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吊られた男は(異)世界をかける  作者: 活呑


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4/4

4話

朝。

貰った服に袖を通す。

ザラさんは朝食を買いに出ていた。

家から出て、伸びをする。そういえば、普通のオークは食事はどうしてるんだろうか。

意外とみんな自炊ができる男だったりするのか? オークが? そうであれば学会に論文出せるんじゃね?

後でザラさんに聞いてみよう。


たったったったっ


軽やかな駆け足の音が聞こえる。

でも走ってきたのはオークだ。足音がおかしい。

「よぉ、昨日は世話になったな」


???

誰かわからない。

「ザラの雄だろ?昨日、酋長のとこで、元気もらってさ」


あー。あの時の。顔も名前も知らないけど。


「あれから嫁と久しぶりに頑張れてねぇ。

 夫婦円満、気分爽快ってことで、ジョギングしてるんだ。

 お前、良い仕事したぜ!」

親指をたてて、ウィンクする。


「じゃあなー」


また駆けていった。

夫婦……雌が少ないという中、固定のパートナーが持てるのはやはり権力者ということか。

それにしてもジョギングするんだ?

半袖短パンなのは何でだ。


後ろから柔らかいのがのしかかってきた。

「いい仕事、したね!」

ザラさんだ。


「ザラさん、おかえり」

2人でちゃぶ台を挟み、朝食にする。

「わからないこと、いっぱいですけど、なんか一息つけた気分です」

「そっか。だいぶうちらに染まったね」

「染まってますかね〜」

「うん、うん。難しいことは後で考えれば良いんだよ」

「そしてずっと考えない??」

「……たまには思い出すよ?困った時とか」


やっぱりあっさりしてそうだ。

「そういえば、僕は何か仕事、した方が良いですよね? 食べさせてもらってばかりというのも……」

ザラさんはムッとした。


「カツヤは私のものだから、私が食べるもの用意するのは当たり前なの。パンツも洗ってもらってるし、狩にも一緒にいくだろう?

だから良いんだよ。多くを望まなければ、割と生きていけるんだ」


「そういうもんなんだ」

「うん、そういうものー」


昼過ぎ。


オークの行商人がやってきたらしい。

普段なら物々交換だったり、奴隷の交換だったりが行われるとのこと。

今回は、それらをする間もなく、里の入り口で皆お縄になった。

この行商人の後ろ盾が、先日のダークエルフだったオークだったから。


籠に乗せられたよぼよぼのオークが里の入り口へ向かっていた。ごっつい装備をしたオークの戦士たちが数人守りについている。


「あれ、私の婆ちゃん」


ザラさんが指さして説明してくれる。

「お婆ちゃんは何やってるの?」


「魔法使い?呪術師? なんかそういうやつ」

へー。オークにも魔法使いいるんだ。


「見に行く?」

「行こうか」

2人して野次馬に出かけることにした。



里の入り口には、ローブを被ったオークが6人ほどいて、人間の奴隷っぽいのが3人ほど。

後は、担いできたらしい荷物の山だ。


「とにかく、ダコタ様を呼んでください!」

縛られたオークの1人が声を上げている。

この前のダークエルフが、ダコタというオークになりすましていたのだろう。関係あるのか、無いのか。

「ちと、黙っておいで」


ザラさんの婆ちゃんが声を発した。

杖を振るうと、周囲が急に静かになる。

音消し?


更に杖を振るう。

今度は、捕まったオークのうち4人から煙が上がり始めた。4人の姿はローブで隠れてしまっているが、恐らくダークエルフなんだろう。


更に杖が振るわれる。

煙の出ていた4人が、その場にバタっと倒れてしまった。

魔法かっこいいね。


何処からともなく拍手があがる。

僕も一緒に拍手する。


お婆ちゃんのお付きのオークが、4人を取り押さえていった。フードを剥がしていくと、4人ともダークエルフだ。この後尋問とかあるんだろうね……。


残り2人のオークが何か騒ぎ始めたけど、音消しの効果中なのか、何も聞こえない。

頭を振って、フードを外す。

雌オークだった。2人とも。

ザラさん以外(婆ちゃんも除く)の雌を初めて見たけど、ちゃんと個体認識ができそうだった。

前の世界でもアイドルとかほとんど判別つかなかった僕が。


「ヴィラ! ダフネ!」

ザラさんが声を上げる。知り合いみたいだ。

僕はザラさんを見た。

「幼馴染なんだ!」

駆け出して行く。


そっかー。雌は少ないっていうから、幼馴染の雌って貴重だよね。

うんうん。


こういう時って僕はどうするのが正しいんだろう?

