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三好家次世代との立ち位置

 この時代の京は公家の屋敷等が並ぶ上京と土蔵等の商業地が並ぶ下京に分かれている。

 度重なる戦乱でこのように街が分断された形になっているのだ。

 で、その中央に三好家が権力と財力を注いで城を築いている。

 二条城と呼ばれる事になるそれは、上下の京支配と攻撃を受けた時の防御施設としての機能を備えることになるだろう。

 足利義栄の入京が近づく中、俺達はそんな京に戻って来たのだった。


「あの軍勢は何処だ?」

「大友主計助様よ。

 見事に若狭の後詰だけでなく、丹後の一色家を降したそうな」

「新公方様への忠義、まことに見事よの」

「三好家の嫁をもらって、三好家中でも準一門扱いとか」

「丹後一国を断ったのも、三好家に忠義を尽くすためとか」


 町衆の噂話がここまで届いてくる。

 どうしてくれようか。

 こっちに来てから三好家の主な戦に関わり続けて、功績を立ててしまった自業自得だから怒る相手すら居ない。

 仕方が無いので、表情を消して京を通り過ぎる事にした。

 その日のうちに勝竜寺城に着く。

 この城は京における三好家の拠点であると同時に、織田家が居座る淀城への警戒として大改修が始まっており、数千の兵が篭れるように大拡張の最中だったりする。


「大友殿。

 若狭と丹後の戦ご苦労でござった」


 この城で指揮をとっている三好義興は俺を見るなり、嬉しそうに笑う。

 考えてみると、俺の立ち位置は三好家の年功序列において、面白い位置に居る。

 三好家の次世代一門が出てくる前に準一門扱いで入ったので、三好義興にとって年下の弟かつ有能な武将とみられている感じがする。

 彼ぐらいなら果心の経歴ロンダリングは知っているはずなのだが、この待遇という事は三好政権が続く限りこの位置は安泰という事なのだろう。

 なお、三好家次世代達に俺を入れて具体的に並べると大体こんな感じ。



 安宅冬康 享禄元年 1528年

 野口冬長 享禄三年 1530年

 細川藤孝 天文三年 1534年


-----------三好家現役重臣の壁------------------


 三好義興 天文11年 1542年

 松永久通 天文12年 1543年

 大友鎮成 天文13年 1544年


-----------三好家若僧重臣の壁------------------


 十河重存 天文18年 1549年

 安宅信康 天文18年 1549年

 十河存之 天文21年 1552年

 三好長治 天文22年 1553年

 十河存保 天文23年 1554年



 十河重存と安宅信康がやっと出てきた程度で、松永久通とほぼ同年代。

 ん?

 気づいたが、十河重存と安宅信康が同い年か。

 このあたりも安宅冬康粛清の背景になったのかもしれないなぁ。

 話がそれた。 


「お気使いありがとうございます。

 で、和泉守護代の件なのですが、荒木殿を丹後に送ったので成り手を探さねばなりませぬ」


 俺の物言いに三好義興が首をかしげる。

 何かおかしな事を言ったのだろうかとこちらも首をかしげたのだが、三好義興は確認の言葉を出す。


「和泉国守護代を辞めるというは真でござったのか!?」


「それがしの言葉を真に受け取ってなかったので?」


 じと目で睨むと三好義興がいい訳を言う。

 どうも言葉がかみ合わない。

 

