8 学校を共に
帰り道。空は若干火照ったように優しく染まり、風が若干冷たく感じる。
僕とベガは、天ノ峰邸であったことを振り返りながら、てこてこ歩いていく。
ベガが特殊なセーラー服のようなものを着ているために、少し目立つ。天ノ峰中のものと似ているが、スカートが非常に短いという点で異なっているらしい。
電車の踏切を越えた辺りで、少しばかり真面目な話をしてみる。
「どうするの、ベガ」
「えらく突然だな。一体何のことだ?」
「ほら、昼食会で話してた、学校の件だよ」
「ああー」
ベガは、その話かと、ぽんと手を叩いた。
時を戻すこと数時間前。
あの後、僕が嬉しさのあまりベガに抱きついて泣いたという、金輪際誰にも語るつもりのない恥ずかしい出来事の後のこと。
昼食会を済ませて、今後の方針についてを僕とベガ、そして理事長とヒカリの四人で話し合ったのだ。
その中でも特に話題となったのは、学校に関してだった。
「ベガ君は外見年齢は夜天君と変わらないように見えるな」
理事長は言った。言われてみれば、確かに。仮にこの子が女の子だったなら、若干背が高いし、年齢は少し上なのかもしれない。けれど男の子らしいし、僕とそうは変わらないわけだ。広い意味では、同じだろう。
彼のこの言葉がきっかけになり、学校への入学に関する話になっていった。
中学校に通うとなると、公立の中学という方法もある。しかしながら、これだと戸籍上の問題も発生する。「難民」というレッテルを利用する―難民は戸籍の有無に問わず、学問を修めることができるらしい―のも有りかもしれないが、本人がそれを遠回しに嫌がったので、無しということになった。
最後に、天ノ峰中学への入学をするケースを口に出されると、やはりまずは僕が飛びついた。
通学も一緒で、しかも授業も休み時間も一緒に居られるなんて、嬉しいことこの上ない。
その場合について、理事長とヒカリからの補足があった。
「ただし、うちの中学に入学するならば、誰に対しても平等な条件を設けさせて頂きたい」
「天ノ峰中学に通うだけの学力。それがあるかどうか、しっかりとチェックします」
――入学試験。
やはり穏やかな道のりという訳ではないようだった。
ベガは別にこの条件が悪いものとは思わなかったようだけれど、「少し考えたい」と言って、結局その場では決まることが無かったのだ。
ベガの授業料やら学費の類は、どちらに転んでもそのほぼ全てを天ノ峰家が負担してくれることになるため、僕の家に負担が来ることは無いらしいから、私学である天ノ峰中でも、大して問題はない。
僕が一つ意見をするならば、分が悪い気がするという点だけだ。
宇宙人であった場合、そもそも初等教育が同一のものであるとも限らない。また、記憶喪失の面でも心配がある。もしかしたら、これまで培ってきた学力のほとんどが失われているかもしれない。
あまり良い条件ではないように思えてしまう。
仕方がないとはいえ、リスクも高い。
しかも、これは最終入試が終わった後の特別枠だ。あくまでもベガのために用意された入試である。
そのため失敗した場合、期日の問題もあり、公立中学にも入学することができないのだ。厳しい。
それをベガが果たして理解できているのかどうか、それを踏まえた上で、出来れば決めてもらいたかった。心配事は、どちらも少ない方がいいだろうからね。
「――なるほどなー」
ベガは僕の思いを聞き終えると、目を瞑り、手を組んでうんうんと頷く。
「どうかな。これでも、意志は変わらない?」「ああ」
即答か。
間が寸分たりとも存在しなかった。
「そっか、でもどうして? 学校へは行かないって選択肢もあるのに」
そう。これも気になっていた。
そもそも、ベガは宇宙人の可能性もあるわけだし、無理して学業を修める必要もあまり無いのではと感じていたのだ。思い出したら思い出したで、また元の道に戻っていけば良いかなと思うし。
「昔がどうであったとしても、今、オイラはこの星の人間だ。この星に敷かれたレールの上を走るさ」
電車の踏切を指さして言う。
顔は可愛いのに、凄くかっこいい。
「それに……」
「そ、それに?」
一体何を言うのかとドキドキしながら、次の一言を待つ。
ベガは若干頬を赤らめて。
「なんかさ、お前と一緒がいいんだ!」
にへっと笑顔になった。
この笑顔をこれからもずっと見ていたい。それが叶ったことに、心から喜びを感じていた。




