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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

肥前大乱編 永禄七年(1564年) 冬

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長寿丸と新七郎

「やぁ!とぉ!ええいっ!!」
「どうしました?
 息が上がっておりますぞ」

 府内の仲屋乾通屋敷の庭にて少年剣士の木刀を受けている俺は挑発しながらも、この状況に苦笑するしか無かった。


 今回の宿は仲屋乾通の府内屋敷にする事にした。
 向こうからの誘いがあったからだ。

「帰還おめでとうこざいます。
 御曹司」

 仲屋乾通は笑みを浮かべたまま茶室にて茶を点てる。
 今回はこちらが客なのだが、仲屋の権勢をこれでもかと見せつけてくれる。

「とりあえず無粋な話を先に片付けておこう。
 俺に何をさせたい?」

 鸞天目茶碗の茶を味わいながら俺は用件を尋ねる。
 仲屋乾通から出てきた言葉はある意味予想できた商談だった。

「御曹司がお使いになられている佐伯水軍の事について」

「お尋ね者の佐伯水軍なら、豊後には入れないぞ」

 大友義鎮から内々で赦免を勝ち取った佐伯水軍だが、表向きはまだお尋ね者だった。
 俺が行っている太平洋航路を使った豊後と堺の交易は、土佐国宿毛港で荷物を積み替えている。
 そこから豊後に送る物と博多に送る物に仕分けされ、神屋がそこから先の荷を運ぶのだ。
 これも豊後における大神系国人衆に対する警戒感を知っていたからだが、仲屋乾通は首を横に振った。

「逆でございます。
 我らにも御曹司の商いに一枚噛ませて頂きたいと」

 そうきたか。
 俺はこれまでの人生から博多商人との繋がりが深い。
 大友家中で俺の存在が無視できなくなりつつある今、縁を作っておくと。
 それは、毛利家御用商人でもある神屋との関係を弱めたい大友家からのオファーもあるのだろう。

「府内や臼杵に直接荷をおろせるならたしかに便利だが」

 肯定も否定もしないが、まずは出せる手札を切ってみる。
 府内及び臼杵への佐伯水軍直接乗り入れは公式に佐伯水軍赦免を意味する。
 軽いジャブのようなものだが、仲屋乾通はそれを軽くいなした。

「我らの店の前で、よそ者が大きな顔をするのは面白くありませんからな。
 我らはまだお互いを知りませぬ。
 そこから始めてお互いを知る。
 よいお考えかと」

 なるほど。
 どちらかといえば、大友家側の介入の側面が強いな。これは。
 豊後水道から南の宇和海は、毛利水軍の力が及びにくい大友水軍の聖域である。
 そこを毛利家とも繋がっている神屋がうろつくをの嫌ったという所か。
 俺は手を差し出して、仲屋乾通はその手を握った。

「わかった。
 正式な赦免が出た後に、佐伯水軍を府内と臼杵に送ろう」

「御曹司のご配慮。
 感謝いたします」

 それで茶席は終わりだったが、ふと気になったので仲屋乾通に尋ねてみた。
 答えが返ってくる事は期待していない。

「なぁ。
 お前が荒稼ぎした八万貫。
 何に使ったんだ?」

 俺の心情を察したのだろう。
 仲屋乾通は薄く微笑んだのみで俺の話を聞かなかったことにした。 



 府内到着後の動きは、前に来た時と同じである。
 派手に賄賂をばらまいて、府内と大友家中の世論を掌握する。
 各々の人間を動かして、俺は井筒女之助と丸目長恵達と残って留守番をしていたら、田中久兵衛から来客の報告を受ける。

「誰が来たのだ?」

「日田郡代田原親賢殿と名乗っておりますが?」

 相変わらず大友義鎮の寵臣として大きな影響力を持っている彼の訪問である。
 彼に日田の地に城を築いてやったが、見事日田郡代職を得るまでに出世したか。
 臼杵鑑速も己の屋敷に戻っているからそれを見計らっての訪問なのだろう。

