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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

八郎立志編 永禄二年(1559年) 秋  大規模加筆修正済

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許斐岳合戦 その2

 博多に戻った俺達が見たものは、郊外に集まっている数千の兵達だった。
 その陣幕には少弐家の家紋である『寄懸り目結』の旗があちこちに立てられていた。

「さすが少弐ね。
 大友の後ろ盾があるとはいえこれだけ集まったか」

 有明が感想を漏らしながら俺達は博多の街に入る。
 博多の街は自治都市という扱いで、町衆の寄り合いにて物事を決めるので武家が入るのを嫌がるからだ。
 大内・少弐・大友・毛利とこの街を狙う大名から戦火をさける為のこの街なりの知恵なのだろう。
 最近は堺を真似て塀で囲み、堀を掘って、警護の兵を雇っていると聞く。
 俺が垂れ込み、高橋鑑種が叩き潰した筑紫惟門の一件が町衆に知れ渡った結果ともいう。

「御曹司のご威光もあるのでしょう。
 既に筑前の名のある武士は御曹司のことを無視できなくなりつつありますからな」

 押しかけ仕官である柳川調信が楽しそうに声をかける。
 雇うかどうかまだ保留にしていたのだが、当然のようについてきやがったのである。こいつは。

「対馬国宗家に仕えていたのですが、宗家のお家争いで負けた方について対馬を出る羽目になったのですよ。
 こちらで再起をと考えていたら、面白そうなことをしている御曹司を見かけて、仕官を願い出た次第で」

 なんて事で俺につこうとしたこいつだが、博多においてそこそこ顔が広いらしい。
 対馬宗家なんて水軍衆の家で、水軍衆の将なんて半分は交易商人みたいなものだからだ。
 彼自身も商才があり、宿にしている神屋紹策も彼は知っているらしく、太鼓判を押すからなおの事胡散臭い。

「集まった少弐の連中は、門司合戦で大友の後詰に行かれるとか。
 御曹司もその中に入るご予定で?」

 神屋紹策が世間話を装いながら、こちらの情報を探りに来る。
 まあ、宗像攻めが本命だが火山神九郎が毛利側と繋がっているならばこれもバレているだろう。
 なんて事はおくびにも出さずに、俺は適当に世間話に合わせた。

「ああ。
 目付として一緒にいくことになるだろうな。
 大鶴宗秋の手勢と烏帽子親の高橋鑑種が北原鎮久と帆足忠勝をつけてくれている。
 初陣だからおとなしくしているさ」

「大友軍が門司で負けた事についてはお聞きで?」

 世間話からかなり怪しい話題になりつつあるが、あくまで世間話の線を超えるつもりはない。
 とはいえ、毛利家と繋がっている神屋紹策がこの話をふるという事は、毛利家も苦しいという裏返しである。

「こちらにも早馬が来たからな。
 この後詰はその為でもあるし、松浦党の波多家や対馬の宗家が参加してくれたのは大きいな。
 水軍衆との連絡を考えて、芦屋あたりに陣を作ろうかと考えている。
 大友軍は豊前松山城にて軍を再編しているそうだから、そこからは連絡を取りながら合流を目指すさ」

 目的地が分かっているのに途中で待機するのは、門司についたはいいが受け入れる容量がないなんて事を避けるためである。
 で、軍の移動においてはその通過の際に通過する領主に許可をもらうのが慣例となっている。
 この通過許可の可否がそのまま大友か毛利かの踏み絵になっているのだ。
 そして、芦屋に行くためには、宗像家を突っ切る必要がある。
 既に少弐政興は宗像家に対して領内の通行許可をもらうために使者を出している。

「それはそれは。
 これは御曹司のめでたき初陣祝い。
 博多町衆より集めしものでしてお納めくだされ」

 神屋紹策が声をかけると番頭が三宝にいっぱいの銀を盛って俺の前に置く。
 これだけの銀があれば、俺の手勢の維持については問題がないだろう。
 目を細める俺。
 気づかない訳がない。
 この銀というか、博多において流通している銀はその出処が石見銀山からきているという事を。

「この飢饉にまだこれだけの財を出してくるか。
 さすが博多商人。
 で、これを受け取る代わりに、俺に何をしろと?」

 こういう時にはストレートに尋ねた方が後々楽になる。
 背後はともかく、言質をとりやすいからだ。

「ただの初陣祝いでこざいますよ。
 強いて理由を御曹司に申し上げるのならば、筑紫の暴挙を防いでくれたお礼という事で」

 その言葉を聞いて露骨に顔をしかめる俺。
 あくまで筑紫惟門の暴挙を止めたのは高橋鑑種という事になっているからだ。
 こっちがしかめっ面を見せたので、さも慌てたように神屋紹策が取り繕う。

