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70(終)

 カミラとアーノルドがお互いに打ち解けた数日後、先生と会う機会が出来、考えた末二人は彼に会うことにしたのだった。


「二人ともすまなかった」


 開口一番、先生は二人に謝罪の言葉を告げる。

 彼は、最後に一度二人に謝りたいという希望を学園に伝えていたらしい。

 そして、それが叶えられ、こうして二人に会うことが出来たのだった。


 あの後処分が決定し、その結果、近いうちに先生は学園を去ることになったらしい。


「当然だろうな。我ながら馬鹿なことをしたものだ」


 先生は自嘲する。

 だが、この結果は最初から覚悟していたとも言っていた。


「本来なら、もっと罪が重くてもおかしくはなかった。だが、今までの働きが認められていたらしい。皮肉なものだ。貴族を嫌って真面目に働いていた結果だというのだからな」


 そう再度自嘲する。

 そして、深く頭を下げる。


「君たちには謝って許されるとは思ってはいないし、許されたいとも思っていない。それに、この程度では私の気が済まない。だから、罵倒したいというなら、君たちの気の済むまで罵倒してくれて構わない。殴りたいと言うのなら、君たちの気の済むまで殴ってくれても構わない。私は黙ってそれを受け入れよう」


 誠意のこもった声音で、煮るなり焼く好きにして欲しいと先生は言った。


 二人は、先生の言葉を聞いて、お互いに視線を交わし合う。


 そして、カミラが口を開いた。


「お気持ちは分かりました、先生。それなら、私たちから一つだけお願い事があります」

「それはどんな内容だね?」


 二人は笑みを浮かべる。


「特に難しいことではありません。一週間後に、校庭で全学園生徒と全教師を集めてある発表をさせて頂こうと思っています。先生は、その結果を見届けてくれるだけでいいんです」

「……見届ける、か。君たちは何かをやろうとしているのだな。分かった、最後まで見届けさせて貰おう。それが私のこの学園で行う最後の仕事だ」


 先生は決意を秘めた表情で、深く頷いた。



 ♢♢♢



 一週間後、校庭にてカミラとアーノルドは、二人揃って皆の前に立った。

 すぐ近くには、少女と先生が控えている。今から行われる全てを見届けるために。


 アーノルドは、何も言わずカミラの傍に寄り添う。


 彼の目は一緒に頑張ろうと言っていた。


 カミラは頷く。

 皆の視線が自分に集まったところで一歩前に出て、おもむろに口を開く。


 そして、全生徒全教師に対して、カミラは本当のことを告白したのだった。


 自分はかつて破滅したカミラだと。

 今まで二年間、多大な功績を挙げた彼女は今の自分ではないのだと。


 そう説明する。


 カミラの話を聞いて信じない者もいた。失望する者もいた。罵倒する者もいた。


 けれど、カミラは臆しない。

 毅然と宣言する。


 ――卒業まで残りわずかしかないが、それでも私は私として、これから精一杯頑張っていく。だから皆に見ていて欲しいと。


 そう彼女は告げた。


 カミラの告白は、大きな波乱を読んだ。


 突然一週間後に校庭に集まるように言われ、またいつものように突拍子もないことをやらかすのだなと思って身構えていた者が大半だった。

 しかし、それはいつもと方向性が違いすぎる結果となった。

 何しろ彼女自身の口から全く予想していない、いや予想など決して出来ない類の告白をされたのだから。


 彼女が生んだ波は次第に大きくなっていく。


 そして、その話は両親の耳にも届き、激怒される。何を考えているんだと。だが、いくら両親から非難の声を浴びようとカミラは考えを曲げるつもりはない。


 逃げるつもりもない。

 恐れるつもりもない。


 まだ自分たちはスタート地点に立ったばかりでしかない。


 前を向いて立ち向かっていくと決めたのだから、カミラは足を止めるつもりはなかった。


 それに、自分ひとりだけではない。

 カミラの話を聞いて、手を貸してくれる者もいた。


 少女を含めた生徒会のメンバーである。


 彼女たちは、カミラへの協力を惜しまないと告げた。


 もちろん皆が皆、全てを納得しているとは言い難い。だが、これからはきちんとお互いに信頼関係を築いていきたいと語った。

 彼女たちは、カミラの真摯な態度と言葉に心を傾けたのだった。


「ありがとう、みんな……」

「これくらい大したことではありません。それに、私はまだあなたと友達になっていませんから」


 自分たちが本当の友達になるまできちんとサポートしていきたいと少女は言う。


「いつか私とあなたが、友達になったとしたら?」

「決まっているじゃないですか。助け合うことが当たり前になるだけです。その時は私も助けてくださいね」


 少女は屈託の無い笑顔で言った。


 ♢♢♢


 こうしてカミラとアーノルドは、皆と共に手を取り合って努力していくのだった。


 今はようやく一歩進んだだけで、ハッピーエンドはまだ遠い。


 まだまだこれからだと実感しながら、二人は力を合わせて一歩前へ一歩前へと、けれど着実に歩みを進めていく。


 ――『気がつけば、ハッピーエンドだった』と思える最後を迎えるために、カミラは努力を惜しまない。カミラはひたすらに行動する。


 もちろん、苦しいこともあった。辛いこともあった。時に失敗することもあった。

 けれど前を向いて歩くと決めた。


 彼女は決して、立ち止まらない。

 醜くてもいい。無様でもいい。


 ――でも、諦めない。


 こうしてカミラは皆の協力もあって、凄まじい早さで功績を打ち立てていく。誰かが言った。その姿は以前のカミラよりも苛烈であったと。



 ♢♢♢



 カミラは心に決めていた。

 夢の中で『彼女』は大団円のハッピーエンドは無理だと言っていた。


 でも、カミラは諦めたくない。『彼女』のためにも、カミラは全力で立ち向かっていくつもりだった。


 皆で笑い合って最後を迎えたい。

 その思いを捨て切ることは決して出来ない。


 そして、その思いを形にするため、必死に努力する。

 『彼女』のようにはいかないかもしれない。

 自分だけでは限界がある。


 でも、アーノルドと少女を始めとして、カミラを助けてくれる人は大勢いる。


 自分は一人ではない。

 だからこそ、出来る限り頑張ってみようとカミラは思う。


 それと、いつかもう一度『彼女』と会うことが出来たなら、友達になって笑い合いたいとカミラは思う。

 『彼女』とも沢山の話がしたい。


 だから、『彼女』と会うまでに、出来る限りのことをしていこうと考えている。会うまでに、『彼女』に対して心から誇れる人間になりたいと思うから。


「行こうか、カミラ」

「ええ、アーノルド。行きましょう」


 そうして、カミラは立ち止まらず、努力を続ける。


 皆で心の底から笑い合える最後を迎えるために。


これにて完結です。

今までお読みいただきありがとうございました。

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