「普通の武将は辞めぬので」


「九州から来てこうやって戦っているそれがしが普通と?」


 こんな軽口を言って二人して笑う。

 三好義興は、畿内の覇者三好家の次世代の後継者だ。

 そして、現在の三好政権は彼よりも年上の宿老達によって運営されている。

 気兼ねなくこうして会話ができるというのも、三好義興の好感度が高い理由の一つなのだろう。

 まあ、俺ならば三好家を簒奪しても誰もついてこないと言うか安心感もあるのかもしれないが。


「それについて一つ悩んでいる事がある」


 三好義興が真顔に戻って、懐から書状を俺に差し出す。

 新公方足利義栄あてで、差し出し主は毛利元就。

 三好義興が頷いたのを見て、俺はその書状を読む。


「幕府に忠誠を誓い、嫡孫幸鶴丸への一字拝領を願っている。

 石見の銀を手土産にして、安国寺恵瓊という坊主がうろついている。

 宮中の方々にも接触し、色々と何かしているらしい」


 毛利元就の病状はあまり良くは無いらしい。

 次期後継者への箔付けが目的なのだろう。

 俺に暗殺者を送っておきながらこういう事をするのが毛利元就だが、三好家の利害関係を把握しているからこそこの爺はたちが悪い。


「幕府の権威を認めるというのは、新公方にとって魅力だ。

 特に立ち上がりで瀬戸内海が荒れないというのは大きい」


 現在は三好と大友が幕府という線で手を組んでおり、その輪の中に毛利も入れば瀬戸内海が平穏になる。

 で、商業によって畿内を統治している三好家にとって、この申し出は無視できるものではないのがこの問題をややこしくしていた。

 東にできた織田家という無視できない勢力の事もあるし、毛利家を敵に回す理由が今の三好家にはない。


「尼子との戦については何か伺っているので?」


「出雲からは兵を退いて、国人衆が蜂起している石見制圧に全力を傾けているらしい。

 前に結ばれた尼子との和議の範疇だから、こちらも強く言えぬ」


 さすが毛利元就。

 老いて命短いのに、その堅実さは目を見張る。

 しかも、新公方や織田家の膨張という味方が欲しい場面で、的確に自分を売り込んで来やがった。

 で、これをそのまま守るつもりもないのが透けて見えるが、それでも足利義栄の権威を確立するのに尼子と毛利の和議はうってつけだろう。


「……毛利への温情の代償に和泉国というのではありませぬな?」


 直接対決している訳ではないが、大友家にとって面白いわけではない。

 とはいえ、和泉国守護代という職につかせてもらっている俺がいるので強く出られないというあたりまで計算しているとしたら、この人結構食わせ物である。


「それもある。

 だが、本当に治めて欲しいというのが本音だ。

 三好は、あまりにも大きくなりすぎた」


 三好義興はぶっちゃける。

 阿波国から始まった三好家の躍進は、畿内一円を勢力圏に収めてしまっていた。

 あちこちに人を配置してもまだ足りない。

 そして、足りない組織に常にトラブルはやってきて、それが原因の戦が無くならないのがある意味救いがない。

 俺の肩をたたいて三好義興は冗談を言う。


「だからこそ、主計助殿をそれがしは高く買っておる。

 和泉国一国では安いと思うぐらいに」


 その目と口調はまったく冗談に聞こえなかった。




 若狭後詰の際に、信濃に帰国した小笠原長時から預かった浪人衆をここで引き渡す。

 帰る途中で褒美などの戦後処理は既に終わらせている。

 で、浪人衆達でそこそこの数の浪人が俺達の所に来たいと言っていたりする。

 若狭と丹後の戦で俺の事を認めたかららしいが、それ以上に荒木村重とその一党を切り離したのが大きいのだろう。

 今ならば、定員が空いていますよと。

 就職希望の浪人達にとって魅力に見える訳だ。


「さてどうするかねぇ」


 勝竜寺城の陣中にて俺は一同相手に愚痴る。

 俺の手勢は、兵は少ないが将が多いので、浪人衆の吸収の際にも問題なく動くことができた。

 荒木村重が抜けても、前線指揮官である足軽大将に小野鎮幸と島清興がいるので苦労はしない。

 で、独立して動ける武将クラスだと、本陣で全体指揮を任せている大鶴宗秋以下一万田鑑実、雄城長房、吉弘鎮理が居るわけで。

 このあたりの独立行動ができる武将に現場を丸投げしているのが俺の戦のスタイルである。


「まあ、来てもらって損は無いかと」


 大鶴宗秋が苦笑する。

 俺を含めて武将達の多くは九州出身で領地もそっちにあるので、ここでは全員銭払いで生活している。

 だからこそ、地場国人衆と争いを起こさないというメリットがあるのだが、同時に領地をあげられないというデメリットもある。

 なお、拾ってきた田中久兵衛は勲功があるので侍にしたが、相変わらず俺付きで雑兵を二人ほど雇うと嬉しそうに言っていた。

 

