第53話 大盛況!? コスプレ執事喫茶
学園祭初日。俺たち『グラニ』クラスの“コスプレ執事喫茶”がついに開店した。朝の開店と同時に行列ができ、店内は予想以上の大盛況。
「お、お帰りなさいませ。旦那様……」
「うむ。お帰りなさいませ、お嬢様」
「みんな成長しましたね。私は嬉しいデス」
練習の成果が出ているのか、エリスは緊張している割に動きが丁寧で可愛いし、リヒト様は笑顔で優雅、執事というより、まんま王子様だが、それでも接客は完璧。そして、学生ではない助っ人のマリアさんは客席で優雅に給仕班を見守っていた。
「こちらのブレンドは深煎りでして、パフェとの相性が抜群です。ぜひどうぞ!」
カインくんはというと、満面の笑みでおススメのコーヒーを説明している。
――うん、普段の仏頂面はどこへ行ったんだろうね。
そんな中、俺はというと――。
「レオンくん! こっちホイップ追加で!」
「こっちのパフェにもお願い!」
「は、はい! よろこんで~!!」
俺は料理魔法、≪トゥルボー・ミキサー≫を発動。両手に小型竜巻を二つ展開し、目にも止まらぬ速さで生クリームをかき混ぜる。
――やっぱりこうなったかぁぁぁぁ!!!
“コスプレ執事喫茶”で出すスイーツの材料は、ほとんどが事前に準備して保存しておくことが可能だった。しかし、ホイップクリームだけ事前準備が出来なかった。練習の時、保管したクリームを使おうとしたら水っぽくなっていて使えなかったのだ。
「仕方ない。ホイップクリームは直前に用意しようか」
俺は苦渋の決断をする。そして、以前のスフレパンケーキのメレンゲ地獄を経験していた俺は、迷うことなくある人に助っ人をお願いした。
「ひぇ~、レオンくん。騙しましたね……」
「人聞きの悪いこと言わないでください、リュミナ先生。終わったらパフェ食べていいですよ」
「簡単なお仕事で、パフェ食べ放題って言ったじゃないですかぁぁぁ!!」
怪しい勧誘にまんまと騙されたリュミナ先生は、風魔法でホイップを立て続けている。そんな可哀そうな先生に調理班の女子生徒から無慈悲な声が。
「リュミナ先生。無駄口たたいてないでホイップクリームお願いします!」
「うぅ~、私先生なのに……」
こうして俺とリュミナ先生は生クリーム職人と化し、ひたすら量産し続けることになった。
――ガチャン!
俺達がホイップクリーム地獄に苦しんでいると、客席から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい! いつまで待たせるつもりだ!」
どうやら、待ちきれなかった客が、エリスに絡んでいるらしい。エリスは震えながらも、必死に笑顔を作ろうとしている。
「す、すみません……もう少々お待ちください……」
「伯爵令息の私を待たせるだと!? いいからすぐに持ってこい!!」
――いや。あなたが怒鳴ってるの、侯爵令嬢なんですが……。
クラスメイトたちは固まって動けずにいる。俺はエリスを助けるべく行動を開始する。
「カインくん、ちょっとコーヒーもらうね」
「む。それは良いが……アレはどうする?」
「任せて。僕、変な人の扱い得意だから!」
「いや、不安しかないんだが……」
俺はコーヒーをお盆に乗せて、客のもとへ向かった。
「お客様、お待たせして申し訳ありません。こちらお詫びのコーヒーを……あ!!」
瞬間、世界がスローモーションになる。お盆から滑り落ちたコーヒーカップが、宙を舞いお客さんのズボンへ一直線。
「熱っつーーーー!!」
(あ、ああああ! ど、どど、どうしよぉ!!)
とにかく火傷が怖い……。
「申し訳ありません! すぐ服を脱いでください!」
「は!? い、いや……!」
「火傷しちゃいますよ! みんな手伝って!!」
俺がクラスのみんなに助けを求めると、次の瞬間には、パンツ一丁にされた伯爵令息がそこに立っていた。
「き、貴様ら。私の服を返せ!」
「いえ、濡れてしまっているので……。そうだマリアさん。例のものを!」
「オ~、あれデスね。わかりました」
マリアさんが持ってきたのは、メイド服とウィッグ。
「ちょっ……!? 何を……っ!?」
「ハイ、お化粧しマース」
――数分後。そこには、完璧な女装メイドが誕生していた。
「わ、ワ~オ。とても似合ってマスよ……」
「おのれ、こんな屈辱初めてだ! もういい!」
怒った彼は教室を出て行こうとしたので、俺はすぐさま止める。
「あ、お客様。少々お待ちを!」
「今度はなんだ!」
「気に入ったのは解りますが、メイド服とウィックはご返却ください」
「……! 誰が気に入るか! さっさと私の服を持ってこい」
「え? まだ乾いてませんよ」
「いいから早くしろ!」
怒り狂いながら、着替えるとズボンには“コーヒーの染み”が……。それを見た客たちの目線が一点に突き刺ささり、ヒソヒソとささやいている。
「な、なんだその視線は……!? 違う! これは違うぞ!!」
「え、あの……染み、完全に……」
「漏らしたのかしら……」
「かわいそうに……」
客たちのささやきを聞いた彼は、顔を真っ赤にて逃げるように去っていった。
「くそ! おぼえてろよ!」
「あ、はい。またのお越しをお待ちしてます」
「二度と来るか!」
こうして厄介なお客さんの撃退に成功したのだった。
「レオン様……ありがとうございます」
エリスがやってきて、お礼を言ってくれた。俺は彼女の肩に手を置いて見つめる。
「エリス……」
「ふぇっ……? レ、レオン様……?」
周りの女子も固唾を飲んで見守っている。
「あのさ……。リヒト様とカインくんにメイド服着せたら、お客さん増え――」
「ガンッ!!」
「痛っ!! カインくん、なんでお盆で殴るの!?」
「うるさい! 貴様がまた余計なことを言うからだ!!」
「え~、絶対ウケるよ。エリスもそう思うでしょ?」
「え? は、はい。そうですね……」
「ほら。エリスも見たいってさ」
「いやレオン。お前はもっと女心を学べ」
「なんで今それ!?」
俺が心底分からないという顔をするとカインくんはあきれ顔。
「大体、お前はエリス嬢のメイド服姿が見たいだけだろ」
――エリスのメイド服姿……。
「……うん、いいね、それは見てみたい!」
「え? そ、それは……」
断言するとエリスがちょっとだけ引いてる。周りの女子たちは、エリスを俺から引き離し、かばう様に俺から隠す。
「あ、いや。変な意味じゃないよ」
俺の弁明にも効果はなく、彼女たちは明らかに、変質者を見るような視線を俺に向けてくる。
――そんな不審者を見るような目で見ないで!
そんなカオスなクラスの状況の中で、リヒト様のよく通る声が響いた。
「よし。とりあえず問題は解決だな。今はまだ学園祭の最中だぞ。客もいる、各自持ち場に戻るように」
この言葉にクラスメイトは各々仕事に戻っていった。俺が調理場に戻ると――。
「ん~~~パフェうまっ……」
リュミナ先生が口の周りをクリームまみれにしながらパフェを食べていた。
「ちょっと! 弟子がピンチの時に何してたんですか!」
「ふふ。レオンくんも年相応に青春していて、師匠は安心しましたよ」
(いいこと言ったみたいな顔してるけど誤魔化されないよ)
――絶対パフェに夢中で気づかなかっただけでしょ!
こうして俺たちの学園祭は、騒がしくも楽しく、そしてちょっとだけ甘酸っぱく(?)過ぎていくのだった。




