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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

豊芸死闘またの名を因果応報編

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香春岳城攻防戦 その3

 戸代山合戦の敗北から数日経って豊後より木付鎮秀率いる後詰が簑島城に到着する。
 彼が率いていた四千の兵と戸代山合戦後に再編した兵や周辺からの徴兵によって一万までは回復していた。

「お待ちしておりました。
 此度の戦、木付殿の指揮にて戦いましょうぞ」

 簑島城の広間にて俺は木付鎮秀に頭を下げ、諸将に明確な指揮系統を提示する。
 同時に、大友家中における一門衆と加判衆の関係も明確になったと言っていいだろう。
 木付鎮秀の顔に安堵の色が広がったのを俺は見なかったことにした。

「畿内にてその名を轟かせた名将を指揮できるとは武門の誉れですな」

 木付鎮秀が連れてきた兵と将の内枠は以下のとおりである。


 木付鎮秀  二千
 安心院公正 五百  豊前国竜王城主
 時枝鎮継  五百  豊前国時枝城主
 佐野親重  五百  豊前国土井城主
 野仲鎮兼  五百  豊前国長岩城主


 木付鎮秀の兵が多いが、かつて俺が南予侵攻時に進言した上に銭まで出した大名直参の兵を連れてきた為だ。
 その数千五百だから、木付家の郎党は実は五百しか居なかったりする。
 そしてもう一個厄介な点がある。
 彼が率いてきた将達がまったく信頼できないのだ。
 安心院公正は耳川大敗後に謀反を起こし滅亡。
 野仲鎮兼も毛利に通じて大友家相手に激しく抵抗し、降伏した時にその抵抗ぶりに大友宗麟が鎮の字を与えたという逸話持ち。
 時枝鎮継と佐野親重も史実では毛利に繋がって謀反を起こしたという素敵ぶり。
 このあたりの謀反理由の元凶が宇佐八幡宮焼き討ちだったりするから、宗教は怖い。
 安心院公正は宇佐八幡宮宮司一族の分家で、時枝鎮継は宇佐八幡宮弥勒寺の寺務を代々務めた家だからだ。
 ん?
 たしか、果心を使って俺に仕掛けて来た家か。
 顔に出さずに確信する。
 こいつら、間違いなく寝返る。

「木付殿。
 それがしの不始末とは言え、負けた後でこれだけの兵を用意して頂けるとは。
 本当に感謝しますぞ」

「何。
 勝手働きをしたいと来たもの達がほとんどよ。
 怪しいかもしれんが兵が足りぬから助かるのは事実。
 お屋形様の威光さまさまよな」

 戦国の常識である勝手働きだからこそ、木付鎮秀はそれを気にしない。
 負ければ寝返る可能性ぐらいは考えているだろうが、勝手働きの将全員が同時に寝返るなんて知ってないと分かる訳がない。
 そして、彼らをこの段階で処罰したら豊前南部で反乱祭りが勃発した上に、豊後と切り離されて兵站が完全に崩壊する。
 何も知らないからなのか知っててそれを飲み込んだのかは分からないが、木付鎮秀は笑顔で俺に話しかける。

「香春岳城への後詰について、どうすれば良いか策をお出し頂きたい」

 加判衆についたのだから木付鎮秀も馬鹿では無い。
 それでいて俺を立ててくれるのだからありがたいことこの上ない。
 俺の生き残りの為にも、彼は殺さないようにしないとと心のなかで決意する。

「案は二つ。
 仲哀峠を超えるか、戸代山の辺りを迂回するか。
 どっちにしても毛利が待ち受けているでしょうな」

 仲哀峠は香春岳城から妨害できる位置にあるので毛利軍も兵を置いていない。
 代わりに、峠道だから大兵が動きづらいというデメリットがあった。
 一方、戸代山の迂回は今川を補給路に使えて、戸代山城を拠点に使用できるというメリットがあった。
 戸代山合戦における城井鎮房の動きはあながち間違っていないのだ。

「先の戦で捕まった杉隆重殿の釈放に向けて使者を送りました。
 向こうの返事待ちですが、それまでは動くのはまずかろうと」

 俺の言葉に木付鎮秀も反応する。
 出て来た言葉はありがたい援軍の続報だった。

「府内ではこの戦を重く見ており、戸次殿に後詰を命じております。
 戸次殿が兵を動かして、早ければ十日で香春岳城に到着するでしょうな」

 本来ならばこの機を逃さずに博多を攻めてもらいたかったのだが、先陣を命じている竜造寺家が叱られないぐらいの絶妙なサボタージュを起こして博多攻めが遅れていたのだ。
 後詰めとして動く予定だった筑後衆は南の肥後の混乱に備えて動けず、糸島半島に入った吉弘鑑理も単独で博多を奪取する兵力は無い。
 そういう状況で古処山城に居た戸次鑑連とその手勢が浮いた形になっており、苦戦が伝えられる豊前国方面の転戦が命じられた訳だ。

