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07 無条件のやさしさ3

 スペディング公爵邸にお世話になりはじめてから、五日が経過した頃。

 朝食の席で、フィリスは口を開くタイミングをうかがっていた。


 目の前のセドリックはナイフとフォークを使って、上品にオムレツを口に運んでいる。

 こういった所作ひとつでも目を引く人もめずらしいだろう。


 父は今日も朝早くから出かけている。

 本当はもっとゆっくり体を休めることに専念してほしいけれど、領地のことで奔走している父を止めることは(はばか)られた。


 セドリックが、静かにナイフとフォークを置くと、フィリスに目を向ける。


 彼の琥珀のような透明感のある黄褐色(おうかっしょく)の瞳は、一瞬どきりとするほど鋭いが、すぐに柔らかく細められる。


「何か言いたげだね?」


 タイミングをうかがっていたことを指摘され、フィリスは気まずげに肩をびくつかせる。


 セドリックはやけに楽しげに微笑む。

「じっとこちらを見つめてくれるのはいいものだけど、そろそろ訊いたほうがいいかと思ったんだ。でも、驚かせてしまったかな?」


 フィリスはどう答えていいものか迷った末、小さく頷く。


(なんでもお見通しって感じがするわ……)


 でもいやな感じはしない。やはりそこには、彼がまとうやさしげな雰囲気があるからだろう。


 フィリスは視線を左右にさまよわせたあとで尋ねる。

「あの、何かわたしにお手伝いできることはありませんか?」


 このままお世話になりっぱなしというのも、落ち着かない。


 あくまでフィリスたちは、セドリックの厚意によって置いてもらっている一時的な居候にすぎない。寝食を自由に与えてもらえるようなこの邸宅の高貴な客人ではないのだ。


 セドリックは目を丸くする。

「ここでは、自由にしてくれればいいんだ」


 しかしフィリスはそれを頑なに拒むように伝える。

「でも、そういうわけには……。本当になんでもいいんです。お掃除でも、お洗濯でも、お料理でも構いません。実家の子爵家では家政婦と一緒に料理もしていましたから、慣れています」


「そうだな……。じゃあ、一日に午前と午後の二回、私にお茶を淹れてくれないか」

 セドリックは少しばかり考えるしぐさを見せると提案する。


 フィリスは、あまりに簡単な提案に目をしばたかせる。

 これだけよくしてもらっておきながら、一日に二回お茶を淹れるだけでいいなんて、対価に見合っていない。


「そんなことで、いいんですか……?」

 まさか、という気持ちを込めて、フィリスは尋ねる。


 しかしセドリックはにっこりと微笑むだけだ。


「ああ、十分だよ」


 フィリスはますます困惑する。

 お茶を淹れるためのきちんとした作法を学んだ使用人なら、この屋敷にはいくらでもいるだろう。


 するとまた、フィリスの心を読むようにセドリックが言う。

「なぜって、思っている顔だね」


 フィリスは、どきりとする。


「でも、きみが淹れてくれることが重要なんだ」


 セドリックは、じっとフィリスを見つめる。


 落ち着かないフィリスは視線を外す。

「でも、わたし、そんなに上手ってほどでは……」


 子爵家ではなんでも自分でするくせがついているため、お茶を淹れるのは慣れている。両親もおいしいと言って、褒めてくれる。

 しかし公爵家ともなる方に出せる腕前は、当然ながらもっておらず、高級な茶葉を無駄にしてしまうかもしれない。


 セドリックは穏やかに目を細める。


「言っただろう? きみが淹れてくれることが重要なんだ。きみが淹れてくれるなら、何よりもおいしいよ」


 まだ飲んでもいない紅茶を、すでにおいしいとまで言い切った。


 セドリックの無条件のやさしさに、フィリスの胸が締めつけられる。


(なんで、こんなにもやさしくしてくれるのかしら……)


 やさしく自分を見つめるセドリックに戸惑いながらも、そんな彼から目が離せない。


 セドリックはふっと微笑むと、わずかに首を傾ける。

「あと、もしお許しをいただけるなら、フィリス、そう呼んでも?」


 これまでは『フィリス嬢』と呼ばれていただけに、突然家族のように親しげに呼ばれて、フィリスは息を呑む。

 セドリックに呼ばれると、自分の名前が特別なものになったように感じる。


「……はい」

 フィリスは赤く染まる頬を隠すように、そっと顔をふせると小さく頷いた。



ここまでご覧くださり、ブクマなどもありがとうございます!


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