテンションが上がってしまいまして」
余計なお世話かなーって思ったけど、喜んでもらえてよかった。
パーティーは非日常感を演出するのも大事だからね。飾り付けに気合い入っちゃったのよ。
「なるほど。それはこちらとしても、お話しして良かったって思いますよ」
「そう言ってもらえると、こちらも用意した甲斐がありました。それでは今から料理をお持ちしますね。飲み物はいかがいたしましょう?」
「では、エールと葡萄酒をそれぞれ三つずつお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
注文を受けて、厨房に戻る。ボナくんとパティさんにお酒をお願いして、私はまずパエリアを用意っと。
「ビリス、ピザ出来てる?」
「おう、ちょうど焼き上がったぜ。このまま皿に盛って出すか?」
「そうしよっか! お願いしていいー?」
「任せとけ!」
「ペティさん、ボナくん、お酒用意できた?」
「はい、バッチリです!」
「いつでもいけるよー!」
「じゃあ、一緒に出しちゃおう!」
各々お酒と料理を手に持って、テーブルへと向かう。ピザとパエリアをテーブルに置くと、『その風の導き』の人たちから歓声が上がった。ふふ、この反応見ると頑張って作った甲斐があるってもんね。
「これは、なんとも美味しそうですね!」
「見て見て! 海鮮がお花を咲かせてるわ!」
「キレイだな、食べるのがもったいないくらいだ!」
「カエデさん、これはなんていう料理なんですか?」
「これはですね──」
運んだ料理を一つ一つ説明して、食べ方なんかも教えたりする。ピザは火傷に気を付けてとか、パエリアのライスはちょっとピリ辛だとか。
それからスパニッシュオムレツをテーブルに置くと、アウラーさんの目が一段とキラキラと輝いた。
なるほど、この子が故郷に帰ることになった冒険者なんだね。
「ねぇっ! これってもしかして、たまごを使った料理!?」
「はい、スパニッシュオムレツと言います。たまごと野菜をたっぷり使った料理でして、このケチャップをつけて食べると、美味しいですよ」
「アタシ、たまご料理大好きなの! わぁあ、楽しみ〜!」
ウェルさんが言った通りだ。たまご料理、考えて大正解だね。他の料理も出し終えてから、『その風の導き』の人たちに説明する。
「おかわりも用意してありますので、食べたくなったらお気軽にお声掛けください」
「ありがとうございます。その時は、お願いします」
「はい。では、どうぞごゆっくり」
厨房に戻って、一応追加分の材料の下拵えを整えておく。ウェルさんの乾杯の音頭でパーティーが始まって、賑やかな会話が聞こえてきた。
ピザに舌鼓を打つ人や、パエリアに夢中になってる人。スパニッシュオムレツを食べて感動してる人や、ローストコカトリスを堪能してる人。お酒と一緒にサラダや腸詰を楽しむ人たちと、なんとも楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
楽しんでくれてるようで良かった。とても賑やかで、幸せそうだ。
料理やお酒のおかわりが止まらなくて、私を含めて厨房メンバーも忙しいけど楽しく働けてる。心地の良い忙しさだよ。
それからパーティーは夜まで続いて、料理も食べ終わるかなって頃合いを見計らう。そろそろ、アレを出しても良いかも。一旦テーブルに向かうとしますか。
「みなさん、少々よろしいですか? もしでしたらデザートを用意してあるのですが、いかがいたしましょう?」
「デザートもあるの!? 食べてみたい!」
「パーティ全員、甘いものは大好きなんです。お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。今お持ちしますね」
最初に話をした時にラスクを三つも買ってくれたから、もしかしたらって思ってたけど。予想は的中ってね。パーティ全員が甘いもの好きなら、これもきっと気に入るでしょう。
飾り付けしたホールサイズのそれを持って、テーブルに向かう。
「お待たせしました。カスタードプリンです」
「わあ……! この色、もしかしてたまご?」
「はい。たまごとミルクをたっぷり使った甘いデザートです。茶色いソースは苦味のある風味でして、黄色い部分と一緒に食べると美味しいんですよ」
プリンはすでに人数分にカットしてあるから、それぞれお皿に盛って全員に渡す。
「どうぞ」
「ありがとう! じゃあ早速……。……っこれ、美味しい……! すごく美味しい!」
「たまごとミルクの濃厚な味に、このぷるぷるで柔らかい食感、たまらないな!」
「この苦いソース、甘い味を引き立てていいな!」
「これは……なんとも美味ですな。この苦みと甘み、今まで味わったことのない美味しさです」
ふふ、みんなに好評で良かった。特にアウラーさんは、じっくりと味わうように食べてる。余程気に入ったのかな。
やがてパーティーも終わりに近付いてってるらしくて、あんなに賑やかだった空気がしんみりとしていた。楽しい時間もあっという間ってやつかな。
お皿を洗っていたら、ウェルさんに呼ばれた。
「はい、なんでしょう?」
「今日は本当にありがとうございました。こんなに楽しく解散パーティーを開けたのは、貴女のおかげです」
まさかお礼を言われるなんて。
「そんな、私は料理を作っただけですよ」
「その料理あってこそのパーティーでしたよ。本当に、最後にいい思い出になりました」
「そうだよ! とっても美味しい料理だったよ。本当にありがとうね!」
「カエデさん!」
ふとアウラーさんが近付いて、手を握ってきた。アウラーさんは満面の笑みで私を見る。
「本当にありがとうね! たまご料理、リーダーに教えてもらったんでしょ? オムレツもプリンも、すっごく美味しかった! 背中を押してもらった気がするよ!」
「アウラーさん……」
「今日のパーティーは、忘れられない大切な思い出になったよ! カエデさん。美味しい料理を作ってくれて、ありがとう! アタシ、故郷に帰ってもがんばるよ!」
そう言って笑ってくれるアウラーさん。
そんな顔で見られると、なんだか心があったくなる。自然とこっちも笑顔になっちゃう。
「こちらこそ、ありがとうございます。これからも、頑張ってください!」
「うん!」
私の料理が、誰かの力になってくれたんだ。なんだか誇らしく思えた一日になったな。




