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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

八郎立志編 永禄二年(1559年) 秋  大規模加筆修正済

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許斐岳合戦 その3

 博多から宗像領許斐岳城までおよそ3日。
 最初の目的地は筑前立花山城。
 俺の軍勢を見ると、それだけでも色々な旗がはためいている。
 臼杵鎮続は同紋衆臼杵家の出なので『杏葉』。
 北原鎮久は高橋家の旗である『抱き柊』。
 高橋鑑種は同紋衆一万田家の出身なので『杏葉』紋を使う権利はあるはずなのだが、一万田家が粛清された経緯があるので使用を控えているのだろう。
 帆足忠勝は旧筑紫家の出身なので『寄り掛目結』の旗を掲げ、筑紫家が少弐家の出身というのが分かる。
 で、気になったのが大鶴宗秋。
 掲げている旗が名前から鶴だろうと思ったら、彼の馬印の旗には鶴丸が描かれているが、兵達につけさせている旗は三本杉である。
 道中暇なので聞いてみると、思った以上の物語が出てきた。

「我が家は元は豊後大神氏の出にてという事になっておりまする」
「なっておりまする?」

 大神系氏族の血を引いている有明が怪訝な声をあげる。
 こそから大鶴宗秋が意地悪そうな笑みを浮かべた。

「何しろ、生まれは豊後の山奥でしてな。
 名を売るまで武家とも名乗れぬような者でして。
 お屋形様に命じられて京に上り、礼法を覚えて帰ってから大変でした」

 出できたのは華麗なる経歴ロンダリングの手法である。
 考えてみれば数年間京に派遣する間領地を管理できる訳もなく、そういう心配のない彼が派遣されたという事は領地持ちの侍ではないという裏返しでもあったのだ。
 で、それに応えて彼は礼法を学んで九州に帰還。
 大内家滅亡によって博多の支配権が転がり込んだ大友家にとって、京の礼法というのは大内家に代わる博多支配の大事なツールだったのである。
 これが使える文官の一人が、高橋鑑種であると言えばどれほどのスキルか分かるだろう。
 とはいえ、大鶴宗秋がこのツールを博多で使うには彼の身分が低すぎる。
 その為に、彼の上司になった臼杵鑑続が経歴でっちあげに協力したのである。
 豊後大神系国人衆にに大津留家というのがあって、まずはそこの出身という事にした。
 臼杵鑑続という大友家内部における同紋衆と他紋衆骨肉の争いの当事者の一人がさらりと大鶴宗秋を他紋衆分家筋にでっちあげたのは、小原鑑元の乱で他紋衆が壊滅的打撃を受けたからに他ならない。
 こうして、小原鑑元の乱で筑前に逃れた他紋衆の武将が名を変えて同紋衆の庇護下にあるという政治的ストーリー協力の代償として、彼は大神系国人衆大津留家の者という経歴を手に入れた。

「ちなみに、有明殿の雄城治景殿の養女の件もこれが絡んでいる次第。
 大津留家の家の出が名を変えても、小原の姫を助けるというのは大神氏族に良き名分となりますのでな」

「つまり、わたしはあんたの名前の箔って訳だ」

 ぶっちゃけられた有明の顔は憮然としているが、ある意味分かりやすい。
 こっちに利があり向こうにも利があるというのは破綻しない限り良き関係を築けるからだ。

「それでも有明を表に出せる身分にできるかもしれないのは俺にって大きな功績だ。
 感謝する」

 俺が大鶴宗秋に頭を下げると有明が俯いて赤くなる。
 有明が正式に姫の身分を取り戻したら、しかる所の嫁--たとえば俺の所--に行くことが可能だからだ。
 頭を下げた後で、まだ疑問が半分残っていた事に気づく。

「三本杉については分かった。
 その鶴丸紋はどこから持ってきた?」

「京の伊勢貞孝殿の所で礼法を学びし時に、名家の柳原家の一族の娘を紹介されて嫁にもらいまして。
 その縁から使わせて頂いています」

 当時の京における貴族生活は窮乏の一途を辿っており、大内家みたいに地方に保護を求める貴族は少なくなかったのである。
 で、九州の大大名である大友家にもそのような貴族が少なからずやってきたという訳だ。
 名前に鶴があるから鶴の家紋なのか、鶴の名からここまででっちあげたか正直わからんが、一つだけ本物なのはこの男はできるという事だ。
 だからこそ、俺と有明の監視をしているのだろうから。

 隊列は延々と続く。
 兵の数はおよそ二千。
 その内訳はこんな感じだった。

 大鶴宗秋 400 (本陣)
 臼杵鎮続 1000
 北原鎮久 300
 帆足忠勝 300

「そうだ。
 先に言っておこう。
 俺は戦の指揮を取るつもりはない。
 戦は臼杵鎮続殿に一任するので、そのつもりで」

 俺の言葉に、大鶴宗秋が怪訝な顔をする。
 直轄兵力が無く、初陣扱いの俺の命令なんて誰も聞かないだろうという事は分かっているからだ。
 で、大友家はこの手の混成軍の場合、同紋衆武将が指揮を執るという慣例がある。
 俺も大友家から見れば同紋衆武将格なのだろうが、護衛兼監視の為に大鶴宗秋の陣から離れるわけにも行かない。
 実際に戦を戦うのは臼杵鎮続と先に提示しておくのだ。