「つまり、それまでには香春岳城には入っておけと」

 それを見逃す吉川元春ではないだろう。
 それまでには香春岳城を落とすか、戸次鑑連と後詰決戦を行うか。
 吉川元春の動きを掣肘するには、できれば香春岳城に入っておきたい。
 それが無理ならば、戸代山城を抑えた上で毛利軍の陣城になっている城越城と明神山城を叩いておきたかった。

「杉殿を解放する件があるから、本陣はこの簑島城から動かさぬ方が良いでしょう。
 それがしが、香春岳城に向かいましょう。
 簑島城の守り、よろしくお願いしますぞ」

 仕方がないので、俺が火中の栗を拾う事にした。
 そうなると、問題は寝返るだろう連中の処遇だ。

「木付殿について来た連中ですが、戸代山に送ろうと思っております。
 代わりに、それがしについてきた古庄殿と佐田殿をつけましょう」

 簑島城が落とされると、豊前戦線が完全に崩壊しかねない。
 香春岳城を見殺しにしても守らないといけないのがこの簑島城であり、そこに寝返りかねない連中を守備兵として残すつもりは毛頭なかった。
 一方で、彼らを戸代山に置くというという事は、寝返った時に毛利軍と連動できるという事を意味するのだが、下手な所に置いて警戒させる訳にも行かない。
 彼らをこっちに置いた時点で、俺達の進撃路は仲哀峠一本に絞られたのである。



 木付鎮秀との打ち合わせの後、俺は自分の部屋に戻る。
 裏切りかねない連中相手に歓待の宴を開いてその接待に御陣女郎達を使う為に、統括している有明に会うためだ。
 その途中で控えていた果心が俺に話しかける。

「馬廻の旗持から」

 差し出された文を見て舌打ちする。
 この地に長く居た彼だから知っていた俺の失敗がそこに書かれていた。

「どうりで、毛利の策が面白いように動く訳だ。
 宇佐八幡宮と彦山が繋がった。
 背景は、南蛮人の異教容認への恐怖だ」

 毛利水軍と戰うために南蛮人を味方につけたのがここでは逆に作用した。
 ただでさえ大内家の長い庇護下にあったが故に、大友家から攻撃を受けていた豊前国の宗教勢力だ。
 大友宗麟や俺の南蛮宗教への容認姿勢が危機感となって毛利側に走らせた。

「まずいな。
 彦山の山伏が毛利側についたという事は、間者働きはあらかた負けるぞ」

 このあたりの山野に一番詳しいのが英彦山の山伏達である。
 それが毛利側について働いている。
 さらにまずいのが、戸次鑑連の後詰を邪魔する位置にこの英彦山はあるのだ。
 英彦山の僧兵は数千を誇っており、戸次鑑連とて一筋縄に抜けるのは難しい。

「彼らとて最初から寝返るつもりは無いでしょう。
 こちらが負けた時に牙を剥くという事は、負けなければ良いのです」

 時枝鎮継の名から毛利の策を察した果心が軽口を叩く。
 これぐらい簡単でしょうという顔で言っているのが妙に腹立たしいが、俺を怒らせて奮起させるのが狙いなのだと気づく程度には俺も戦国に慣れたらしい。

「銭なり女なりで奴らをつなぎ止めろ……か」

「一番彼らに効果があるのは勝ち戦なんですけどね。
 今までの大友の勝利が彼らの日和見を引き出している。
 そう考えたほうが気は楽ですよ」

 会話に入ってきたのはこの間助けた小夜だった。
 助けたのはいいがまだスタイリッシュでないのは、一応間者で無い事を確認するために少し時を置く措置のためだ。
 その為まだ彼女を抱いては居ない。

「八郎様。
 兵が足りぬのでしたら、一つあてがあります。
 よろしければ会わせたいのですがいかがでしょう?」

 小夜の決意の顔に俺は少し考える。
 来た連中の動向が怪しい中で更に怪しい連中を迎え入れるのか悩む所だが、果心が小夜にそのあてを訪ねた。

「ちなみに、どこのどなたを紹介なさるので?」
「千手惟隆殿。
 大蔵一族秋月家の分家筋で、香春岳城の城主だった家よ」

 千手一族は嘉麻郡に根付き、大友家と大内家の争いにおいて大内側についた家である。
 そんな一族の分家が香春岳周辺に根付き、城主にまで上り詰めたのだが、香春岳城という要衝を抑えたことが彼らの不幸となる。
 大友と大内・毛利の香春岳城争奪戦に巻き込まれて没落。
 土豪として復旧を狙っていた。

「なんでそんな家が、貴方とどうして繋がりを?」

「私の家の侍の一人がこの千手一族の出だったの。
 私が生きていた事を知り、八郎様の側室に召し上げられたと知って接触してきたわ」

 戦国の連中はたくましい事この上ない。
 とはいえ、抱え込むには少し報奨が大きすぎる。

「で、不利な俺の方について香春岳城を寄越せというのは無理だぞ」
「それは彼らも分かっております。
 彼らが欲しているのは、香春岳城の出城の一つで、障子ヶ岳城」
「誰か地図を!」
「はーい!
 ご主人!!」

