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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

宇和島大友家内政編 永禄十年(1567年) 春

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外交の時間 その4

「おめでとうございます!
 元気な男の子ですぞ!!」

「おめでとうございます!
 元気な女の子ですぞ!!」

 少し時間が経ったが、お蝶と有明の子がそれぞれ生まれた。
 お蝶の方が男子で、有明の方が女子である。
 お蝶の子供が男子だった事で大友宗家の狙いはほぼ達成された事になった訳で、

「お前はもう用済みだ」

 という形で粛清なんてこともあり得るからこの戦国時代は困る。
 とはいえ、この頃の子供は『七歳までは神のうち』なんて言葉があるから、バックアップは多いほうが良いのだろう。
 まだ粛清に踏み切る状況ではない。

「で、お子の名前はお決めになられたので?」

 大鶴宗秋の言葉に俺は紙に筆を走らせる。

「お蝶の子は田原の子だから俺が名付けるつもりはないよ。
 で、田原親宏殿が名をつけてくれた」

 その字を書いて大鶴宗秋に渡す。
 彼の顔はそれを見た俺と同じく引きつっていた。


『田原塩一丸』


 うん。
 恨みというのは忘れるのは難しいものだ。
 それをいやでも思い知った。

「ごほん。
 で、姫様の名前は?」

「ああ。
 有明と話してな、月の名前を貰うことにした」

 その字を書いて大鶴宗秋に渡す。
 それを見た大鶴宗秋は、良い笑顔を浮かべてくれた。


『佳月』


「良き名前でございますな」

 ああ。
 この名前にふさわしい姫になるようにと心の底から願った。



 さて、現在一番問題になっている土佐一条家問題を語ろうと思う。
 どうなっているかと言うと……意外とがんばっていたというのが俺の感想である。
 南予戦役における天ヶ森合戦の敗北からの立て直しで一条兼定と宿老達が対立していたが、安芸家の敗北と滅亡がその流れを変えた。
 一条兼定も宿老達も、

「次、うちだよな」

という危機感を持った訳だ。
 何時の時代でも、体制内部を固める場合一番手っ取り早いのは外部の敵である。
 そんな状況を語りながら、出産祝いを名目に宇和島城にやってきた土居宗珊は俺に土佐の状況を語る。

「よろしければ、不測の事態における後詰を大友家にお願いしたく」

 この言い回しが面白いのは、俺が長宗我部元親と衆道関係にあると勘違いしており、俺が長宗我部側につくと考えているからに他ならない。
 ならば、俺を無視して大友家本家にお願いするというのもあるだろうが、一番近くに居て介入できる俺を説得できるならばという考えとみた。
 今控えているのが男の娘だから言い訳しても無駄だろう。多分。

「一条殿と大友の縁は無視する事はできませぬ。
 ですが、助けるにもある程度は自らの手で守らねば話になりませぬぞ。
 そのあたりはどうなっているので?」

 俺は一条家が長宗我部家に亡ぼされる事を前提に損切りも考えているのだが、それをここで言うつもりもない。
 一条家が残ることで、宇和島大友家南部が安定するからだ。

「実は京の情勢が芳しくなく、本家が苦しんでいるみたいで」

 なるほど。
 一条家対立の最大の原因である京本家が力を失ったか。
 待てよ。
 それは、廟堂で一条家が力を失う事態といえば、一つしかないじゃないか。
 次期将軍をめぐるごたごただ。

「何があったと?」

「阿波の騒動について和議が固まり申した。
 足利義助様の引渡しを条件に、お咎めなしと」

 そんな馬鹿な。
 それだと阿波はいつまで経っても混乱したまま……待てよ。
 阿波の混乱を許容せざるを得ない事態が発生した訳だ。
 考えられることは一つしかない。

「京の情勢、何か掴んでおりますか?」

「恐ろしく三好側の警戒が厳しくて何も」

 確信した。
 おそらく足利義栄が死んだのだ。
 せめてあと一年、いや半年持ってくれたならば……
 俺は額に手をかざして天を仰ぐ。
 だが、嘆いていても仕方が無い。
 ついに始まる。
 中世の王三好長慶と戦国の覇王織田信長の直接対決が。
 それに俺はどう絡めばいい? 



「大友殿?
 いかがしたので?」

「申し訳ない。
 少し、今後の事を考えておりました。
 近く府内に行くので、お屋形様には一条殿の事を計っておきましょうぞ」

 数日後。
 今度は長宗我部家の使者が出産祝いにやってきた。
 その名前を吉良親貞という。

「大友殿。
 おめでとうございまする。
 こちらは我が主からの祝いの品にて」

 実は吉良親貞は長宗我部元親の弟に当たるのだが、『我が主』の呼び方の通り家中序列は明確に区別しているのだろう。
 あくまで、長宗我部家重臣という立ち位置で俺と話をするという訳だ。
 それだけ、一条家を狙っているとも取れる。
 そんな事を考えながら祝いの品の目録を見ると、思った以上に祝いの品が豪華だ。
 珊瑚に真珠、伽羅に大陸の絹織物等、俺が握っている太平洋航路の大陸交易で潤っている証拠である。

