表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/99

二十八話

「失礼します」


要はそう断って校長室の主である時任と対面する。


「要。用件はわかっているな?」


現役時代さながらの迫力を見せる時任に威圧されながらも平然と要は答える。


「はい。小澤くんにあの技術を教えたのは自分であり、必要になると判断したため伝授しました」


大志には色々な危険が付きまとう大河の副官であった要がいうのだから間違いない。


「私は自衛官を退官したあとも諸外国からしてみれば脅威として認識され一般人となった今でもテロの標的となるでしょう」


少し考えるようにして重たそうに時任は口を開く。


「それはPKOでの自爆テロを指しているのかい」


退官後もPTSDの治療を受けた要であるが、経験したことがないものなどに自分の気持ちを理解できるとは思っていない。


「はい。災害派遣中だったとはいえ日本もテロの標的になることは想定されていたことです。退官後に政府の許可が無くてもギフト使用の免責特権を得られるのは、自分の身と家族の安全を自分で守れるようにするためでもあります」


要の言うとおり許可がないギフト発現は罪に問われることもある行為だ。人格や功績が認められ、有事の際には被害を拡大させないために許可がおりている。才能保持者保護法にもきちんと明記されており、超法規行為として認められている。許可を持たない者でも当時の状況から判断され、不起訴となる場合がある。許可制なのは能力は別として人格が重視されるからである。アメリカでも銃を持つこと自体は合法だが精神疾患を抱えていないなどの条件がつくのと変わらない。


「先日の事件で日本の立場は護ることはできましたが、公安が行っている捜査でも逃亡したとされているギフトホルダーの確保には至っていない状況で事態は悪化するのみです」


教え子である要に言われなくても時任はそんなことは理解している。だが護るべき相手にリスクを負わせるようなことが気にくわないだけだ。


「ノーマル・ギフトホルダーに限らず凶人は少なくとも存在する。見せかけ上は平和でも少しの切っ掛けで崩壊するようなものだろう。だか何をしても良いと言うわけでもない」


要もそんなことは知っている。士官学校を卒業して初めてベテラン三曹に言われたことは自衛官に求められる資質は理不尽に対する耐性だと言われた。遥か昔の自衛隊は正式に軍と認められておらず、憲法上は自衛の為の戦力は認められると言う解釈から存在していたに過ぎない。それは様々な議論を呼び自衛官が国民の理解を得るのを長い間、阻害し続けていたのだ。


千年近く前に災害が起こり自衛隊は知事の要請に応じて出動したことがあった。忘れてはいけないのは自衛官は確かに国から給与を貰っている公務員ではあるが国民の奴隷というわけではないことだ。しかも災害は人を選ばない。そして自らが被災者であるのにも関わらず、被災者支援を行った。


ある基地司令は自らの職をかけてある命令を出したのだという。高価な戦闘機を全損させ一部からは批判された基地司令であったが、この英断には被災者だけではなく日本国民から称賛された。憲法でも曖昧な存在である自衛隊は制限が多く、私有地での活動は原則的に認められていなかった。要救助がいるなら別だが、遺品等を捜索する権限はない。


その基地司令は基地内部から重要書類が流出した可能性があるとして部下に捜索を命じた。部下もその命令を大義名分として民家での捜索が可能になったのだ。


亡くなった人は帰ってこないが想いが詰まった遺品が返ってくるだけで遺族の心は救われるだろう。災害派遣にだけではなく匿名の海上自衛官によるインターネットを使用した告発も国民に多くの衝撃を与えた。その自衛官は職を失ってでも訴えたいことがあったが何かをするために職をかけて行動しなければならないのは何故だったんだろうか。


今では昔ほど自衛官が理不尽な体験をしている訳ではないが、能力があるものは命の責任という重いものを託されることになる。一般企業であれば社長が社員の生活を背負っているのと同じだが規模はまるで違う。


一つの判断ミスで一人の命だけではなく、数千から数万の命が失われることは珍しくない。要は少女の命を救えなかったことを悔やんでおり、日本政府が世界が抱えている問題の解決に次の世代の若者たちに希望を託しているのだ。


自衛官を目指すと公言しているもの達には個人授業をしているのもそのためである。国際基準に則ったギフトレベルを上げるのは重要だがそれが全てというわけでもない。要自身もレベル七のギフトホルダーではあるが格上に勝つこともできれば格下に負けることもある。


外国からしてみれば確かに日本は甘い国で平和呆けしているだろうが確かに要はそんな日本を愛するものの一人だ。力があるのなら尚更で自分に護れるものがあるならと思い自衛官となったが現実と言う理不尽さに心を折られ絶望を感じたが、国や周囲の者を愛することを要は決して止めないだろう。だから理不尽に対して跳ね退ける力を授けたことを反省はしていない。