コミュ障はこれだから……。

 ①「ザラさん僕にも紹介してよ」空気を読まずに会話に割り込む

 ② ぼっちはぼっちらしく、ぼっちにしてる

 ③ 先に家に帰る


迷わず②だわ。③とかあとで半殺しだわ。

セルフスキル発動。僕は気配を消した。


周りはオークだらけ。ダークエルフが取り押さえられ、連れていかれる中、見物人は1人また1人と、その場を去っていく。

超、浮いてる僕。ぜんぜんスキル発動出来てない。


ザラさんは幼馴染たちと何やら話してた。


なんというか、アウェイの場所で唯一の知り合いが他の人と熱心に話しだしてしまったモードとでも言おうか。


ピロン

メニューがひらく

しょうごう? 「いつでも吊られる男」


うん、まぁそうね。上手いこと言わなくていいよ。


そう、人はぼっちになると、いかに誰かに依存していたかを痛感するのだ。

そして一人になると時間の経過が遅い。

腕時計……ない。

携帯……ない。


なんだと? 今までが大変すぎて、手元にあって当たり前だったあの文明の利器が無いことにいまさら気付くとは。


まぁ、でもいいんだ。

気が付いたら地面に一人三目ならべをしていた。


「カツヤ、なにしてるの?」

何十戦目かの負けを喫した時、ザラさんが声をかけてきた。

僕の瞳はうつろだった。


「ん-。ちょっと暇つぶしを……」

「話しかけて来ればよかったのに~」

① が正解だった? いやいやいや。


「紹介するね、こっちが幼馴染の、ヴィラと、ダフネだよ」

ヴィラさんは僕より背が低い。金髪でおかっぱ。

ダフネさんは僕と同じくらいの身長で、青いゆるふわロング。

ちなみにザラさんは僕より大きくて赤い髪をポニテにしてる。



「あ、よろしくお願いします。カツヤです」


「この子がザラの雄なんだぁ。ふ~ん。そうには見えないけど」

とヴィラさん。

「うん、こんなのがタイプだったっけ?」

とダフネさん。


「とりあえずうちじゃ狭いから、食堂へ行こうか」

ザラさんの提案。

「食堂?」

知らない場所だ。

「里の食事を一手に作ってるところがあるんだよ。いこ」

ザラさんが僕の手を捉まえる。やっと、なんかお腹が温かくなった。


みんなで食堂に辿り着いた。

丸テーブルに、思い思いの食事をもってきて、椅子に座る。


ヴィラさんが口火を切った。

「早く話してくんないかな~? ザラが人間の雄を飼うのも驚きだけど、それにぞっこん?

これと? ありえない。雄日照りでとち狂っちゃった?」

「そんな事ないよ~。……カツヤはいい雄だよ」

ザラさんが赤くなってる。


「……狂戦士が、こうなるとは……世界の行く末が心配」

ダフネさんの追い打ち。

そこまで?


「あ、あの、御二人はどうしてこの里に?」


「……噂、聞いた」

「うちの里にもいい雄いなくてね。もてあましちゃって」

???

「……雄が、復活した」

「そうそう、ここの神殿で雄がもとにもどったーって噂があってね。

 まぁ、嘘でも神頼みしようかーってダフネとさ。

 ついでにザラの顔も見たかったし」


「そうなんですね……」


「復活したのは本当みたいだけど、里全部じゃないみたいじゃん?

 ちょっと肩透かし……」


「あー、もー。わかった! カツヤの本気を見せてやろう!

 私んちいくぞ!」

ザラさんに手をひっぱられる。僕の本気? 本気ってあれ? マジ?