「会おう。
 こちらに連れて来てくれ」

「承知」

 さて、どんな用事なのやら。
 そんな事を考えていたら、その理由が俺の前にちょこんと現れる。
 二つも。

「おじうえ!
 お久しぶりです!!」

 なるほど。
 彼の権勢は凄いものらしい。
 次期後継者の長寿丸を内緒にここに連れてくるぐらいなのだから。

「お久しゅうございます。
 長寿丸様。
 何用でこの場に?」

 こういう場合の対処は心得ている。
 ぼうろを井筒女之助に用意するように目で合図させていたら、長寿丸がわくわくした目で俺に用件を言う。

「おじうえ!
 畿内での戦の話をしてください!!
 新七郎と共に楽しみにしておりました!」

 長寿丸の言葉の後に理由その二が頭を下げる。
 才気が顔に出ているが、同時に生意気そうな口調で俺に挨拶をする。

「長寿丸様の小姓をしております、田原親賢の息子で新七郎と申します」

 口調から隠し切れない嫌味臭。
 こいつを見ているだけで、府内でどういう流言が流れていたか分かる。
 きっと、こいつの脳内設定だと、『粛清される俺が父親である田原親賢を頼った』という感じなのだろう。
 さっと田原親賢に視線を向けると、彼もため息をついたのみである。

「お屋形様の許可は得ております故」

 思った以上に大友家内部の闇は深い。
 知っていたが。
 普通、大名家の後継者には傳役がつけられる。
 その傳役は重臣の中から選ばれ、後継者が大名になったあかつきには、重臣筆頭の座が約束されていると言っても良い。
 現在の長寿丸の傳役は田原親賢がやっている形になっている。
 そして、田原親賢は田原家という大友家一族の家ではあるが、血は奈多家という他紋衆の人間。
 要するに、同紋衆が長寿丸育成から外れているのか、外されているのか。
 そんな考えがよぎるが、とりあえずそれは頭の片隅に置いておくことにしよう。

「では、若狭の戦をお話しましょう……」

 で、そこまでならばまだ良かったのだが、剣術の話になり丸目長恵を紹介した時に冒頭に繋がってゆく。
 彼の剣の腕を売り込んで、相良家にかるく恩でもと思ったのだが、

「御曹司の剣の腕もかなりのものですぞ」

 という訳で、新七郎相手に剣の指導をする羽目になる。
 お互い木刀だが、こちらは短め、長寿丸には普通の木刀というハンデをつけている。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 木刀を落として新七郎が膝をつく。
 悔しさと負けん気が涙目の顔から涙を流さないようにしているのが分かる。
 あと、『違うだろ!ここは俺に負けて恩を売る場所だろ!』なんて考えているのがまるわかりである。

「おじうえ凄い!
 新七郎は剣の腕もすごかったのに、あっさり勝ってしまうなんて!!」

 あかん。
 権勢とおそらくは同紋衆の情報遮断で、新七郎が天狗になっている。
 きっと、彼の周りには媚びへつらう者しか残っていないのだろう。
 それは長寿丸の先の未来でもある。

「そうでもないですな。
 種をお見せしましょう」

 長寿丸、後の大友義統も歴史には愚将として名を残す。
 それがどういう帰結なのかは知らぬが、少しでも改善できるならば俺の粛清確率が減るのだ。
 優秀になれば俺の価値が分かるだろうし、平凡ならばこちらの重臣が俺を担いで謀反なんて考えないからだ。
 愚劣に育った場合のみ、俺との取り換えフラグが出てくる。
 そんな事をおくびに出さずに、子供にも分かる理由を用意するために新七郎の木刀の隣に俺の木刀を置く。

「見て下され。
 新七郎殿の木刀はそれがしよりも長い。
 そのくせ、体格はそれがしより小さい。
 長く戦えば、今の新七郎殿よろしく息が切れるのです」

 大人が子供に負けるなんて普通はありえない。
 そのありえないことが起こっていたのだから頭を抱えてしまう。
 長寿丸が俺に興味を持つのは多分そこだろう。
 彼にとって俺は、多分はじめて媚びなかった存在なのだろうから。
 彼に必要なのは、本来ならばそういう人材なのだ。
 俺は短い木刀を持って受けの型を取る。
 振り下ろさない分、体力は温存される。

「長寿丸もおじうえのようになれるかな?」

 ならないほうがいいと思うのだが。
 生まれた時には両親居ないわ、父親粛清されるわ、人質に出た家も粛清されてまた人質に出されるわのハードモードだから。
 なんて言ってもわからないだろうなぁ。