 小夜の口から出た障子ヶ岳城の場所が知りたくて、控えていた男の娘に地図を持ってこさせる。
 香春岳城の北東にある山城で、仲哀峠の香春岳側の出口を抑える場所にあり、なんでここが放置されていたと驚くような要衝である。
 その理由も小夜が語ってくれた。

「香春岳城はその構造から、寡兵で守るのが難しい城です。
 その為、他の出城に兵が割けないのでしょう。
 仲哀峠越えに千手家の郎党およそ百人が協力を申し出ております」

 香春岳城というのは山城なのだが、三つの山の山頂にそれぞれ独立した城郭を持つ形になっている。
 つまり、それぞれの山頂に兵を置かないと城として機能しない。
 障子ヶ岳城を毛利が攻める場合、香春岳城を横切る形になるから彼らも手を出せず、現状の放置に繋がったという訳だ。 

「信頼できるのか?」

 地図を懐にしまった俺の真顔に小夜も決意を持って応じる。

「信頼できぬならば、私を千手家の嫁に差し出しても構いませぬ。
 八郎様のお情けを頂いた私が嫁に来たならば千手家としても箔がつき、お家再興を目指す私も彼らをあてにできます」

 家というものはここまでも重い。
 それをわかりたくはないが、その覚悟は尊重する。

「わかった。
 嫁うんぬんはひとまずおいて信用しよう。
 井筒女之助。
 後で千手家当主と会うから、それを篠原長秀に伝えておいてくれ」

「はーい」

 小夜と井筒女之助が去った後、果心が呟く。
 顔は二人を見送った笑顏のままだが、声は低く重たい。

「千手家の連中、絶対毛利とも会っていますよ」

「奇遇だな。
 俺もそれを考えていたが、お前がさっき言ったじゃないか。
 酒と女と銭を与えて繋ぎ止める。
 それよりも間者働きの巻き返しが先だ。
 石川五右衛門達を使って、豊後との街道筋の掃除をしておいてくれ」

 毛利との戦はこんなのばっかりだと俺は苦笑しつつなんか懐かしい感じを覚える。
 最初の戦いなど、友が裏切り、有明すら疑いかけたあの時に比べれば、信頼して良い女と将がいる今のなんと恵まれている事か。

「殿。
 こちらにいらっしゃいましたか」

 そんな俺達の会話に大鶴宗秋が割り込んでくる。
 その顔色は青い。

「ろくな報告ではなさそうだが聞こう」 

 出てきた名前は意外なものだった。
 畑城主香月孝清からの使者。
 じっと己の領地に引きこもり敵にも味方にもならなかったこの家が生き残ったのは、大友本家からすれば些事として忘れられたのと、その引きこもりを高値で買った柳川調信のおかげである。
 彼の説得が志賀鑑隆や朽網鑑康を動かし、香月家安堵に繋がった事は俺は柳川調信から聞いていた。
 そんな香月孝清の使者は大鶴宗秋にこんな事を言ったのである。

「猫城に数千の兵が後詰として入った。
 その中に小早川隆景の馬印を見たと。
 彼らは間者を動かし、諸城を寝返らそうとしているらしい。
 八郎様には後詰をお願いしたい」

 毛利軍の動ける兵は全部こっちに持ってくるつもりらしい。
 畑城だけ落としても戦略的価値はなく、鷹取山城や帆柱山城まで落とす腹づもりなのだろう。
 そうなれば、門司まで毛利の戦線は繋が………る?

 違和感を感じる。
 致命的な見落とし、深淵に潜む化物がこっちを見ているような背筋が凍る殺気。
 その違和感の正体が分からないまま部屋に戻ると、有明が俺を出迎えてくれた。

「どうしたの?
 あまりよくない顔だけど?」

「いつものように戦がうまく行っていないのさ。
 今日の夜、来た連中を歓待する為に派手な宴を開く。
 御陣女郎達を集めておいてくれ」

「わかったわ。
 じゃあ、久しぶりに博多の太夫の衣装でも着ようかしら?」

「いいな。
 その色気を思いっきりみせ………っ!?」

 俺に電撃が走る。
 皆の怪訝そうな顔を気にせず、その違和感の正体を確認するために、懐から地図を取り出してゆっくりと言葉に出してゆく。

「香春岳城を攻めているのが吉川元春。
 猫城に後詰として動いて、畑城や鷹取山城や帆柱山城を狙うのが小早川隆景。
 竜造寺軍と対峙しているのが宝満城の高橋鑑種。
 柑子岳城の吉弘鑑理は博多を狙える位置にいるのに奪えない……」

 それは、博多を守る兵力が置いてある証拠。
 つまり立花山城に。
 俺が感じた違和感の正体。


「毛利家の両川が大将として前線に出ているのに、誰が立花山城からこの毛利軍を指揮しているんだ?」
安心院公正 あじむ きみまさ
時枝鎮継  ときえだ しげつぐ
佐野親重  さの ちかしげ  
野仲鎮兼  のなか しげかね
千手惟隆  せんて これたか


11/16 タイトル再度変更。
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