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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
豊芸死闘またの名を因果応報編

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微睡みの府内 その1

 府内に着いた俺たちは雄城屋敷に入る。

 府内の空気は有り体に言って、浮かれきっていた。


「なんてこった。

 勝った気でいやがる」


 俺のぼやきに、会いに来た仲屋乾通は淡々とその理由を言う。

 茶室での会談だが、それの理由を聞いて俺も納得するしかない。


「それはそうでしょう。

 論功行賞が行われ、多くのお侍様が領地を持つことができましたからな」


 元々大友領なのに謀反鎮圧で領地がもらえるとはどういう事か?

 謀反側についた国人衆の領地をぶんどったからに他ならない。

 まず、降伏した竜造寺家は領地を大幅に削減された。

 臼杵家が治めていた筑前国糸島半島と波多家が治めていた東松浦半島、竜造寺家の養子が入っていた松浦一族の相神浦松浦家の領地を手放す事に。

 また、降伏によって有馬家や松浦家等の肥前国衆の多くが竜造寺家に見切りをつける事態となり、その勢力は大きく失墜。

 更に古処山城を落とした事で旧秋月領を、帆柱山城を落とした事で旧麻生領の大半を差配できるようになり、褒美の原資としては二十万石近くあったのである。

 そりゃ、府内の侍たちが浮かれる訳だ。


「で、具体的にはどうなった?」


 俺の質問に仲屋乾通は論功行賞による大規模転封を口にする。

 その意図は新領地確保と、未だ抵抗している高橋鑑種対策なのは言うまでもない。


「糸島の柑子岳城城督に吉弘鑑理様が決まったそうで。

 古処山城城督には戸次鑑連様が就かれるとの事」


 対高橋鑑種シフトで、大友家最強武闘派集団である吉弘鑑理と戸次鑑連が一気に大領地持ちの大名に成り上がる。

 柑子岳城のある志摩郡の石高はおよそ三万七千石、古処山城のある夜須郡の石高はおよそ三万三千石である。

 東西から高橋鑑種を挟み、南から攻める竜造寺軍を支援かつ監視するという所なのだろう。

 一方帆柱山城の城督の決定は遅れた。

 内定していた田原親宏が第二次姫島沖海戦の敗北の責任をとって褒美を辞退したからである。

 その為、最前線で軍監として奮戦していた朽網鑑康に一万石の領地と共に与えられる事になった。

 元々の領主だった麻生鎮里は麻生隆実謀反の責任をとって減封の上一万石で長野城へ転封、瓜生貞延も五千石と貫城を与えられて対毛利最前線に立ち続けている。


「ん?