「御曹司。
 例の形を見せてあげてくだされ」

 ここで控えていた丸目長恵が口を出す。
 彼もそうだが、柳生宗厳もこの形を見て『惜しい』と言ったんだよなぁ。
 俺は首だけ横に向けて丸目長恵に返す。

「あれはもう一人居ないと意味が無いんだよ」

「交互に繰り返して鍛錬しておりましたな。
 見て覚えました故、それがしが受けを引き受けましょう。
 御曹司は攻めを」

 見て覚えたのかよ。
 流石剣豪。
 という訳で、形の実演である。
 正確な用語だと、打太刀と仕太刀と言うがお子様二人には言葉より形を見せたいので省く。

「ヤー!」
「トー!」

 日本剣道形。
 殺す剣術から誰もが使える剣術への進化と、銃の進化による刀の衰退の歴史を丸目長恵も柳生宗厳も俺のなまくらな形を見て見切ったのだ。
 剣豪どころか剣士すら居なくなり、人を殺す事なんて考えなかった時代の剣はゆっくりとかつ演舞のように剣の基本をお子様二人に見せつける。
 そのやり取りに長寿丸だけでなく、新七郎すら見とれる。

「長寿丸もやってみたい!」
「やってみて下され。
 ですが、見るよりも難しいですぞ」
「これぐらい簡単に……っ!」

 丸目長恵の指導の元お子様二人が木刀を持って形をしようとして悪戦苦闘する。
 勢い良く木刀を振るならば、その重さを勢いに変えられるが、形のようにゆっくりだと重さがかえって邪魔になる。
 さらにゆっくりとした動きだからこそ、違いというのが誰にも分かる。