「おー、それでこそザラちゃん」

「……ゴチに、なります」

ザラさん家。


「ほーら、カツヤ。やっちゃおー」


「いや、もう、どうなっても知らんよ、僕」


『精力絶倫』……3倍だ~


「うあ、なにこの雄の匂い。やっば」

「これは……狂えそう……」


意識がもどった時は、オーク娘に揉みくちゃにされていた。



「ザラさま申し訳ありませんでした。わたくしが間違っておりました」

ヴィラさんが頭を下げる

「……ごめんなさい」

ダフネさんも同様


「分かればよろしい」

ザラさんは両手を組んでいた。


「いやー、でもちょっと酷くない? こんな雄いるなら早く教えてよ。幼馴染でしょ」

「……そーそー。独り占めは反則」


「いや、ごめん! でも、この話を広めるのは止めて欲しい」


「ふ~ん?」

「……ご執心」


裸で藁の上に転がされてる僕を横に、何か会話がなされている。


ピロン

メニューが開く

しょうごう? 「えっち」


突っ込む気力が……


「まぁいいよ。これからも混ぜてくれるなら全然おーけー」

「……お肌ツヤツヤ。仲間外れは……いや」


「わかったよ。でもここに4人は流石にきつい」

「引っ越しちゃえ」


「うーん。親父に相談しないとなぁ。

 あんまり融通きかせてもらうと後が面倒なんだよね」


「一人娘は愛されてるねぇ」

「みんな、一人娘でしょ!」

「……当たり前」


「じゃ、カツヤ。親父に会いに行こうよ」

「え?え?」

「だって1人じゃ寂しそうなんだもん」

「私たちで留守番しててもいいんだよ?」

「……楽しみ」

「それも絶対だめー」


僕とザラさんは、また親父さんの天幕にやってきた。昨日の今日だ。

でもすごい刻が経って感じる。


天幕に入ると、親父さんと婆ちゃんが何か話してた。近くには縛られたダークエルフと、見張りのオークたち。

取り込み中だね。

「親父、ちょっと相談があるんだけど」

ザラさんは割って入る。

空気読まないというか、自分の都合を優先させるというか。オークはみなそういうところがありそうだ。

「ザラか。カツヤ、だったか、お主も一緒ならちょうど良い」

親父さんの重低音ボイス。

「こっちの話が先だ、娘よ」

ザラさんは頬を膨らます。


「ダークエルフの件だが。ダコタの死体が森で見つかったよ。骨だけだったがね。母上に確認してもらった」


「ダコタって?」

小声でザラさんに訊く。

「商隊の管理をしてた叔父さん。昨日、ダークエルフに化けられてたひと

……やっぱり死んでたんだ」


「成り代わっていたダークエルフが、そこのものたちとなにやら企みを進めていたらしい。詳しくはこれからだが。

例のサソリも、こやつらが食事に呪いの素を混ぜていたようでな。

まったく、小賢しいことだ」


「じゃあ、これから呪いは無くなって行くんですか?」

僕も口を出してしまう。


「一度呪われたものは、そのままじゃよ。

 自身で撃ち破るしかなかろう」

婆ちゃんが話してくれる。


「儂らは、ダークエルフとは敵対してないと思っていたんだがねぇ。そうでもなかったようじゃで」


「そこの奴らに吐いてもらう。

 何も知らなければそれでも良い。

 里の異常の原因が分かっただけでも喜ばしいことだ」

親父さんはかなり前向きだ。


「ザラの雄や。お主の力について聞きたいのじゃが。呪いを払う類のものなのかね?」

婆ちゃんからの質問。


「い、いえ。性欲、というか、性能力を高める能力だと解釈してます……」


「なるほどね。だから呪いを打ち破れるものもいれば、出来ぬものもいるということか」

なるほど。そういう違いがあったのか。


「で、ザラの用事はなんだ?」


「その、広めの家が欲しくてさ。

 ヴィラとダフネが里にきてて、4人で住むにはちょっと手狭で……」


「4人か……。では、そこで1人、奴隷を預かれ。まだ身の回りの世話も満足にできんでな。教育も兼ねて使ってくれれば良い。

それで良ければ用意させよう」


ザラさんは何か考えているようだ。

「分かったよ。家が決まったら連絡ちょうだい。カツヤ、行こう」


ザラさんに連れられて、天幕を後にする。

「なーんか、嫌な予感がするな……」

珍しく、ザラさんの独り言。

でも僕も感想は同じだった。


ザラさん家に帰ると、酒盛り後だった。

家の中がアルコール臭い。

ヴィラさん、ダフネさんが、酒瓶を抱いていびきをかいていた。

「あー、あー、二人とも弱いのにこんなに飲んじゃって」


ちゃぶ台に、目に留まるものがあった。

「ゲソの唐揚げだ」

懐かしい。僕の目が丸くなる。

「これ?海のものだから、ここじゃあんまり見ないね」

ザラさんがつまむ。


「ひとまずどうしようね」

ザラさんがゲソを咥えながら言う。

「どうしようね」

僕は久しぶりのゲソを味わっていた。



夢を見た。

久しぶりだ。久しぶりに吊られていた。

悪い予感しかしなかった。

「久しぶりじゃの」

的中した。ナイフ、ナイフはどこだ。

僕の足元からの声は言った。

「エンジョイしとるかね?いや、世界は救えそうかね?」

いったい何のことか。『精力絶倫』で世界は救えるのか?

