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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない 作者:北部九州在住

南予戦役編 永禄九年(1566年) 夏

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南予戦役 その2

 日振島沖海戦によって日振島の占拠と西園寺水軍衆に打撃を与えたことで、宇和海の制海権は大友家が握ることになった。
 で、戦局が優位に……進まなかったのである。

「一条軍は何をもたついているのか!」

 今回の戦の本陣になっている府内の雄城屋敷で大鶴宗秋が激高するのも無理は無い。
 どういう事かというとまずは山手側。
 長宗我部・安芸勢は大森城主の土居清良の激しい抵抗から一歩も先に進めていなかった。
 元々手伝いという意識があるこの二家の戦意は低い。
 一方、土居清良は民の支持を掴んでいる上に、四国ではかなりまとまった数の鉄砲隊を保持していた。
 とどめとばかりに、山手側は山が深いから攻撃進路が限られる。
 鉄砲の良い的なので、山手側は渡辺教忠の内応で義理は果たしたとばかりに城を遠巻きに眺める始末。
 まあ、手伝いなのでそれ以上の無理は言うつもりもない。
 問題は海手側だった。
 とにかく道が狭いから船が必須なのだが、一条軍はこの船を大友家に全面依存しようとしていた。
 理由は簡単。
 軍船として水軍衆を使うと交易に支障が出るからだ。
 先陣として宿毛に上陸した吉弘鎮理と運んできた佐伯惟教が顔をひきつらせながら拒否したのは言うまでもない。
 という訳でのろのろと宇和島を目指す海手側に立ちふさがるのは天ヶ森城主津島通顕。
 まあ、立ちふさがるというよりまだそこまで届いていないのだが。

「仕方あるまい。
 向こうがもたつくという事は、俺達がぶんどれる領土が増えるというように考えよう」

 この手の戦は何処が主導したかでもらえる領土の取り分が違う。
 たとえば、今回の戦はあくまで一条家の戦だ。
 だから、自力でぶんどっても一応一条家にそれを報告する義務がある。
 このあたりが守られずにそれが戦の原因になる事はとてもよくある。
 で、安芸家が良い例だが、このあたりの領土をもらっても代官を派遣できるか?できたとしてその領土を黒字運営できるか?なんて問題が出てくる。
 長宗我部家・安芸家ともそれがあるから、今回の戦については領土以外の所で利益を出すつもりなのだ。
 長宗我部家はこの戦に伴う物資調達で戦費分を賄うつもりだし、安芸家は出兵という貸しを使って長宗我部家を挟撃するプランを企んでいた。

「もしかして一条殿は戦を手仕舞いにするつもりなのかもしれませぬな」

 一万田鑑実の指摘にありそうだなぁと顔をげんなりさせる俺。
 まあ、一条家からすればこの一回の戦いで西園寺家を滅ぼせるとは思っていなのだ。
 西園寺十五城のうち二城を奪っただけで一条家の面子も立つ。
 下手に大友がしゃしゃり出て、西園寺の領土を奪ったら南予進出を企む一条家とて面白く無いのだ。

「その可能性はあるな。
 多分、天ヶ森城あたりが境目になるだろうな。
 吉弘鎮理を日振島に呼び戻せ。
 土佐には代わりに白井胤治と十河重存殿を送る」

「はっ」

 大鶴宗秋が頭を下げて、その指示を出すために部屋から出てゆく。
 日振島を獲った事がここで効いてくる。
 こういう失敗でも豊後に将兵を戻さなくて良いのだ。

「御曹司。
 では、狙うのは何処で?」

 一万田鑑実の質問に俺は地図のある場所を指す。
 前線から一番遠いが、対毛利には一番近い佐田岬半島の付け根。

「八幡浜だ」



 海を挟んだ戦というのはとにかく情報のタイムラグが出るので、先読みしないと勝てない。
 こちらが指示を出し、その指示が戻るのに最低二日はかかってしまうのだ。
 で、そんな戦において状況は更に変化する。