「何。
 全てを投げるつもりは無い。
 戦が始まったら全部任せるがな。
 戦を始めるかどうかだけは俺の下知に従ってくれ」

「戦をはじめるかですか?
 理由は尋ねてもよろしいので?」

 馬上に揺られながら、足軽の一人が持つ旗を眺める。
 有明が大急ぎで縫ってつけた片鷹羽片杏葉の旗が揺れている。

「毛利の後詰が来るからさ。
 この戦は毛利の後詰を引きずり出す事が目的だ。
 それさえできたら勝敗は実はどうでもいいのだよ」

 長くこの宗像の地にて毛利の後詰を拘束させる。
 それだけで門司の戦は大友の有利に変わるのだ。
 ならば、わざわざ危険な合戦をする必要はない。

「それを少弐政興殿にお伝えしなくてよろしいので?」

 大鶴宗秋の言葉に俺は薄く笑う。
 俺と違って少弐政興はこの戦に勝たねばならぬ立場だ。
 俺の消極姿勢を理解はしても、納得はしないだろう。

「向こうは宗像家切り取りに賭けている以上、こっちの言葉は聞かんよ。
 だからこそ、こうして軍を分けた。
 いらぬ責めを負わぬようにな」

「御曹司は少弐勢が負けるとおっしゃるのか!」

 戦を始める前から負けを考えることに声を荒げる大鶴宗秋だが、こっちは武人なんてものではない。
 たとえリターンを減らしても、考えうるリスクを減らすことが大事なのだ。
 だからこんな言葉を彼に返すことにした。

「勝って欲しいと思っているさ。
 俺達の手間が減るからな」


 立花山城到着。
 先についた少弐軍とも合流したが、立花家も兵を動員している雰囲気がある。
 城主立花鑑載は大友一族という事で、一応我々を歓迎してくれた。
 なお、本当に恐ろしいのは身内である。
 立花家は大友家分家としてこの地に根をおろしたが、大内家全盛期の時は大内側についていたのである。
 家を守るためとはいえ仕方なくだが、当然大友家の恨みを買うことになる。
 で、前代城主立花鑑光は毛利への内通を疑われて大友義鎮によって粛清されている。
 その実行者が、高橋鑑種と臼杵鑑続だったといえば、この二人の凄さがわかるだろう。
 そして、こんな過去がある以上全幅の信頼を置くわけにはいかないという事も分かる訳で。

「よくぞ参られた。
 御曹司に少弐殿。
 宗像は我らが宿敵。
 この戦の手助けをしたく候」

 立花家と宗像家はその領地の境目を巡って散々争ってきた相手である。
 こうして叩くチャンスがあったら乗ってこない訳がない。

「こちらにしても兵が増えるのはありがたき事。
 宗像に何か動きは?」

 そこで立花鑑載の顔が強張るのを俺は一瞬見逃さなかった。
 彼はできるだけ間をおいてそれを告げる。

「潜ませていた間者より報告が。
 釣川河口に大量の船が。
 その船の旗は左三つ巴だったと」

「……」
「……」
「……」

 俺や少弐政興だけでなく告げた立花鑑載も黙る。
 左三つ巴の旗をつけた水軍武将に心当たりがあるからだ。
 門司攻防戦で大活躍中の大将にて、毛利元就の三男、小早川隆景だ。
 それの意味する事は一つだ。
 毛利はこっちの策を見破ってきたという事。
 短期決戦でかつ勝ってしまえば、今度は宗像が大友の重石になるので、出しうる最高の戦力を出してきたという事なのだろう。

「御曹司。
 何を笑っておられる?」

 立花鑑載が怪訝な顔をして、俺は自分が笑っている事に気づく。
 こうもうまくはまるとは思っていなかったからだ。

「宗像は宗像鎮氏殿の時みたく、やばくなったら大島に逃げるのが常。
 此度はそれを行わずに毛利から後詰を求めた。
 それの意味はお分かりで?」

 少弐政興がはっとした顔になる。
 彼はその縁を知っていたし、使っていたからだ。

「対馬宗家か!
 あの家が船を出せば、大島に逃げても落とせると。
 だから後詰を求めた!!」

「その通りでございます。
 少弐殿。
 これも少弐殿の縁のおかげ。
 武功第一と評されるでしょうな」

 戦略上の勝利を既に俺達は手に入れている。
 あとは、それを戦術の敗北で失わないようにするだけでいい。
 俺は自分自身に言い聞かせるように、日数を区切る。

「10日。
 小早川勢をこの地に拘束させて頂きたく。
 さすれば、門司の戦は我が方の勝利に終わり、宗像も膝を屈しようかと」 

 なお、この日数もはったりみたいなものなので、それを過ぎても門司が落ちなかった場合は考えないことにした。
大鶴宗秋の過去話ももちろん捏造。

立花鑑光  たちばな あきみつ
小早川隆景 こばやかわ たかかげ
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