・レベリング三日目 - 鉄クズに戻りやがれ -
ちなみにメンバーの中には、この前一緒に仕事をしたソーサラーの女が混じっていた。
町を出て、まだ緑の残る平野を進んでいると、彼女が余計な話を始めた。
「けどさっきの話ホントだよ。スートくんね、私を守るために荷物の詰まったカートを走らせて、ストーンゴーレムを凄い力で轢き倒しちゃったの。だからミスリルゴーレムだってきっとちょろいよ」
ストーンとアイアンは轢き殺せた。
しかし今回の相手はミスリルだ。下手をすればカートの方が先にぶっ壊れるかもしれない。
「おだてんなよ。……が、片付けておいた方が今後が楽かもな」
「そうそう、おかげであの後、鉄鉱石の採掘がしやすくなったんだよ。スートくんのおかげ!」
「ストーンゴーレムが復活するまでのつかの間の話だろ。……ん、リリウム?」
ふと隣を見ると、カートに載せていたはずのリリウムが隣を歩いていた。
何がしたいのか、俺と手を繋いできて、なのに正面だけを見つめている。
「どうした?」
「うん……。私も、なんだか、わからない……」
彼女の小さな手は、数分でゴブリンの群れを全滅させるほどの力を持っているとはとても信じられないほどに、やわらかく繊細だった。
何かを察したのかソーサラーの女が俺の隣を離れてゆく。
「兄さん……私、がんばるね……」
「ああ。報酬はしょっぱいが、経験値は美味そうだ。俺のためにがっぽり稼いでくれ」
「うんっ……!」
リリウムの不機嫌が直って、満面の笑みがこちらに帰ってくると、俺の方も無意識にやわらかく笑い返していた。
ファランのオヤジに拾われる前までは、そういえばこんな笑い方をしていたなと思い出して、俺は締まりのない表情を取り繕った。
・
目的のエリアに入った。
この東側の世界はエリアごとに区分けされていて、その境界線がハッキリとしている。
貧しいながら草地の残る土地が線を引いたように荒野となったり、黒土が黄色い土に変わったり、断崖絶壁が現れたり、見れば歴然の継ぎ接ぎだらけの世界だ。
「荷物なんてもう捨てろ! 逃げろっ、逃げるんだっ!!」
ところがそろそろ目標のミスリル鉱床というところで、俺たちはくだんのミスリルゴーレムと、それに追われるキャラバン隊に遭遇した。
しかも皮肉なことに、そのキャラバン隊のリーダーはあのエルなんとかだった。
「おいっそこのっ、追われてるんだ助けてくれぇっ!!」
こちらの隊に気づいたようだ。
あのときの気取った態度が嘘のように、ヤツは見苦しくも平静を失っている。
「大変、助けないと……っ!」
「いや、アレを囮にしよう」
「えっ!?」
「アレを囮にして俺たちは鉱床に回り込む。別に助ける義理はねーだろ?」
「そ、そうだけど……あの人たち、メチャクチャ助けてって言ってるよ……?」
「だから助けるのか? 人が良すぎだろ」
ということで、俺はキャラバン隊に迂回ルートを取らせた。
「ヒィィィーッ、お願いします助けて下さいっ、俺たちなんでもしますからお願いっ、もう逃げきれなぃぃ……っ!!」
「ああ言ってるけど……?」
「大丈夫だ。あそこの男女はザザの町のエースだそうだ。確か名前は……エルドンだったかな?」
「エルジョンですぅっっ!! いやぁぁっ、潰されるっ潰されちゃうっ、たーすーけーてぇぇーっ?!」
「やっぱり助けましょうよ、スートさんっ! 町は別ですけど同じ人間同士じゃないですかっ!」
せめて助けるなら、その名前を大声で叫んでほしくはなかったな。
エルジョンも俺も互いにいたたまれないというか……。
「だがエルジョンも俺に助けられるのはさぞ屈辱だろう。見守ってやるのが彼の名誉のためだ」
「そこにいるのはスートさんですか?!! こ、この前の失礼は謝ります!! ですからお願いっ、名誉なんてどうでもいいから助けてぇぇーっ!!」
俺が残忍に口元をひきつらせると、ソーサラーはどん引きしたようだった。
迂回を止めて反転させて、カートの進路をミスリルゴーレムに向けた。
「いでよ、スラ公ども! あのいけ好かない連中を護衛しろ! そしてリリウムッ、てめーは先行してヤツを攪乱しろ! 俺に轢かれんじゃねーぞっ!!」
「私、あの人、嫌い……」
奇遇だな、俺もだ。
スラ公とリリウムが前進すると、冒険者たちもキャラバンの護衛に回り、ソーサラーの女はその場に残ってミスリルゴーレムに牽制のマジックアローを撃ち始めた。
「ねぇ、スートさんってもしかして、軍人……?」
「軍人が馬の代わりなんてするわけねーだろ」
「その割に慣れてない?」
「さあな。今回は転ぶんじゃねーぞ」
もうじき戦端が開かれる。ならばそろそろが頃合いだ、俺はカートを走らせた。
アイアンゴーレムと異なって、ミスリルゴーレムは青白くいかにも強そうだ。
身長は3m付近もあり、普通なら押しても引いても動かない超重量の塊だ。
だが、今の俺には体当たり専用スキル・グラビティがある。
「ス、スート……ありが――」
いけ好かないバカの近くを横切った気もするが見なかったことにして、俺は荒野を爆走しながら標的を見据えた。
直進ではなく、あえて大きな曲線の軌道を選ぶのは遠心力を得るためだ。
リリウムが攪乱し、スラ公どもがキャラバン隊の人員をかばい、待避を促した。
いける。このまま突っ込んで、カートアタックをぶちかまして、結果を天に祈るだけだ。
「ハハハハッッ、鉄クズに戻りやがれっミスリル野郎ッッ!! グラビティッッ!!」
つい頭に血が上って、最大出力3.3倍のグラビティを自分にかけてしまっていたが、もうやっちまったもんは仕方がねぇ。
俺はカートを宙に飛ばし、死なば諸共の一撃を総ミスリル製の巨体に叩き付けた。
反動はアイアンゴーレムと変わらなかった。
相手の質量を考えればまあそうだろう。すなわちミスリルゴーレムは、凄まじい勢いで砂塵を立てながら荒野の上を転げ回り、対する俺の方はその場でスピンしてまたもや目を回していた。
高速回転に吐き気を覚え、意識が遠くなってゆく中、景気の良いファンファーレだけが脳裏に響いていた。
経験値が得られたということは、ミスリルゴーレムの一撃キルに成功したということだった。
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名前 ジャック
レベル 38 → 45
職業 ホムンクルスマスター
能力値 オークロード級 → ストーンゴーレム級
スキル
・カート運搬9/9
・カート攻撃10/10
・アイテム鑑定7/9
・投擲術5/9
・片手剣8/9
・所持品重量半減
・衝突耐性1/10(衝突時のダメージを10%カット) new!!
・ホムンクルス製造2/9(触媒の消費50%)
魔法
・グラビティ2/9(自身、あるいは対象の重量を最大3.3倍に増やす)
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つまりこういうことだ。
耐性を10%得られたということは、これまでの1.1倍の勢いでぶちかませるということだ。
これではホムンクルスマスターというより、体当たりマスターだなと思ったところで、意識が途絶えていた。
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