 柑子岳城に行くには、高橋鑑種の居る博多を通らねばならぬが、どうするんだ?」


「肥前周りで唐津より入られるとか。

 もちろん、竜造寺殿が支援をするという約束で。

 城入りの為に三千の兵を連れてゆくそうです。

 筑後の国衆も途中まで行くとかで物々しいですな」


 敵地に等しい肥前経由の強行突破。

 武闘派である吉弘鑑理でないと無理な城入りだろう。

 それでも、吉弘鎮理を呼び戻さない所に、吉弘家の強さと矜持が見える。


「波多家が治めていた岸岳城は吉弘殿の手勢では守りきれぬだろう。

 そこには誰が入るんだ?」


「斎藤鎮実様ですな。

 同じく城督として赴任なされるそうで。

 吉弘殿と共に三千の兵を連れて肥前に入られるとの事」


 論功行賞から見える派閥力学の影。

 岸岳城の石高はおよそ六万三千石である。

 加判衆である吉弘鑑理と戸次鑑連の新領地を合わせた石高がおよそ七万石。

 斎藤鎮実は田原親賢の次にくる大友宗麟側近グループの重鎮だ。

 側近グループが城督の名を捨てて領地という実を取ったと見るべきか、うるさい加判衆を府内から追い出したと見るべきか、きっと両方なのだろう。

 なお、その田原親賢はこれらの大盤振る舞いの陰にかくれてこそっと加増されて一万石の大名になっているのをつけ加えておこう。


「それで、主計頭様にお願いしたい事が」


 ここまでが話の前振りだったりする。

 十分濃いなんて言ってはいけない。

 仲屋乾通は額を床につけながら、その用件を口にした。


「次の戦において、博多を戦火にさらさぬように動いて頂きたく」


 戦火と言っても色々ある。

 合戦に巻き込まれる兵火からヒャッハーな略奪まで。

 それらをひっくるめての戦火という事なのだろう。


「頼む相手が違うだろう。

 お屋形様に言うべきだ」


「もちろん伝えておりますとも。

 主計頭様が最後でございます。

 あと、主計頭様がばら撒くであろうお偉方への付け届け、主計頭様の名前で既にばらまいておりまする」


 こういう所で抜かりがないのが商人らしくて俺は笑うしかない。

 笑うついでに俺は仲屋乾通に尋ねた。


「そこまで俺に頼み込む理由を聞こうか?」

「お侍様では、武家の意地が商いを上回りかねませぬので」


 武家というのは基本舐められたら終わりのヤクザな商売である。

 その面子を盛大に汚してくれた高橋鑑種は許せるわけがないのは理解できる。

 で、その高橋鑑種を潰す過程で、隣接する商都博多の取扱いに博多商人達は不安を持っているという訳だ。

 豊後からやってきて武闘派の名で通っている吉弘鑑理と戸次鑑連は、高橋鑑種を滅ぼすならばそっちを優先しかねない。

 降伏して領土を大幅に削られた竜造寺家の場合、その経済的損失をコラテラル・ダメージと言いながら率先して略奪しかねない。

 万一の際に博多確保を最優先で考える将が大友軍大将候補の中では俺しか残っていなかった。


「一応胸にしまっておくが、俺が出向くのは奪われた猫城奪還の為だぞ」

「それでも、万一博多に向かう事があるのならばという訳で」

「分からぬな。

 博多が焼かれて、喜ぶのはお前を始めとした府内の商人達だろうが」


 俺の疑問に、実にわざとらしい顔で仲屋乾通が皮肉を言う。

 その皮肉は、容赦なく俺に突き刺さった。

 

「そう仕向けたのは、お言葉ですが主計頭様。

 あなた様のせいでございます」


 俺が南予に領地を持ってから、派手な内政ガチャを回した結果、府内や臼杵、宇和島や八幡浜の商業レベルが急上昇した。

 ここで問題だったのが、この内政ガチャを府内商人と博多商人で折半した所にある。

 つまり、これらの商業都市の急発展は博多商人たちの本店がある博多にその利益が運ばれ、博多を更に富ませる結果になったという訳だ。

 侍達が合戦にあけくれている中、商人たちは銭儲けに奔走し続けていた。


「困ったのは、主計頭様が残していかれた水車を用いた紡績。

 あれの実用化のめどがついた事でございます」


「良かったじゃないか。

 あれは更に銭を生むぞ。

 それの何が困った事になるんだ?」


「水車の職人は博多に住んでおりまする。

 府内に移そうとした矢先に、高橋様の謀反が起こり……」


 あっ……

 専門職人なんて技術者は商業都市でかつ大名の介入しにくい場所でしか生息できない。

 大名に囲われるだけならまだしも、すごい技術は漏洩を恐れて口封じというのがこの時代のデフォだからだ。

 知ってか知らぬか、高橋鑑種の事だ。

 知った上で人質にとったのだろうなぁ。


「あれは日ノ本の着る物を全て押さえる事ができる画期的なものでございます。

 その富がどれぐらいになるかは、主計頭様ならばおわかりかと」


 簡単な例を出そう。

 上杉謙信の死後に蓄えられた黄金二万七千両の元は青苧という布の原料だった。

 それを日ノ本六十余州全部掌握できるならという事で六十でかけてみよう。



 百六十二万両。


  