「てめぇ、尻出せよ。これで世界が救えるか試してやらぁ!!」

「うう、すっかりオークに染まりおって。せっかく異世界を楽しむ能力を与えたと言うのに……」

救うのではなかったか。

「本当は少女が見たかったんじゃもん。お前なんかに需要なんかないんじゃ」

「この外道め〜」

「オークに籠絡されとる奴に言われても痛くないんじゃ。ふはっふはっふはっ」


笑い声がだんだん遠くなる……


許さん。いまに刺す。


「ちょっと大丈夫?」

体を揺すってくれたのはヴィラさんだった。

「え??」

「なんか、誰か殺しそうな顔してたよ」

「すみません。夢に嫌な奴が出てきまして」


「虫も殺せなさそうな顔してんのに、そんな嫌な奴、いるんだね〜。あ、でもアレの時の顔は好きヨ」


「……フライングは、ダメ」

「ダメだー」

ダフネさんに続いてザラさんのツッコミが入る。

「え〜、気持ちを伝えるのは大切よ?」

「……わたしも、好きよ」

「カツヤは私のだ。私が一番好きなの」

ザラさんにチョークホールドされる。


あれ、まだ夢の中だっけ??

意識が切れた。



その日の夜は、3人の昔話や、あのときの誰々さん今どうなの?的な、同窓会のような、女子会のような、そんな感じだった。

僕は食堂からいくつかのフルーツジュースとお酒をもらってきて、バーテンダーさながら、カシャカシャやって飲み物提供係。

グラスとかないので、カッコつけても見栄えは良くならない。

僕の気が紛れるくらい。


やがて、良い感じにお酒が回ってきてみなだらーんとなってくる。


僕も肝臓強かったらな〜。残念ながら弱々だ。


夜は更けていく。


改めて思う。


僕はこの世界で何をするんだろう。

何ができるんだろう。

オークとしてなら、きっと簡単だ。その日を生きていくだけ。弱ければ死ぬだけのところもあるけど、基本的には同種族には優しいし、働かなくても、戦えなくても、生きていける。

先のことで悩むなんて、人間だからなんだろう。

オークに染まり過ぎ……でも特段それでも困らない。


宙ぶらりんだ。


この生活を守りたければ、強さを目指す必要も、あるのかもしれない。



翌朝。

親父さんの使いのオークがやってきた。

4人、奴隷を入れて5人で住める家に案内するとのこと。

よく考えれば僕も立場は奴隷のような気はするけれど、待遇良いので考えないことにしている。でもパンツを洗うのは僕の仕事だ。


新居は、湖の近くで、少し小高くなったところ。家の背面から山が広がっていた。

家自体はやっぱり大きな天幕。雨に降られても大丈夫とのこと。


引っ越しの荷物はほとんどない。

ザラさん、私物がほとんどなかった。

僕がちゃぶ台を運ぶくらいだ。


「それで、預かってほしい奴隷なんですが……」

オークがちょっと声量を下げて言った。


「家の中にいるので、お願いします」

頭を下げて、そそくさと帰っていった。

問題児か?


僕とザラさんが、家の中を覗き込む。


紫の髪。小柄で、ほっそい少女。


問題児だった。

ザラさんが目を覆った。


「カツヤ、対応お願いできる?」

「分かった。親父さんにしてやられたね」


ヴィラさんとダフネさんも入ってきた。

「5人くらいだと、こんなもんかな?