「殿!
 毛利が動きましたぞ!!
 村上水軍を中心に四百隻の船を興居島に集めたとの事!!!」

 数日後に田中久兵衛が飛び込んできた報告に俺は笑みを浮かべる。
 ある意味想定通りだったからだ。

「おちつけ。
 で、その話は何処から聞いたのだ?」

「はっ。
 府内の港にて水夫たちから」

「御曹司。
 その話は我らも掴んでおりますぞ」

 そう言って入ってきたのはスタイリッシュ女武者のお蝶である。
 よく襲われないものだと思っていたが、既に何度か押し倒されたことはあるらしい。
 で、その時彼女はこう言ったそうだ。

「わたくしの身は御曹司に捧げられるもの。
 大友主計助鎮成様の怒りを買ってもなおこの体を嬲るのならば好きにするが良い!
 ついでにいうと、嬲って子ができたら田原の子となるが、豊後で田原一族がどのように扱われているか知らぬ訳ではあるまい。
 どうする?
 この体を嬲って田原の縁者となるか?」

 それですごすご引き下がるのかよ。襲った奴ら。
 もちろん、彼女の影にちゃんと護衛はついていて、襲った奴らは後日海の底で乙姫様と遊んでいるらしい。
 話がそれた。

「我ら浦部衆は再編途上。
 毛利の水軍が襲ってくるとなると防げませぬぞ」

 水軍とは技能集団であり、その育成には時間がかかる。
 浦部衆は西園寺水軍衆壊滅の代償に、安宅船をはじめ多くの人員を失っていた。
 これは、豊後北部の守りが薄くなった事を意味する。

「船をかき集めておよそ二百隻。
 毛利水軍の四百隻にはどうやっても勝てませぬ」

「そう思わせるのが狙いだろうよ」

 お蝶の言葉にかぶせるように俺が断言する。
 こちら以上に苦しいのが毛利である。
 もちろん、博打を打つ可能性も無い訳ではないが、その可能性は低いと俺は踏んでいた。

「こちらに圧力をかけるならば、伊予長浜にまで出ないと駄目だ。
 興居島だと遠すぎる。
 おそらくはこちらへの脅しだろうな」

 なお、この水軍衆が周防国屋代島に移ると話が別になる。
 ここに集まるという事は国東半島および、豊前沿岸を射程に入れるからだ。

「とはいえ、無警戒は避けたい。
 若林水軍衆を戦より外す。
 その上で、浦部衆は再編を急がせろ」

「かしこまりました。殿」
「はっ。
 誰かおるか!」

 田中久兵衛とお蝶が俺の指示を伝えるために一度下がる。
 一人になった所で、俺は地図を眺めて考え続ける。
 八幡浜攻略には選択肢が二つある。
 佐田岬半島に上陸して陸路と、船で一気に八幡浜直撃の二つだ。
 戦力は日振島に居る吉弘鎮理の千と土佐に送った白井胤治と十河重存の千を除いた全てが府内で待機中である。
 ならば、毛利と府内の魑魅魍魎達の目を引くために派手な戦をするとしよう。

「同時侵攻。
 我ながら博打だよなぁ。
 これは……」

 既に佐田岬半島の水軍衆には若林水軍衆が調略をかけていた。
 そのあたりを踏まえれば悪くても静観は得ることができるだろう。
 だが、佐田岬半島の城主達は萩森城主宇都宮房綱が対大友を警戒して置いた城主達で簡単に寝返るとは思えなかった。
 それがこの作戦の肝である。
 支城に後詰を送らないと、支城群全部が見捨てられたと判断して領土崩壊が起きるのだ。
 佐田岬半島に後詰を送った宇都宮軍が出払って空になった八幡浜を占拠……という机上の空論を俺は空想から投げ捨てた。

「駄目だな。
 そううまくいかんだろう」

 萩森城主宇都宮房綱は、大洲地蔵岳城主宇都宮豊綱の弟でもある。
 大洲盆地を抱える宇都宮家が後詰に出てくるのは安易に予想がつく。
 こういう時は博打より堅実な策だ。

