第138話 正義の勇者パーティーと、畑を荒らす魔物
「二人とも来てくれてありがとう」
「気にしないで。これが僕たちの仕事なんだから」
「私たち“正義の勇者パーティー”に任せるデス!」
マリアさんがビシッとポーズを決めて答える。
「うん。頼りにしてるよ」
俺はマリアさんにサムズアップしながら頷く。
「それで、ここが魔物が出るっていう畑?」
ユウキくんが周囲を見回す。そこには収穫の時期を迎えた野菜畑が広がっていた。瑞々しいトマトに鮮やかなピーマン、立派に育ったきゅうり等、どれも農家の人たちが丹精込めて育てたものばかりだ。
「そうみたいだね。ちょっと話を聞いてみようか」
俺は近くで作業していたおじさんに声をかけた。
「すみませーん。少しいいですか?」
「おお、これはレオン様!」
「代官様自ら調査に来てくださったんですかい」
近くで作業していた農家の人たちも、こちらに気付いて集まってきた。
「うん。報告だとかなり強い魔物だって聞いたからね」
「そうですね、討伐依頼を出した冒険者も返り討ちにあってしまいました」
「それで、荒らされたのはどの辺り?」
「いや、荒らされたっていいますか……」
おじさんは困ったように頭を掻いた。
「ん? どうかしたの?」
「熟した野菜だけを収穫していくんですわ」
「えっ?」
思わず変な声が出た。
「しかも他の野菜は傷つけないよう丁寧に……」
「それって本当に魔物の仕業なの?」
「それは間違いありやせん」
横で話を聞いていた別のおじさんが力強く頷く。
「なんせ私らの目の前で収穫していきましたから」
「魔物のすぐ近くにいたの?」
驚きの声を上げるユウキくん。
「へい。腰が抜けて動けなかったもんで」
「それは……よく無事でしたね」
「危害を加えなければ襲ってこなかったですね」
「冒険者も拘束されただけでしたし」
「拘束デスか?」
マリアさんが首を傾げる。
「あっ、そういえば言ってなかったね」
俺は今さらながら説明不足だったことに気が付いた。二人に討伐する魔物についての話をしていなかったのだ。
「畑に現れたのは蜘蛛の魔物なんだ」
「あー、なるほど」
「蜘蛛の糸でぐるぐる巻きデスね」
マリアさんが指をくるくる回しながら納得する。
「幸いケガ人は出なかったんだけど――」
「簡単に冒険者を拘束するってことは、かなり強い魔物ってことだね」
「うん。だから“勇者パーティー”の二人に依頼を出したんだ」
「レオン。“正義の”が抜けてるデス」
「……この依頼、“正義の勇者パーティー”にお願いできるかな?」
「ふふふ、もちろんだよ」
ユウキくんが苦笑しながら答えた、その時だった。
「きゃあああっ!」
「魔物だ! 魔物が出たぞー!」
畑の奥から悲鳴が響く。
「ユウキくん!」
「うん! 行こう!」
俺たちは悲鳴のする方へと急いで向かった。畑に辿り着くとそこには――。
「なっ!? あれは《アストルム・スパイダー》じゃないか!」
畑には三体の巨大な蜘蛛の魔物がいた。一番前にいる魔物は、銀色に輝く美しい外殻を持ち、体高だけでも大人二人分はある。残る二体は少し小柄だが、それでも人と同じ位の大きさをした白い蜘蛛の魔物だった。
「あっちの二体は《アルブス・スパイダー》デス!」
マリアさんが叫ぶ。
「《アストルム・スパイダー》って上位魔物だよね?」
「うん! それに《アルブス・スパイダー》は中位魔物だったはず」
上位魔物。それは軍隊ですら被害を覚悟しなければならない危険な存在。一体だけでも厄介なのに、今回は中位魔物まで引き連れている。
「そんな魔物が何でこんな所に……」
「分からない。でも今はみんなを守るのが先だ!」
ユウキくんは剣を抜いた。
「二人は《アルブス・スパイダー》をお願い!」
「了解!」
「任せるデス!」
俺たちの返事を聞くと、ユウキくんは駆け出した。対する《アストルム・スパイダー》は腹部を持ち上げる。
シュッ!