「ああ。
 その顔は卑怯でございます。
 何しろ、高橋鑑種様が来られて『何卒御曹司を助けてくれ』と頭を下げられたのでございます故」

 分かってはいた。
 分かってはいたが、この心から出るドス黒い感情をどう表現すればいいのだろう?
 それを必死に抑えこんで、俺はあくまで世間話のふりを続ける。

「そうか。
 てっきり、『戦をそろそろ止めてくれ』とお屋形様に頼むとでも思ったぞ。
 とはいえ、功無き者が言っても戯言にしかならぬのでな」

 神屋紹策の笑顔が引きつるのが分かる。
 そちらの窮状は知っていると暗に言っているようなものだからだ。
 もし、それをさせたいならば、俺に功績を持ってこい。
 つまり、宗像攻めを黙認しろとも取れる言い回しにしている。
 言いたいことも言ったし、聞きたいことも聞いた。
 俺は三宝を受け取って、神屋紹策に頭を下げた。

「ありがたく頂こう」
「ご武運、お祈り申し上げます」



「臼杵鎮続と申しまする。
 御曹司の陣に加わるよう兄上より命じられた所存。
 どうか旗下に加えて下され」

 神屋紹策の元から帰ると、大鶴宗秋と共に待っていた鎧武者が頭を下げる。
 彼は臼杵鑑続や門司出陣中の臼杵鑑速の弟に当たるそうだ。
 そんな彼が懐から一枚の短冊を差し出す。

「……これは?」
「兄上より、御曹司にお渡しするようにと」

 受け取ると流麗な文字で、歌の前半分だけが書かれていた。


 別れての のちも逢ひ見むと 思へども  (別れた後もまたお逢いできると思っておりますが)


 ああ。分かる。
 分かってしまった。
 柑子岳城で彼を見ているが故に分かってしまった。

「鎮続殿。
 鑑続殿は……」

「病に臥せっておりますが、政務は高橋鑑種をはじめ滞り無く」

 門司合戦という大戦の最中、しかも負け戦の衝撃が北部九州一円に波紋を広げている今、加判衆である臼杵鑑続の病死は隠さないといけない。
 だからこそ、臼杵鎮続を俺につけたのだ。
 手助けと監視のために。

「うむ。
 この戦が終わったら見舞いに行くとしよう。
 何か体に良い物を持ってな」

「兄上も喜びましょうて。
 ですが、御曹司の初陣こそ、兄上にとって最良の薬であると」

 言葉に重みがない。
 淡々と続くやり取り。
 そこに死者への弔いもできないやりきれなさがあるが、それを顔に出してはいけない。

「わかっている。
 臼杵鎮続殿。
 大鶴宗秋と共に俺のために働いてくれ」

「喜んで」

 最後まで臼杵鎮続はその表情を俺に晒すことはなかった。



 その日の夜。
 寝ている有明を起こさないように、神屋の庭に出る。
 月夜のきれいな夜だった。

「『別れての のちも逢ひ見むと 思へども』か……」

 なんとなく持ってきた短冊を見て呟く。
 下の句が後ろから聞こえたのに不思議と驚きはしなかった。 

「これをいづれの 時とかは知る (それが何時なのか知ることができるのでしょうか)。
 新古今和歌集、大江千里殿の歌ですな」

 恵心の声は淡々と、その中に温かみが感じられる。
 俺は彼を見ずにただ月を見上げる。
 顔を見られると、彼が毛利の使者であるのを知っていると悟られそうだったからだ。

「何の因果か知らぬが戦に行くことになってな。
 ふと一句詠みたくなった」

「武人でしたか。
 という事は門司へ?」

「ああ」

 淡々と続くやり取り。
 ただ月だけが俺達を照らす。

「ご武運、お祈り申し上げます」
「ああ」

 彼が去ったと思ったら、また背後に人の気配。
 出てきた声は、柳川調信のものだった。

「何で斬らなかったんです?
 毛利家の使者として何度か見たことありますよ。彼」

「だからさ。
 門司の戦は大戦だが、大友や毛利が即滅ぶ戦でもない。
 必ずどこかで折り合わないとならない。
 あれは、そういう時のためにいるのだろうよ」

 くぐもった笑い声が背後から聞こえる。
 柳川調信が笑いを堪えているのだろう。

「やっぱり最高ですね。御曹司。
 武功を誇る侍は多い、戦に勝つ事を考えない侍はいない。
 なのに貴方は戦を『終わらせる』事を考えている。
 仕えると楽しそうだ」

 顔を見ないからこそ本音が話せる関係もある。
 せっかくだから月に向けて独り言を言ってみよう。

「何で俺なんだ?
 宗家に睨まれているとはいえ、大友でも毛利でも仕官の伝手はあるだろうに」

 何一つ信用出来ないこの末法の世。
 紐付きか罠かで疑心暗鬼の沼にはまりつつあった俺に聞こえたのは利の音。
 俺が作って、神屋に売り込んだ算盤の音。

「商売をするならば、毛利と繋がっていたい。
 瀬戸内海を抑え、畿内と繋がる毛利にはそれだけの利がある。
 だが、毛利と繋がると大友を敵に回す。
 貴方だけなんですよ。
 大友でも毛利でもない『博多』の事を考えて動いてくれた方は」