好んで若者を犠牲にするつもりもなければ、リスクを承知した上での実継の行動を評価していた。


「小澤くんは確かに自分の事を危険に晒したかもしれません。しかし勝ちたいと思った理由も彼にはあり、ギフトを制限して使用していました。」


確かにリスクのある行動だったことは間違いないが、要は発現させる練習を自分と楓がいるときに限定しており、今回の身体強化に使用したレベルも反射神経と思考レベルを少し向上させるものに過ぎない。リスクはギフト能力を応用したものであり、ゼロにすることは出来ないが対応策をとることで安全と言っても良いレベルに収まっていた。要からしてみれば言いかがりともとれる時任の発言だったが、時任は二人を心配しているに過ぎない。


「時任校長。確かにリスクが皆無ということはありませんでしたが、GIDがあり安全は確保されていました。小澤くんのギフト応用は発展の余地が残されている低レベルホルダーにとって希望の光となるでしょう」


有識者が指摘するノーマルとギフトホルダーの所得格差が差別や偏見の対象となる根拠にもなっている。忘れてはいけないのはノーマルのお金持ちもいればギフトホルダーでもその日暮らしの生活をしているものがいることだ。上にいるものを引きづり下ろせば相対的には自分の立場が上がるかも知れないが次は我が身かも知れない事を人は忘れがちになる。


「要。今度、時間をとって一緒に酒でも飲もう」


業務命令ですかと冗談を言う要であったが、時任の眼が鋭くなったので了承して退室する。


要は一人の生徒を探していた。勿論、見つけ出して説教をするためだ。だが、大志の姿は見つからない、昼休みは半分程が過ぎ昼食を家族と摂り終えた生徒は徐々に自クラスの待機所へと戻っていく。昼休みの過ごし方は人それぞれだが、午前中に行われた戦闘内容について話しているものも多く、話題にことかかさないのだろうか普段より賑やかだ。大志は要から隠れるために、人気が多く、混雑しているところに隠れていた。その方が見つかる可能性が低いと考えたからだ。


人が一人もいないところに大志がいたら目立つが大会中は全校生徒がいる。数は一般校に比べると多くはないが、いないよりはましである。既に実継と苺とは別れている。原則、林檎とは接触できないことになっているが、通話は事件の活躍し、精神的に良い効果があるとして一部の人間には認められていた。


催眠型の精神操作を受けていたとしても直接害を成すことが出来ないというのが大きな理由だ。MUCDの暗号通信で林檎にかける。


「もしもし倉橋です。林檎さんは今なにをしていましたか」


映像があったら女子としては凄いまずい状況にあったが音声のみなので誤魔化す林檎。


「いま昼食を食べ終わったところだよ。倉橋くん三回戦進出おめでとう。」


「有り難うございます。林檎さんがでていればどうなっていたかはわかりませんが、次からは五・六年生と当たる可能性があります。勝てるかは相手次第になりそうです」


脳が進化しているギフトホルダーはノーマルに比べて成長が早い。小学生一年生でも落ち着いた子供が多く、子供らしくないと言われる。身体能力もノーマルに比べて総じて高く、この能力差こそが、深い溝を両者に作ることになっている。


ギフトホルダー同士、ノーマル同士だと単純に個人差となるので歳上だから歳下に必ず勝てると言うわけではなく、ギフトを発現するスピードや持続力、効果によってはっきりとした差がでてくるのだ。


大志は自衛隊士官学校のカリキュラムを前倒しして学んでいるのに過ぎず教師も自衛隊の中の精鋭であるヤタガラスが務めているに過ぎない。


「でも私が倉橋くんと戦ったら勝てるかは分からないよ?三年生首席の柳くんにも多分、負けると思う」


「林檎さんは戦闘系のギフトを有していないじゃないですか。それで次席は凄いと思います」


本心から大志はそう思う。テストの成績も勿論、反映されるが、武道大会の成績の占める割合は大きい。学年毎の代表に選ばれるだけで栄誉なことだし、優勝でもしようものなら自衛隊士官学校に無条件で進学できる権利を得ることができしかも将来の将官・佐官候補生として扱われる。


本人の適性や周辺調査で問題なしと判断されればのことではあるが。


「隆太くんには自分も敵いませんよ。父さんに連れていかれたキャンプで実感しました」


いきなり山登りをさせられ翌日は遊ぶための本当のキャンプだったが、大人達と同様に動いてバーベキューの準備をする姿を見てそう感じたらしい。隆太も父の大悟に連れられて富士山を登り下山してきたばかりだというのに動けることに大志は驚いた。


空気が薄ければ、その分疲労が溜まり空気を体に取り込まなくてはならなくなる。マラソンランナーが高所トレーニングをするのは疲れにくい肉体を作り上げるためである。初めてではないにしろ今の自分には出来ないことであり、父である大河やその部下であるヤタガラス隊員に準備を任せきりにしてしまっていた。


「やってみないと分からないよ。とにかく応援してるよ」


ここで通信は切れる。林檎と話をしていたことで注意が散漫になりついに要に見つかってしまう大志であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