第74話 星空の下で交わした、君との約束
『パチ、パチ』
焚き火の爆ぜる音が、夜の湖畔に静かに響いていた。俺はその炎をぼんやり眺めながら、一人で暖を取っている。
「ふぅ~……夏なのに、夜は少し冷えるな」
昼間はあれだけ騒いでいたのに、夜になると嘘みたいに静かだ。
(それにしても、我ながらよく無事だったな)
ウォータースライダーから勢いよく飛び出し、そのまま湖へ一直線。あの時は正直「終わった」と思った。何とか岸まで泳ぎ着いた俺を見て、エリスは泣きそうになり、ミナミさんに至っては腹を抱えて大爆笑だった。
「ちょっと、ミナミさん! 一瞬、空飛んだよ!?」
「いや~、良い飛びっぷりだったぞ、レオン」
――この人は鬼かな?
「レオン様、本当に大丈夫ですか?」
「坊ちゃま! 調子に乗るからですよ!」
「え? 僕のせいなの?」
ノアくんは純粋に心配してくれたのに、アンナにはしっかり怒られた。
「ははは。無事でよかったよ、レオンくん。それじゃ、俺たちは森に行ってくるね」
ユウキくん達には夕飯の食料調達を任せることになっていた。
「あ、うん。気をつけてね。まあ、僕が言うことじゃないけど……」
「ホントそうデスね。それじゃ、行ってきマス」
ユウキくんとマリアさんが森で狩ってきてくれた魔物の肉でバーベキューをたっぷり堪能したあと、キャンプは就寝の時間に。
「僕が見張りしてるから、みんなは寝ていいよ」
俺がそう言うと、ミナミさんは素直に頷き、テントへ向かっていった。
「いや、さすがにレオンくんに全部任せるのは気が引けるよ」
ユウキくんは申し訳なさそうな顔だ。
「いいって。みんなはお客さんなんだから。それに、戦闘になりそうなら起こすし」
「それでしたら、従者の僕が起きていますよ」
「いえ、メイドの私が……」
二人の言葉を制し、俺は軽く笑う。
「二人は帰りの馬車で御者をやってもらわないといけないから。ちゃんと寝てね」
渋々ながらも、ノアくんとアンナもテントへ。
「それじゃ、危なくなったら起こしてください! おやすみデス、レオン」
「うん。おやすみ。みんな、ゆっくり休んでね」
こうして、俺は一人で焚き火の前に残った。
「……うわ。星、すごいな」
見上げれば、空一面に広がる星。王都でも見たことがないほど澄んだ夜空だった。
「本当ですね」
不意に、すぐ後ろから声がした。
「……え?」
そこには、白いワンピース姿のエリスが立っていた。
「どうしたの? エリス」
「えっと……なんだか、眠れなくて」
そう言うエリスの目は、少しとろんとしている。
「どう見ても眠そうだよ」
「えへへ……バレましたか」
コツン、と自分の頭を叩いて、ぺろっと舌を出す。
(……何その仕草。可愛すぎない?)
――俺の理性よ! 頼むから暴走しないでくれ。
「本当は……レオン様と、少しお話がしたくて」
「そっか。じゃあ、少しだけ話そうか。寒くない?」
「はい。でも……もう少し、近くに行ってもいいですか?」
「う、うん。もちろん!」
エリスがそっと隣に腰を下ろす。焚き火のせいか、横顔がほんのり赤い。
「それにしても……今日は肝が冷えました」
「僕も。飛び出した瞬間、もうダメかと思ったよ」
するとエリスは、真剣な表情でこちらを見る。
「あまり……危険なことは、しないでくださいね」
「あ、はい。気をつけます……」
妙に気恥ずかしくなって、俺は視線を逸らし、話題を変えた。
「えっと……バルトル領で過ごした長期休暇はどうだった?」
「はい。今までで、一番楽しい夏休みでした」
満面の笑顔。それだけで、全部報われた気がした。
「それはよかった。僕も楽しかったし、誘ったかいがあったよ」
しばらく、他愛ない夏の思い出話を続ける。やがて、ふと会話が途切れた。そこで、俺はどうしてもエリスに伝えたかったことを告げることに。
「エリス……」
――今が伝えるチャンスだ。
俺は意を決して、口を開く。
「プロポーズ、受けてくれてありがとう。絶対に幸せにしてみせる……」
その瞬間、肩にふわりと重みが――。
「ん……エリス?」
見ると、俺の肩に頭を預けて、すやすやと寝息を立てている。
(……ぐぬぬ。このままずっと見ていたい。でも……)
「――あ~、後ろで盗み見してる人たち! 出てきなさい!」
エリスを起こさないように小声で言うと――。
「あれ? バレてたデスか」
「だから言ったんだよ。レオンくん、意外と鋭いって」
「ふん。エリスに変なことしないか、監視してただけだぞ」
「えっと……坊ちゃま、これは……メイドの責務です」
「アンナ先輩、それ、全然誤魔化せてませんよ」
――どうやら、全員見ていたらしい。
「はぁ、まったく……。アンナ、悪いけどブランケット持ってきて」
「は、はい! お任せください」
エリスにそっとブランケットを掛ける。
「じゃあ、みんなは早く寝てね」
今度こそ、仲間たちはテントへ戻っていった。
「……せっかく、カッコつけたのに。聞いてなかったか」
呟いた、その時――。
「幸せに……してくださいね、レオン様」
そう言うと、エリスはブランケットを頭まで被り、俺の膝で今度こそ寝てしまった。
――てか起きてたの!?
「……うん。絶対に幸せにするよ、エリス」
焚き火の音と、静かな寝息だけが残る夜。楽しかったキャンプの夜はゆっくりと更けていったのだった。