 個室は……まぁいいか」

「……1人で何する気だったの?。ふふふふ」


さて、僕は持ってきたちゃぶ台を

紫髪の子の前に置いた。

「久しぶり、ってほどでもないね。

 君、名前はなんて?」


「リッカ、です」

「じゃあ、よろしく、リッカ。

 僕はカツヤ。あれがザラさんで、あっちが

 ヴィラさんに、ダフネさん。仕事は何を教わったの?」


「あの、洗濯と、干し方を習いました」

「心の整理はついた?」

「まだ……ぐちゃぐちゃ……」

「お腹は?」

「……空いてます」


「ザラさん、みんなで朝ごはん食べに行きましょう」

「うん、そうだね。いこうか」


「あ、そういえば……」

「リッカ、君ってパンツ履いてるの?」

彼女は黙って首を横に振った。


えーっと、前に親父さんからもらった服の中にパンツもあったはず。自分の荷物から、パンツを取り出した。女物だ。


「……誰の、パンツ? 脱がせた、まま?」

ダフネさんの突っ込み。


「だからね、カツヤ。パンツは脱がせたら履かせてあげるのが礼儀って言ったよね?」

ぶんぶん首を振る。


「彼女、もともとパンツ履いてなくて。親父さんにもらったやつが履けたらと思って。決して脱がした訳では」

「パンツ脱がすのは私だけにするんだ。な?」

ザラさんのチョークホールド。いつもより強い。

ストップストップ。


「パンツ欲しいなら私のあげようか?」

「ちょっとヴィラ!」


賑わしい。


リッカにパンツを履いてもらう。

ちょっと涙ぐんで見えた。


朝食に食堂へ。


僕としては、リッカには栄養をとってまずは健康的になって欲しい。衣食足りて〜だ。


皆思い思いの料理をとって、テーブルに集まる。僕はリッカの面倒を見ながらだったが、ザラさんが心配そうに見ていた。

「……心配?……人間だもんね?」

「いやぁ、カツヤはザラにゾッコンでしょ?」

「い、いや、そんなんじゃなくて!」

「お待たせしました。ザラさんありがとう」

「う、うん……」


集まったところで皆食べ始める。

「あの、こんなに食べて大丈夫ですか?お代とか……」

リッカがぼそりという。

あ、そういえば食堂の仕組み知らないや。


「ザラさん、この食堂の支払いってどうなってるんですか?」

「支払い?」

「だって、前に食事買ってくるーって」

「あー!」


ザラさんは斜め上をみる。

「これからめんどくさい話をしよう。

 オークは、酋長が食べさせてくれてるんだ。

 狩りをして、食堂で調理して、提供する。

 オークは物々交換でやりとりしてるんだけど、狩りで自分がすぐ食べる以外のものが取れたら、酋長に収めてるんだ。それでみんな食べていける。

普段狩りにも採集にも行かない奴も食堂で食べていけるけど、肩身は狭いよね。

私は普段、たくさん狩りしてるから、大丈夫。


だいたい物々交換に行くのを、買い物に行くっていうかな?」


「じゃあ、僕らはザラさんの狩りの成果で食べてる感じです?」


「まぁ、そんな感じかな?