 そりゃ、博多商人も府内商人も目の色を変えるわな。

 堺に並ぶ日本の物流・決済機能を握る博多を人質に取っているというのはそういう事なのだ。

 で、それを『知った事ではない!』とヒャッハーで戦をするのが侍という生き物でもある。


「分かった。

 なんとか打てる手を考えておこう」


 俺はそう言葉を返すしか無かった。

 つまり、俺はここまできていないがら、未だ侍ではないと言う事なのだろう。

 喜ばしい事に。




「生きて帰られてなにより」


「恥を晒してしまいましたな。

 孫の為におめおめ生き残ってしまいました。

 もう少し落ち着いたら、加判衆から退こうと考えております」


 第二次姫島沖海戦の大敗がよほど堪えたらしく、田原親宏は一気に老け込んで見えた。

 後を継がせる塩一丸の為にもここで死ぬわけにはいかず逃げ帰ったのだが、近く加判衆も辞するつもりらしい。

 顔は沈痛な表情を崩さず、内心ニヤリとするのを必死で我慢する。

 毛利元就が用意した内部分裂の罠の内大きなものが続けて外れたからだ。

 毛利元就が用意した対立の構図はこうだ。



 大友鎮成-田原親宏-大内義胤-高橋鑑種

 大友宗麟-田原親賢-大内輝弘-竜造寺隆信



 この内、大内義胤は伊予半国守護で伊予に引き取る予定で、田原親宏は第二次姫島沖海戦にて失脚が確定。

 俺が高橋鑑種を庇わなければ、内部分裂そのものが発生しない状況にまで状況が良くなっているというか、俺よりの派閥が崩壊しているというか。

 府内の浮かれた空気は気に入らないが、それに助けられているのも事実だった。


「後任は臼杵殿を推したいと考えております。

 あの御方は、八郎様とも仲が良いのは聞いております。

 悪いようにはしないでしょう」


 吉弘鑑理と戸次鑑連が豊後外に出て、田原親宏が失脚寸前。

 臼杵鑑速が復権するにしても、何らかの功績が必要だから、この合戦の後になる。

 それは、田原親賢をはじめとした側近グループの力が増す事を意味する。


「義父上。

 お聞きしたいのですが、浦部衆どれほど残りましたか?」


「儂が逃げ帰った安宅船一隻のみ。

 慌てて作ったり若林殿から船を譲ってもらったりしているが、到底足りぬ」


 現在の大友水軍はこんな感じである。



大友家   水軍衆


  若林鎮興

   安宅船六隻 関船十六隻 小早船四十六隻 弁才船十三隻 末次船十一隻

  田原親宏

   安宅船一隻 関船二隻  小早船十隻 

  佐伯惟教

   安宅船二隻 関船十四隻 小早船五十一隻 弁才船二十七隻 末次船一隻


宇和島大友家 水軍衆


  火山神九郎

   小早船二十二隻 弁才船五隻 弁才船十七隻 末次船五隻

  日向彦太郎

   末次船一隻 ジャンク船五隻



合計

   安宅船九隻 関船三十二隻 小早船百二十九隻

   弁才船五十七隻 末次船十八隻 ジャンク船五隻



 法華津前延討死後は火山神九郎に残りをまとめさせている。

 あと一戦できなくはないが、それをしたら今度こそ完全にすり潰される。

 何処かから戦力を用意しない限り、防衛すら危うい状況だった。

 

「一つ手があります。

 義父上。

 領地を戦火に晒す覚悟はお有りで?」


「孫のため、八郎様の為ならば、領地領民だけでなく我が身を賭けましょうとも!」


 これが侍なんだよなぁと内心ため息をつきながら俺はその策を口にする。


「義父上の領内で広めている唐芋の栽培地の場所を毛利に流しましょう」


「八郎様!

 それは……っ!」


 海戦で勝てない以上、毛利水軍衆を陸にあげる必要があった。

 その格好の餌が国東半島にはある。


「毛利の水軍衆を陸で撃破するんです」

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