「佐田岬半島侵攻一本に絞ろう」

 これの便利な所は、戦のコストが低くなる所。
 あの山ばかりで狭い半島での戦は五百人でも多すぎるのだ。
 一条家の義理も果たしているし、毛利の目を南予に向けさせられる。
 何よりも、戦時体制を解除して水軍衆を交易に回せるのも大きい。
 ローコスト・ローリターンだが、確実な策を採用しよう。

「ご主人ご主人!
 ご主人にお客が来ているよ!」

 考えがまとまった所に男の娘くノ一が入ってくる。
 このあたり俺のタイミングでも図っているのではないだろうかという機微である。

「で、誰だ?」
「仲屋乾通殿と博多商人の島井茂勝って人だって」



 島井茂勝。
 博多商人の一人で神屋貞清と親族関係にある。
 だが、神屋が毛利家と繋がっているのに対して、島井茂勝は大友家と繋がった。
 今では、その大友家の権勢を背景に、大友家御用商人の地位についている大富豪である。
 雄城屋敷の茶室にての会談は、島井茂勝が俺の珠光茶椀を褒める所からはじまった。

「見事なものですなぁ。
 噂には聞いていましたが、まさに天下に名だたる大名物にて」

「大友様の茶の湯もなかなか見事にて。
 我らもうかうかとしておられませんな」

 豪商二人に褒められて気分が良くなるという訳でもなく、後に来る本題の怖さに俺は世辞を打ち切る所から始めることにした。

「世辞はいい。
 そろそろ本題に入ってくれぬか。
 一応俺は戦の最中でな」

 姫装束の有明に茶を作らせて、俺は島井茂勝を促す。
 茶人の顔から商人の顔になった島井茂勝の第一声はそれでも世辞だった。

「それでは。
 御曹司。
 此度は日振島での戦勝おめでとうこざいまする。
 つきましては、御曹司がはじめようとしている商いにそれがしも噛ませていただきたく……」

 大赤字確定のこの南予侵攻だが、それを埋める金策のめどはついている。
 宇和海の制海権を握ったことで、豊後-伊予間の交易収支の半分が俺の懐に転がり込むのだ。
 もう半分は伊予北部、つまり瀬戸内交易である。

「とはいっても、豊後と南予の商いなどたかが知れているだろうに。
 博多商人が出てくるほどのものでもあるまい」

 それに食いついたのは仲屋乾通である。
 島井茂勝が引けば、仲屋乾通が押してくる。
 俺の所に来る前にきっちりと談合を済ませていたのだろう。

「でしたら、それがしの出番ですな。
 豊後と伊予の商いを手伝いができると思いますので」

 なお、仲屋乾通は大友宗麟の隠居都市である臼杵にて町一角を独占するぐらいの富豪である。
 今回の戦においても、多くの将兵が彼から銭や米を借りているのだろう。
 彼が俺の商いに食い込むという事は、宇和海の商業利権を独占すると言ってもいいだろう。
 その代わりに、俺の南予戦役費用や復興統治費用を用立てると暗に言っている。
 俺が考え込んだのを見て、島井茂勝が再度押してくる。

「御曹司が神屋と組んで、治めるであろう南予でやろうとしている事。
 同紋衆経由でこちらにも届いておりますぞ」

 銭に困らぬ身分ではある俺だが、九州では俺の証文支払いを神屋が全面保証しているという背景がある。
 新興ベンチャーたる俺のメインバンクが神屋と言ったほうが分かりやすいか。
 で、先にも言ったが、神屋は石見銀山の利権から毛利との縁が深い。
 同紋衆、多分臼杵鑑速だろう。
 仲屋乾通や島井茂勝にこのあたりを流したのは、資金面の神屋依存を下げて大友側の仲屋や島井に切り替えてもらおうという魂胆か。