銀色の糸が弾丸のような速度でユウキくんめがけて飛来した。
「っ!」
ユウキくんはとっさに横へ飛ぶ。躱された糸は背後の木へとまとわりつく。
「あれに捕まったらまずいな……」
間髪入れずに次々と襲い来る糸の弾丸。それを見たユウキくんは今度は避けることなく、《アストルム・スパイダー》に向かって走りながら高速で剣を振るう。
ザシュッ! ザシュッ!
糸を切り裂きながら前進するユウキくんは、そのままの勢いで距離を詰めると《アストルム・スパイダー》へと斬りかかった。
「はあっ!」
鋭い斬撃。だが《アストルム・スパイダー》は横へ跳躍。まるで重さを感じさせない動きで攻撃を回避した。
「速い!」
一進一退の攻防が続く。一方その頃――。
「《アウラ・ナックル》」
風魔法で作った拳が《アルブス・スパーダ―》へ襲い掛かる。しかし二体は素早く飛び退き、難なく回避した。
「ちっ! それなら――」
飛び退いた一体を追って、一気に間合いを詰める。
「はあっ!」
横なぎに振るった剣が《アルブス・スパイダー》を捉えた。だが――。
ギィン!
斬撃は白い外殻に浅い傷を刻んだだけだった。
「ぬぅ~、手強い!」
俺は素早く後方へ飛び退き、《アルブス・スパイダー》と距離を取った。
「二人とも苦戦してるデスね!」
そんな俺たちの状況を見たマリアさんが杖を掲げる。
「聖なる光よ! 我らに祝福を!」
暖かな光が俺たちを包み込んだ。
「《ブレス・オブ・セイント》!」
体が軽い。それになんだか魔力も上昇したような気がする。
「おおっ! これは!」
「ふっふっふ。これが聖女の魔法デス!」
チラリとマリアさんを見ると、ドヤ顔で胸を張っていた。
「ありがとう! マリアさん」
――これならいける!
離れた場所で戦うユウキくんの動きも明らかに速くなっていた。
ギィン!
剣と蜘蛛の脚が激突する。先ほどまで互角だった戦況が少しずつ変わっていく。
「よし! 僕だって!」
俺も再び魔法を放った。
「《アウラ・ナックル》」
先ほどより大きな風の拳が形成される。しかし――。
「えっ?」
慣れないサポートを受けて威力が上がりすぎた俺の魔法は、狙いが外れ《アルブス・スパーダ―》の横を通り抜け、そのまま畑へ向かう。
「しまっ!」
(いや待って! 畑はまずい!)
――被害を出したら俺の評価が地に落ちる!
そう思った瞬間だった。
シュッ!
銀色の糸が空を走ると、巨大な網が一瞬で展開される。そして《アウラ・ナックル》は網へ絡め取られると、そのまま消滅した。
「えっ……? 畑を守ってくれたの?」
糸を放ったのは《アストルム・スパイダー》だった。
「何で……?」
畑を荒らしていたはずの魔物が、逆に守るような動きを見せた。俺はその行動が理解できず、混乱したまま、その場から動けずにいた。すると――。
「今だ!」
その隙を見逃すことなく、ユウキくんは剣を振りかぶった。
「はああああっ!」
渾身の一撃。完全に捉えたと誰もが思った。だが――。
カキィィン!!
金属同士がぶつかる甲高い音が響いた。
「なっ!?」
ユウキくんが目を見開く。突然現れた人影が、その斬撃を細身の剣で受け止めていたのだ。長い銀髪に尖った耳。
「えっ?」
見覚えのある顔に俺は思わず声を上げた。
「何でここに?」
そこに立っていたのは、先日買い物で訪れた《アラーネウム》の店長、リドルムさんだった。