 その言葉が出て来るという事は、俺はため息をつかざるを得ない。
 秘密とは必ず漏れるものらしい。

「貴方は、烏帽子親の高橋鑑種にあの話を持って行って侍島合戦の勝利を己の武功にしても良かった。
 それをしなかったのは、己の武功より博多の事を考えていたからだ」

 違うと声をだすのは無粋だろう。
 あの時の俺は、博多の遊郭にいた有明の事だけを考えていたのだ。
 少しだけ会話が止まる。
 出てきたのは感謝だった。

「その時、私と私の一族は対馬から逃れて博多についたばかり。
 筑紫の連中が博多を焼いていたら一族の者に害が及んでいたかも知れませぬ。
 今も、博多にて多くの者が滞在しております。
 貴方ならば、大友でも毛利でもない博多の為に動かれましょう。
 ならば、お仕えするしかないでしょう?」

 人は何かをする時に誰かを傷つける。
 だが、同じように何かをした結果、誰かを助けることもある。
 彼は商人出身の侍だ。
 そして、彼の中の判断基準を今提示してもらった。
 俺が欲しくて欲しくてたまらなかったものが手に入ったことを知る。


 利害関係という条件付きだが判断基準という俺の欲しかったものが。


「好きにしろ。
 つくのは勝手だが、勝手に期待して勝手に失望するなよ」

「はっ。
 貴方が一族が住む博多を守る限り、お力を尽くす次第。
 一族はまだ戦に連れて行けぬのでそれがしのみですが」

 なるほど。
 一族全てを賭けるには怖いが、抑えに行く。
 それが彼から見た俺の立場らしい。



 翌日。
 宗像家から帰った使者により宗像氏貞は少弐家の領内通過を拒否。
 兵を集めて合戦の準備をするという報告が入る。
 ここに少弐家による宗像家討伐という名分で戦が発生することになる。

「さてと。
 行くか」

「はっ」

 既に大鶴宗秋は博多郊外の自陣に戻っている。
 俺の軍勢は大友家だからこそ、あくまで門司攻めの後詰の建前である。
 武者姿の柳川調信は同じく武者姿の俺にあるものを手渡す。

「何だこれは?」

「旗ですよ。
 見てお分かりでしょうに」

 その旗が大友家の杏葉紋なのだ。
 これだけと大友一族確定である。

「俺の名前を言ってみろ」

「菊池八郎鎮成様ですよね。
 大友の御曹司。
 一応菊池の旗もご用意しましたが、加判衆の皆様は良い顔はしないのではと」

 菊池の名前を名乗っておきながら、杏葉紋を使ったら却って疑心を招きかねない。
 俺は即座にでっちあげる事にした。

「半分ずつもらおう。
 菊池の鷹羽と大友の杏葉。
 片鷹羽片杏葉だ」

 これが俺の家紋『片鷹羽片杏葉』の始まりである。
 その旗の下にいるのは、現在俺と柳川調信を入れて三人。
 あれ?

「おまたせ八郎。
 行きましょう!」

 何で有明がついてくるのだろう?
 何で有明は御陣女郎の姿をしているのだろう?
 とても露出が激しくてかつ色っぽいので色々と困るのですが。

「まさか私を置いてゆくなんて事しないわよね?」
「いや、戦に行くし、博多のほうが安全だろう……っ!」

 言葉が止まったのは有明が抱きついて胸を押し付けたからである。
 鎧越しだが、匂いは直撃するわけで。
 散々やっているが、男は色気には弱い。

「……あの時みたいに一人置いて行かれるのは嫌よ。
 お願い。連れて行って……」

 有明の目が潤んでいる。
 色気でごまかそうとしているが、本当は泣きそうなのを我慢しているのだ。
 有明のこういう仕草は子供の頃からまったく変わっていない。

「どうなっても知らぬぞ」
「自分の身は自分で守るから」

「尻に敷かれていますな。御曹司」

 朝のイチャコラを横で見ている柳川調信のツッコミが痛い。
 けど、和気藹々はここで終わり。
 博多を出ると戦が始まる。

「居た居た。
 火山神九郎と繋ぎをつけてきた。
 奴らも動く事を承知したぞ!」

 神屋屋敷を出てから合流した薄田七左衛門が結果を報告する。
 俺の手札はこれで全て揃った。
 既に少弐軍三千が宗像領に向けて進撃を開始し、博多を出ると大鶴宗秋・臼杵鎮続・北原鎮久・帆足忠勝らが指揮する大友軍およそ二千が俺を待ち構えていた。
 大友軍の将兵の目が、射抜くように俺を捉える。 

「出陣!」

 目指すは宗像家の許斐岳城。
臼杵鎮続 うすき しげつぐ
大江千里 おおえの ちさと
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