「で、俺まで引っ張りだしたという事は、足軽大将だよな?」


「はっ。

 それが相応しいかと」


 大鶴宗秋がそう言い切るという事は、小野鎮幸と島清興クラスであるという事だ。

 そう考えると、少し楽しみになってくる。


「分かった。

 入ってくれ」

 

 俺が頷くと幕が開けられて侍が一人入ってくる。

 陣中なので鎧姿なのだが、どうも鎧姿があまり似合ってはいない気がする。

 俺がそんな事を考えているなんて知らずに、侍は俺に平伏した。


「それがし、軍配者の白井胤治と申す者。

 小笠原殿の浪人衆の中で足軽組頭をしており申した」


 軍配者。

 要するに軍師の事だ。

 軍配とは、合戦に際して方角を見極めて天文を読んで軍陣を適切に配置する事だ。 

 合戦の勝敗は一族の盛衰にもかかわる重大事なので、出陣の日取りや方角で吉凶を占ったり、天文を観察して未来を予測することは軍配者の仕事である。

 で、これが意外と無視できない。

 天文観察ができるという事は、合戦時の天気が分かるという事。

 占いができるという事は、武将のアドバイザーとして振る舞える訳で、その武将に対する裏口にもなっているからだ。

 信心深いこの戦国の世において、『占いの結果です』という形で出たアドバイスに文句をつけられる人間はそうはいない。

 この軍配者系軍師の一人が、大友家に仕えている角隈石宗だったりすると言えば、その大事さは分かってもらえると思う。

 なお、大友義鎮が耳を傾けなくなった理由の一つに、


「俺、キリシタンだから!」


で、それを聞かなかった結果、耳川で大惨敗したとも言えなくもない。

 信仰と宗教はこんな所で毒を撒き散らすから怖い。

 閑話休題。


「御曹司も和泉国守護代として多くの者が頭を下げる身分になり申した。

 それ故に、良き事しか耳に入らなくなってゆくでしょう。

 お屋形様も角隈様を置いていることから分かるように、御曹司にも彼は必要かと」


 大鶴宗秋の狙いがなんとなく理解できた。

 現在の俺への情報が、女経由に傾きすぎているのだ。

 女相手に閨で籠るのでその影響を受けやすい。

 大鶴宗秋の言う事は今のところ聞いているが、聞かなくなった時に武将側からのアクセスが田中久兵衛ぐらいしか無い状況になってしまう。

 その為に、俺に面と向かって意見が言える者を引っ張ってきたのだろう。

 権力は麻薬だ。

 その毒は確実に効き、必ず組織を腐敗させる。

 その毒に溺れる前に、こうやって家中の風通しを良くしようという訳だ。


「分かった。

 銭払いで良かったら足軽大将で雇おう。

 大鶴宗秋。

 それでいいな」


 そんな事を夕食の席で話した結果、男の娘くノ一の機嫌がすごく良くなったのでたずねてみた。

 で、それに対する答えがこれである。


「だって、その話だと、大鶴様は僕の事をご主人の愛妾だと思っているって事でしょ?

 嬉しくないわけないじゃない♪」


 男の娘の後ろに尻尾がぶんぶんと振られているのを幻視するぐらい実に機嫌が良い。


「だから、その言葉を誠にする為に僕を閨に誘ってよ」


 いつものオチになったので、俺は苦笑してこの僕っ娘を無視して食事をする事にした。

 なお、涙目で俺を睨む僕っ娘だが、しっかりと食事を取っていたのを記しておく。

野口冬長と十河存之の生まれはそれっぽく適当に入れています。

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