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14_許しと本心(3)

 フィリスは、静かに尋ねる。

「……スペディング公爵家は、”国を守る番犬”と言われているのですか?」


 前々世の第一王女であったときでも、そんな話は聞いたことはなかった。

 しかし王城の中で追いやられている王女が、国の内情を知れるはずもなく、当然とも言えた。


 フィリスから訊かれることは予想していたのだろう、セドリックは一瞬間を置いたあとで、ゆっくりと頷き、

「ああ、そうだ」

 と答える。


 フィリスはうつむく。


 史実には、フィリスの死後に王国を襲った二度の悲劇では、それぞれ当時の貴族諸侯らや国の騎士らが国を存続させるべく、尽力したと記されてあった。


 おそらく、その貴族らの筆頭がスペディング公爵家だったのだろう。


 だとすると──。


 フィリスは、苦しげに顔を歪める。


「もしかして、公爵家の中で伝え継がれているのでしょうか……。ひとりの人間の死によって引き起こされる災厄が王国を襲う可能性があるかもしれないと……?」


 考えられるとすれば、それしかない。


 ゆっくりとセドリックに目を向ける。

 彼は、きつく唇を結んでいた。

 それが何よりの答えのように思えた。


「そうですか……」

 フィリスは、ぽつりとつぶやく。


 胸に、ストンと何かが落ちる。


 なぜセドリックが、姿も異なる今世のフィリスに気づけたのかはわからない。


 でも公爵家なら、災厄を引き起こすような人物を見分けられるすべがあるのかもしれない。


 思い起こされるのは、父が入院していた診療所で、初対面のセドリックが自分の顔を見て、ひどく驚いた表情をしたことだった。


(ああ、だから、セドリックさまは、わたしにプロポーズを申し込まれたのね。そばで監視していれば、三度目の悲劇を引き起こさずに済むかもしれないから……? もしくは、惨めな死を迎えたわたしがあまりにも(あわ)れだったから……?)


 フィリスは、ぐっと唇を噛みしめる。

 さっと立ち上がる。

 これ以上、ここにいられる自信がなかった。


「フィリス……」

 セドリックが、フィリスを呼ぶ。


 フィリスは無理やり笑って見せた。


「助けていただいたこと、深く感謝申し上げます。でも同情なら、やめてください……」


 最後のほうは、どんなに振り絞っても笑みは続かなかった。


「もう、傷つくのはいやなんです……」


 国が悲劇に見舞われることがないよう、フィリスは心から願っている。

 だからこそ、領地から出ず、他人との接触も()って、隠れるように生きてきた。


 でも弱音を吐くと、本当は自分自身がもう傷つきたくなかったからだ。


 誰からも(かえり)みられないのも、ぶたれるのも、ひどい言葉で虐げられるのもいやだ。

 だまされて、命を奪われることも、もういやだ──。


 フィリスは胸が張り裂けそうだった。


(──国のためだなんて自分を偽っておきながら、本当は自分のためでしかなかったのよ──)


 ずっと目を背けていた現実を突きつけられたようだった。


 フィリスは逃げ出すように、走り出す。


 セドリックが急いで立ち上がり、彼女の腕をつかむ。

「違う! そうじゃない!」

 大きな声をあげる。


「離してください!」

 フィリスの瞳には、涙があふれていた。


「聞いてくれ!」

「聞きたくありません、離して──!」


 フィリスは渾身の力を込めて、セドリックの手を振り払おうとするが、びくともしなかった。


 セドリックはフィリスの腕をつかんだまま、反対側の手を伸ばし、彼女の華奢な肩を強くつかむ。


「──私も、過去の記憶があるんだ!」


 セドリックは苦しげに叫んだ──。



次話は、セドリック視点になります。


ここまでご覧くださり、ブクマなどでご評価いただき、ありがとうございます!

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