「これは凄いな」

「これだけの町を築いた大友殿に褒められるとは嬉しい限り。
 我が主も喜びましょうて」

 挨拶もそこそこに本番に入る。
 双方とも顔を引き締めて本交渉に入る。

「一条殿も祝いの品を持ってきたよ。
 府内のお屋形様に何か頼むらしい」

「その話でしたら、我が主より言付けを預かっております。
 『長宗我部は一条の恩義を忘れた覚えは無い』と」

 吉良親貞の話を聞いて確信した。
 長宗我部元親は将軍足利義栄の死亡を掴んでいる。
 いや、確実に揉めるだろう阿波に侵攻方向を決めたのだ。

「正直なところを申せば、我が主の弟である島親益が旅の途中で海部友光に討たれもうしてな。
 その敵討ちの為に、今は手一杯なのです」

 島親益は安芸戦で活躍したが負傷。
 その傷を癒す為に有馬温泉に行く途中だったという。
 絶賛内紛中の阿波に立ち寄ったのが不幸と言うか、その話がカモフラージュで阿波攻めの情報収集でもしていたのかもしれない。

「それは不幸な……
 お悔やみを申し上げておこう」

「我が主に伝えておきましょう。
 で、その際に気になる噂を耳にしたのですが」

 俺は眉を潜めて警戒レベルをあげる。
 ろくな話ではないと思っていたが、吉良親貞から出てきた話は本当にろくでもないものだった。

「敵である海部友光の所に、三好義賢殿の忘れ形見である三好長治殿が居ると」

 三好長治。
 三好義賢と小少将との間にできた子供で、話を思い出してみるとたしかに行方が分からなかった覚えがある。
 吉良親貞の話が本当ならば、海部友光の所に置いていったと見るべきか。
 海部友光も三好家の嫁をもらった準一門で、旗印の確保は謀反鎮圧後に主導権を確保できるからだ。
 そのあたりを探って島親益は殺されたのかもしれないが、真相は藪の中だ。
 今大事なのは、長宗我部家が阿波に攻め込もうとしているという事。
 少なくとも最初は俺と長宗我部元親が敵味方に分かれたという事だけだ。

「なるほど。
 私も一応三好の縁者。
 畿内の三好様に伝えておきましょう」

 俺は返事を返して会話を打ち切る。
 儀礼的な応答の後で吉良親貞退出後に声を出す。

「誰か居るか?」
「ここに」

 控えていた果心が頭を下げる。
 なお、お蝶が府内に行く為に次に孕むのは果心と奥では決まっているらしい。
 そのあたりの相談は当然俺にはされていない。
 それはともかく、これで長宗我部家は土佐一条家を後回しにする事が確定した。
 ならば、今のうちに一条家を固めてしまおう。

「一条家の渡辺教忠殿と土居宗珊殿に伝えよ。
 『長宗我部家は阿波に向かう』とな。
 それぞれ二人に千貫の証文を渡す。
 兵にするによし、鉄砲を揃えるもよし、好きなようにと」

「はっ」 

 手を打って固める事にするのは良いが、同時にこれ以上の手出しはしない。
 あくまで南予は毛利家第二戦線の為に存在し、大友宗家から粛清の理由をつけられない程度の介入であり、一条家の自助努力で無理ならばそれはそれでという事だ。
 三好については俺が出るよりも三好長慶や安宅冬康あたりが動いたほうが国人衆も従うだろう。

「それと三好殿に文を送りたい。
 子が生まれた事を伝えるのみでよい」

 三好長慶ならばそれで察する筈だ。
 子供が生まれたので俺がまだ動けないという事を。
 それしか書かない事で、それが解決するならば俺が動けるという事を。

「間に合いますか?」

 俺が考えていたことを果心が口に出す。
 何度も何度も言っているが、戦国時代において情報にはタイムラグがある。
 俺が知ったという事は、織田信長も知ったという事で、毛利元就も多分知っているのだろう。

「わからん。
 けど、動かん事には始まらん」

「殿!
 殿!!
 殿はいらっしゃいますか!!」

 会話を遮るように田原新七郎が上ずった声を出してこちらに駆けてくる。
 何があったのか知らないが落ち着けと声を出そうとする前に、田原新七郎の報告で俺の声が止まる。

「船が……
 船が戻ってきました!!
 日向彦太郎の船が帰ってきたんです!!!」

 その意味を理解するのにしばらくかかり、理解した後には果心と田原新七郎を置いて港に駆け出そうとする。
 このタイミングでの帰還。
 それを運命と呼ばずして何と呼べばいいというのか。

「殿!」
「八郎様!!」

 慌てて追いかける二人を気遣う事すらせずに、俺は港へ駆ける。
 かつて日向彦太郎にくれてやった末次船の他にジャンク船が五隻、帆に俺の家紋である『片鷹羽片杏葉』が掲げられている。
 あいつ倭寇の幹部だったというが本当だったらしい。

「旦那!
 頼まれた物、仕入れてきましたよ!!」

 俺を見つけた日向彦太郎が、俺に頼んでいた物を放り投げる。
 それを掴み、しげしけと眺める。
 見間違えるわけがない。

「栽培法は?」
「もちろん!
 憶えてきましたとも!旦那!」

 唐芋。
 さつまいもが史実以上に早く日本にやってきたこの瞬間。
 そして、織田信長と三好長慶の直接対決が始まる前で、毛利元就が最後の賭けを行う前で、長宗我部元親や竜造寺隆信が野心を実現に移そうとする瞬間である。
 約束だったな。
 日向彦太郎。
 見せてやる。
 この乱世の終わる景色を。
 それを終わらせる覇者が誕生する瞬間を。

「殿?」
「八郎様?」
「旦那?」

 三人の疑念の視線を気にすることなく、唐芋を持ったまま俺はただ笑い続けたのだった。
田原塩一丸 たわら しお いちまる
吉良親貞  きら ちかさだ
島親益   しま ちかます
海部友光  かいふ ともみつ
三好長治  みよし ながはる
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