「まあ、こちらも財布が複数あるのに困る事はない。
 南予の話は何処まで聞いている?」

「山羊と蜜柑については」

 俺の質問に島井茂勝が答える。
 山羊は俺が使い道を教えて大規模な取引を告げた結果、博多を中心に爆発的に広がることになった。
 食料が安定しない島嶼部や、山奥の村でその利用価値が認められたのだ。
 何よりも除草の手間がかなり省け、乳が良い栄養になり、そこそこの荷運びができるので早くも高値で取引が始まり、俺の手元にあまり来ていないという笑い話が。
 そして、蜜柑は国東半島に絶大な影響力を持つ田原お蝶が居たので、大々的に導入した。
 伊予もそうだが、豊後も蜜柑の栽培に適している気候なのだ。
 なお、臨済宗にはこんな言葉があるらしい。

「桃栗三年柿八年、梅はすいすい十三年、梨はゆるゆる十五年、柚子の大馬鹿十八年、蜜柑の間抜けは二十年」

 桃栗でも三年柿でも八年かかるなんて意味かと思ったら実は違って、人生一つの事をやり遂げるのに努力しても三年はかかり努力を怠ると二十年もかかりますよという意味だったりする。
 まぁ、二十年プロジェクトだが、始めないと始まらないので将来の投資である。
 そんな事を考えていたら、仲屋乾通が口を開く。

「山羊については既にあちこちから欲しいという声が聞こえておるのですが、御曹司は山羊を使って更に何かを企んでいるご様子。
 それに絡めたらと」

「そっちか。
 ちょうど良い。
 できあがったものがあるので持ってこさせよう」

 俺が手を叩いて要件を告げると、控えていた明月が四角いそれを持ってくる。
 この時期、この国に無くて南蛮人経由で聞き出したそれの名前を石鹸という。
 夜な夜な女達相手に汗まみれ汁まみれになると必然的に体を洗うわけで。
 石鹸がないから結構大変だったのである。
 で、南蛮人経由で石鹸の存在を知り、府内の宣教師から製造法を聞き出した時の俺はガッツポーズをして周囲からドン引きされたが知ったことではない。
 で、手の者に作らせた山羊の乳を使った石鹸は女達に大好評。
 湯治場がある別府でも爆発的に広がっていたのである。

「ほほう。
 それは良いものですな」

 なお、蜜柑栽培が成功したら、これに蜜柑の香りをつけた石鹸を作るつもりだが、さすがにそれは話していない。
 俺の話を聞いていた仲屋乾通と島井茂勝の目が銭の色で眩む。
 これがどれだけ儲かるか、二人が気づかない訳がない。

「今の所こいつの作り方を知っているのは俺の手の者ぐらいだ。
 南予で繁殖させた山羊の乳を使ってこの石鹸を造り、各地に売るつもりだ。
 仲屋乾通と島井茂勝。
 これをお前らの所で独占的に卸しても構わないぞ」

 もちろんそれだけのものを用意しろという俺の暗黙の意思を彼は的確に理解した。
 だからこんな言葉が出てくる。

「大友家中の方々と多く取引をしております。
 御曹司の話を広めておきましょう」

 財布を握っている仲屋乾通からの圧力。
 大友家中での立場が危ういことこの上ない俺にとって、こういう形での切り崩しはできるのとできないのでは大きく違ってくる。
 これを使ってうまく内部をかき回そうと考えていた俺に島井茂勝がわざとらしく手を叩く。

「そうでした。
 御曹司の為に、博多で買い求めた山羊という生き物を十数頭連れてまいりました。
 どうかお納めくださいませ」

 この話。
 意外な形でオチがついた。

「めー!」

「おい。
 島井茂勝。
 これは山羊じゃないぞ。
 羊だ」 

「えっ?」

 確かに毛が白くて角が生えている生き物だけどさぁ……
 この羊達、城島高原で山羊とともにのんきに草を食べているらしい。
津島通顕  つしま みちあき
宇都宮房綱 うつのみや ふさつな
宇都宮豊綱 うつのみや とよつな
島井茂勝  しまい しげかつ

1/1加筆修正
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