「長寿丸様。
 振り下ろしはもっと遅く。
 新七郎殿。
 剣先が震えておりますぞ」

 ここまで来ると俺の出番は無いだろう。
 静かに下がって縁側に腰掛けると、ずっと控えていた田原親賢が声をかける。

「ご指導ありがとうございます」
「あれは、あのまま育つと良くはないぞ。
 何故もっと早く手を打たなかった?」

 井筒女之助から手ぬぐいを受け取った俺が新七郎の歪みを指摘すると、田原親賢は寂しそうに笑った。

「分かってはおりましたが、長寿丸様に遊び相手が必要でした」

 なるほど。
 小姓に同紋衆一族を入れたくなかったのか、彼らが拒否したのか知らぬが理由はあった訳だ。
 で、大人達の媚びへつらいを受けてああなったと。

「丸目長恵を残してゆくから剣の師として使ってやってくれ。
 今のままではうつけにすらなれぬぞ」

「感謝いたします。
 もう一つ、御曹司に紹介したい者が」  

 田原親賢の声で、控えていた若侍が近づく。
 年は俺よりも若そうな若侍が自己紹介をした。

「日田親永と申します。
 御曹司のご助力を賜りたく……」

 その後を田原親賢が引き継ぐ。

「御曹司によって、日田に城を築く事になり申した。
 その時に、財津永忠殿に預けられまして」

 さて、長くなる解説タイムだ。
 豊後国日田郡。
 水郷日田と呼ばれる筑後川上流に位置し、対毛利戦において制海権を握られていた大友軍が筑前や肥前に出撃する際に必ず通った戦略上の要衝である。
 ここに、繋ぎの城という補給拠点を築く事で対毛利戦、対竜造寺戦を円滑に行うという戦略的目的と、田原親賢へのゴマすりという人事的理由からここに城を築き、その資金を出したのである。
 その結果、大友家中の二つの勢力が過激に反応した。
 一つは同紋衆。
 元々この地を治めていた日田家というのがあって、その家は同紋衆だったからだ。
 つまり、同紋衆の既得権益を他紋衆が奪ったと捉えられたのだ。
 まあ、それはある程度予想していたし、どうにでもなるのだ。
 ……その日田家を継ぐ人間が居なければ。
 で、もう一つが地場の国人衆。
 この手の城と郡代がやってくるのは地場国人衆にとって悪い事ではない。
 何か揉め事があった時に日田郡代の裁きで収まるならばそれに越したことがないからだ。
 こうやって、地場国人衆と郡代が癒着してゆく。
 地縁血縁やらで色々あって、日田郡の有力国人衆の財津家が保護していた日田家の後継者がこの日田親永なのだ。
 ここからが話がややこしくなる。
 日田家というのは、最初から同紋衆の家だった訳ではない。
 元々他紋衆の家だったのに、大友家が血族を送り込んで家を乗っ取ったのだ。
 こういう家を他にあげると、臼杵家や戸次家なんかもそうだったりする。
 日田家もそうやって乗っ取ったのはいいが、日田親将の代に大友義鑑によって粛清。滅んでしまっている。
 なお、このドサクサに紛れて日田の地場国人衆がかなり粛清されている事も付け加えておく。
 さぁ。ここで田原親賢の経歴を思い出してみよう。
 田原親賢の血は他紋衆だ。
 ところが、ここで同紋衆が日田親永に目をつけて日田家を復興したら、彼が日田を治める事になる。
 地場国人衆の有力一族だった財津家は、大友家に痛い目を見せられているのでそれは面白く無いと日田親永を田原親賢に差し出したのだ。
 田原親賢はこれに苦慮する。
 一番ベストな選択肢は殺してしまう事だが、それを名目に同紋衆がどんな手を打ってくるか分からない。
 かといって日田親永に日田を治めさせると、日田を直轄化した大友家の戦略が狂ってしまい、日田郡代の存在意義が無くなってしまう。
 ここまでで十分にややこしいのだが、この案件更にもう一つ裏が有る。
 粛清された日田親将の兄に日田親久というのがいる。
 病気によって隠居したのだが、その息子に千亀丸というのが居た。
 彼が成長した時に日田の直轄支配を崩したくなかった大友義鎮は、小原鑑元の乱の後に粛清した立花鑑光の後を継がせて立花鑑載と名乗らせたのだ。
 日田家の復興は許したくないが、殺してしまえば立花鑑載の恨みを買いかねない。
 という訳で説明終わり。

「で、何で俺に話を持ってきた?」
「御曹司のお知恵をお借りしたく」

 頭を下げる田原親賢。
 めんどくさそうな声で確認してみる。

「それをする事で、俺にどのような得がある?」
「御曹司のお立場は重々承知しております。
 お屋形様のお耳に入れる事をお約束しましょう」

 他紋衆は同紋衆と違って、完全な他者意識で取引を持ってくる。
 実にわかりやすいギブ・アンド・テイクなので、そういう所を大友義鎮も好んでいるのだろう。
 こっちのトラブル解決を協力したら、こっちのトラブル解決も協力する。
 ある意味口約束の極みだが、それゆえにその信用を守らないと敵どころか身内からも見放されるのが戦国時代というものである。
 という訳で、状況を整理する。

「日田親永は殺したくないが、彼に日田家は継がせられないか」
「その通りにて」

 本人目の前にして酷い会話だが、これも戦国時代においては誠意になるから笑ってしまう。
 少なくとも俺の運命は本人そっちのけにして決められたのだから。

「となると答えは一つだ。
 彼を畿内に連れて行ってくれと」

「御曹司の領地でも構いませぬ。
 日田以外の地ならば」

 財津家とて保護した手前殺されるなんて後味の悪いことはしたくはない。
 かといってこの時限爆弾をいつまでも抱えておく事はできない。
 自分の手を汚さずに、お家を守る方法として田原親賢に預けたのだろう。
 そして、預けた条件が彼の命を守るという訳だ。
 この条件を満たせば、田原親賢の日田統治において財津家が協力する訳で、何の地場基盤の無い彼にとってそれはすごく魅力的に違いない。

「わかった。
 ひとまず俺が預かろう。
 畿内でも猫城でも良いのだろう?」

 俺の了承に田原親賢は頭を下げることで返した。
 では、今度はこちらの番だ。

「で、そちらは何を出してくれるのだ?」

「畿内に行った者達への感状の確保。
 それはこちらで用意しましょう」

 九州からついてきた連中の多くは、大友家から俺に付けられた連中である。
 畿内の合戦に絡んだ褒賞は俺が銭等で処理はしているが、それは子会社に出向した社員がそこで功績を上げたようなもので、本社に評価されないと彼らへの意味が無くなってしまう。
 という訳で、本社こと大友家からの感状という形で彼らを賞する必要があった。
 なお、この感状を書くのは俺の仕事である。
 下手すりゃ百枚を超えるめんどくさい仕事だが、ついてきた連中の忠誠度維持のための懸念材料が一つ消えたのだから悪い取引ではない。