 食堂に出す在庫がなくなってきたら、みんな狩りに行かされるけどね」


「説明ありがとうございました」

「うむ。さぁ食べようよ」

ヴィラさんとダフネさんは先に食べ始めていた。この辺マイペースというか、オーク的?なのか。


食事が進む。

朝はオートミールっぽいのが胃に優しい。

リッカはおどおどしながら、時々泣きながら食べている。

僕はみんなの分のドリンクを取ってきた。

朝からアルコールを要求するアル中はさすがにいない。


「そういえば、カツヤって神様の使徒って本当?」

ヴィラさんがぶっこんでくる。

「神様に連れてこられたのは本当ですが、使徒なら吊るされないと思うんですよ」


「……なにか、無礼なこと、やった?」


「何もしてませんて。だいたい、あの神様がオークの神様かも分かりませんし」


「石像みたいじゃなかったの?」


「髪はありませんでしたが、人間のお爺さんぽかったです。頭光ってました」


「……さすが、神様……ピカピカ」


「連れてこられただけ?」


「アレが凄いの」

ザラさんがボソっという。


ヴィラさんとダフネさんが納得の表情を浮かべる。


「やっぱりオークの神様なんじゃない?それって」


「そうかなぁ」


「だって、ねぇ。カツヤのあれ、オークの雄であんなだった奴いなかったよ?」

2人が静かに頷く。

「……神に、感謝……」


複雑な気分だ。

絶倫が打ち止めになったら、僕には価値がなくなる?みんな離れていってしまうのだろうか。


朝から胃が荒れるなぁ。


あのジジイは刺すと決めているけど、刺した後は僕は無価値になる。相打ち的な。……しかし、そこだけは本望な気もする。


朝食を取り終わった後は、のんびり里を見て回った。ヴィラさんとダフネさんが昔住んでた時からどう変わったのか、思い出確認行脚な感じ。

僕も行ったことない所がたくさんで、里の勉強になった。


お昼過ぎに家に戻ってきた。

今まではザラさんの家、だったが、今はみんなのお家感覚だ。実際はザラさんの家なんだけど……。


みんな藁葺きの床でゴロゴロしていた。リッカは隅で正座している。よく考えたら僕も正座する側じゃなかろうか。

ザラさんに甘えてしまっている。


僕はザラさんにジワジワ匍匐前進で進む。

ガバッとザラさんのお腹に抱きついた。硬い腹筋が気持ちいい。カッチカチ〜。

「わ、なに? 寂しいの〜?」


「……寂しいなら、ここもあいてる。ほれほれ」

足を崩して座っているダフネさんが膝を指差す。

背中にピトッと何かが張り付く感覚。首筋に歯が刺さる。

「ストップ、ストップ。そこは死んじゃう!」

ヴィラさんのお尻をペチペチしてストップをかける。

リッカは離れたところで顔を隠してた。指が開いて目が覗いてる。


「女の子のお尻触っておいて、タダで済むと思ってないよねー?」

「それはマジ不可抗力では」

「女の子に胸押しつけられて、タダで済むと思ってないよねー?」

「胸ありま……いたいいたい」


「……ヴィラに、胸の話は、いけない」



「あのー、お楽しみのところすみません……ぐわぁぁぁ」

ちゃぶ台が入り口にいたお客さんに激突する。ヴィラさんのパワーも侮れない。


「あたしのちゃぶ台壊すなよー」


「あの、大丈夫ですか?」

慌てて駆け寄った。お客さんは鼻血を出していた。

「ちょっと目がチカチカします」

その程度で済むってオーク怖い。


「えーっとですね、オババ様がお呼びです」

「婆ちゃんが?」

「はい、カツヤさんも連れてくるように、と」

「んー、なんだろう。ダークエルフの話ならちょっとお腹いっぱいかな。でも行かないと……」


「みんなはどうする?」

ザラさんが立ち上がった。


「ちょっと巻き込まれてるし、行ってみようかな」

「……ダークエルフ、ゆるすまじ」


「リッカは連れて行った方がいいね」


「うーん、まぁいいか。みんなで行こうか」


みんな立ち上がる。

僕は自分とリッカのスカーフを確認。

最近自分が守られ過ぎててスカーフのことを失念していた。


みんなでお婆ちゃんの天幕へ。


こっちは初めてだね。

入り口には強そうな雄オークが槍をもって見張りをしている。


「婆ちゃんいるー?」

ザラさんが入り口の布をあげて中に入る。


みなも後を付いて入っていった。


お婆ちゃんの天幕は、ザラさん新居と同じくらい。

部屋には棚があって、本が並んでた。さすが魔法使い。


中央の椅子に座って本を読んでいた婆ちゃんは、ああ婆ちゃんなんだなぁって感じのしわくちゃだ。

婆ちゃんは本を閉じた。

顔をあげてみんなを見る。

「今日はちょっと実験を手伝ってもらいたくてね」

「実験〜?」

「ザラよ。お前さん、そこのカツヤに力を使ってもらったことがあるね?」

「え、えーと、そのー」

ほっぺを指でかく。

強烈な視線を感じた。

ヴィラさんとダフネさんが、ザラさんを睨んでる。

「まだそんなの隠してたの?」

「……お友達なのに、悲しい」


「ちょっと外野は黙っておいで。そこでだね。儂もどの程度の効果があるのか、試してみたいのよ。カツヤどの、儂にあんたの力、つかってくれんかね?」


ザラさんがこちらを見る。いつもの表情じゃないのが、気にかかる。

「ザラよ、何もお前の雄をとったりはせんよ。心配するでない」

ハハハハ〜、と渇いた笑いをするザラさん。


「あとで何か対価は払ってやる故、ほれ、頼むよ」


すごーく嫌な予感がする。従っても、断っても。これは「どうにでもなーれ」の呪文を発動させる時か。


僕はメニューをひらいた。

しょうごう? 「むこうみず」


いやそんな事よりスキルだよ。


『精力絶倫』を婆ちゃんにかける。


なんか婆ちゃんの体が光り始めた。

「魔力が勝手に動く……??」


しわくちゃだった婆ちゃんが、だんだん若返ってきた。背筋も伸び、出るところが出て、妙な色気を発し始める。


ザラさんが僕とリッカを抱えた。

「逃げるよ。なんかまずい」


ヴィラさんもダフネさんも逃走準備中だ。


みんなで天幕から出た時、中から奇声が上がった。

見張のオークたちが、何事かと天幕の中に入っていく。


僕らはみんな、脱兎のごとく逃げ出した。

何が起こったかは、明日にしよう。

今はとにかく、触らぬ神に〜だ。



ザラさんの家に戻ってきた。

みんな汗だくだ。冷や汗だけど。


「お婆ちゃんって美魔女?」

「いやいや、明らかに若返ってたでしょ、あれ」

「……伝説の、鬼姫」

「あー、それ聞いた事あるぅ……」

「見張のオークさん、大丈夫かな?」

「干物かなぁ……」


みんなでちゃぶ台を囲む。

リッカがお茶をいれて持ってくる。

我が家に食器が増えていた。


「それよりさ、ザラちゃん?さっきの話だよ」

ヴィラさんの目が怖い。

「……うん、初耳」

「いやぁ、ね。私も一回だけで」

「うん、うん」

ヴィラさんが僕の腕を掴み、ダフネさんが背中からお腹をホールドしてる。

「いつもなら、もう無理〜ってとこでも、よし、次行こうってなるのよ。相手がカツヤじゃないと無理だわ」

「……相手がカツヤ、当たり前」

「そうなんだけどー。普段は無くても十分っていうか……」

「そんなこと言って、私たちはお預け?」

「いやぁ、どうしよ?」

ザラさんがちらちら僕をみる。

ダフネさんの手が僕の下腹部をまさぐってる。


「じ、じゃあ、1回だけ……」

「そうこなくっちゃ」


ザラさん、ヴィラさん、ダフネさんに、『精力絶倫』!!

3人の目の色が変わって感じる。


「ちょっとリッカはどこかに隠れてて。危ないと思うから……」


どんどん服が脱がされていく中、自身にも『精力絶倫』を起動。


そのときメニューの端でしょうごう? が見えた。

「いにしえの魔女を目覚めし者」


僕ら4人は朝まで組んず解れつしてた。



「……これは、やばい……」

「あたし、天国が見えちゃった」

「あたまチカチカするー」


僕は燃え尽きていた。干物のように。


「邪魔するぞ」

天幕に入ってきたのは親父さんだった。

肩には簀巻きを背負っている。


「ふむ、この場を見るに、これはお前たちの仕業と見て間違いなさそうだな」

簀巻きをそっと床に下ろし、ごろん、と中身を転がり出す。

中からは、若返ったらしい婆ちゃんが出てきた。

「母上がな、見張の2人を絞り殺してしまった……。まぁ、数年前はよくあった話だが、子供が減ってきているこの時期はなぁ」

ため息をつく。


「ほれ、カツヤ。おきろ!」

僕は無理やり体を起こす。ふらふらだ。


「母上を元に戻せぬか?」

「力の効果はもう切れてるはずで……若返ったのはお婆ちゃんの魔法のせいだと思います……」

「なるほど……まんまと母上に利用されたか」

「まんまと、って」

親父さんは僕の前にどがっと座ってあぐらをかいた。

「母上は、いわゆる性豪という名の魔物よ。あらゆる男を搾り取る。後に残るのは干からびた男の死体だけ。

ようやく大人しくなったと思っていたのに……まったく頭の痛い」


お婆ちゃんを見た。今はザラさんのような見た目で、髪は赤くてゆるふわ。額に2本の角がある。真っ裸なので、あまりジロジロ見るわけにもいかない。


「角があるだろう?母上はオーガとのハーフでな。角を継いだものは現れなかったが、血筋のものは巨漢が多い。

ザラも他と比べて大柄だろう?」


なるほど、そうだったのか。


「このままでは、母上に雄が滅ぼされてしまう。責任、取れるよな?」

「え?」

「えー?」ザラさん。


ヴィラさんとダフネさんは手を取り合って首を横に振っていた。

リッカは……どこかに隠れてるのか姿は見えない。


「ちょっとそれは無茶振りでは」

「無茶なことをしでかしたのはお前だ!」


もう一度お婆ちゃんを見る。

お婆ちゃんがむくりと上体を起こした。


「うるさいなぁ。ひとが気持ちよく寝ておるのに」

「母上、ご自分が何をやったか自覚はおありか?」

「見張の2人のことか? いまいちじゃったなぁ。肩慣らしにもならん。弱すぎて死んでしもうたじゃないか」


「里のものはまだ、サソリによって本領を発揮できませぬ。それを絞り殺すなど……」


「もぅ、うるさいなぁ。せっかく往年の力を取り戻したというのに、祝うでもなく、厄介者扱いとは。……お母さん悲しい」

「母上、冗談を言ってる場合では……」


「ここは……カツヤのとこか。

 じゃあ、約束の対価じゃが……

 儂をプレゼント〜 とかどうじゃ?」


ぶんぶんぶん


僕は首を横に振る。ザラさんも隣で同じく。

正直体保ちませんよ? いやスキルがあれば大丈夫だけど、どんどんオークに絡めとられていく。蜘蛛の巣にかかったように。


「それは良いアイデアですな」

親父さんが膝を打つ。

「僕が死んだらどうするんですか?」

「勇者として大々的に供養してやろう」

「嬉しくないです……」

ピコン!なんか閃いた。

「もしかしてダークエルフとかに恨まれてる理由ってお婆ちゃんだったりします……?」

親父さん、目を逸らす。


ザラさん、ヴィラさん、ダフネさんも、親父さんとお婆ちゃんを見た。


こんなところで真実に遭遇するとは。

お婆ちゃんは戦略兵器だったのだ。


親父さんは両の拳を床について、頭を下げた。

「カツヤ殿、頼む。母上の手綱を握ってくれんか? 我々では御しようがないのだ」


僕はザラさんを見た。複雑そうな表情だ。あと心配そう。


「頭を上げてください。わかりました。微力を尽くさせていただきます」