「で、俺についてはどうする?」

「遠賀郡の郡代は決まりかと。
 鞍手郡と宗像郡をあげるかどうかで重臣も迷っている様子で」

 遠賀郡でおよそ三万石。
 その領主ではなく代官という事で守護代時の石高に近づけるつもりなのだろう。
 鞍手郡と宗像郡もそれぞれ三万石程度はあるから、合わせれば九万石。
 まあ見栄え的には悪く無い数字にはなる。
 それに、領主と郡代では役割が微妙に違う。
 領内で好き勝手できるのが領主であり、郡代は中央に任命されたその領主たちのまとめ役と考えるとわかりやすいだろう。
 で、地元領主から選ばれると合戦時においてその郡のまとめ役となる。ちょうど今の俺のケースがこれだ。
 逆に縁もゆかりもない所からやってくるケースもある。和泉守護代の俺とか田原親賢がこれになる。
 話がそれた。

「そのあたりは任せる。
 で、俺の次の行き先だが、四国か肥前のどっちだ?」

「肥前でしょうな。
 もはや合戦は避けられぬと」

 対毛利戦の最前線確定ではあるが、その時に俺が居ないケースの方が高いだろう。
 念の為にもう少し手を打っておくか。

「肥前の後になるし領地替え前提だが、伊予切り取り次第はもらえるか?」
「……」

 仲屋乾通との話を思い出してほしい。
 佐伯水軍赦免の格好のチャンスなのだ。これは。
 同時に宇和海の制海権を完全に大友家が握ることになる。
 俺にも大友家にもメリットしかない。
 それにも関わらず、田原親賢が黙りこむ。
 俺の畿内での戦績は分かっているだろうから、俺がどれだけ領地を切り取るか懸念しているのだ。
 とはいえ、三好との関係と対毛利の第二戦線を考えると、俺の拠点が伊予にできるという事は悪いことではないと分かるのだろう。

「いいだろう。
 伊予切り取り次第、くれてやる」

 後ろからの声に俺を含めた一同が控えて頭を下げる。
 その声の主である大友義鎮は手を軽く笑って、俺に語りかける。
 そういえば大友義鎮はよく府内館を抜けだして家臣を困らせる逸話を持っていた人だったな。

「畿内の戦は耳に届いている。
 一色の名になっても良かったのだぞ」

「ご冗談を。
 大友の名すらそれがしには重すぎます」

「ちちうえ!
 見てください!
 叔父上から、剣の形を教えてもらいました!!」

 手を振って話に割り込んでくる長寿丸。
 だが、大友義鎮は親の顔ではなく大名の顔で長寿丸を褒める。

「うむ。
 精進するが良い」

「……はい」

 歪むよなぁ。
 分かってはいるが、これ絶対歪むよなぁ。
 今の長寿丸には、叱る大人と愛を教える大人こそ必要なのに。
 自然と口が出る。

「此度の褒賞に是非欲しい物が」
「何だ。
 言ってみろ」
「長寿丸様の傅役の推挙を」

 田原親賢がこちらの方を見る。
 彼が頼み込んでも同紋衆は見向きもしなかっただろう。
 だが、畿内の褒美に俺が長寿丸傅役推挙を得たと聞いたら、少しは聞く耳を持つはずだ。

「だれを推挙する?」
「吉弘鑑理殿を」

 加判衆で臼杵鑑速は俺に近すぎるし、吉岡長増は今の大友家の筆頭だ。
 戸次鑑連は二階崩れの確執があるだろうし、本家が北と南に分かれている志賀家を推挙すれば内部分裂が目に見えている。
 で、残ったのは田北鑑生と吉弘鑑理の二人で、田原本家弱体化策を継続しているならば田原分家である吉弘家の方が推挙しやすいし、吉弘鎮理という伝もある。

「いいだろう。
 お前も傅役に加われ。
 名ばかりだが、風当たりは弱まるだろうよ」

「はっ」

 その時の長寿丸の笑顔が眩しかった。
 俺が傅役に加わる意味も分からず、ただの甥っ子として見ている俺の接し方が嬉しいという救いの無さに気づいていない彼の嬉しそうな笑顔が。
このパートのせいで立志編を加筆しようと決意。

日田親永 ひた ちかなが
財津永忠 ざいつ ながただ
日田親将 ひた ちかまさ
日田親久 ひた ちかひさ

12/8
大規模加筆
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