「カツヤ、大丈夫なの?」

と、ザラさん。

「死にはしないと思う。もし死んでも生き返ってくるよ」


「ふはははは。小気味良いな。気に入った。では、相手をしてやろうかの」

お婆ちゃんは元気だ。


「場所を変えたりは……」

「ここで良かろう。見届け人はいた方が良い。どうせ身内じゃ」

「身内だから恥ずかしいんじゃ……」

「いまさらじゃろ」


村の命運をかけた戦い(?)が始まった。

3日3晩におよぶ。

見てる側は途中でだれて、食事に行ったり、お風呂にいったり。

親父さんとザラさんだけはじっと見てた。


そしてついに……!


お婆ちゃんが、お婆ちゃんになった。

しわしわだ。


僕はその場になんとか座り込んだ。


ザラさんが僕を抱き抱える。

「よかった〜、ほんとに、良かった」


ピロン

メニューが開く。

しょうごう? 「鬼姫を討伐せしもの」


ヴィラさん、ダフネさんも駆け寄ってくる。

「あんた凄いね。鬼姫って相当なのよ?」

「……生きた。お祝い」


親父さんは、しわしわになったお婆ちゃんを簀巻きにした。

「礼を言う。被害が広がらなくて本当によかった。謝礼はまた後ほど考えよう」

お婆ちゃんを小脇に抱えて帰っていく。


リッカが桶に水を入れて持ってきてくれた。

「あの、とりあえず体拭きましょう」


「あー、もしかして見てた?」

「わたし、これでも大人です。ちっちゃいですけど」

「そうだったんだ……それはごめん」

ザラさんが体を拭いてくれてた、が。

「ちょっと、ごめん。カツヤ、お風呂行ってきてくれない?

 匂いでムラムラしてきてやばい」

「あ、そうね。ひとっ風呂行ってきます」

タオルだけ腰に巻いて、共同の風呂へ走る。

足腰がへなへなする。

走り込みが足りないなぁ。死ぬ原因になったのもそうだった。はず。もうちょっと体力つけないとな。


お風呂とは名ばかりの河に体を沈め、ぼーっと考える。あったかい温泉が欲しい。

温泉作成魔法とかないかしらね。チートものではよくあるけど。風呂釜とかは出来そうだけど、入るの大変そうだし。温泉の方が大変か。


石鹸で髪や身体中を洗う。

自分では鼻がばかになってるけど、それはもう凄い匂いなんだろう。誰かが致した部屋に入った時のにおいが強烈になったような?

自分のだと気にならないけど人のは凄く気になるんだよね。

そうすると今頃家も掃除してるんだろうか。


親父さんやザラさんには、きつかっただろうなぁ。自分の母親、お婆ちゃんのあられもない姿を見ることになったんだし。オークはその辺気にならないんだろうか。

直接聞くのはデリカシーが無さすぎる。


よくよく考えると、婆ちゃんは雄オークを絞り殺してる。腎虚ってやつだっけ。もしかすると、僕は精力絶倫がなければザラさんに同じ目に遭わされてるかもしれなかった。いや、その前に食料コースもあったな。


ジジイも変なところに送り込んだもんだぜ。


体が冷えてきた。

綺麗に洗えてるはずだし、そろそろ戻ろう。


タオルを腰に巻き、里を歩く。

もうすっかり夜。

灯りはいつもの月明り。


「もう、おそい。なにやってんのさ」

ザラさんと帰り道の途中で遭遇。がばっと、貫頭衣を上からかぶせてくる。

「そうそう、みんな心配してたんだからねー」

「……逃亡は、死刑」

ヴィラさんも、ダフネさんも。

リッカもいる。


僕は人間だ。

だけど、オークの中で、居場所がある。

もう種族とか関係ないんじゃないかな?

心の底では警告音が鳴ってる。でも、家族は裏切れないよ……





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次回

「儂がお前にフェアだったことがあったか?」

ニヤリとするジジイ。


人との戦闘!? 乞うご期待


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